物心ついたころから読んだ絵本の中に、必ず入っている「アンデルセン」のお話は、何十年も語り継がれ、絵本やアニメになって愛されています。

皆さんもひとつくらい、お気に入りアンデルセン童話があると思いますが、そのような大人気を博した童話はどうやって生まれたのでしょうか?

1.アンデルセンの生い立ちと略歴

1.アンデルセンの生い立ちと略歴

アンデルセンは、1805年4月2日デンマークのフェン島の都市オーデンセで、22歳の貧しい靴職人の父と、父より数歳年上で洗濯婦をしていた母親の家で生まれました。

家は非常に貧しく、馬屋を改装した安アパートだったといいます。

本名はハンス・クリスチャン・アンデルセンです。

物がなく、みすぼらしい身なりで周りには笑われ、祖母には虚言癖がありました。

そんな祖母の影響で、空想にふける、想像力の豊かな子どもに成長していきました。

特に母親はそんなアンデルセンの芸術的才能を信じて、とにかく息子を認めて、褒めて育てたそうです。

「アンデルセンがやりたいことをさせる、したくなければやらなくてもいい。」という教育を徹底させ、彼に自信を与えて才能を開花させたと言われています。

父親はアンデルセンに喜劇や物語を読んで聞かせ、ハンスのために廃材を集めて人形劇の舞台を作り、ハンスはその人形たちのために服を作ったりして、貧しいながらも愛情たっぷりに育っていきました。

家族の経済的助けになるようにと軍隊に入った父親でしたが、デンマークが1813年に財政破綻したせいで、軍からの給金をもらえず、精神を病んだうえ1816年に亡くなってしまいます。

1818年に母親が再婚し、アンデルセンはオペラ歌手になろうとコペンハーゲンに行きます。

しかし、歌手になる夢は果たせなかったものの、劇場の支配人だったヨナス・コリンの口利きでデンマーク王から学費援助を受け、大学に行くことが出来ました。

その後は徐々に詩などを発表するようになり、1835年に最初に小説「即興詩人」を出版し、当時反響を呼びました。

その後生涯独身で、死ぬまで小説や童話を書き続け、70歳で肝臓がんのために亡くなります。

2.代表作品

  • 絵のない絵本ー1836
  • 人魚姫ー1837
  • みにくいアヒルの子ー1843
  • 赤い靴ー1845
  • マッチ売りの少女ー1848

他、雪の女王、おやゆび姫、白鳥の王子、裸の王様など名作をたくさん残しています。

3.アンデルセンの人間性と作品の関係

3.アンデルセンの人間性と作品の関係

アンデルセンは幼いころから長い間非常に貧しかったため、貧困や人生の挫折から「貧困層は死ぬことでしか幸せになれない」という、非常にシュールな自身の哲学を持っていて、生まれ持った天才的な洞察力ゆえの毒舌で、周りから敬遠される時期がありました。

半面、自分の好きな人には細かく世話をするところもあり、長い旅先で多くの友人を得ていたようです。

若いころに、こうして人生に絶望していたころの考えが反映されていたと思われる作品が「マッチ売りの少女」や「人魚姫」であると言われています。

自分の人生を嘆き悲しみ、「死ぬことでしか幸せになれない」といった考えは、冬空の下で凍え死んだ「マッチ売りの少女」や、王子への愛に破れ、波の泡になって消えてしまった「人魚姫」にように、「主人公が死を迎える最後」という、童話とは思えない悲劇を生んだ証なのでしょう。

父親が精神を病んだ末亡くなり、父親方の祖父も精神病で死亡、祖母も虚言癖があるという血筋から、自分も精神が崩壊するのではないかという恐怖があり、そして極度の「心配性」だったといいます。

出かけるときも、非常時に脱出できるようにロープを携帯したり、眠るときには間違って埋葬されないようにと、枕元に「死んでいません」と書いたメモを置いて就寝するという、やはり少し病的なところもあったようです。

また、失恋を繰り返し、結果生涯独身だったのも、自分の容姿にひどくコンプレックスがあったからだそうです。

しかしながら、世間にだんだん認められて、年齢を重ねるごとに考えも柔らかくなったようで、晩年の作品にはハッピーエンドが多く描かれています。

4.アンデルセンと交流があった著名人

アンデルセンは大学を卒業できませんでしたが、旅行した先々で多くの友人が出来たことを旅行記にしています。

交流があった著名人に

  • グリム兄弟
    19世紀にドイツで活躍した言語学者・民話収集家・文学者・文献学者の兄弟で、有名な「グリム童話集」の編集者です。
  • ヴィクトル・ユーゴー
    フランスの小説家で詩人。「レ・ミゼラブル」の著者として有名です。
  • バルザック
    オノレ・ド・バルザック。フランスの小説家で「人間喜劇」などが高く評価されました。
  • シュポーア
    ルイ・シュポーアはドイツの作曲家・指揮者・ヴァイオリニストです。
  • ケルビーニ
    ルイージ・ケルビーニはイタリア出身の作曲家で音楽教師です。
  • ダヴィッド
    ジャック=ルイ・ダヴィッドはフランスの新古典主義の画家です。

