英語を学ぶとき、多くの方が気にするのが「発音」です。
「カタカナ英語だと通じないのでは?」
「子どもに正しい発音を教えられないと意味がないのでは?」
そんな不安を抱く親御さんも少なくありません。
しかし、実際に子どもたちに英語を伝える現場にいる保育士の立場からすると、ネイティヴ並みの発音にこだわりすぎる必要はありません。
本当に大切なのは「正確さ」ではなく「伝わる英語」を育むことなのです。
日本人が発音に過敏になる原因

受験英語・学校教育の影響
長らく日本の英語教育は「正しい文法」「スペル」「リスニングの聞き取りテスト」に重点が置かれてきました。
- テストでは「正解」か「不正解」かで評価されるため、発音も「正しいか間違っているか」という二分法でとらえがちになります。
- 実際には多少アクセントが違っても通じるのですが、学校では「完璧でなければ×」という感覚を植え付けられやすかったのです。
「ネイティブ信仰」文化
日本の英会話学校や教材広告で「ネイティブ講師によるレッスン」と強調されることが多く、
- 「英語=ネイティブが話すもの」
- 「ネイティブに近づかなければ価値がない」
という意識が広まってきました。
しかし実際には、世界で英語を話す人の8割以上は「非ネイティブ」。国際会議やビジネスの現場では、非ネイティブ同士の英語が主流です。
「間違えたら恥ずかしい」文化
日本社会は「失敗を避ける」傾向が強くあります。英語を話すときも、
- 間違えたら笑われる
- 発音が変だと思われる
という不安が先に立ってしまうのです。
これは学校の授業で「答えを当てられて間違えるのが恥ずかしい」と感じた経験が影響している人も多いです。
カタカナ英語の影響
日本語には英語由来のカタカナ語が多いですが、実際の発音とは異なります。
例:「computer(コンピュータ)」や「coffee(コーヒー)」
この「日本語読み」と「英語本来の音」のギャップが大きいため、余計に「正しく発音しなきゃ」とプレッシャーになりやすいのです。
メディアの影響
ドラマや映画で聞くのは「アメリカ英語」「イギリス英語」が中心。世界の多様な英語を耳にする機会が少ないため、
「ネイティブっぽい発音=唯一の正解」と思い込んでしまいます。
ネイティヴ発音じゃなくても大丈夫な理由
英語はアメリカやイギリスだけでなく、世界中の人が第二言語として使っています。インド訛り、フィリピン訛り、シンガポール英語など、多様な発音が日常的に飛び交っています。むしろ、純粋なアメリカ英語だけを想定する方が不自然です。世界中で話される「なまりのある英語」なのです。
それでは、世界の英語なまり・表現の特徴を見てみましょう。
シンガポール英語(Singlish)
- 特徴: 中国語・マレー語・タミル語の影響を受けている。語尾に「lah」「lor」「leh」をつけるのが有名。
- 例: 「Don’t worry, lah.」(ドンウォーリー、ラー:心配しないでよ)
- 発音: 早口でリズムが一定。文法がシンプルになる傾向も。
インド英語
- 特徴: 独特のイントネーションと母音の伸ばし方があり、語尾の“r”が強調されやすい。
- 例: 「kindly revert」(直訳すると「親切に戻る」だが、意味は「返事をください」)
- 発音: “v”と“w”の区別が曖昧になることが多い。
フィリピン英語
- 特徴: アメリカ英語に近いが、タガログ語の影響で音が柔らかい。
- 例: 「comfort room(CR)」=トイレ(米英では使わない表現)
- 発音: “f”が“p”に近く発音されることがある(fish → pish)。
オーストラリア英語
- 特徴: 短縮形やスラングが多い。
- 例: 「arvo」=afternoon、「brekkie」=breakfast
- 発音: “day”が「dai」に近く聞こえる(today → t’dai)。
アフリカ英語(例:ナイジェリア英語)
- 特徴: 英単語を独自の意味で使うことがある。
- 例: 「to dash someone」=「誰かにあげる」
- 発音: 音をはっきり区切る傾向が強い。
子どもにとっての「伝わる英語」とは?

