「ドラマ教育」という言葉を聞いたことがありますか?

「ドラマ、だから劇をするのかな?」「ドラマを作るのかしら?」

・・・はい、どちらもドラマ教育に当てはまるんです!

しかし、それがすべて「教育」に生かされるというお話。

「ドラマ教育」についてお話ししましょう!!

1.ドラマ教育(Drama in education)とは?

ドラマ教育の発祥は、イギリスの演劇学校と言われています。

演劇的手法を使って、エクササイズをする、即興の劇をしてコミュニケーション力・協調性・表現力を養うことを目標とした教育法です。

2.ドラマ教育の歴史

2.ドラマ教育の歴史

19世紀末から20世紀初頭に、子どもを対象とした児童文学というジャンルが確立され、それが始まりで児童中心主義をうたった「ドラマ教育」が英米に広がります。

ドラマ教育ーDrama in education(略してD.I E)は、イギリスのドロシー・ヘスカットという人物が始めたと言われています。

アメリカでは1920年ごろに、アリス・ミニー・ハーツの「児童教育演劇」の影響を受けてドラマ教育が広がり始め、ハーツは「子供の遊びの中に生じる直観力と、演劇の創作過程で生じる直観力に共通点がある」と説きました。

その後クリエイティブ・ドラマ(創造的なドラマ活動)がウィニフレッド・ウォードにより(ウォードはのちに「クリエイティブ・ドラマの母」と呼ばれるようになります)「子供たちがドラマ活動をしている過程自体に教育的価値がある」ことが見いだされます。

先生が子供たちに丸暗記でセリフを覚えさせて、先生が演出をして・・・という日本の学芸会のようなものではなく、子ども達が話し合ったり、討議しあったり、協力して作ったりという英術的活動を交えながら、演劇を作り上げていく段階に大きな教育的意味がある、と述べてます。

1930年代になると、その活動が認められ、公的助成金を受けられるようになり、ウォードはアメリカのノースウェスタン大学にクリエイティブ・ドラマを使った教員養成プログラムを運営するようになりました。

1940年代、第二次世界大戦に関わっていき、ドラマ教育は一旦停滞します。

しかし、1944年にアメリカ教育演劇協会と提携した、児童演劇委員会が創設され、またクリエイティブ・ドラマが動き出します。

こうしてどんどん発展を続け、特別支援教育に活用されたり、高齢者を対象に実施をしたりと発展をしていきました。

欧米では、小学校から「ドラマ」が正式な教科として教えられて、現在も世界中でいろんな形でドラマ教育は普及しています。

3.ドラマ教育の目的

3.ドラマ教育の目的

ドラマ教育の大きなねらいは、「個人と社会の一員としての子供の成長を最大限に高めること」にあると言います。

目的は実践者(教師や指導者)によって若干違っています。

アメリカでは、1940年代は「子供の創造性の育成」をうたい、1950~1960年代のイギリスでは、ドラマ教育で「集中力、感覚、想像、身体、スピーチ、感情、知性」の調和のとれた子どもの発達を目指しました。

その後、ドラマ教育の目的は

  1. 人間関係
  2. 言葉の発達
  3. 問題解決
  4. 自分の経験を生かす
  5. 創造性と美的発達
  6. 感情のコントロール
  7. 協力

など多く掲げられています。

このような目的を学校の学科にどう取り入れるかで、子ども達の発達が大きく変わると考えられます。

4.ドラマ教育と英語

さあ、子どもの可能性をグーンと引き上げてくれそうな「ドラマ教育」ですが、このメソッドはいろんな教科にも応用できるように研究が重ねられています。

とりわけ「言語の習得」に大きな効果を表すようなんです!

ここで、「ドラマ教育と英語」についてお話ししましょう。

ドラマを通した英語教育ーEnglish Through Drama

「シアター」と「ドラマ」は違う

イギリスの演劇教育者、ブライアン・ウェイ(1923-2006)は、「シアターとは多くの観客に見せるものであるが、ドラマは一人一人の経験が目的で会って、個々が学ぶための活動である」と言っています。

これは、「英会話を習得する」上でも共通点が見受けられますね。

教室の中であらゆるシチュエーションを想像し、コミュニケーションをとっていくことは、現実的にテスト用に学習するのではなく、「話せる英語」を達成するために「ドラマ教育」を英語のレッスンに取り入れる学校などがあります。

