保育の現場でも、AIアシスタントを取り入れる園が少しずつ増え始めています。
特に英語活動の場面では、教材作成から発話練習、多言語家庭へのサポートまで、AIが保育者の助けになる場面が広がっています。
しかし一方で、子どもの情緒や対話をどのように守るかという視点も欠かせません。
本記事では、教育・保育の現場で実際に行われている導入例と、その際に気を付けたいポイントを分かりやすく紹介します。
保育園・幼稚園で広がるAI活用の実例

英語の歌やチャンツを即時作成
ある園では、テーマ保育に合わせた短い英語の歌をAIに作ってもらい、オリジナルの歌遊びとして活用しています。
「交通安全の歌」「野菜がテーマのチャンツ」など、子どもが興味を持ちやすい内容を数秒で生成できるため、保育者が創作に費やす時間を大幅に削減できます。
発音練習の“AI先生”
平日の自由遊びの一角にタブレットを置き、英語の発音をAIがやさしくフィードバックする仕組みを導入した園もあります。
大勢の前で話すのは恥ずかしい子も、機械に向けてなら話しやすく、英語の発声練習へのハードルが下がるという効果が報告されています。
「今日の活動を英語で説明したい」をサポート
英語が得意ではない保育者が、AIに「この制作の説明を子ども向け英語で」と依頼し、そのまま指導案として活用する例も増えています。
特に、季節行事やクラフトなど説明が複雑な活動では、AIが簡潔な英語にまとめてくれるため、導入時間がスムーズになります。
多言語の保護者対応
保育園の連絡帳や日々の活動報告、けがの様子の説明などを、AIが短時間で多言語翻訳。
これにより外国籍保護者の不安が減り、園と家庭のコミュニケーションが円滑になるという成果が出ています。
AI活用のメリット

準備時間の削減
英語の歌、指導案、アナウンス文、配布資料など、保育者が時間を要していた部分をAIが補助。
結果として「子どもと向き合う時間」が増えるというメリットがあります。
活動の質が安定する
英語力や経験値が保育者間で異なっても、AIが基盤を整えることで均一な学習環境を整えやすくなります。
子どもの興味に合わせた活動が作りやすい
虫が好きな子には昆虫の英語、恐竜が好きな子には恐竜テーマのチャンツなど、個々の関心に合わせた教材を素早く用意できます。
それでも忘れてはいけない“子どもとの対話と情緒”

AI導入が進むほど、逆に大切になるのが、子どもとの対話や情緒面への配慮です。
以下の視点は、現場からも強く求められています。
AIは感情の機微までは理解できない
例えば、子どもが疲れていたり、少し不安になっていたりするとき、保育者は表情や声で気づきます。
しかしAIは、子どもの小さな変化を読み取ることはできません。
英語活動を進める際も、子どもの気持ちの状態を見ながら柔軟に調整するのは人間の役割です。
AIへの過依存は避ける
英語表現を全てAIに任せてしまうと、保育者の英語力・判断力が育たない恐れがあります。
あくまで補助として使用し、保育者が内容を理解し、自分の言葉で伝えられるようにしておくことが大切です。
子どもとAIの距離感を調整する
AIが面白くて、タブレットばかり触りたがる子も出てきます。
使用時間や利用目的を明確にし、デジタルに偏らない活動バランスを保つことが必要です。
現場での導入を成功させるポイント

保育者が最後のチェックを行う
英語表現は誤訳や不自然な表現が出ることもあります。
子どもに伝える前に、必ず保育者が確認し、園としての基準に沿う形へ整えて使用します。
園全体のルールづくり
個人の判断で自由にAIを使うのではなく、
・写真データを入れない
・名前は入力しない
・翻訳結果は必ずダブルチェック
など、園としてのガイドラインが求められます。
子どもの情緒を中心に考える
AIがどれだけ便利でも、子どもが安心して参加できる環境が最優先。
活動中に不安そうな子がいた場合、英語よりもまず気持ちを受け止めることが大切です。
保育園でのAI活用ガイドライン案

