私たち日本人が英語習得において、一番苦手と思われるのが発音・会話ではないでしょうか?
簡単に言うと、日本語は母音「あ、い、う、え、お」に短母音と長母音があり、音の種類は約110程度と言われています。
しかし、英語はどうでしょう?
なんと2000以上もあるのです!
こんなに差がある発音の違いを、どうやったら克服できるのかを研究したのが、この「オーラル・メソッド」です。
さて、どのような教授法・学習法なのでしょうか?
1.オーラルメソッドとは?
オーラルメソッドとは、大正時代後期から昭和の初めまで日本に滞在したイギリスの言語学者であるパーマーpalmerが、日本人を対象に開発し研究したメソッドなんです。
当時の日本では文法訳読法がおもに使われていましたが、パーマーは音声重視で口頭作業(Oral work)を主眼に置いた学習法を編み出しました。
2.オーラルメソッドの歴史
パーマーは来日する前の1921年に「オーラル・メソッド オブ ティーチング ランゲージ」を発表しています。
そして日本の学校のために、オーラルメソッドの理念を日本人向けに研究し、まとめて「イングリッシュスルーアクション」(英語初心者にも有効な英語による英語の指導法)、そしてさらに、「ザファーストシックスウィークオブイングリッシュ」(6週間の読み方資料)などの書籍を出版しています。
パーマーが日本人のために書いた書籍の数々
パーマーは昭和初期から驚くほどの多くの英語教育の本を出版しています。
例を挙げますと
- 英会話の理論と実際
- 外国語研究者のために
- パンドラ Pandora and the box
- パーマー英語会話上達法
- 英語常用連語
- 標準英語読本(英語リーダー教科書)
などがあります。
3.オーラルメソッドの特徴
パーマーは言語習得の5習性を提唱しました。
- 耳による観察(Auditory observation)
耳から聞いて音の強弱や抑揚、文章などの発話全体を観察します。 - 口で真似る(Oral imitation)
聞いた単音や音、言葉の連続を真似ます。 - 口慣らし(catenizing)
一定の動作を反復して練習します。 - 意味づけ(semanticizing)
語・語句・分をその意味と融合させます。例えば、catという言葉を聞いて日本語の「猫」ではなく、catという音の表す意味の「猫」そのものを思い浮かべるということになります。 - 作文(composition by analogy)
暗記して練習した基本分の一部を差し替えて、文章を作ります。これを行う方法に、置き換え(substitution)と転換(convertion)があります。
4.オーラルメソッドの学習法
「言語の5習性」はなんだか難しそうですね・・・では具体的にどんな学習をするのでしょうか?
オーラルメソッドの基本的な学習の展開
- 実際に物、絵、動作などで英語を示し、英語の音声、文字などを確認する。
- 耳でいったん聞いた英語を口で真似をして、一定の音や単語を反復練習をする。
次にその文章の語を置きかえてみる。
3. 以上の練習で習得した英語を様々な場面に適応させてみて、実際の場でコミュニーケーションに使ってみる。
といった流れになります。
例を挙げてみますと
教師がペン、ボール、本など5つくらいの品物を持ち、
「This is a pen.」「is this a pen?」「Yes, it is.」「Is this a pen or a ball?」「It’s a pen.」「What is this?」「It’s a pen.]
のような同じ分構造で、penをbookに置き換えて、5回反復練習をする、といった流れになります。
そういえば、中学の最初の英語の授業でも、同じような練習をした覚えがありませんか?
このオーラルメソッドが、現在の英語学習法の基盤になっていることがわかりますね!
