保育園や幼稚園の給食時間は、子どもにとって楽しみなひとときである一方、食物アレルギーを持つ子どもにとっては細心の注意が必要な時間でもあります。
「これは食べられる?」「お友だちと同じものを食べられないのはなぜ?」といった疑問や不安に、保育現場はどのように向き合っているのでしょうか。
子どものアレルギーで多い症例

鶏卵アレルギー(Egg allergy)
最も多い食物アレルギーです。
鶏卵アレルギーは乳幼児期に最も多く見られるアレルギーです。特に「卵白」に反応するケースが多く、加熱の有無によって症状の出方が変わることがあります。
保育現場では、加工食品やつなぎとして使われる卵への注意が特に重要です。
牛乳・乳製品アレルギー(Milk and Dairy Allergy)
乳幼児期に多く、給食対応が難しく、特に牛乳アレルギーは、粉ミルクや給食開始時期に判明することが多いです。
完全給食の園では、代替ミルクや乳不使用メニューの工夫が求められます。
小麦アレルギー(Wheat allergy)
主食に関わるため生活への影響が大きいアレルギーです。
小麦アレルギーは、パン・麺類・揚げ物など幅広い食品に含まれるため、除去が難しいアレルギーです。
誤食防止のため、調味料レベルでの管理が重要です。
ナッツ類(落花生・木の実)アレルギー(Nut Allergy (Peanuts and Tree Nuts) )
少量でも重症化しやすいアレルギーです。
落花生やアーモンド、カシューナッツなどのナッツ類は、微量でも強い症状を引き起こすことがあります。
クラス全体での理解と協力が欠かせません。
大豆アレルギー(Soybean allergy)
日本の食文化ならではの注意点があります。
大豆は味噌・醤油・豆腐など日本食に欠かせない食材です。
一律除去ではなく、医師の指示に基づく細やかな対応が必要です。
誤食を防ぐ給食対応と保護者への伝え方を紹介
1.献立作成・調理段階での工夫(給食室)
「思い込み」を防ぐため、必ず声に出して確認するのがポイントです。
アレルギー児専用の管理表を作成
- 園児の顔写真・名前・除去食材を明記した一覧表を掲示
- 調理員全員が毎日確認できる位置に設置
- 新規・変更点は赤字や色分けで強調
調理工程を分ける
- 除去食・代替食は可能な限り別工程・別時間で調理
- 専用の鍋・ボウル・おたま・まな板を使用
- 調理後はラップ+名札で明確に区別
ダブルチェック・トリプルチェック
- 調理担当者が確認
- 配膳前に別の調理員が再確認
- 園によっては栄養士も最終確認
2.配膳時の工夫(クラスへの受け渡し)
トレー・食器の色分け
アレルギー児専用トレーを使用し、色・形・配置を固定化し、日替わりにしないようにします。
名前・内容を明記
トレーや蓋に「園児名」「卵なし」「乳除去」など具体的な除去内容を表示します。
受け渡し時の声かけ確認
給食室 → 保育士へ渡す際に、「〇〇ちゃん、卵・乳除去です」「今日は代替ハンバーグです」と必ず言葉で伝えるルールを徹底します。
3.クラス内での工夫(提供・食事中)
提供前の最終確認
配膳後、担任と補助者で再確認や、子どもの前に出す直前にもチェックします。
座席配置の配慮
アレルギー児の座る位置を固定したり、誤って他児の食器に手が伸びにくい配置をします。
また、年齢に応じて机を分けることもあります。
「分け合わない」ルールの徹底
「お皿の中のものは自分の分」「先生に聞いてから」という約束を日常的に伝えます。
4.人為的ミスを防ぐための園全体ルール
アレルギー対応マニュアルの整備
誰が見ても同じ対応ができるよう文書化します。また、非常勤・代替職員も必ず共有します。
ヒヤリハットの共有
小さなミスや気づきを職員間で共有して、「責めない」「次に生かす」文化づくりを心がけます。
年1回以上の研修
アレルギーの基礎知識、誤食時の対応・エピペンの理解、実例を用いた確認など、年1回以上の研修で再確認します。
5.保護者との連携による誤食防止
医師の診断書・指示書に基づく対応、除去内容の変更は必ず書面で確認、行事食・特別メニュー前の事前説明などを通して、保護者との連携を図ります。
「家庭で食べられた=園でもOK」と自己判断しないことが、誤食防止につながります。
日本には少ない・海外で多い子どものアレルギー例

ピーナッツアレルギー(Peanut Allergy)
特に欧米で非常に多いアレルギーです。