多少発音が違っても、「ゆっくり話す」「はっきり区切る」「表情やジェスチャーを使う」といった工夫で十分に伝わります。子どもにとっても、この「伝えようとする姿勢」を体感することが、言葉の壁を越える第一歩になります。相手に伝わる工夫が重要です。
聞いた音をマネする楽しさ
歌やリズム遊びを通して自然に音をまねすることが、耳の感覚を育てます。
単語より「フレーズ」
「apple」より「I like apples.」のように、短い文で覚える方が実際に使いやすいです。
完璧よりコミュニケーション
「Thank you!」「See you!」など、意味が伝わる一言を自信をもって言える体験の積み重ねが大切です。
保育現場で意識していること
保育士として子どもと英語を楽しむとき、以下を大事にしています。
- ネイティヴのように話さなきゃ、とプレッシャーをかけない
- 発音よりも「声に出す経験」を重視する
- 「できた!」という小さな成功体験を繰り返す
例えば、歌の中で少し音が違っていても「楽しく一緒に言えたね」と認めてあげることが、子どもの意欲につながります。
家庭でもできる発音練習の工夫とおすすめ教材リスト

おうちで英語を使うときは、正しい発音かどうかを気にしすぎる必要はありません。
それよりも「親子で一緒に声を出す」「楽しく英語に触れる」ことが、子どもにとって大きな意味を持ちます。
- 歌を一緒に口ずさむ
- 「エコー練習」(オウム返しでまねっこ)
- ジェスチャー付きで話す
- 録音して聞いてみる
おすすめ英語絵本リスト
- “Brown Bear, Brown Bear, What Do You See?”
- “The Very Hungry Caterpillar”
- “We’re Going on a Bear Hunt”
- “Goodnight Moon”
おすすめ英語の歌リスト
- “Head, Shoulders, Knees and Toes”
- “If You’re Happy and You Know It”
- “Old MacDonald Had a Farm”
- “The Wheels on the Bus”
- “ABC Song”
英語を遊びに取り入れる簡単ゲーム例
Simon Says(サイモン・セズ)
「Simon says touch your nose!」のように指示を出し、子どもがその動作を真似します。自然に動作動詞の発音が定着します。
英語しりとり
アルファベットや単語を使ったしりとり。「dog → goat → tiger」とつなげていくだけで語彙力も増えます。
カードめくりゲーム
動物や食べ物のカードを並べて「Where is the cat?」と聞き、子どもがカードを指す。発音を繰り返すうちに定着します。
お買い物ごっこ
おもちゃや絵カードを使い「I want an apple, please.」「Here you are!」とやり取り。遊びながらフレーズが自然に身につきます。おもちゃのバッグを買い物かごに見立てると気分が上がりますよ!
ジャンケン英語版
「Rock, paper, scissors, one, two, three!」と言いながらじゃんけん。短いフレーズでも毎日繰り返すと効果的です。
親御さんへのアドバイス
英語を子どもに伝えるとき、多くの親御さんは「私の発音で大丈夫かな?」と心配になります。けれど、子どもにとって一番大切なのは「親が一緒に楽しんでくれること」です。
発音の正確さよりも、「声に出す姿を見せる」「伝えようとする気持ちを共有する」ことの方が、子どもの学びに大きな影響を与えます。
もし不安を感じたら、次のことを思い出してください。
- 子どもは「正しい発音」よりも「楽しそうに話す姿」に影響を受ける
- 世界には多様な英語が存在し、ネイティヴの音だけが正解ではない
- 音源(歌・絵本の読み聞かせ)を活用すれば、無理に自分が完璧に話す必要はない
親御さん自身が「間違えてもいい」「楽しめばいい」と心を柔らかく持つことが、子どもの「英語って楽しい!」という気持ちにつながります。
まとめ
英語は「発音が完璧でないと通じない」というイメージがありますが、実際にはそうではありません。
大事なのは「伝えようとする気持ち」と「伝わる工夫」です。保育の現場でも、子どもたちが安心して声を出し、楽しみながら英語に親しむことを一番に考えています。
親も子も「伝われば十分」と肩の力を抜いて、英語を生活の中に取り入れていきましょう。
