英語を学んでいると、一度はこんな経験をしたことがあるのではないでしょうか。
「申し訳ありません。」「失礼します。」「つまらないものですが。」「まだまだです。」「私なんて全然です。」…辞書を引いても、しっくりくる英語が見つからない。あるいは” Sorry” や “Excuse me” を使ってみたものの、「なんだか日本語のニュアンスと違う」と感じたことがあるかもしれません。
実はそれもそのはずです。これらの言葉は単なるフレーズではなく、日本独特の「謙遜文化」から生まれた表現だからです。つまり、英語に訳すことが難しいのは、単語が存在しないからではなく、文化そのものが違うからなのです。
この記事では、日本人が英語で最も苦労する謙遜表現について、なぜ直訳できないのか、英語ではどう考えられているのか、ネイティブならどのように言うのかを具体例とともに紹介していきます。
この記事の3行まとめ(AI要約)
- 謙遜表現を直訳しにくいのは文化の違いが原因:日本は自分を下げて相手を立てる文化、英語圏は自分を認めたうえで相手への感謝を示す文化。
- 褒められたらまず“Thank you.”で受け取る:謙虚さを示したいときは、自分を否定せず“I’m still learning.”のように成長途中であることを伝える。
- 「申し訳ありません」「失礼します」は場面ごとに言い分ける:謝罪や遠慮の代わりに、感謝や具体的な理由・行動を伝えるのが英語らしい表現。
「謙遜」は日本だけの文化なの?

「アメリカ人は自己主張が強い。」「欧米には謙遜がない。」
そんな話を聞いたことがある人もいるでしょう。しかし、これは半分正しく、半分誤解です。英語圏の人たちにも、もちろん謙遜する気持ちはあります。むしろ、成功した人ほど
“I’m grateful.”
(感謝しています。)“I’m honored.”
(光栄です。)“I couldn’t have done it without my team.”
(チームがいなければできませんでした。)
と話す場面は数え切れないほどあります。では、日本との違いは何なのでしょうか。答えはとてもシンプルです。日本は「自分を下げて相手を立てる文化」、英語圏は「自分を認めた上で相手への感謝を示す文化」なのです。
この違いを理解すると、多くの英語表現が腑に落ちるようになります。
日本では「自分を下げること」が礼儀になる
例えば、あなたが英語のプレゼンを終えたとします。日本なら、こんな会話はよくあります。
A: 「すごく良かったですよ!」
B: 「いやいや、全然ダメでした。」
もちろん、本当に「全然ダメだった」と思っているわけではありません。相手を立てるための謙遜です。また、
「私なんてまだまだです。」「たいしたことありません。」「全然できません。」
これらも同じです。
日本では、自分を少し控えめに表現することが、相手への敬意や謙虚さとして受け取られることが多くあります。そのため、子どもの頃から自然とこのコミュニケーションを身につけています。
英語では「自分を下げすぎる」と誤解されることがある
ここが、日本人が最も驚くポイントです。
例えば、
“Your English is excellent!”
(英語上手ですね!)
と言われたとき、日本人は反射的に
“No, my English is terrible.”
(いえ、私の英語はひどいものです。)
と言ってしまうことがあります。しかし英語話者は、
「え、本当にそんなに話せないの?」「じゃあ、さっき話していたのは何だったの?」
と戸惑うことがあります。英語では、自分を必要以上に否定すると、「謙遜」ではなく自己評価が低い人、あるいは相手の褒め言葉を受け入れていない人という印象を与えることがあるのです。
もちろん、「まだ勉強中です」と伝えたい気持ちは理解されます。しかし、その表現方法が違います。
英語では褒め言葉を「受け取る」のが礼儀

英語では、褒められたらまず感謝します。
例えば、
“Your presentation was amazing.”
(あなたのプレゼン素敵でした。)
と言われたら、日本語なら「そんなことありません。」となりがちですが、英語では
“Thank you!”
(ありがとうございます。)
が基本です。
さらに自然にするなら、
“Thank you! I worked really hard on it.”
(ありがとうございます。すごく頑張ったんです。)
あるいは、
“Thanks! I’m really happy to hear that.”
(ありがとうございます。そう言っていただけて嬉しいです。)
この返し方を見て、「自慢しているように聞こえる」と感じる日本人もいるかもしれません。
しかし英語では違います。相手は褒めてくれています。その言葉を否定すると、「あなたの評価は間違っています」
と言っているようにも受け取られかねません。だからこそ、まずは
“Thank you.”