日本でも知られるようになってきましたが、欧米諸国では日本以上に深刻で、学校全体で完全禁止されることもあります。
日本の保育園で主流の「個別除去」とは異なり、集団全体で排除する考え方が特徴です。
- Peanut allergy
- Peanut-free school
- Life-threatening allergy
アメリカ、イギリス、カナダでは幼少期からピーナッツ製品(peanut butterなど)を頻繁に摂取しているため、微量でもアナフィラキシー(anaphylaxis)を起こす例が多いです。
学校での対応としては、ナッツ類の持ち込み全面禁止されていたり、教室に「This is a nut-free classroom. 」という掲示があります。
ゴマアレルギー(Sesame Allergy)
中東・欧米で増加、日本ではまだ少数派ですが、日本では表示義務が弱く、海外から来た家庭が戸惑うこともあります。
- Sesame allergy
- Sesame is a major allergen. ゴマは主要なアレルゲンです。
中東では、フムス(hummus)、タヒニ(tahini)などゴマを多用されています。
また、欧米でもベーグルやパンのトッピングに使用されています。
2023年以降、アメリカではゴマが特定原材料(major allergens)として正式追加されました。
ピーナッツ同様、重症化しやすいの注意が必要です。
果物アレルギー(Fruit Allergy / Oral Allergy Syndrome)
欧州で多い花粉関連アレルギーです。
加熱すると食べられる場合が多く、日本の「完全除去」とは違う柔軟な対応が取られます。
- Fruit allergy
- Oral Allergy Syndrome (OAS) 口腔アレルギー症候群(OAS)
花粉症(birch pollen など)との交差反応のため、生の果物で特に症状が出やすく、口や喉のかゆみや唇の腫れがあります。
よくある果物は、Apple(りんご)、Peach(もも)、Kiwi(キウイ)があげられます。
豆類アレルギー(Legume Allergy)
ヨーロッパで注目されているアレルギーです。
日本では給食での使用頻度が低く、認知度もまだ高くありませんが、近年、ベジタリアン・ヴィーガン食の普及や学校給食で豆類を多用しているので注意が必要です。
- Legume allergy マメ科アレルギー
- Chickpea allergy ひよこ豆アレルギー
- Lentil allergy レンズ豆アレルギー
含まれる食品は、Chickpeas(ひよこ豆)、Lentils(レンズ豆)、Peas(えんどう豆)です。
ラテックス・フルーツ症候群(Latex-Fruit Syndrome)
医療先進国で知られている交差アレルギーです。
日本では子どもの症例は少なめですが、海外では保育・医療現場で注意されています。
- Latex allergy ラテックスアレルギー
- Latex-fruit syndrome ラテックス・フルーツ症候群
ゴム手袋や医療用品のラテックスに反応します。
また、バナナ(Banana)、アボカド(Avocado)、キウイ(Kiwi)などの果物でも同時に症状が出ます。
「完全給食」「アレルギー除去食」など、日本の保育ならではの丁寧さ
日本の保育現場の特徴の一つが「完全給食」の存在です。主食・主菜・副菜・汁物まで園で一貫して提供するため、食材管理や調理工程を園側がすべて把握できます。これはアレルギー対応において大きな強みであり、除去食や代替食を安全に提供できる土台となっています。
アレルギー除去食では、単に「抜く」だけでなく、栄養バランスや見た目にも配慮します。みんなと似た盛り付けにすることで、子どもが疎外感を感じにくいよう工夫されているのも、日本の保育ならではの丁寧さです。
さらに、食育の観点から「なぜこれは食べられないのか」「体を守るための大切な約束」であることを、年齢に応じた言葉で子ども自身に伝えます。周囲の子どもたちにも「分け合わない」「勝手にあげない」ことを日常的に伝えることで、クラス全体で安全を守る意識を育てています。
まとめ
アレルギー対応は特別な配慮であると同時に、子ども一人ひとりの命と尊厳を守る保育の基本です。
「これは食べられる?」という小さな問いに、組織全体で丁寧に向き合う姿勢こそが、日本の保育のきめ細やかさを象徴していると言えるでしょう。