教師や指導者の解釈や表現方法で、いろんな活動が繰り広げられる期待が出来ます。

5. ドラマ英語教育の学習法

5. ドラマ英語教育の学習法

演劇を取り入れた英語学習にはこの様なキーワードがあると言われます。

  1. 自分以外の誰かになる
  2. 言葉を聞き、言葉を発する理由がある
  3. 全身を使う

このような演劇的手法を具体的に英語学習に取り入れる場合を、例として見てみましょう。

導入

  • ウォーミングアップのゲームや発声練習で緊張をほぐす
  • 学習テーマへの導入(映像を見たり、テキストなどを読む)
  • グループ活動への導入(エクササイズなど)(文法事項を確認する)

展開

  • グループワーク  場面や登場人物、ストーリーの創造など
  • アクティング  選択した人物の役割をする。出来事や場面を演じあう。

まとめ

  • シェアリング  評価や改善点の共有。活動を振り返り、感想や疑問点、提案などの意見をまとまる。

年齢や人数などに左右されるが、テーマの選択などをよく考えて、指導者が目的のための英語学習に取り入れることが出来ます。

6.ドラマ英語教育の効果

8.ドラマ教育の可能性

コミュニケーション力がつく

グループで意見を出したり、創造していくことで協力する気持ちが生まれてコミュニケーションが高まります。

表現力が付く

その場面に合わせた的確な気持ちを表現することで、自分の言いたいことが相手に伝わります。

応用力が身につく

習った単語や表現を使って、自分のことに置き換えて考えるので「丸暗記の文章」ではなく、「自分の言葉」で応用できるようになります。

これが英語に取り入れられ、子ども達が恥ずかしがらずに堂々と英語を話せるようになれば、とても効果的なメソッドであると思いませんか?

7.ドラマ教育と日本

文部省は現在「主体的・対話的で深い学びの実現」を掲げているそうですが、ドラマ教育はそれにとても効果があるのではないでしょうか?

長い間、一方的に教えそれを丸暗記してきた日本の教育では、圧倒的に主体性や応用力が不足しています。

そのうえ、人前で話すことを苦手とする国民性に、ドラマ教育が一石を投じることが出来るかもしれませんね!

キッザニアなどで模擬職業体験ができるのも、いわばドラマであると言えます。

海外でも模擬体験を使った教育が多いように、そういった施設が増えたら楽しく学習できそうですね。

8.ドラマ教育の可能性

8.ドラマ教育の可能性

現在幼稚園や保育所、小・中学校の目標として掲げてあるのが、「生きる力をはぐくむこと」です。

今の日本の子供たちは学力だけの問題ではなく、「豊かな心」と「健やかな身体」の育成をしなければならない、という動きが出ています。

この「生きる力」はこのような要素で、構成されていると言います。

  1. 自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、社会的に自立する
  2. 基礎的・基本的な知識・技能の習得
  3. 言語の能力を重視し、体験活動を充実することによって、他社、社会、自然、環境との関わりの中で、これらとともに生きる自分への自信を持たせることが必要である。

この要素を伸ばすにも、「ドラマ教育」のこのような教育効果が期待されます。

  • ドラマ教育で思考力を育み、心と体の活性化を図り、精神の柔軟性や想像力を豊かにする。
  • 自らの表現力を高めるとともに、相手を受け止める姿勢を身につけ、コミュニケーション能力を促進する。
  • 集団における集団生活の困難さを克服し、ともに創造する喜びを体験することによって、強い友情と達成感を持つことになる。
  • 人々に大きな感動を与える喜びを知る。

などが「生きる力」を育てる大きな力になると考えられます。

また、近年話題になっている「発達障害」にも「ドラマ教育」が効果がある、という話もあります。

人の気持ちがわからない、コミュニケーションが取りにくいADHDなどの子供を、ドラマ教育に参加させると「こういった場面では人はこう思うんだな」「こういったときに本当に思っていることを言ったらいけないんだ」などを少しづつ理解していくことが出来る、という説もあり、今後悩んでいる人たちやその家族の助けになるかもという研究もされているそうです。

まとめ

筆者がイギリスやアメリカで長く研究されてきた「ドラマ教育」を知ったのは、シンガポールで教育関係の仕事をしていた時でした。

保護者が幼稚園や習い事を探す基準が「ドラマ教育」(スピーチアンドドラマ、と言っていました)を取りいれているか、というのも驚きでした。

自分でも研究を始め、英語教育に取り入れたところとても効果的でありました。

これは英語に限らず、音楽や社会など他教科にも応用できるメソッドであり、プレゼンテーションなどが苦手な日本人に必要な教育法であり、もっと広がってほしいと心から思います。