「英語」で「名言」シリーズ、今回は、日本の有名な文学作品のあの「名文」を英語に翻訳してみました。
吾輩は猫である。名前はまだ無い。
1905年に発表された夏目漱石の長編小説「吾輩は猫である」の書き出しの文である「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」です。
英語に翻訳すると、
”I am a Cat. As yet I have no name.”
です。
「吾輩」に当たる格式張った言い回し・表現の英単語がほしいところですね。ちょっとテンションは変わりますが、”Ladies and Gentlemen, I am a Cat !!”みたいなのはいかがでしょうか。スピーチならそれもありかもしれませんが、小説なので、やっぱりそのままがいいですね。
“As yet”は「未だ(まだ)」という英熟語です。
夏目漱石の処女作である「吾輩は猫である」は、英語に翻訳されて世界中の人々に読まれていますが、その英訳を読んでみると、日本語の原作の素晴らしさに改めて気づくということもあるかもしれません。
訳)「吾輩は猫である」という小説の良い点は何だと思いますか?
訳)その小説の最も良い点は、猫が主人公で、猫の視点から書かれているということです。
訳)日本では猫を飼っている家が多くて、猫が身近な存在だったから、猫の視点からストーリーが描かれるというアイデアが筆者に浮かんだんだと思います。
雨ニモマケズ 風ニモマケズ
つづいて、宮沢賢治の「遺作(最後のノートから)」というタイトルにて掲載された小説「雨ニモマケズ」の書き出しの文「雨ニモマケズ 風ニモマケズ」です。
負けずを英熟語「lose to ~(に負ける)」を利用して、
“Not losing to the rain , not losing to the wind”
といった英訳をしてみました。
その他にも、叙述的にstrongを使った表現例もあるようでした。その場合は
“Strong in the rain , Strong in the wind”
です。
“strong”は「強い」といった意味たる形容詞で、inは「〜の中で」といった意味たる前置詞です。”strong in the rain”で直訳は雨の中で強い、これが転じて雨に負けない、「雨ニモマケズ」という意味につながります。かっこいい!
訳)災害がよく起こる日本では、「雨ニモマケズ 風ニモマケズ」というフレーズは、災害から復興する際のスローガンとして時々使われます。
訳)それは本当にそうだね。東日本大震災の後、いくつかの団体がそのフレーズをスローガンとして使っているのを見ました。
メロスは激怒した。
3本目も大変有名な一文、「走れ メロス」の書き出しの文「メロスは激怒した。」です。
「走れ メロス」は、1940年に発行された太宰治による短編小説です。それでは、英語に翻訳してみましょう。
“Melos got enraged.”
“got”は「〜になる」の “get” の過去形で、”enraged” は形容詞で「激しく怒っている」という意味の英単語です。「怒っている」は英語で”angry”というのは、みんな知っていますが、「激怒した」というニュアンスを表すために、”enraged”を使っています。
もっと臨場感を出すなら、日本の俗的な表現で「メロスは、激おこだ!鬼おこだ!」といった日本語の表現を応用して、
“Melos got enraged like a demon.”
といったもので味付けてみました。鬼は “demon”というより “ONI”のがいいかもしれません。
「走れメロス」は、中学校の国語の教科書に出てくる話として有名ですね。
訳)なぜメロスが激怒したか、覚えていますか?
訳)いや、完全に忘れちゃったよ。
訳)王様が人間不信に陥って、人々を虐殺していたからです。
訳)その王様はどこかの国の独裁者みたいだね。
人間失格
1948年に発行された太宰治による中編小説の題名である「人間失格」。題名からしてかっこいいこの文学作品、その人間失格のタイトルを英語に翻訳してみましょう。
”No longer human”
“no longer 〜”は英熟語で、「もはや〜でない」という意味です。よって、no longer humanで、もはや人間でない、転じて人間失格と解釈します。すでに英訳版で出版されているもので、この英語で表現されているようです。
ただ、個人的には、「人間失格」の失格は、Noよりも Out的なのが近い気もするので、こんなのではいかがでしょうか。
“Inhumanity”
「非道」という意味をもった英単語です。かっこいい!
