パキスタン北東部のパンジャーブ州。首都イスラマバードから南東へ約100km、乾いた山岳地帯に忽然と姿を現す巨大な要塞、それがロータス城塞(Rohtas Fort)です。
16世紀に建造されたこの城塞は、3万人の兵を駐屯させることができたといわれ、戦略的にも建築的にも重要な建造物です。実戦の経験はなかったものの、その堅牢な造りから「難攻不落の要塞(an impregnable fortress)」と称されました。
本記事では、ロータス城塞の歴史や構造、そして世界遺産としての価値を学びながら、使える英語表現も一緒に身につけていきましょう。
ロータス城塞とは?

ロータス城塞は、パキスタンの北東部パンジャーブ州ジェーラム郡にあります。場所はインドとの国境に近いラホールと、アフガニスタンに通じる古都ペシャーワルの中間地点。この地域は古来より戦略的に重要な交通の要衝でした。
この要塞が建設されたのは、ムガル帝国の2代皇帝フマユーンを一時的に駆逐した、スール朝の創始者シェール・シャー・スーリの時代。1540年頃から建設が始まり、約10年をかけて完成したといわれています。
この要塞は、世界最大級の岩塩鉱山の上に建てられています。建築様式は、イスラム建築とヒンドゥー建築が融合した初期の例とされています。
シェール・シャーとは?
シェール・シャーは、アフガニスタン出身の軍事指導者で、当時のムガル帝国を打ち破り、一時的に北インド・パキスタン・アフガニスタンを支配する「スール朝(Sur Empire)」を築きました。彼はまた、グランド・トランク・ロード(Grand Trunk Road)という大動脈を整備したことでも知られています。
ロータス城塞の歴史
この巨大要塞の建設は、シェール・シャーの命令によって始まりましたが、彼自身は完成を見届ける前に戦死してしまいました。完成を迎えたのは、彼の死後、息子や後継者たちの手によってです。
しかし、スール朝は長続きせず、最終的にはムガル帝国が復活し、第3代皇帝アクバルのもとでロータス城塞はムガル帝国の一部となります。その後は軍事拠点としてではなく、地方統治の拠点や避難場所として活用されました。
訳)ロータス城塞は帝国の興亡を静かに見つめてきた証人です。
世界遺産としての価値
ロータス城塞がユネスコの世界遺産に登録されたのは、1997年です。
訳)ロータス城塞は、1997年にユネスコの世界遺産に登録されました。
登録理由
ロータス城塞は、以下の点で世界遺産に登録されました。
- アフガニスタン、中央アジア、南アジアの軍事建築と芸術様式の融合を示しており、それが後のムガル帝国の軍事建築のモデルとなったこと
- ロータス城塞は、16世紀に築かれたイスラーム軍事建築の卓越した例であること
特に、戦闘を経験することなく完璧な防御を実現した設計は、世界的にも注目されました。
覚えておきたい英会話フレーズ
観光や英会話に使える表現をいくつかご紹介します。
訳)この要塞が400年以上前に建てられて、今もこれだけ残っているなんて信じられない。
訳)イスラム様式とヒンドゥー様式が建築の中で融合しているところが本当に魅力的です。
訳)この要塞は一度も攻撃を受けたことがないのに、防御の設計が驚くほどしっかりしています。
訳)12の巨大な門には驚きました。それぞれに独自の物語があるんですよ。
ロータス城塞の主な構成資産

ロータス城塞には、荘厳な城門やモスク、軍事施設など多くの構成資産があります。これらの建築は16世紀当時の防衛技術と美的感覚を今に伝えています。
12の城門(Gates of the Fortress)
ロータス城塞には、合計12の巨大な門が設けられており、それぞれが異なる目的や方向に向けて配置されています。これらの門には、建設当時の王や、周辺の都市・地域の名前がつけられています。門の構造は単なる通路ではなく、敵の侵入を阻む巧妙な防御装置でもありました。
ソハイル門(Sohail Gate)
ロータス城塞で最も壮麗な門で、王や貴族の公式な出入り口として使われました。門の外壁には装飾的な彫刻が施され、「王の威厳と権威を象徴する門とも呼ばれます。
カブリ門(Kabuli Gate)
アフガニスタンのカブール方面に向かう門で、交易や外交の玄関口として重要な役割を果たしました。この門の存在は、ロータス城塞が軍事拠点だけでなく、交通と商業の要でもあったことを物語っています。
シャー・チャナス門(Shah Chandwali Gate)
城内への主要なアクセス路を担う門。二重の防御壁と塔によって堅牢に守られており、敵の侵入を防ぐ最後の砦でした。
城塞内の建築
要塞内には多くの建築物がありますが、代表的なものは以下の通りです。
シャーヒー・モスク(Shahi Mosque)
このモスクは、王族や兵士たちが礼拝を捧げるために建てられました。規模はそれほど大きくありませんが、細やかな装飾とアーチ型の天井が特徴で、ムガル時代の美学が息づいています。
ハヴェリ(Haveli)・監視塔(Watch Towers)
ハヴェリとは、王族や高官のための私邸を意味し、ロータス城塞内にもいくつかのハヴェリが建てられていました。壁や柱には細かい彫刻が施され、権力者たちの優雅な生活をしのばせます。
一方、監視塔は要塞の各所に建てられており、高所から敵の接近をいち早く察知するために利用されました。塔の上からは、周囲の丘陵地帯やカブール方面の平原を一望できます。
おわりに:英語で世界遺産を旅しよう
ロータス城塞は、一度も戦いの舞台になることなく、時代の変化を静かに見守ってきた要塞です。しかしその圧倒的なスケール、美しい建築、そして文化の融合を物語る多様な構成資産は、今なお多くの人々を魅了し続けています。
このような世界遺産を英語で学ぶことは、語彙や表現を増やすだけではありません。それは、自分の世界を広げる旅でもあります。
文化や歴史に触れながら英語で理解し、自分の言葉で誰かに伝える。そのように、英語で世界遺産を学ぶことは、自分の言葉が世界とつながる橋になる、そんな体験への第一歩なのです。
これからも世界遺産を英語で旅しながら、新しい発見を楽しんでいきましょう。
