「英語を話せるようにしたい」と願うご家庭は多いですが、その前に育てたいのが“伝える力”。
言葉だけでなく、身振りや表情を使って「自分の気持ちや考えを表現する力」が、実は英語力の基盤になっていきます。
日本人が「表現力」に欠ける理由と改善のヒント

日本人は国際的に見ても「文法や読解テストの点数は高い」のに、会話や自己表現となると苦手意識が強いと言われます。その背景にはいくつかの要因があります。
教育の歴史的背景
日本の英語教育は長い間、「受験のための知識」として扱われてきました。読み書きや文法訳読に重点が置かれ、「間違えずに正しく答える」ことが評価されてきたため、自然な会話や表現は後回しにされてきたのです。
文化的要因
日本の文化は「空気を読む」「和を重んじる」ことを大切にしており、自己主張よりも協調を優先する傾向があります。そのため、自分の意見を積極的に伝える練習が少なく、結果として外国語での表現に自信を持ちにくくなります。
間違いを恐れる風土
「間違えたら恥ずかしい」「周りに笑われるかも」という意識が強く、挑戦する前に口を閉ざしてしまう子どもや大人が多いのも事実です。
【問題点】
- 海外で学んだり働いたりするとき、意見を言えないことで「能力がない」と誤解される
- グローバルな環境で自分の考えを伝えられず、チャンスを逃してしまう
- 英語に限らず「自己表現」そのものへの苦手意識が育ってしまう
【改善のためのヒント】
- 小さいうちから「正解より表現」を重視する
「合っているかどうか」ではなく「伝えようとした気持ち」を評価することが大切です。 - ドラマ教育やストーリーテリングを導入する
物語を演じたり、自分の体験を語ったりする中で、子どもは「自分の言葉で伝える」喜びを体感できます。 - 失敗を歓迎する文化をつくる
「間違えてもいい、言ってみよう」という空気があることで、子どもは安心して挑戦できます。 - 多様な表現方法を認める
言葉だけでなく、ジェスチャー、絵、歌、身体表現も「伝える力」の一部として評価することが効果的です。
こうした改善を意識すれば、日本人が苦手とされてきた「表現力」も育てていくことが可能です。
英語力の前に「伝えたい!」という気持ちを引き出すこと、それが本当の意味でのコミュニケーション力につながっていきます。
まずは“表現力”が土台になる
英語ができる=コミュニケーションが上手、とは限りません。
どんなに単語や文法を知っていても、「何を伝えたいか」が曖昧では会話は広がりません。
小さな子どもにとっては、言葉だけでなく絵、ジェスチャー、声のトーンなども立派な表現手段です。
これらを安心して表せる環境が、将来の英語力にも直結します。
ドラマ教育(Drama Education)の魅力