おい地獄さ行ぐんだで!
文芸誌「戦旗」で1929年に発表された小林多喜二の小説である「蟹工船」の書き出しの文です。「おい地獄さ行ぐんだで!」・・・しびれますね。
英語に翻訳すると、下記のようになります。
“Hey , we are going to go to hell.”
”be going to 〜” が「〜するつもりだ」という意味で、”go to hell”で地獄に行くという意味ですね。日本語の方言のなまりっぽいのは、英語の読み方で、何とか表現できるといいですね。
春は、あけぼの。
平安時代。「清少納言」により執筆されたと伝わる随筆「枕草子」の冒頭の文である「春はあけぼの」です。現代語訳にすると、「春は明け方がよい」という意味で夏・・と日本の四季について触れています。
英語にすると、
“In spring , it is the dawn that is most beautiful.”
です。
“dawn”は「夜明け」という意味で、It is 〜that …で強調構文を用いています。”Spring is dawn”とすると、春=あけぼのになってしまい、「春は明け方が良い」という意味にはなりませんね。古典日本語の奥深さを感じさせる一文です。
「春は、あけぼの」で始まる「枕草子」ですが、日本の四季の素晴らしさを紹介している平安時代に書かれた随筆です。筆者の清少納言は、他の季節については、どんなふうに捉えていたのでしょうか。春以外の季節の醍醐味についても、軽く紹介します。
夏は、夜。
これを英語にすると、
“In summer, it’s the night that is most beautiful.”
秋は、夕ぐれ。
これを英語にすると、
“In autumn, it’s the evening twilight that is most beautiful.”
冬は、つとめて。
これを英語にすると、
“In winter, it’s the early morning that is most beautiful.”
「つとめて」は「早朝」という意味です。
「春は、あけぼの」の英訳に倣って、It is ~ that … の強調構文を使い、英訳してみましたが、いかがでしょうか。英語で強調構文を作る練習になりますね。that 以下の部分を季節によって少し変えてみるのも、変化が出て面白いかもしれません。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
いよいよあと2文、鎌倉時代に成立したとされる軍記物語「平家物語」の書き出しの文「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。」です。
英語に翻訳すると
“The sound of the bells at the Gion-shoja echoes the impermanence of all things.”
です。
“echo”は反響するという意味の英単語、”impermanence” は永久でないという意味です。ものごとは移ろいゆくという意味も盛り込むのも考えましたが、長くなりすぎるので、echoで叙述的な表現にして、後半はシンプルにしてみました。
“impermanence”の部分を “evanescence”「はかなさ」に変えるのもいいかもしれません。
つれづれなるままに…
いよいよ今回の文学の名文を英語に企画、最後の一文です。吉田兼好が書いたとされる随筆「徒然草」の冒頭の文である「つれづれなるままに…」です。
現代語訳では、「することがなく、手持ち無沙汰の気持ちに任せて…」を英語訳にすると、
“I’m bored and have nothing to do”
です。
“I’m bored”は「退屈して」という意味で、そこに「することがない」という “have nothing to do” とつなげて、「退屈で、することがない」といった英語表現にしてみました。単純に「することがない」ということを英訳するのであれば、”having nothing to do” だけで良いようです。
まとめ
日本の有名な作品をとりあげて、その英訳を紹介しましたが、いかがでしょうか?
日本語だけではありませんが、文学作品のその1文に込められた深い意味を、翻訳するのは非常に創造的な発想が必要だと実感しました。
日本の有名な文学作品は教科書などでも採り上げられており、そのストーリーを知っている人が多いですが、その題名や有名なセリフを英語に翻訳して外国人に紹介してあげると、そこに込められた日本の慣習や文化も伝わりますね。
また、色々な名文を翻訳していきますので、お楽しみにお待ちください。