インドの音楽は世界的にも評価が高く、そのミステリアスな音楽はたくさんの人を虜にしてきました。
筆者もシンガポール在住時には、「リトルインディア」というインド人街が大好きでよく通っていたのも、この音楽が流れる街に大きな魅力を感じていたからです。
そんなインド音楽に迫ります!!
インド 音楽の歴史
History of Indian Music
インドの伝統音楽には大きく分けて2つの主要な流派があります。それが、北インドを中心とした「ヒンドゥースターニー音楽」と、南インドを中心とした「カルナータカ音楽(またはカルナティック音楽)」です。
ヒンドゥースターニー音楽
北インドの音楽で、ムガル帝国の影響を強く受けており、ペルシャやアラビアの音楽要素と融合しています。14世紀頃に形成され、その後、宮廷音楽として発展しました。即興演奏とラガ(旋律)とターラ(リズム)の即興的な表現が特徴です。
カルナータカ音楽
南インドの古典音楽で、サンスクリットの宗教歌や南インドの伝統的な音楽にルーツを持っています。カルナータカ音楽は、より宗教的・精神的な性質が強く、特に神への献身を表現する「バクティ(信仰)」が中心的なテーマとなっています。
インド音楽に使われる楽器
Instruments used in Indian Music
弦楽器
弦楽器は、インド音楽において重要な役割を果たしており、主に旋律や伴奏を担います。
シタール (Sitar)
シタールは、北インド音楽(ヒンドゥスターニー音楽)で特に有名な弦楽器で、長いネックと複数の弦を持つ特徴的な形状をしています。メインの弦以外に「共鳴弦」という他の弦もあり、これが独特の音響を生み出します。
代表的な演奏家: ラヴィ・シャンカル(Ravi Shankar)— シタールの巨匠で、ビートルズのジョージ・ハリスンに影響を与えたことでも知られています。
代表曲: 「Raga Yaman」「Raga Bhimpalasi」
サロード (Sarod)
サロードは、シタールよりも少し低音で、メタリックな響きを持つ弦楽器です。シタールのようなフレットがなく、指で直接弦を押さえて演奏します。
代表的な演奏家: アリ・アクバル・カーン(Ali Akbar Khan)— サロードの巨匠で、国際的に高く評価されています。
代表曲: 「Raga Darbari Kanada」
タンブーラ (Tanpura)
タンブーラは、主に伴奏楽器であり、シンプルな繰り返しのドローン音(一定の音程を保つ音)を出すために使われます。シンガーや他の楽器奏者が演奏する際に、音楽の基盤となる音を提供します。
タンブーラは旋律を奏でるわけではなく、常に一定の音を鳴らして演奏者を支える役割があります。
打楽器
インド音楽ではリズムが非常に重要で、特に複雑なリズムパターンが特徴です。
タブラ (Tabla)
タブラは、ヒンドゥスターニー音楽で最も広く使われる打楽器で、2つの小さな太鼓から成ります。非常に多様な音色を出すことができ、リズムの精緻なニュアンスを表現します。
代表的な演奏家: ザキール・フセイン(Zakir Hussain)— 国際的に知られるタブラ奏者で、即興演奏の技術が卓越しています。
代表曲: 「Teentaal」リズム形式で演奏されるタブラ・ソロなど。
マルダング (Mridangam)
マルダングは、カルナーティック音楽(南インドの古典音楽)で使用される両面太鼓です。片方の面は低音、もう一方は高音を出します。リズムの骨格を形成し、他の楽器や声楽を支えます。
代表的な演奏家: パラマシュヴァラ・バッガヴァタール(Palghat Mani Iyer)などの巨匠がいます。
代表曲: 「Adi Tala」のリズム形式に基づくカルナーティック音楽の伴奏。
ドール (Dhol)
ドールは、主にパンジャーブ地方の伝統音楽(バングラなど)に使われる大きな両面太鼓です。非常に強い音を出し、祭りや結婚式などでよく使用されます。
管楽器
管楽器は、インドの祭りや儀式、民謡の場面でもよく使われます。
バンスリー (Bansuri)
バンスリーは、横笛で、竹で作られたシンプルな楽器ですが、その音は深く表情豊かです。ヒンドゥスターニー音楽の旋律楽器として非常に重要です。
代表的な演奏家: ハリプラサッド・チャウラシア(Hariprasad Chaurasia)— 世界的に有名なバンスリー奏者。