(ありがとうございます。)
と返すのが普通なのです。
謙遜したいなら「成長途中」であることを伝える
では、日本人らしい謙虚さを表現したいときはどうすればいいのでしょうか。おすすめなのが、「まだ学んでいます」という伝え方です。例えば、
“Thank you! I’m still learning.”
(ありがとうございます。まだ勉強中なんです。)
あるいは、
“I’ve still got a lot to learn.”
(まだまだ学ぶことがたくさんあります。)
さらに、
“I appreciate that. I’m always trying to improve.”
(ありがとうございます。もっと上達できるよう頑張っています。)
このように言えば、日本人が伝えたい「まだまだです。」という気持ちを、英語らしく自然に表現できます。ここで大切なのは、自分を否定しないこと。英語では、「まだ成長できる。」という前向きな姿勢が好まれるのです。
「申し訳ありません」は本当に Sorry でいいの?
多くの日本人が最初に覚える謝罪の言葉が Sorry です。もちろん間違いではありません。しかし、日本語の「申し訳ありません」は非常に幅広く使われるため、英語では場面によって表現を変える必要があります。
日本語では、「遅刻した」「人にぶつかった」「メールが遅れた」「迷惑をかけた」「お願いをするとき」「お断りするとき」、これらすべてで「申し訳ありません」が使えます。
ところが英語では、それぞれニュアンスが異なります。
場面① 軽い謝罪
例えば、駅で肩がぶつかった。書類を落としてしまった。相手の話を遮ってしまった。こんな場面なら、
“Sorry.”
で十分です。また、
“Oops, sorry.”
“Sorry about that.”
もよく使われます。日本語の「すみません!」
に近い感覚です。
場面② 遅刻したとき
例えば、
“I’m sorry I’m late.”
(遅刻してすみません。)
これは非常によく使われます。しかしネイティブは続けて理由を添えることが多くあります。
“I’m sorry I’m late. There was a traffic accident.” (遅れてしまいごめんなさい。交通事故があったんです。)
あるいは
“Thank you for waiting.”(待ってくれてありがとう。)
と言うことも非常に多くあります。ここが日本語との大きな違いです。日本では謝罪が中心ですが、英語では相手が待ってくれたことへの感謝を伝える方が自然な場面も少なくありません。
同じ出来事でも、「迷惑をかけた」という視点ではなく、「待ってくれてありがとう」という視点で話すのです。この考え方は、英語のコミュニケーション全体に共通しています。
「失礼します」にぴったりの英語は存在しない

英語を勉強していると、多くの人が一度は「『失礼します』って英語で何て言うんですか?」と質問します。
ところが、この質問に対して「この一語です」と答えることはできません。なぜなら、日本語の「失礼します」は一つの言葉でさまざまな役割を果たしているからです。
例えば、あなたは普段「失礼します」をどんな場面で使っていますか?「部屋に入るとき」「部屋を出るとき」「会議を途中で抜けるとき」「人の前を通るとき」「電話を切るとき」「メールを終えるとき」…日本語ではすべて「失礼します」で済みますが、英語では場面ごとに表現が変わります。
その場を離れる(帰る)とき
“I’d better get going.”
(そろそろ失礼します。)
“I’m going to head out.”
(そろそろ帰ります。)
“I’ll see you later.”
(それでは、また。)
「失礼します」を直訳するのではなく、「これから帰る」という行動を伝えているのが特徴です。
会議を途中で抜けるとき
“Excuse me, I need to leave for another meeting.”
(別の会議があるので失礼します。)
“I’m sorry, but I have to go now.”
(申し訳ありませんが、そろそろ失礼します。)
ここでも「失礼します」という言葉より、「なぜ席を立つのか」を伝える方が自然です。
人の前を通るとき
この場合は、
“Excuse me.”
がぴったりです。日本語の「すみません」「失礼します」のどちらにも近い表現ですね。
「お邪魔します」はどう表現する?
日本では誰かの家に入ると、「お邪魔します。」「失礼します」と言います。しかし、この文化は英語にはありません。英語圏では「邪魔する」という発想よりも、「招いてくれたことへの感謝」を伝えるのが一般的です。家に着いたら
“Thanks for having me.”
