レッジョ・エミリア・・・おいしいイタリアンレストランのような、おしゃれな響き(笑)ですが、実際、イタリア共和国のエミリア=ロマーニャ州に存在する地域です。
このレッジョ・エミリア都市で発祥された、近年人気があがっている教育法を見てみましょう!
レッジョ・エミリア・アプローチとは?
レッジョ・エミリア・アプローチは、1950年代イタリアの小さなレッジョ・エミリア市で生まれました。
第二次大戦後の混乱期に、教育学者のローリス・マラグッツイらが作り出した教育理念として発展していきました。
レッジョ・エミリアの教育理念
・社会性を育てる
子どもの社会性を育てるために、少人数のグループを作り、意見交換をしながら活動する。
・時間割を決めない
時間割やタイムスケジュールといった規制にとらわれず、長期にわたって一つの物を作り上げていく。(プロジェクトの完成を目指す)
・子どもの権利を守る
子どもの自主性を大切にし、子どもの取り組みを急がせたり、否定したりしない。
このような理念に基づいて、子どものそれぞれの個性を引き出すことを目的としています。
I thought Reggio Emilia was a person’s name.
訳)レッジョ・エミリアって人の名前かと思ってたよ。
Me too. But I’ve just learned that it’s the name of an Italian city.
訳)僕もだよ。でも、イタリヤの都市の名前だということを学んだよ。
Aさん
I’ve heard that some parents are considering the Reggio Emilia Approach as an option for alternative education for young children.
訳)幼児向けの代替教育の1つのオプションとして、レッジョ・エミリア・アプローチを検討している親御さんがいるらしいよ。
レッジョ・エミリアの歴史
「宝の島」と呼ばれるエミリア=ロマーニャ地方は農産畜産物が盛んな地方です。レッジョはパルミジャーノ・レッジャーノ・チーズの産地としても有名です。
そんなレッジョでは1873年から経済成長と人口増加が進みました。
その後、1911年には人口が約7万人に達し、社会主義国として発展していきます。
第二次世界大戦後に半壊したレッジョ・エミリア市の人々は、がれきを集めながら町の再建を始めました。ようやく最初の幼稚園が出来た1950年ごろに教育学者のローリス・マラグッツイが地元のレッジョ・エミリア市のために教育活動を始め、それが徐々に広がっていき、1963年には初の公立幼児教育施設が出来ました。
その後のレッジョ・エミリア氏の保育施設は18園、幼児教育施設は51か所が開校し、現在もなお活発な教育活動が行われています。
レッジョ・エミリアの特徴
レッジョ・エミリア・アプローチの実践の特徴は3つあります。
①プロジェクト
この「プロジェクト」がこの教育法の大きな特徴と言えます。
子ども達がアイデアを出し合い、議論をするためにだいたい4~5人ほどのグループを作り、保育士や、必要であれば保護者やほかの大人などが参加することもあります。
そして、長ければ1年ほどの長期間かけて一つのテーマを研究し、掘り下げていくという活動を通して、子ども達は協調性や自主性などを養うことが出来るのです。
②教育環境
レッジョ・エミリア教育において「環境設備」のデザインも重要であると考えます。
レッジョ・エミリアの教育施設にはすべて「ピアッツア」と呼ばれる広場があり、共同の空間になっています。
イタリアには広場があり、噴水などがあって人々が集まる憩いの場所となっていますが、レッジョ・エミリアの施設内のも同じような広場があるのです。
中庭のようなレッジョ・エミリアの広場は、子ども達の教室に囲まれ、子ども達が着替え遊びや、鏡を合わせて作られた「万華鏡」コーナーで遊んだりすることが出来る空間になっています。
また、施設内に「アトリエ」があり、子ども達がプロジェクト中の作品や、芸術活動に使う道具や材料がおかれていて、子ども達の創造力を掻き立てています。
レッジョ・エミリアの施設には「アトリエスタ」という美術専門の教師がいて、子ども達のプロジェクト活動や発表の作成などの関わっています。その「アトリエスタ」と協力して、子ども達の教育に関わっているのが「ぺダゴジスタ」という教育専門家で、定期的に保護者とアトリエスタを交えて、教育について徹底的に協議をしたりするのがレッジョ・エミリアの特徴の一つになります。
③ドキュメンテーション
これはとてもユニークな特徴で、子どもたちが活動する様子を保育士や教育指導者が記録し、写真や動画も含めて記録されます。
そしてそれを、パネルなどで展示をし、誰もが見ることが出来ます。
