古代エジプトと言えばピラミッドやスフィンクスが有名ですが、エジプトにはキリスト教の重要な聖地も存在します。
そのひとつが、アブ・メナ(Abu Mena)と呼ばれる古代の巡礼都市です。
アブ・メナとは?

アブ・メナは、エジプト北部アレクサンドリア近郊の砂漠地帯に位置する、初期キリスト教の巡礼地です。聖人メナス(Saint Menas)に捧げられた都市遺跡で、紀元4世紀から7世紀頃にかけて栄えました。
歴史的背景
聖メナス(Saint Menas)の伝説と影響
アブ・メナの名は、聖メナス(Saint Menas)というキリスト教の殉教者に由来します。3世紀末、ローマ皇帝ディオクレティアヌスの迫害時代に殉教したとされる彼は、奇跡を起こす聖人として広く崇拝されていました。
伝承によると、聖メナスの遺体が神の導きによってラクダによって運ばれ、現在のアブ・メナの地に葬られたとされます。
この地に建てられた聖メナスの墓所(マルティリウム)は、やがて巡礼地となり、4世紀末から人々が病の治癒や奇跡を求めて訪れるようになりました。
都市の発展と構造
アブ・メナはやがて、ただの墓所ではなく、都市としての機能を持つ宗教センターへと発展していきます。
- バシリカ(大聖堂)
- 洗礼堂(バプテステリー)
- 修道院、宿泊施設、作業場、貯水槽
- 病人や巡礼者のための施設
これらの遺構が砂の下から発掘され、初期キリスト教社会の生活や宗教実践を知る貴重な手がかりとなっています。
世界遺産への登録と危機的状況そして現在
世界遺産登録(1979年)
アブ・メナは、次の理由からユネスコ世界遺産(文化遺産)に登録されました。
- 初期キリスト教建築の典型的な例である
- 巡礼地としての歴史的重要性
- 埋もれていた遺跡が20世紀に発見・発掘され、高い保存価値を持っている
危機遺産リスト(2001年~)
現在アブ・メナは、「世界遺産危機リスト(List of World Heritage in Danger)」に掲載されました。
理由は:
- 周辺の農業灌漑による地下水位の上昇
- 地盤の緩みで建物が倒壊・浸食の危機にあるため
- 砂漠の都市が水の被害に苦しむという、逆説的な問題が発生しています
その後さまざまな改善によって、2025年に危機遺産リストから除去されました。
英語学習者のための表現と語彙
| 英語表現 | 意味 | 例文 |
|---|---|---|
| pilgrimage site | 巡礼地 | Abu Mena was one of the most important pilgrimage sites in early Christianityアブ・メナは、初期キリスト教において最も重要な巡礼地のひとつでした。. |
| World Heritage Site in Danger | 危機遺産 | It was listed as a World Heritage Site in Danger by UNESCO.ユネスコによって危機遺産として指定されました。 |
| subterranean water | 地下水 | Subterranean water has weakened the soil underneath the ruins.地下水は、遺跡の下の土壌を弱めています。 |
| ancient basilica | 古代のバシリカ(教会) | The ancient basilica at Abu Mena is one of the earliest in Egypt.アブ・メナの古代バジリカは、エジプトで最も古いバジリカの一つです。 |
| relics of saints | 聖人の遺物 | Pilgrims came to see the relics of Saint Menas.巡礼者たちは、聖メナスの遺物を拝観するために訪れました。 |
観光とアクセス情報
最新の保全状況と観光可能性 Latest Conservation Status and Tourism Potential
2025年7月に、ユネスコはアブ・メナを「危機遺産リスト」から除外しました。農業による地下水位上昇への対策が完了し、保存状態が改善されたためです。
地下水管理システム(井戸・ポンプ・排水設備)を設置し、建物基礎を砂で補強するなどの措置が功を奏し、構造の安定性が回復しました。
現在の訪問制限と観光情報 Current Visitation Restrictions and Tourist Information
2025年現在、アブ・メナ遺跡は依然として直接訪問が制限されている可能性があります。保存と安全性の観点から立入制限が続いているため、一般観光客向けの公開は限られています。
現地の博物館や教会施設には、出土品の展示や歴史解説があり、アブ・メナの意義を学ぶことができます
観光とアクセスの現地対応状況 Local Response to Tourism and Access
エジプト観光文化省は、観光案内拠点の整備、案内表示板の設置、バリアフリー対応の改善などを進めています 。
観光ガイドの専門教育プログラムを開始し、修道院関係者や地元の人材による案内体制も構築中です 。
訪問チケット購入など将来的にキャッシュレス化を導入する方針も報告されていますが、アブ・メナが対象かは未確定です 。
アブ・メナをテーマにした関連資料・映像作品
映像作品・ドキュメンタリー
■ 『Ancient Worlds』(BBC Two / イギリス)
エピソード内で、初期キリスト教の発展とエジプトの聖地巡礼に関して触れられます。アブ・メナそのものへの直接的な描写は限定的ですが、聖メナスの崇拝背景を理解する上で有用です。英語字幕付きで学習に最適。
■『Lost Treasures of the Ancient World – Egypt』
このシリーズは、主に古代エジプトの有名な遺跡に焦点を当てていますが、世界遺産全体を網羅的に解説しており、Abu Mena が短く紹介される場面があります。
YouTube上の教育系チャンネル
■“UNESCO World Heritage Sites – Abu Mena”(英語)
簡潔な紹介映像。英語学習にも適したナレーション。
■“Christianity in Egypt”(例えば DW Documentary, PBS など)
エジプトにおけるキリスト教の歴史的展開にアブ・メナが登場します。
書籍・学術資料(英語で読めるもの)
■『Sacred Sites of the World』 by National Geographic
世界各地の宗教的遺跡を取り上げており、アブ・メナも紹介されています。写真とともに短く読みやすい英語で書かれており、英語学習者にも最適。
■『Pilgrimage in the Ancient World』 by Jaś Elsner
学術的な内容ですが、アブ・メナを含む初期キリスト教の巡礼文化を体系的に理解できます。
■UNESCO公式資料
アブ・メナの登録理由、歴史的意義、危機遺産としての現状などが英語で詳しく紹介されています。英語学習者には、登録基準(Criteria)や記述の表現方法が特に参考になります。
オンラインで読める英語記事・データベース
■Academia.edu
■JSTOR
「Abu Mena」「Saint Menas」「early Christian Egypt」などで検索すると、論文や研究資料が多数見つかります。難易度は高めですが、専門的な知識を深めたい学習者におすすめです。
日本語で読める参考資料
■『図説 世界遺産の歴史』(創元社)
■『聖人たちの中世ヨーロッパ』(中公新書)
アブ・メナそのものには触れていないことが多いですが、聖人信仰や殉教者の文化背景を学ぶための導入として有用です。
まとめ
アブ・メナは、エジプトにおけるキリスト教の歴史と信仰の足跡を伝える貴重な場所です。
現地への訪問は難しくても、その意義や歴史を学ぶことは、宗教・文化・建築を深く理解することにつながるでしょう!
参考文献:Abu Mena – Wikipedia

