春の入園式。
何度経験しても、この日の空気は独特です。
新しい靴、新しいかばん、少し緊張した保護者の表情、そして まだ状況を完全には理解していない小さな子どもたち。
泣いている子。
じっと固まっている子。
妙にテンションの高い子。
どの姿も、その子なりの「初めてへの向き合い方」です。
そしてバイリンガル教育を取り入れている園などでは、「英語で自分を表現する最初の舞台」になります。
今回は、入園式での英語自己紹介が持つ力についてお伝えします。
入園式は「語学イベント」ではなく「体験の入口」
英語自己紹介というと、どうしても、正しく言えるか、発音は大丈夫か、恥ずかしがらないかといった点が気になりがちです。
けれど、長年子どもを見てきて強く感じるのは、流暢である必要も、完璧である必要もありません。
入園式の自己紹介に求められるのは、完成度ではなく経験なのです。
実際、ほとんどの子どもは緊張します。
声が小さくても、途中で止まっても、それでいいのです。
大切なのは、「英語で自分を言えた」という記憶。
この小さな成功体験が、後々驚くほど効いてきます。
“My name is…”が持つ心理的な意味

幼児期の子どもにとって、「自分の名前」は非常に特別なものです。
世界との最初の接点であり、自分という存在の象徴である「名前」。
その名前を英語で言うという行為は、単なる語学練習ではありません。
「別の言語で自分を名乗る」
これは、子どもにとって思っている以上に大きな意味を持ちます。
私は海外の保育現場も見てきましたが、どの国でも共通していたのは、自己紹介は言語教育ではなく、自己を確立させる第一歩という感覚でした。
入園時から名前・年齢・好きなことを英語で言える経験づくり

入園式で無理なく取り入れやすいのは、次の3つです。
- 名前
- 年齢
- 好きなこと
この3つは幼児にとって非常に自然で、表現しやすいものです。
My name is…
まずはここから。
“My name is Hana.”
この一文が言えた瞬間の子どもの顔は、何度見ても印象的です。
ある年、極度の人見知りだった女の子がいました。式の練習ではほとんど声が出なかった子です。
本番で、小さな声でこう言いました。
“My name is…”
名前を言い終えたあと、その子は少し驚いたような表情をしていました。
そして、みんなの拍手を聞いて、顔を赤らめながらも誇らしげな顔をして笑いました。
「言えた」という実感が、顔に出るのです。
I’m three.
年齢は非常に言いやすい要素です。
数字は子どもが好む分野でもあり、抵抗なく表現できます。
“I’m four.”
これだけで十分立派な自己紹介になります。
I like…
ここが実は一番大切です。
“I like cars.”
“I like strawberries.”
“I like dinosaurs.”
子どもは好きなものがいっぱい。
好きなものを言う瞬間、子どもは途端に自信を持ち、笑顔になります。
なぜなら、それは「これが正解」ではなく、「自分の世界の話」だからです。
入園式での英語自己紹介が育てるもの
入園式で自己紹介をする目的は、英語力の評価ではありません。
育てているのは、特に日本人が不得意と言われる、人前で話す、自分のことを表現する、第二言語への抵抗感をなくす、などです。
「言語の前にある自信づくり」が一番大切なのです。
たくさん長い文章を考える必要はありません。
自分の名前、自分の年、そして自分の好きなもの。
それぞれ一言ずつでその子のアイデンティティは十分に伝わります。
忘れられないある入園式の光景
今でも忘れられない男の子がいます。練習では一度も言えず、泣きそうになっていました。
本番でもずっと下を向いたまま。私はそっと横で彼にささやきました。
“You can say just your name.”
「ただ名前を言うだけでいいよ」
すると、少し考えて、その子はぽつりと”My name is…”と名前だけ言いました。
すると、会場から小さな拍手が起きました。
その時のその子の表情!
あの瞬間に生まれた自信は、その後の園生活で確実に彼を支え、変化させました。
バイリンガル育児の保護者の方へ
ご家庭で英語を取り入れ、バイリンガル育児に取り組んでいると、どうしても、きちんと言えるのか?間違えずにできるかしら?というのが気になると思います。
しかし、ここではっきり申し上げたいのは、よくできたとか、正しく言えたとかいうよりも、その子が自分の言葉で、しかも違う言語で言えた、というポジティブな記憶に価値があるのです。英語は経験の積み重ね、子どもたちは今、” My name is…”からスタートし、その長い道のりを歩きだします。
自己紹介で育つ非認知能力

「非認知能力」とは、テストの点数やIQでは測れない力のことです。
例えば、自信、粘り強さ、感情のコントロール、人との関わり方など。
最近の幼児教育で特に注目されている、とても大切な力です。
「社会情動的スキル(Social Emotional Skills) 」と呼ばれ、最近の幼児教育でも重視されている能力です。
1. 「自分を言葉にする力」
自己紹介は、「自己認識」「自己整理」「自己表現」を同時に行う活動です。
幼児期にこの経験を積んだ子は、後のコミュニケーションが驚くほど安定します。
2. 自己肯定感の土台
自己紹介で最も大きな効果は、 “私はここにいていい”という感覚が身につくことです。
名前を呼ばれ、話す機会が与えられる。これは小さな儀式ですが、心理的には非常に大きい。
私は恥ずかしがり屋の子が、名前を言えただけで姿勢が変わる瞬間を何度も見てきました。
3. 「緊張と向き合う力」
人前で話す行為は、幼児にとってかなりの挑戦です。
ドキドキする、声が出ない、間違えるかもしれない、この小さなストレスを経験すること自体が、感情調整能力のトレーニングになります。
重要なのは、緊張しないことではなく、緊張してもやってみた経験です。
4. レジリエンス(立て直す力)
途中で止まる、言い間違える、黙ってしまう、自己紹介ではよくある光景です。
ここで大切なのは、「失敗しないこと」ではなく、「続けられた経験」。
私はある年、泣きながら自己紹介をした子を覚えています。
言葉はぐちゃぐちゃでした。
でも、その子は最後まで立っていました。
その経験は確実にその子の中に残ります。
5. 社会性・対人理解
自己紹介は、「自分」だけでなく「他者」を知る活動でもあります。
「○○ちゃんはいちごが好きなんだ」
「△△くんは電車が好きなんだね」
この情報交換が、共通点探し、他者理解、関係構築へとつながります。
幼児の友達関係は、ここから始まることが非常に多いです。
6. 主体性の芽
自己紹介には必ず選択肢が含まれます。
何を言うか、何を話すか、どこまで話すか。この「自分で決める」要素が、主体性の初期トレーニングになります。
好きなものを話す活動は、特に効果的です。
7. バイリンガル環境でさらに強まる力
英語での自己紹介になると、さらに面白い変化が起きます。
言語の壁があることで、勇気、挑戦意識、成功体験のインパクトが強まります。
“My name is…”この短い言葉が、自己効力感(I can do it)を強烈に刺激します。
現場で強く感じること
長くバイリンガル教育をやってきて、強く思います。
自己紹介は軽く扱われがちですが、実は幼児教育の核心的活動のひとつです。
日々の保育の中でも、繰り返し行われる理由があります。
言葉の練習ではありません。人格形成の一部なのです。
まとめ
“My name is…”
この短い言葉は、単なる英語表現ではありません。
新しい世界への第一歩であり、自分を外へ開く小さな扉。
入園式という特別な日に、英語で自分を言えた記憶。
この体験は、想像以上に長く、深く、子どもの中に残ります。
最初に育つのは英語力ではありません。「自分を言えた感覚」です。
この小さな感覚が、やがて大きな自信へと育っていくのです。
