春の入園式は、何年経験しても少し緊張します。
子どもたちは小さな背中に大きなリュックを背負い、保護者は静かに周囲を見渡しながら、園の空気を感じ取っています。
そして私たち保育者も、実は同じように背筋を伸ばしています。
バイリンガル保育を行っている園であれば、なおさらです。
英語をどう取り入れるか。
その加減ひとつで、安心にも、不安にもなり得るからです。
失敗した英語スピーチ

数年前、私は少し張り切りすぎました。
園の理念をしっかり伝えたい。英語環境の魅力も見せたい。
そう思って、英語のスピーチをいつもより長く準備しました。
本日は素晴らしい旅の始まりです…
当園のバイリンガル環境において、子どもたちは…
途中で気づきました。
子どもたちの目が、止まっている。
保護者は一生懸命聞いてくださっていましたが、子どもは少し固まっていました。
式が終わったあと、ある保護者の方に言われました。
「最初の “Welcome.” が一番安心しました。」
その一言で、はっとしました。それ以来、私は“足す”より“引く”ことを意識しています。
入園式の英語は「短く・温かく」
今は、オープニングはこれくらいです。
Welcome to our school.
We are happy you are here.
そして間を置いて、「ご入園おめでとうございます。」
英語→日本語の流れ。それだけで十分、園の姿勢は伝わります。
実際によく使う基本フレーズ
Welcome
- “Welcome to our school.”
- “Welcome to the class.”
- “We’re glad you’re here.”
- “Today is a special day.”
お祝い
- “Congratulations on your first day.”
- “You are ready.”
- “We are happy you’re here.”
未来へ
- “Let’s have fun together.”
- “We will play and learn.”
- “You will make many friends.”
- “We will grow together.”
特別な英語ではなく、日常でも繰り返せる言葉を選ぶのがポイントです。
初めての園生活に不安な子に寄り添う英語の表現・語りかけアイディア

式が始まる直前、どうしてもお母さんから離れられない子がいました。
英語はほぼ初めてのご家庭。保護者も少し不安そうでした。
私はしゃがんで、
I’m here.
と、何度も繰り返しました。
意味が分かっていたかは分かりません。でも、呼吸が少しずつ落ち着いていきました。
英語が分からなくても、声の温度は伝わります。
他にも、よく使う言葉があります。
- “You’re safe.”
- “Take your time.”
- “It’s your first day.”
- “Do you miss Mommy? It’s okay.”
短く、ゆっくり。それだけで十分です。
「I’m here! 」は小さな成功体験
名前を呼ぶ時間は、英語導入に最適です。
最初は小さな声。だんだん大きくなる子もいます。
言えない子には、
無理に言わせません。その子が少しでも笑えたら、それで成功です。
ミニ劇で日常を見せる
長々と説明するより、見せるほうが伝わります。
子どもが笑うと、保護者の表情もやわらぎます。
親子参加アクティビティ
式の途中で体を動かすと、一気に場がほぐれます。
保護者もお子さんも一緒に参加します。
- “Stand up, please.”
- “Clap your hands.”
- “Touch your head.”
- “Stamp your feet.”
- “Turn around.”
- “Jump!”
“Head, Shoulders, Knees and Toes” は鉄板です。
英語のあとに日本語を添える。この一工夫で安心感が変わります。
保護者からよくある質問

→ 大丈夫です。園での安心体験が土台になります。
Q. 発音がネイティブでなくても問題ありませんか?
→ 問題ありません。子どもにとっては先生や友達との関係性が最優先です。
Q. 日本語が弱くなりませんか?
→ 母語は生活の中で自然に育ちます。園ではバランスを大切にします。
保護者のまなざしの中で
数年前、入園式のあとに声をかけてくださったお母さまがいました。
そのご家庭は、英語に触れるのはほぼ初めて。見学のときから何度も同じ質問をされていました。
「家では日本語だけなんですが、本当に大丈夫でしょうか。」
入園式当日、そのお母さまは一番後ろの席で、ずっとお子さんの背中を見つめていました。
英語が聞こえるたびに、少しだけ表情が固くなるのが分かりました。
オープニングで、
We are happy you are here.
と言ったあと、日本語でゆっくり「今日から、私たちは仲間です。」と伝えました。
式が終わったあと、そのお母さまが言いました。
「英語が分からなくても、安心できました。」
理由を聞くと、「先生の声が、優しかったから。」と。
その言葉を聞いたとき、あらためて思いました。
保護者が見ているのは、英語力ではなく、 “空気”なのです。
数か月後の変化
ある日、その子が玄関で元気に言いました。
お母さまは少し驚いた顔で笑いながら、こう言いました。
「家でも言うんです。 “I’m here!” って。意味はちゃんと分かっていないと思うんですが…でも、楽しそうでびっくりしました!」
あのとき、英語が怖くなかったから、安心の中で聞いていたからでしょう。
入園式の短い “Welcome.” が、ちゃんと種になっていたのだと感じました。
保護者が本当に知りたいこと
多くの保護者が気にしているのは、実は次のようなことです。
- 英語についていけるか
- 日本語が遅れないか
- 先生はきちんと見てくれるか
でも、入園式で一番伝わるのは、もっとシンプルなこと。「この先生なら任せられる」という感覚です。
それは長いスピーチでは生まれません。短い “It’s okay.” やそっとかける “I’m here.” から生まれます。
海外との違い

海外では日本の入学式のような「式典」を行うことはほとんどありません。
アメリカなどでは“First day of school”として自然に始まります。
Orientation Day や Meet & Greet の形で、短くカジュアルに。
その日から通常の生活がスタートするのが一般的です。
形式は違っても、子どもが安心して一歩を踏み出せることが最優先なのは同じです。
まとめ
入園式は、英語力を見せる日ではありません。理念を体感してもらう日です。
完璧な発音よりも、あたたかい空気。
あの日、英語を詰め込みすぎた私が学んだのは、「Welcome. 」の重みでした。
春の入園式が、子どもたちにとって最初のポジティブな英語体験になりますように。
