AIはさまざまな業界で導入されており、製造業界でも広まっています。とはいえ、そもそも製造業でAIは活用できるのか疑問に思っている人もいるでしょう。
そこで、今回は「製造業でAIは活用できる?」をテーマに、AIを導入するメリットや今後の展望について解説します。
製造業におけるAI導入の背景
製造業は日本を支える基幹産業のひとつです。高度経済成長期から現在に至るまで、日本のものづくりは世界から高く評価されてきました。
しかし、近年、その現場は大きな転換点を迎えているといえます。少子高齢化に伴う労働人口の減少、熟練技術者の退職、グローバル市場での競争激化など、多くの課題に直面しているのです。
こういった背景があるなか、業界の未来を支える手段として注目されているのがAIです。かつては、一部の大手企業のみが導入していた高度な技術が、近年では中小企業でも導入されつつあり、製造業のあり方そのものを根本から変わってきています。
製造現場でのAI活用領域
AIが幅広く導入されているなか、製造現場では具体的にどういったタイミングでAIを使用できるのか見ていきましょう。
外観検査の自動化
これまで人の目に頼っていた製品の外観検査は、AIによって大きく変わりつつあります。カメラと画像認識技術を組み合わせ、ミリ単位以下の微細なキズや汚れ、異物混入までを自動で検出できるようになりました。
人の目でチェックする以上の精度ともいわれており、検査工程のスピードと正確性が飛躍的に向上しています。
設備の異常検知・予知保全
製造設備に取り付けたセンサーから得られる稼働データをAIが解析することで、異常の兆候を早期に察知し、故障を未然に防ぐ「予知保全」が可能になります。従来の「壊れてから直す」から「壊れる前に対処する」への転換は、ダウンタイムの削減やメンテナンスコストの最適化につながります。
生産スケジュールの最適化
AIは過去の実績データや、天候・輸送状況などのデータをもとに、最適な生産スケジュールを導き出すことができます。これにより、納期遵守率の向上や在庫の削減を期待できます。
品質管理とデータ活用
製造工程から得られる膨大なデータをAIで解析し、不良品の傾向や原因を特定することで、継続的な品質向上が図れます。品質管理を機械的に徹底することで、工程改善のスピードが上がり、トラブルの再発防止にもつながるでしょう。
AIとの協働作業
作業員と協力して作業を分担する「協働ロボット」は、人の安全を確保しながら効率を高める手段として注目されています。
人だけで作業をおこなうよりも、格段に業務効率が上がるので、1日の生産量を増やせるといったメリットもあります。
AI導入による製造業の変化
製造業界において、AIを活用する方法はさまざまです。ただ、AIを導入することで、具体的に製造業全体がどのように変化するのか、いまいちイメージできないという人もいるでしょう。
ここでは、AI導入による製造業の変化について解説します。
コスト削減と生産性向上
AI導入により作業の自動化が進み、ムダな時間やコストが削減されて、生産性が向上します。また、人手不足の解消にもつながり、少ない人数で多くの成果を出せるようになるでしょう。
不良品削減と品質安定化
AIが常にデータを監視・分析して工程を最適化することで、人的ミスや品質のバラつきが抑えられ、不良率が低下することを期待できるでしょう。その結果として、安定した高品質な製品の供給が可能となり、顧客満足度の向上も期待できます。
人材の高度化と働き方の変化
単純作業が自動化される一方、AIを使いこなすスキルや、分析・改善提案などの「考える力」が求められるようになります。
AIやロボットを使いこなすためのスキルや知識を持った人材が増えることが予想されて、人材の高度化や多様化が進む可能性があるでしょう。
製造業における実際のAI導入事例
ここでは、実際のAI導入事例を見ていきましょう。
大手自動車メーカーの品質検査
某大手自動車メーカーでは、エンジン部品の検査にAIを導入しています。従来は作業者による目視検査だった工程が、AIによって自動化されて、検査時間が大幅に短縮されました。さらに、不良品の発見率も向上したことで、結果的に生産性が向上したのです。
中小製造業のスマートファクトリー化
金属加工工場では、生産ラインにAI搭載カメラを導入し、わずか1年で不良率の20%削減を実現しました。AI導入により、作業員の負担も軽減されて、作業ミスやクレーム対応の時間が大きく削減されました。
AI導入の課題と対策
AIの導入にはさまざまなメリットがありますが、課題がまったくないというわけではありません。
ここでは、AI導入の課題と対策について見ていきましょう。
初期投資と費用対効果
AIの導入にはシステム構築や機器の購入など、イニシャルコストがかかってしまいます。そのため、ROIを明確にし、段階的な導入でリスクを抑える工夫が必要です。また、ランニングコストについても、併せて考慮しておきましょう。
社内のデータ環境とIT人材の不足
AIを活用するのには、データが非常に重要です。AI稼働の精度を上げるためにも、たくさんのデータが必要となります。
したがって、まずはセンサーやIoT機器によるデータ収集の環境を整えることが大切です。さらに、AIを活用できる人材の確保や育成も必要になるでしょう。
現場の理解とスキルギャップ
これまでAIに触れてきたことがない現場スタッフは、AIの導入に抵抗感を抱く可能性があります。そのため、実際の活用事例を共有し、教育や研修を通じて理解を深めることが必要です。
AIを導入することで、具体的にどういったメリットがあるのか、そしてどのようなことが改善されるのかを明確にして、社内で研修をおこなうのがいいでしょう。
スモールスタートからはじめる
すべて工程や業務を一度にAI化するのではなく、まずは一部の工程やデータ分析など、小さなところからはじめるのが現実的です。
イニシャルコストを抑えて、まずはスモールスタートからはじめましょう。
製造業の未来とAIの可能性
ここからは、製造業の未来とAIの可能性についてみていきましょう。
AIは人の代わりではなく、人とともに働くパートナーとして考えることが大切です。というのも、一部では、「AIに仕事が奪われる」といわれることがあり、不安を抱いている人もいるのです。
たしかに、単純作業いついてはAIに置き換えられつつあります。しかし、AIに仕事が奪われるという不安を抱くのではなく、どうやってAIと共存していけるかを検討することが大切です。
製造業界においても、AIを使いこなせる人材の確保、育成が重要であり、今後はそういったポジションが拡大されていくことが予想されます。
まとめ
AI導入によって変わるのは、単なる作業の効率化だけではありません。AIを導入することで、作業者の業務負担を軽減することができ、さらに生産性を向上できるといったメリットがあります。
また、高品質なものづくりを安定的におこなえるといったメリットもあるでしょう。とはいえ、AIもまだまだ発展途上であることから、このタイミングでAIの知識や使いこなせるスキルを身につけておくことが大切です。
ぜひ、AIを使いこなせる人材になりましょう。