パーマーが唱える練習法は7つあります
- 耳を訓練する練習
- 発音練習
- 反復練習
- 再生練習
- 置き換え練習
- 命令練習
- 定型・会話
のようになっています。
5.オーラルメソッドとオーラルアプローチの違い
一般的に「アプローチ」は「理念」であり、メソッドは具体的な教授法・学習法であると理解されています。
しかし、オーラルアプローチとオーラルメソッドは共通する部分が多いようです。
オーラルアプローチは1940-1950年代にかけて、世界中に影響を与えた外国語教授法で、ミシガン大学のフリーズ教授が中心になって作られました。
このオーラルアプローチは、第二次世界帯電後の日本の英語教育に多大な影響を与えました。
方法の特徴はオーラルメソッドと似ていますが、耳と口による訓練がかなりの比重を占めていて、同じパターンの練習がしつこいくらいに繰り返されるものです。
オーラルアプローチは1970年代以降衰退したと言われますが、日本ではまだ英語の授業に大きな影響を残しているという
説もあります。
6.オーラルメソッドは子供にも効果ある?
オーラルメソッドの方法は、まさに幼児が初めて覚える英語の習得方法に、とても効果的であると思われます。
実際に絵や道具などで認識したものを、なんというものなのか、どんな時に使うのか?などを考えながら英語の音や文字等を学んでいく、というのは英会話スクールやインターナショナルスクールでも日常的に行っている学習法ではないでしょうか?
そして、それを何度も復唱する、単語を置き換えてみる、そしてロールプレイングなどで場面を設定し使ってみる、というのは英語教授法としても子供たちにとって、基本的かつ効果的なメソッドであると言えます。
7.オーラルメソッドのメリット・デメリット
さて、そんな歴史あるオーラルメソッドですが、メリット・デメリットを見てみましょう。
オーラルメソッドのメリット
オーラルメソッドの授業では「英語を英語で理解する」ということで、原則母国語を使いません。
ゆえに、学習者が「英語の環境」に身を置くことが出来て、必然的に「聞く力」「集中力」が養われます。
良く研究された内容にテキストを英語で理解していくことは、子ども達のモチベーションにもつながり、母国語(日本語)、また、「聞くこと」と「口慣らし」の練習の徹底により、日本人の多くが苦手としている「発音」に対する苦手意識を克服する手段にもなるでしょう。
オーラルメソッドは、いまだ日本人が必要としている「コミュニケーション能力」を伸ばすための、「アウトプット型」の授業をおこなうことが出来るメソッドとして期待をされています。
デメリット
デメリットとして考えられることは、授業が母国語を使用しないため、生徒がどこまで理解しているのかが把握しにくく、またそのことを教師が見つけられずにそのまま授業が進んでしまうことがあると言います。
また、物を使ったり、絵や写真を使ったりして説明をしても、生徒によって一人一人解釈も違い、ニュアンスなども英語のみでは伝わりにくいことがあるからです。
また、オーラルメソッドを強化した指導法では、まず、パターン化した文章などを繰り替えす練習が多いため、生徒の意志による主体的な会話がされないのではないか、それと、「「読む」「書く」の時間があまりとれず、読み書きの部分で遅れを取るのでは?という懸念もあります。
8.これからの英語教育とオーラルメソッド
オーラル ・ メソッドの一部はすでに日本でも取り入れられて、何度も音読して口慣らしをする学校もたくさんありますね。
しかし、教師によって生徒の理解にばらつきがある、という点では、まず教師側のスキルが問われると思われます。
今後のオーラルメソッドに、日本語での解釈の補助をしながら外国語への理解へと導く「バイリンガル的方法」を加えれば、生徒たちの英語能力も伸びるのではないかという見解もあり、オーラルメソッドはほかの良い学習法を取り入れつつ変化をしながら残っていくという考えがありました。
まとめ
初めは少し難しいメソッドかと思いましたが、実に自分たちも日常このメソッドを使って指導していることに気づきました。
感想としては、オーラルメソッドは英語入門者や子どもに効果を発揮するように思えます。
しかし、外国人が日本人のために考え出したメソッドというのもとても面白く、そしてその当時から「耳で聞く」「口で真似する」という日本人の苦手な部分に対処しているところも非常に興味深いですね!
当時のパーマーが期待を込めて考案したメソッドに、私たち現代の日本人も応えられるように努力あるのみ!といったところでしょうか?