(招いてくれてありがとう。)
“It’s great to finally be here.”
(やっと来られてうれしいです。)
帰るときは
“Thanks for inviting me.”
(招待してくれてありがとう。)
“I had a wonderful time.”
(とても楽しかったです。)
このように、「謙遜」よりも「感謝」が中心になります。
「つまらないものですが」は英語でどう言う?
日本人なら贈り物を渡すとき、「つまらないものですが……」と言うことがあります。しかし、これをそのまま英語にすると、
“This is a boring gift.”
(これはつまらないギフトです。)
となってしまいます。もちろん、これは「退屈なプレゼントです」という意味になってしまうので、不自然です。英語では、自分の贈り物を下げるよりも、「相手のことを思って選んだ」という気持ちを伝えます。
例えば、
“I got you something.”
(ちょっとプレゼントを用意しました。)
“I hope you like it.”
(気に入ってもらえたらうれしいです。)
“I saw this and thought of you.”
(これを見たとき、あなたのことを思い出したんです。)
この最後の表現はネイティブがとてもよく使います。高価な物でなくても、「あなたを思い浮かべて選びました」という気持ちが伝わるからです。
「恐れ入りますが」はどう表現する?
ビジネスでは頻繁に使う表現です。しかし英語では、「恐縮しています」とは言いません。
代わりによく使うのは、
“Could you…?”
“Would you mind…?”
“I’d appreciate it if you could…”
です。例えば、
「恐れ入りますが、ご確認いただけますでしょうか。」
なら、
“I’d appreciate it if you could take a look.”
(恐れ入りますが、ご確認いただけますか。)
または
“Could you please check this?”
(こちらをご確認いただけますか。)
で十分丁寧です。英語では、回りくどい謝罪よりも、丁寧で明確な依頼の方が好まれます。
「お気遣いなく」は?

訪問先でお茶を出してもらいそうになったときや、「駅まで送りますよ」と言われたとき、日本人は「お気遣いなく。」「どうぞお構いなく。」と言うことがあります。
英語では、
“Please don’t go to any trouble.”
(どうぞお構いなく。)
“Oh, you don’t have to do that.”
(いえいえ、そんなことしなくて大丈夫ですよ。)
“Don’t worry about me. I’m fine.”
(私のことは気にしないでください。大丈夫です。)
などが自然です。特に
“Please don’t go to any trouble.”
は、相手に手間をかけさせたくないときの定番表現として、日常会話でもビジネスでもよく使われます。
ただし、英語では遠慮の言葉が文字通りに受け取られることが多く、日本のように「一度断ってから受け取る」というやり取りは伝わりにくい場合があります。本当はお願いしたいときは、
“That’s very kind of you. Thank you.”
(ご親切にありがとうございます。)
と素直に受け取る方が自然です。ここでも、「遠慮」より「感謝」を伝えるのが英語らしい考え方です。
アメリカ人は本当に謙遜しないの?
ここまで読むと、「アメリカ人は自己アピールばかりするのでは?」と思うかもしれません。実際はそうではありません。
アメリカ人も、成果を独り占めする人はあまり好まれません。例えば会社でプロジェクトが成功したとき、日本なら「皆さんのおかげです。」と言う人が多いでしょう。
アメリカでも、
“I couldn’t have done it without the team.”
(チームなしではできませんでした。)
“Everyone worked incredibly hard.”
(みんな本当によく頑張りました。)
という言い方をよく耳にします。
つまり、自分を否定するのではなく、成功を周囲と分かち合うのです。このように、英語でも「謙虚さ」と「前向きさ」の両方を伝えることができるのです。
まとめ|英語で大切なのは「自分を下げること」ではなく「相手を尊重すること」
日本では、「自分を控えめに表現すること」が礼儀として根付いています。一方、英語圏では、自分の努力や成果を素直に認めながらも、相手への感謝や敬意を言葉にすることが礼儀と考えられる場面が多くあります。
英語では、謝りたいのか、感謝したいのか、相手を気遣いたいのか、それとも謙虚な姿勢を示したいのか。その意図がはっきりすれば、自然な英語表現は見つけやすくなります。そうすることで、あなたの英語は単に「正しい英語」ではなく、相手に気持ちが伝わる「自然な英語」へと変わっていくはずです。