(英語活動・多言語支援に特化)
以下は、園内で安全かつ効果的にAIアシスタントを導入する際に活用できる、現場向けのガイドライン案です。園の実情に合わせてアレンジしてご利用ください。
基本方針
- AIはあくまで保育者の補助ツールとし、判断の最終責任は保育者にある。
- 子どもの情緒・安全・安心を最優先に考え、AIの利便性に依存しすぎない。
- 活動で使用する英語表現や情報は、必ず保育者が確認してから提供する。
安全なデータ取り扱いルール
- 子どもの個人情報(氏名、顔写真、音声、住所等)をAIに入力しない。
- 保育記録など内部情報は扱わず、翻訳や文章作成は一般化した形式で依頼する。
- 翻訳結果・活動文は必ず保育者の目でチェックし、不自然な表現は修正する。
- ネット接続が必要なAIの場合、園が許可したデバイスのみ使用する。
- 保育者同士で、入力して良い情報・禁止情報を明文化し共有する。
活動での使用ルール
- AIを使う時間と目的を明確化(例:活動準備でのみ使用、子どもが直接触れる場合は時間を限定)。
- 子どもの気持ちが不安定なときは、AI使用よりも対話を優先する。
- AIが生成した歌やセリフなどは、子どもに合わせて難易度調整する。
- 園内の画面利用は、タブレット依存防止のため短時間にする。
- 英語講師や保育主任など、複数人で確認してから活動に使用する。
保護者への説明
- 園だよりや説明会で、どんな目的でAIを利用しているか丁寧に説明する。
- 子どものデータを入れないこと、プライバシーを守っていることを明確に伝える。
- 英語活動や多言語支援を円滑にするための「準備支援」としての活用を強調する。
年に一度の見直し
- AI技術のアップデートに伴い、年に1回ガイドラインを見直す。
- 現場での課題・改善点を振り返り、より安全で使いやすい形にする。
英語活動でAIに頼める便利フレーズ集

以下は、保育者がAIに依頼する際にそのまま使える指示文です。
短い英語スクリプト作成から歌の制作、活動説明など、現場のシーンごとに活用できます。
英語の歌・チャンツ作成
- 「3歳児でも歌える、動物の名前を使った短い英語の歌を作ってください。」
- 「季節の花をテーマにした30秒のチャンツを作成してください。」
- 「片付けの時間に使える、簡単な英語の呼びかけソングを作ってください。」
英語での活動説明
- 「子ども向けに、水彩画の製作活動を簡単な英語で説明する文を作ってください。」
- 「外遊びの前に使える、安全指導の英語フレーズを3つ作成してください。」
- 「節分を英語でシンプルに説明する文章を作ってください。」
発表会・参観日の英語スクリプト
- 「5歳児向け、動物の役になりきるミニ劇のセリフをシンプルな英語で作ってください。」
- 「親子で一緒にできる英語挨拶のスクリプトを作ってください。」
- 「英語が苦手な子どもでも言いやすい、一言セリフを10個作ってください。」
多言語保護者への連絡文
- 「保育園の今日の活動報告を、英語で丁寧に書いてください。」
- 「けがの説明文を、保護者向けに英語で簡単にまとめてください。」
- 「懇談会のお知らせを、多言語(英語・中国語・ベトナム語)に翻訳してください。」
すぐ使える英語指示文
- 「片付けるよ」と言うとき
“Let’s clean up together.” - 「並んでください」
“Please line up.” - 「静かに聞いてね」
“Let’s listen quietly.” - 「順番を待ってね」
“Wait for your turn.” - 「ゆっくり歩こう」
“Walk slowly.”
AIには、これら指示文をベースに「子ども向けにやさしい言い方で」「短く」「3歳児向け」など条件を追加すると、より現場に合う内容が生成できます。
まとめ
AIアシスタントは、英語活動を行う教育・保育現場に大きな可能性をもたらしています。
特に教材作成や発音練習、多言語保護者との連絡といった「時間がかかりやすい作業」は、AIがサポートすることで活動の質と効率が向上します。
しかし、子どもの気持ち、安心感、対話の温かさはAIでは補えません。
保育者の専門性とAIの技術、それぞれの強みをバランスよく組み合わせることで、より豊かな英語活動が実現できます。
これからの保育現場は、AIと人が共に支え合いながら、子どもの学びの環境を広げる時代へと進んでいくでしょう。