こうして見てみると、ものすごい芸術家たちに囲まれていたのがわかりますね。

当時この人たちと、どんな会話をしていたのか、聞いてみたい気がします。

5.アンデルセンの没後に作られたもの

5.アンデルセンの没後に作られたもの

  • デンマークの首都コペンハーゲンには、彼の作品にちなんで「人魚姫の像」があります。ほかにもアンデルセン博物館が、彼の故郷のオーデンセに設立されました。
  • 1956年には国際アンデルセン賞という「児童文学への永続的な寄与」に対する表彰が、国際児童図書評議会によって創立されました。
  • 日本の千葉県船橋に「ふなばしアンデルセン公園」があります。
  • 「アンデルセンベーカリー」は、デンマークのコペンハーゲンで食べたデニッシュペストリーに感動した、日本のタカキベーカリーの高木社長が創業。 ここは、今では普通になっていますが、お客がパンをトングで挟んで選ぶという販売方法を始めて採用したお店です。全国で74店舗、アメリカのサンフランシスコや、2005年にデンマークのコペンハーゲンにもデンマーク1号店を出店しています。

6.アンデルセンの名言

自分が醜いアヒルだと思っていたころは、こんなにたくさんの幸せがあるなんて、思ってもみなかった

人生を楽しめ。死ぬ時間はたっぷりある

太陽は、善人も悪人も等しく照らす

言葉で語れないところでは、音楽が語る

私の人生は、私のすべての作品の最高の実例となるだろう。

生きているだけでは十分ではない。誰にも日の光と自由と小さな花が必要だ。

7.アンデルセンとディズニー

現代では、むしろディズニー作品のほうが原作のように思っている人も多いかもしれませんが、あのディズニーが、アンデルセンの童話をもとにしている作品があります。

  • リトルマーメイド (人魚姫)
  • アナと雪の女王 (雪の女王)
  • みにくいアヒルの子 (みにくいアヒルの子)

などがあります。

アンデルセンの原作は、暗く悲しい結末のものが多い中、ディズニーはそれをハッピーエンドに変え、残酷さや悲劇を取り除いて、子ども達に夢を与えられるように作られています。

8.アンデルセン博物館

アンデルセンが生まれた街オーデンセが、アンデルセンの生家を含めた近隣に1908年に最初のアンデルセン博物館を作りました。

ここは、作家の人生と生涯を写真などでわかりやすく紹介した、世界初の博物館です。

彼が親しかった友人や、彼が愛した音楽や絵画などの芸術作品にも触れることができます。

アンデルセンは生涯にわたって世界20か国を旅していますが、その国々を紹介しており、旅先から送った古い手紙や押し花、自筆の原稿や切り絵などの貴重な記録が展示されています。

また、2021年には日本人の建築家・隈研吾が建設設計を手掛けた「ハンス・クリスティアン・アンデルセンの家」が新しく開館しました。

敷地面積はおよそ9000㎡にもわたり、庭園と展示が一体になった作りになっています。

ガラスを多用した円形の建物や、隠れ家のような地下展示、かくれんぼが出来そうな緑多い庭園などが、創造力や好奇心を刺激し、童心に戻ったような気持ちになれるそうです。

設計した隈氏はこう語っています。

「このプロジェクトは、アンデルセンが教えてくれたものすべてへの感謝のしるしであり、私たちからハンス・クリスチャン・アンデルセンへの贈り物なのです。」

まとめ

筆者はニ度デンマークを訪れて、人魚姫の像も見てまいりました。(思ったよりとても小さかったです!)

冬のデンマークの寒さはとても厳しくて、ここで「マッチ売りの少女」が生まれたのだと思うと、非常に納得してしまいました。

デンマーク国民は幸福度が世界トップクラスである、と聞いていますが、その反面うつ病も多いようで、なんと抗うつ剤の摂取量が世界トップクラスというのですから驚きです。

その理由は様々ですが、共働きで忙しい、人間関係がうまくいかない、しかし多く考えられるのは、日照時間が短く、太陽の光によって生成されるビタミンBが少ないのが大きな要因ではないか?とも言われています。

アンデルセンの童話、特に前半期は暗く、悲しい物語が多かったのも、このデンマークの気候が関係しているのかもしれませんね。

しかしながら、アンデルセンの表現した空想や独創的な精神は、デンマークの人々に大きく影響しているようで、あらゆるところで芸術や美術に触れることが出来て、街並みもおとぎ話に出てくるような美しさだったことを記憶しています。

今の子どもたちは「人魚姫」ではなく「リトルマーメイド」、また「雪の女王」ではなく「アナと雪の女王」しか知らず、それがオリジナルになりつつありますが、機会があれば大人と一緒に原本を読んでみて、その違いを味わってもいいかもしれませんね!