それは、子ども達も行った活動を振り返り、次へのステップに生かすことに有効ですし、指導の参考資料として残せるだけでなく、保護者などに子供たちの活動を紹介することもできるのです。
これは単なる結果報告ではなく、子ども達が生き生きと活動したさまを、まさに「ドキュメンタリー」のように記録し、レイアウトして表現することがレッジョ・エミリアの素晴らしい特徴であると言えます。
レッジョ・エミリア・アプローチの4原則
次に、レッジョ・エミリア・アプローチの4原則を見ていきましょう。レッジョ・エミリア・アプローチには教師たちを導く4つの中心的原則があります。
緊急カリキュラム
レッジョ・エミリア・アプローチでは、教室のカリキュラムは、子どもたちの興味、家族のコミュニケーション、そして教師が生徒の成長と探求を注意深く観察し、メモを取ることの寄せ集めと考えられています。教師たちは、ノートを比較し、プロジェクトや教材を決定するためのプランニング・セッションを行います。
綿密なプロジェクト
多くの人が、幼児教育の思い出といえば、教師が教材を提示する部屋の正面を向いて机にじっと座っていることを挙げるのではないでしょうか。しかしレッジョ・エミリア・アプローチでは、学習は子どもたち一人ひとりが主導し、プロジェクトを中心に構成されています。
教師はよくこうした綿密なプロジェクトを若い学習者にとっての「冒険」と呼びます。プロジェクトは1~2週間で終わることもあれば、学年全体にわたることもあります。教師は、子どもたちが研究分野を選び、プロジェクトの結論に至るまで、その研究分野を追跡するよう指導します。
生徒があるトピックに興味を示すと、教師はその興味を促すためのプロジェクトを作成します。教師は年間を通して、子どもたち一人ひとりのポートフォリオを作成し、個々の成長を記録しています。
表現の開発
レッジョ・エミリア・アプローチでは、子どもたちが自分たちの考えや学びを、印刷物、美術、演劇、ダンス、音楽、人形劇など、さまざまな形で発表します。学習と成長にはさまざまな形があるという信念は、マイヤーズにとって公平性の問題でもあります。レッジョ・エミリア・アプローチで、子どもたちは、ダンス、絵の具、針金、粘土、鉛筆、自然素材などなど、数字や文字以外のさまざまな方法で、自分の考えを示すことができます。
コラボレーション
レッジョ・インスパイアの教室では、教師は対話、比較、交渉、尊重を用いながら、グループでの共同作業を促します。子どもたちの興味に基づいた学習コースは、成長を促す協力的な環境を作り出します。グループでの共同作業を通して、子供たちは仲間と協力することの大切さを学び、協調性が育まれます。
レッジョ・エミリアの効果
- 子供の感性に磨きがかかり、個性や才能が伸びます。
- 指導者から与えられたものではなく、自分が描きたいものや作りたいものを表現するので、主体性が養われます。
- 一つのテーマに長期的に取り組むため、協調性が養われて、集中力が出てきます。
- 園任せではなく、保護者もドキュメンテーションを閲覧したり、指導者と密にコミュニケーションをとるため、保育園、幼稚園と保護者が一体となって子供の成長を見ることが出来ます。
- アーティスティックな環境の中で、子ども達の創造力や美的感覚が養われていきます。
レッジョ・エミリアのデメリット
- 共同作業が中心になるということから「協調性」が生まれるとありますが、「自分のペースで活動したい」子供には逆にストレスになる可能性もあります。
- 芸術性に富んでいるために、普通の子供達とは違う、「変わった子」になってしまうという心配をする保護者もいます。
- 指導者によって活動内容が変わることも多いため、教育者のスキルでその効果が大きく変わるかもしれません。
レッジョ・エミリアと日本
レッジョ・エミリアの教育法を取り入れている保育園幼稚園は、日本でもどんどん増えてきています。
東京都内だけでも10数園あるようです。
例として、鳥取の、あるこども園の活動を見てみましょう。
緑に囲まれた園舎で堰堤には池や芝生のグラウンドがあり、園内で稲を育てています。
野菜作りなども行っていて、主にトマトやトウモロコシなどを作っています。
園児は全体で60名程度。放課後の児童クラブなども設置されています。
子ども達は年間のプロジェクトとして「米作り」に取り組んでいて、田植えをしたり、「おにぎりが出来るまで」というテーマで記録を残し、ポートフォリオなどを展示しています。
また、他のクラスは「イノシシ」についてのプロジェクトに取り組み、イノシシの生態、生息している地域などを調査し、また段ボールでイノシシを再現したりという活動に取り組んでいました。
それぞれのクラスで子供たちが興味を持ったテーマでのプロジェクトが行われ、その経過が一目でわかるようになっています。
レッジョ・エミリアの理念に基づいた活動を、日本でも出来ることを証明していますね!
