さまざまな業界でAIが活用されており、建設業でも広まりつつあります。ただ、実際にどういった活用例があるのか、AIを活用することで仕事が奪われるのではないかなど、疑問に思っている人も少なくありません。
そこで、今回は「建設業でAIをどう活用する?」をテーマに、活用例や今後の展望について解説します。
AIによって建設業界が変わる
建設業界は今、大きな転換点を迎えているといえるでしょう。少子高齢化による人手不足、技術者の引退により、技術継承に課題があります。さらに、建設現場での労働災害、そして社会全体で求められる生産性の向上なども課題として挙げられるでしょう。これらの課題に直面するなかで、革新的なテクノロジーとして注目を集めているのがAIです。
AIはすでに、製造業や金融業、医療業界などさまざまな分野で導入が進んでおり、建設業も例外ではありません。今や、設計や施工、安全管理、品質評価まで、建設プロセスのあらゆる段階でAIが活用されつつあります。
建設業におけるAI活用の現状
AIはさまざまなところで活用されていますが、建設業におけるAI活用の現状を見ていきましょう。
設計・計画でのAI活用
AIは、建築設計や都市計画において、重要な役割を果たしています。建築物の構造、安全性、環境性能を考慮した最適な設計案を、膨大なパターンの中から導き出すことが可能です。とくに、BIM(Building Information Modeling)とAIを組み合わせることで、設計のシミュレーションに加え、修正をアルタイムでおこなえるようになり、設計精度が格段に向上しています。
また、都市の交通量や人口動態、日照条件などのビッグデータをもとに、AIが最適な立地や配置計画を提案する事例もあります。
施工現場でのAI導入事例
一方、施工現場ではどのような導入事例があるのでしょうか。
建設機械の自動運転やドローンによる現場監視、さらには進捗状況の自動記録などがAIによっておこなわれつつあります。重機が自動で地面を掘削し、レーザー測量とAIが指示した設計図通りに地面を整備するといった事例もあるのです。
また、AIが現場のカメラ映像を解析し、作業員の動線や重機の稼働状況を最適化することで、無駄な動きを減らし、工期の短縮にもつながっています。
安全管理と品質管理のAI化
AIによる映像解析は、安全管理でも効果を発揮しています。たとえば、ヘルメット未着用や不適切な作業工程を検出し、リアルタイムでアラートを出す仕組みが導入されつつあります。これにより、重大事故のリスクを未然に防ぐことが可能です。
さらに、画像処理によって、コンクリートのひび割れや部材の欠陥を自動検出するなど、品質チェックの自動化も進んでいます。人間では見落としがちな微細な不具合も検出可能となり、施工品質の向上に貢献しています。
AI導入がもたらす建設業界の変化
建設業においてもAIが活用されていますが、今後どういった変化をもたらすのでしょうか。
生産性向上とコスト削減
AI導入の最大の恩恵は生産性の飛躍的な向上です。現場の進捗状況を正確に把握できることで、工程のムダや待ち時間を減らし、スムーズな施工が可能になります。
さらに、必要な資材の量をAIが計算することで、資源の無駄遣いを削減し、コスト面でも効果を発揮します。
また、修正や再施工の頻度が減ることで、結果的にプロジェクト全体のコストを抑えることができます。
労働環境と働き方改革
AIの活用は、労働環境の改善にもつながります。とくに、危険な高所作業や重機操作を自動化することで、作業員の安全性の構造を期待できるでしょう。これにより、若者や女性、高齢者など多様な人材が安心して働ける環境が整いつつあります。
また、遠隔操作やモニタリングにより、現場に常駐しなくても対応可能な場面が増え、リモートワークの可能性も広がっています。
意思決定の高度化とリアルタイム化
AIは膨大な現場データを分析し、責任者や管理者にとって有益なレポートを提供します。たとえば、過去のプロジェクトのデータより、見積もり精度を高めたり、遅延要因を事前に予測したりなど、意思決定の質とスピードが格段に向上します。
現場ごとのパフォーマンスも可視化され、迅速なフィードバックと改善が可能になります。
中小建設企業でも実現可能なAI導入
AIと聞くと、一部の大手企業でしか利用されていないと思う人もいるでしょう。しかし、実際は中小企業でもAIが導入されているのです。
クラウドAIサービスの活用
中小建設企業にとってAI導入は「コストが高い」「専門知識が必要」というイメージがありますが、最近ではクラウドベースのAIサービスを利用することで、手軽に導入できる環境が整っています。
たとえば、施工管理アプリや現場写真の解析ツールなどは、月額料金で利用可能なので、イニシャルコストを抑えてAI導入できます。
スモールスタートの重要性
最初から大規模にAIを導入するのではなく、まずは特定の業務やプロジェクトで試験的に運用する「スモールスタート」が有効です。
たとえば、写真整理の自動化や労務管理のAI化といった業務支援ツールから導入し、現場での使い勝手や効果を検証しながら徐々に拡大していくことで、効果を実感しながら導入できます。
AI導入の課題と対策
AIにはメリットだけでなく、課題があるのも事実です。ここでは、具体的な課題と、それらの対策について見ていきましょう。
データ整備・セキュリティの壁
AIの導入には、現場から正確なデータを収集・蓄積する仕組みが不可欠です。しかし、紙ベースで管理している現場では、それらのデータをデジタル化する必要があります。
また、施工現場で扱う情報には機密性の高いものも多く、セキュリティ体制の構築も求められるでしょう。
人材不足とリスキリングの必要性
AIを活用するには、ある程度のデジタルリテラシーやツールの操作スキルが必要です。現場作業員だけでなく、管理職や経営層もデジタル化に対応できるよう、社内教育や外部研修を通じた人材育成が重要なポイントとなるでしょう。
AIに対する現場の不安・抵抗感
「AIが仕事を奪うのではないか」「使いこなせる自信がない」といった不安や抵抗感を抱く人もいるでしょう。
これを乗り越えるには、AI導入の目的やメリットを明確に伝え、メリットを積み重ねていくことが重要です。現場の意見を尊重しながら進めることで、AIが「味方」であると認識してもらいやすくなるでしょう。
建設業界におけるAIの未来展望
AIの導入することで、建設業界はどのように展望していくのか、考えていきましょう。
完全自動化された施工現場
今後は、ロボットとAIが融合し、人の手を介さずに建設作業を進める「無人化現場」の実現が考えられます。
建設機械やドローン、センサーが連動し、昼夜を問わず効率的に施工するといった未来も遠くはないでしょう。
まとめ
AIはさまざまな業界で広まっており、建設業でも広がりつつあります。
建設業においては、設計や施工管理はもちろん、実際の作業現場でもAIの活用が期待されています。ロボットとAIを駆使することで、人の代わりに危険な作業をAIがおこなうことで、安全性を高められるといったメリットがあります。
さらに、施工管理をAIがおこなうことで、工期を短縮できたり、品質の高い施工を安定的に供給できたりするといった恩恵を受けられるでしょう。