食育とは何でしょうか。ただ栄養バランスを整えることでも、好き嫌いを減らす指導でもありません。食材に触れ、育つ過程を知り、匂いを感じ、音を聞き、そして「いただきます」と手を合わせるところまで含めた、生きる力の教育だと私は考えています。命をいただくという実感は、子どもの心を静かに耕します。
この記事の3行まとめ(AI要約)
- 食育と英語を組み合わせることで、栽培・調理・食事の体験を通して実生活に根差した英語を自然に学ぶことができます。
- 「Let’s plant the seeds」「Cut the carrot」など、動作と結びついた英語は子どもにとって理解しやすく、記憶にも残りやすくなります。
- 栽培・収穫・調理・食事の一連の体験は、語彙だけでなく協力・観察力・自己肯定感などの非認知能力も育てます。
調理や栽培を通じて、実生活に根差した英語を学べます

英語活動を特別な時間として切り取るのではなく、生活に溶け込ませる。これが私の実践の軸です。キッチンや小さな畑は、最高の英語教室になります。子どもたちは座って覚えるより、動きながら話す方がずっと自然です。
エプロンをつけて
今日は料理をするよ。
手伝っていい?
子どもたちの目が輝きます。英語は指示ではなく、共同作業の道具になります。
そしてその前段階として、栽培という時間があると学びはさらに深まります。
“Let’s grow it!” 小さな栽培から始まる英語
広い畑は必要ありません。プランターひとつで十分です。
家庭や園で育てやすいのは、ミニトマト、ラディッシュ、ベビーリーフ、青ねぎ、バジルなどです。
成長が早く、変化が見えやすい野菜は子どもの観察力を引き出します。
種をまく日は特別です。
種を蒔きましょう。
種はいくつ?
やり取りしながら、小さな命を土に託します。
そっと覆ってあげてください。
こんな感じ?
声をかけるだけで、英語は動作と結びつきます。
水やりも大切な役割です。
ゆっくり水をあげてね。
水を飲んでるのかな?
話しかけると、植物は友達のような存在になります。
数日後に芽が出ると、
見て!なにか緑色のものがある!
と歓声が上がります。
毎日の観察は思考を育てます。
葉が黄色くなってるね。
どうして?
多分もう少し水が必要かもね。
こうした会話は、単なる語彙練習ではありません。英語を使って考える時間です。
そして収穫の日。
収穫しよう。
私が育てたんだ!
という一言には誇りがにじみます。自分が育てたものを英語で表現できる経験は、自己肯定感を大きく押し上げます。
“Let’s make curry!” 育てた野菜がことばになる

収穫した野菜を使ってカレーを作ると、学びは一本の線になります。
これが私たちのトマトです。
私たちが育てたんだよ。
確認しながら調理を始めます。
野菜を洗いましょう。
にんじんをゆっくり切ってください。
とたくさんの動詞が出てきます。
炒め始めると、
熱いですか?
いい匂いだね!
五感がどんどん開いていきます。smell という単語が湯気と一緒に立ち上がります。
煮込む時間も学びです。
どれくらいかかるの?お腹空いたよ。
待つ力も、食育の大切な一部です。
味見をしながら、
ちょっと辛いですね。
もっと水が必要ですか?
などと調整していきます。正解はひとつではありません。英語は思考の道具になります。
さあ、食事です。子どもたちに
これ、あなたが作ったの?
うん、そうだよ。
と胸を張る姿があります。この Yes, I did! には、自分が関わったという自信が詰まっています。
異年齢児保育で役割分担をうまく活用した子どもたち
私が営んでいたインターナショナルスクールでは、異年齢児が一緒に生活する、いわゆる「縦割り保育」を実施していました。
イベントとして時々カレー作りをしていましたが、そこでは自然と役割分担が生まれます。2歳児はジャガイモや人参を洗い、3歳児は玉ねぎの皮をむき、4歳児はピーラーを使って皮をむきます。5、6歳児になると、子ども用包丁で先生と一緒に野菜を切ったり、具材を炒めたりします。
時には小さい子が「お野菜を切ってみたい」と言うこともありますが、そんなとき年長児が「これは大きくなってからだよ」と優しくたしなめる場面がありました。
カットできますか?
ええ、もちろん!
そんな自然なやり取りの中には、お兄さんお姉さんへの尊敬のまなざしが宿っています。
一人っ子が多い家庭ではなかなか経験できない、「小さなファミリー体験」がそこにはあります。
形はいびつな野菜のカレーですが、自分たちで作ったカレーの味は格別です。何度もおかわりのお皿を持って並ぶ子どもがいたり、大きなおなかをさすって満足そうに笑う子がいたりと、保育室はカレーの香りと幸せな空気でいっぱいになったものです。
本で触れる栽培と食育——子どもと読みたい一冊

栽培や調理という体験は、五感で学べる実践そのものですが、絵本を通して振り返ることで、ことばがさらに深く心に刻まれます。ここでは私が実際に子どもたちと読んで反応が良かった絵本を紹介します。どれも英語学習に役立つだけでなく、食育の感覚を豊かにしてくれる一冊です。
“From Seed to Plant” — Gail Gibbons
こちらは種から植物になる仕組みをやさしく解説する絵本です。専門用語もシンプルに説明されており、栽培活動とリンクしやすい内容です。
根は何をするでしょうか?
水を飲みます!
というやり取りがそのまま畑やプランターでの会話になります。英語の質問と答えが、実際の観察と結びつく瞬間は、図鑑とは違う実感が生まれます。
“Growing Vegetable Soup” — Lois Ehlert
この絵本は、野菜を育て、それを使ってスープを作る一連の流れをビジュアルで示してくれます。ミニトマトやラディッシュ、ニンジンなども登場するため、実際の栽培と調理が一冊の物語のようになります。
“What vegetables do we need?” 「どんな野菜が必要ですか?」 と対話を広げると、栽培を経験した子どもたち自身が「自分ごと」として捉え始めます。
“I Will Never Not Ever Eat a Tomato” — Lauren Child
この一冊は、野菜が苦手な子どもでも笑顔で読める一冊です。ユーモアと英語の表現が豊かで、「嫌い」という感情を肯定的に扱います。
「トマトは好きですか?」
「絶対にない!」
というやり取りがそのまま会話になります。ことばは心の扉を開く鍵でもあります。
まとめ
食育と英語が重なると、語彙だけでなく非認知能力も育ちます。順番を守る力、協力する姿勢、失敗してもやり直す強さ。やり遂げた自信が育ちます。
“Let’s cut the carrot.” 「にんじんを切ろう」 その何気ない一言の中に、命に触れ、育て、調理し、分かち合う意味が詰まっています。食育と英語は別々のものではなく、どちらも生きる力を育てる営みです。小さなプランターから始まる英語は、やがて子どもたちの人生の土台になります。