レッジョ・エミリアを家庭で実践する方法
日本では、レッジョ・エミリアの教育を受けられる施設はあまり多くはありません。
では、このような子どもの自主性や感性を育てる「レッジョ・エミリアアプローチ」を家庭でも実践することはできるのでしょうか?
家庭でできるレッジョ・エミリア・アプローチ
- まず、子どもが興味を示すものを見つけます。
例えば昆虫であったり、海の生き物であったりだったら一緒に山や海に出かけて、虫や魚を探してみるといいでしょう。 - 活動したことを記録し、ドキュメンテーションをします。
ビデオや写真は最近ではスマホで簡単に撮影できますね。また実物をスケッチしたり、動きを観察したりを文字にしたりして、その作品を飾ってみてもいいでしょう。
こうして、家族と一緒に活動したり、考えたりしたことは、子どもの心に深く残り、ドキュメンテーションで残った記録を見返すことで理解を深めることが出来るのです。
レッジョ・エミリアと英語教育
レッジョ・エミリア・アプローチは英語教育ととても相性がいいと言えます。
プロジェクトを通して、グループで調査したり、検討したり、議論することはとてもコミュニケーション力がアップします。
発表力や表現力も培われ、グループ活動を通して協力性も育っていきます。
この手法は欧米の教育機関では多く取り入れられていて、生きた言語教育に役立っていると言えます。
ローリス・マラグッツイの言葉
レッジョ・エミリアアプローチの創設者の一人である、ローリス・マラグッツイの有名な詩の一部をご紹介しましょう。
「でも、百はある」 ローリス・マラグッツイ
子どもには、百とおりある。
子どもには
百のことば 百の手 百の考え 百の考え方 遊び方や話し方
百いつでも百の聞き方 驚き方 愛し方 歌ったり
理解するのに 百の喜び
発見するのに 百の世界
発明するのに 百の世界
夢見るのに 百の世界がある
子どもには 百のことばがある
・・・それからもっともっともっと・・・・ (以下省略)
けれど 99は奪われる
NO WAY. THE HUNDRED IS THERE Loris Malaguzzi
The child is made of one hundred.
The child has
a hundred languages
a hundred hands
a hundred thoughts
a hundred ways of thinking
of playing, of speaking.
A hundred always a hundred
ways of listening
of marveling of loving
a hundred joys
for singing and understanding
a hundred worlds
to discover
a hundred worlds
to invent
a hundred worlds
to dream.
The child has
a hundred languages
(and a hundred hundred hundred more)
but they steal ninety-nine.
「けれど 99は奪われる」というのが、ローリス・マラグッツイの伝えたいメッセージの一つで、この詩の次の節で学校教育の問題点を指摘しています。
「子供が持つ100の可能性を失わせない。ひとり一人の発想と個性を尊重する教育法」として、この教育法が採り入れられているようです。
まとめ
レッジョ・エミリア・アプローチとモンテッソーリ教育はよく比較されるようですが、頻繁なプロジェクト活動やアート性が強いのがレッジョ・エミリア・アプローチの特徴のようです。
どちらも子供の主体性や、創造性などを養う、特に幼児期には大切と思われるメソッドですが、規律や調和を重視してきた日本で、今後どこまで広がっていくのか、注目していきたい教育法だと思います。
レッジョ・エミリア・アプローチに共感する人もいて、その教育法が世界中で推進されているようです。幼児教育は、中等教育、高等教育にもつながっていくものです。その教育法が中等・高等教育にうまくつながっていき、人材育成において役割を果たしてくれるといいですね。