代表曲: 「Raga Hamsadhwani」「Raga Bhoopali」
シェーナイ (Shehnai)
シェーナイは、結婚式や宗教儀式で使用される葦笛で、クラリネットに似た音を出します。宗教的、伝統的な場面で重要な役割を果たします。
代表的な演奏家: バスマッラ・カーン(Bismillah Khan)— シェーナイの名手で、国際的にその名を知られる存在。
代表曲: 「Raga Shivaranjani」
鍵盤楽器
インド音楽には、特に声楽の伴奏として使われる鍵盤楽器も存在します。
ハルモニウム (Harmonium)
ハルモニウムはポータブルなリード・オルガンで、特に声楽の伴奏によく使われます。鍵盤を押しながら、風箱を操作して音を出します。
主に声楽伴奏として使用され、インドの古典音楽から民謡、宗教音楽に至るまで幅広く使われます。
文化的背景
Context of Culture
ヒンドゥースターニー音楽の文化的背景
この音楽は、インド北部の宮廷や貴族の間で栄えたため、特に都市部の上流社会と深い関係を持っていました。また、イスラム文化の影響も強く、ペルシャやアフガニスタンからの音楽的な影響が取り入れられ、北インドの多文化的な風土を反映しています。宮廷でのエンターテイメントだけでなく、宗教的な儀式や瞑想の一環としても使用されました。
カルナータカ音楽の文化的背景
一方、カルナータカ音楽は、南インドの寺院や宗教的な儀式で重要な役割を果たしました。宗教的な音楽と深く結びついており、神々への祈りや感謝を表現するために演奏されます。ラガとターラの形式を通じて、音楽は神聖な体験として扱われ、霊的な解放や瞑想の手段としても捉えられています。
有名作品
Well-known Work
ヒンドゥースターニー音楽の映画
サタジット・レイ監督の名作「大地の歌(Pather Panchali)」では、インドの音楽家ラヴィ・シャンカールのシタールが劇的な効果を生み出しています。ラヴィ・シャンカールは、ヒンドゥースターニー音楽の大使としても知られ、ビートルズのジョージ・ハリスンとも共演したことが有名です。
カルナータカ音楽の映画
インド映画「Swathi Thirunal」などの南インド映画では、カルナータカ音楽のクラシックな要素がサウンドトラックに取り入れられています。カルナータカ音楽は、その優雅で荘厳なメロディーが南インドの映画にしばしば登場し、登場人物の感情を強調する役割を果たします。
子どもでも楽しめる曲
Songs that Even Children can Enjoy
ヒンドゥースターニー音楽
ヒンドゥースターニー音楽の中で子どもが楽しめるのは、楽器演奏に焦点を当てた曲です。例えば、シタールやタブラの演奏がリズム感覚を育て、楽器自体に興味を持つきっかけになります。また、子ども向けにわかりやすく簡略化されたラガの入門曲も存在します。
カルナータカ音楽
カルナータカ音楽では、子どもたちが手拍子でリズムを感じることができる「アディ・タラ」のようなリズムの練習曲が人気です。これにより、楽しくリズムを覚えることができ、音楽を通じた教育に役立っています。また、カラオケ感覚で歌える短い宗教的な歌も子どもに親しまれています。
現代の音楽との融合
Fusion with Contemporary Music
ヒンドゥースターニー音楽と現代音楽の融合:ヒンドゥースターニー音楽は、現代のポップやジャズといった音楽ジャンルと融合することも多いです。たとえば、アンシュ・マリークやナスラット・ファテー・アリー・ハーンの作品は、ヒンドゥースターニー音楽をベースにしつつ、電子音楽や西洋音楽と融合した新しいスタイルを作り上げています。
カルナータカ音楽と現代音楽の融合:カルナータカ音楽も現代の音楽と交わり、特にインド映画音楽(いわゆるボリウッドや南インド映画)に多く取り入れられています。A.R.ラフマーンの作品は、カルナータカ音楽の要素をモダンなアレンジで使用し、映画サウンドトラックに斬新な響きを与えています。
まとめ
インドの伝統音楽であるヒンドゥースターニー音楽とカルナータカ音楽は、それぞれ異なる歴史や文化的背景を持ちながら、共に深い精神性と豊かなリズム、メロディーを誇ります。
これらの音楽は、古典的な伝統を尊重しつつ、現代の音楽とも巧みに融合し、世界中の音楽シーンでその存在感を示し続けています。