バイリンガル保育の現場で親御さんたちに、「周りの子に比べて言葉がゆっくりな気がするけれど、この子に英語を聞かせても大丈夫かしら」「二言語に触れることで、日本語まで遅れてしまったらどうしよう」というご相談を、これまで何度も受けてきました。
言葉がゆっくりなお子様にとって、英語は決して「邪魔なもの」ではありません。むしろ、その子の個性に合わせた取り入れ方をすれば、親子の絆を深める特別なツールになってくれます。
言葉の発達に不安がある親へ向けた優しいメッセージと実践例

言葉の発達スピードは、歩き始める時期が一人ひとり違うように、その子が持つ「体内時計」によって決まります。
特に慎重な性格のお子様や、自分の世界をじっくり深めるタイプのお子様は、外に言葉を出す前に、心の中にたくさんの「言葉の貯金」をしています。
「教える」よりも「共鳴」しよう
言葉がゆっくりな時期は、単語を覚えさせることよりも、親子の意思が通じ合っている感覚を大切にしましょう。
お子様が何かを指さした時、それを英語でそっと添えてあげるだけで十分です。
わあ、きれいなお花を見つけたんだね!
見て!大きなトラックが来たよ
サクサクしてて美味しいね
このように、視覚や味覚を英語で表現することを “Parallel talk”(実況中継)と呼びます。お子様が返事をしなくても、その子の頭の中では言葉と体験がしっかりと結びついています。
「答え」を求めない語りかけ
「これ、英語でなんて言うの?」という問いかけは、言葉がゆっくりな子にとっては少しハードルが高いものです。それよりも、お子様の気持ちを代弁するようなフレーズを増やしてみませんか。
もっと遊びたいんだよね、わかってるよ
今日は本当によく頑張ったね。あなたのことを誇りに思うよ
こうした肯定的なメッセージは、英語・日本語を問わず、お子様の自己肯定感を育みます。心が満たされると、自然と言葉の扉は開きやすくなります。
ゲームや遊びの楽しさを英語に乗せて
小学生くらいになり、理解はできているけれど「恥ずかしい」と感じて日本語で返してくる子には、夢中になれる遊びの中で英語を使いましょう。例えば、マインドクラフトのようなゲームをしている時なら、こんなフレーズが自然です。
かっこいい建物だね!何でできているの?
気をつけて!後ろにクリーパーがいるよ!
お子様が日本語で答えても、”Exactly!”(その通り!)や “You’re right!”(正解!)と英語で大きく頷いてあげてください。
言葉の発達段階と二言語育児のアドバイス
お子様が今どのステージにいるかを確認しながら、無理のない関わり方を見つけていきましょう。
0歳〜1歳頃:喃語(なんご)から一語文へ
「アー、ウー」といった音から始まり、1歳前後で「ママ」「ブーブー」などの意味のある一語(Single words)が出始めます。
発達の目安
指差しをしながら名前を呼ぶ。簡単な指示(「バイバイして」など)がわかる。
二言語育児のアドバイス
この時期は言葉の意味よりも「音の心地よさ」を重視しましょう。英語の歌を聴かせたり、親御さんが笑顔で “Look! A cat!” と語りかけたりすることで、英語の音の周波数を自然に受け入れる土壌が育ちます。
1歳半〜2歳頃:語彙爆発と二語文
語彙が急激に増える「語彙爆発」が起こり、「ワンワン、いた」「マンマ、ちょうだい」といった二語文(Two-word phrases)が出始めます。
発達の目安
自分の名前を呼ばれると反応する。身の回りの物の名前を多く理解する。
二言語育児のアドバイス
日本語と英語が混ざる(ルーングリッシュ)ことがありますが、これは脳内で二つの言語を整理しているプロセスです。”Don’t worry.”(心配しないで)。
お子様が「ワンワン、いた!」と言ったら、”Yes! You saw a doggie!” と英語で広げてあげる(リキャスト)のが効果的です。
3歳〜4歳頃:三語文から文章へ
「パパ、会社、行った」などの三語文から、接続詞を使った複雑な文章へと発展します。自分の経験を話せるようになります。
発達の目安
「なぜ?」「どうして?」という質問が増える。日常会話がほぼ成立する。
二言語育児のアドバイス
この時期は “Interaction”(相互作用)が鍵です。一方的に英語を聞かせるだけでなく、ごっこ遊びの中で英語を使ってみましょう。
お茶はいかが?
お子様が日本語で返しても、会話が続いていることを喜んでください。
二言語環境と遅れの関係
医学的・心理学的な研究においても、二言語環境が原因で「永続的な言語障害」が引き起こされるという証拠はありません。一時的に語彙の総数が分散して少なく見えることはあっても、”Conceptual vocabulary”(両言語を合わせた概念の数)で見れば、一言語の子と変わらないと言われています。
もし、どちらの言語においても「理解(インプット)」が著しく遅れていると感じる場合は、前述した専門機関への相談を検討してください。しかし、「英語はわかるけれど日本語で返してくる」「言葉そのものがゆっくり」という場合は、その子のペースを尊重してあげましょう。
年齢別:言葉の接し方ガイド

0歳〜1歳半:五感とリズムで「安心」を伝える時期
この時期のお子様は、言葉を「意味」ではなく「音の響き」と「肌のぬくもり」で理解しています。
目をしっかり合わせ、少し高めのトーン(マザリーズ)でゆっくり話しかけましょう。
具体的なアクション: おむつ替えや着替えのときに、動作を歌うように伝えます。
お着替えしようね、よいしょ!
こちょこちょ!
親御さんが英語を話すときに笑顔であれば、お子様にとって英語は「幸せな音」としてインプットされます。
1歳半〜3歳:イヤイヤ期を「選ぶ楽しさ」に変える時期
自我が芽生え、何でも「自分でする!」「イヤ!」となる時期です。この「自分」という意識を英語でも尊重してあげましょう。
指示を出すのではなく、”Choices”(選択肢)を提示して、お子様に主導権を渡します。
どっちの靴下がいい?青かな、赤かな?
歩く?それともベビーカーに乗る?
自分で選んだことに対して “Good choice!” と褒めてもらえる経験が、英語へのポジティブな感情を育てます。
4歳〜6歳:好奇心と「ごっこ遊び」の時期
想像力が豊かになり、自分の世界を広げたい時期です。論理的な思考も始まるので、「なぜ?」に答える楽しみが出てきます。
親も役になりきって、英語の世界を作り上げましょう。”Role-play”(ごっこ遊び)が最も効果的です。
例えば、お医者さんごっこやレストランごっこを取り入れます。
どうしましたか?
スープをどうぞ。熱いから気をつけてね
この時期は少しずつ日本語との違いを意識し始めます。「英語だとこう言うんだよ」と教えるのではなく、自然な会話の中で “I see, you mean…” と英語に言い換えてあげるのがスムーズです。
まとめ
共働きで忙しいご家庭もあれば、じっくりとお子様と向き合う時間があるご家庭もあります。大切なのは、親御さんが無理をして「完璧なバイリンガル」を目指さないことです。
言葉がゆっくりなお子様にとって、一番のストレスは「お父さんやお母さんが不安そうな顔をしていること」です。
1日1分、大好きな絵本を1冊読むだけ、あるいは朝の挨拶を “Good morning!” と笑顔で交わすだけ。
そんな小さな「家庭のスタイル」を肯定してあげてください。