私が推奨しているのは「英語でのドラマ教育」です。子どもたちはごっこ遊びや劇遊びを通して、自分の役になりきりながら表現します。例えば「怒った顔」「驚いた声」を英語で再現してみると、単語や文法以上に「感情を込めて伝える力」が磨かれます。さらに、仲間と一緒にストーリーを作ることで、協力しながら伝える楽しさも学べます。
ドラマ教育とは?その歴史と広がり
ドラマ教育とは、演劇を“作品として仕上げる”ことが目的ではなく、子どもの想像力・協調性・自己表現を育てる教育手法です。20世紀初頭、イギリスで「教育ドラマ」として学校教育に取り入れられたのが始まりとされています。特に1950年代以降、教育学者ドロシー・ヘスコートらが「ドラマを通じて子どもが現実を探求する力を育てる」ことを提唱し、広く学校現場に普及しました。
現在では、イギリスをはじめカナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど英語圏の多くの国で、正式なカリキュラムの一部として導入されています。アジアでもシンガポールや韓国などで英語教育と結びつけたドラマ教育が盛んに行われています。
ドラマ教育の効果
- コミュニケーション能力の向上
相手の言葉や表情を理解しながら自分の役を演じるため、自然と「聴く力」「伝える力」が伸びます。 - 自己肯定感の強化
舞台で成功すること以上に、「自分の気持ちを出してもいい」と感じられる経験が、子どもの自信につながります。 - 想像力・創造力の発達
架空のシナリオやキャラクターを演じることで、想像を膨らませながら新しいアイデアを生み出す力が育ちます。 - 言語習得との親和性
セリフや役を通じて繰り返し使うことで、単語や表現が定着しやすくなります。また感情を伴った表現は記憶に残りやすいため、語学教育との相性が非常に良いのです。
日本での導入事例
日本でも一部のインターナショナルスクールや英語教室で、ドラマ教育が積極的に取り入れられています。特に「英語劇(English Play)」は文化祭や発表会の定番で、子どもたちが役になりきることで“使える英語”を体験できるプログラムとして人気があります。また、公立小学校でも「外国語活動」の中で短いスキット(寸劇)を行う授業が増えており、全国的に広がりつつあります。
さらに最近では、地域の劇団や市民ホールが子ども向けの英語ドラマワークショップを開催する動きもあり、学校外での学びの場として注目されています。
家庭でできる簡単なドラマ教育法
- お気に入り絵本の“お芝居化”
絵本を読みながら、登場人物を親子で演じてみましょう。セリフを簡単な英語に置き換えると、自然に英語表現が身につきます。 - 感情ごっこ遊び
「今、うれしい顔!」「次は怒った声で!」と感情を表情や声色で演じる遊び。英語で“angry” “happy”などの単語を添えると、言葉と感情が結びつきます。 - 即興ごっこ
「今日は動物園に行こう!」「私はライオン役!」と即興で物語を作るだけでも立派なドラマ教育。子どもの自由な発想を尊重することが大切です。
年齢別おすすめ活動例
- 3~4歳:身体を使った表現遊び
短いフレーズを使ったごっこ遊びがおすすめ。「I’m a cat! 」「Jump! 」など体を動かしながら演じることで、英語と行動が結びつきます。 - 5~6歳:簡単な寸劇やロールプレイ
絵本の一場面を英語で再現したり、買い物ごっこを「Can I have…? 」と表現したりと、日常のシーンをドラマ化する活動が有効です。 - 小学校低学年:短いストーリーテリングや即興劇
子ども同士で役割を決め、物語を作り上げていく活動。自由度が高くなる分、創造力や対話力が伸びます。 - 小学校中学年以降:発表型の英語劇やミュージカル要素
クラス全体で一つの劇を作る、歌やダンスを加えるなど、協働的な活動が可能になります。自分の役割に責任を持ち、表現の幅を広げられます。
英語でできるその他の表現教育法

ストーリーテリング(Storytelling)
絵本をそのまま読むのではなく、子どもがセリフを言ったり、ジェスチャーをつけたりして物語に参加します。「次は何が起きると思う?」と問いかけると、自分の考えを英語で表現する練習にもなります。
英語の即興ゲーム(Improvisation Games)
「あなたはライオンになってみて!」「もし魔法が使えたら?」と即興で役になりきる活動。答えが一つに決まらない分、子どもの自由な発想や感情表現が引き出されます。
ミュージカル要素を取り入れた活動
歌やダンスを英語で組み合わせると、表現力にリズム感や身体表現も加わります。セリフを歌に乗せると、子どもは自然に英語のリズムやイントネーションを体得します。
「伝える力」が伸びるとどうなる?

- 「恥ずかしい」より「やってみたい」という気持ちが強くなる
- 英語の文法や単語習得がスムーズになる
- 相手の反応を感じ取れるようになり、双方向のやりとりができる
つまり、 “伝える力”が育つことで、英語を学ぶモチベーションも自然に高まっていくのです。
まとめ
英語教育を始める前に大切なのは、子どもの「表現したい!」という気持ちを引き出すことです。
ドラマ教育は歴史的にも世界各国で成果を上げており、日本の学校や地域でも広がりつつあります。
家庭でも年齢に応じた遊びから始めることができ、子どもの心を解放し、言葉を超えた表現力を養います。
その積み重ねが、将来「伝わる英語」へとつながっていくのです。
