英語活動を取り入れている保育園や幼稚園では、日常会話だけでなく、非常時に使う表現も子どもたちが自然に身につけておきたい大切な言葉です。

特に地震や火災などの避難訓練では、短くて分かりやすい英語の指示は、子どもにとって理解しやすく、緊張していても行動に移しやすいという利点があります。

なぜ英語(多言語)での避難訓練が必要なのか

なぜ英語(多言語)での避難訓練が必要なのか

外国在住者(外国人住民)が増えている

日本の外国人住民は近年増加を続け、2024年末時点で約3.77万人(3,768,977人)と報告されています。地域によっては外国人の割合が高くなっており、日常生活や非常時の情報伝達を多言語で行う必要性が高まっています。

言語の壁が「被害の拡大」や「混乱」を招く可能性がある

研究や調査では、災害時に日本語が分からないことが理由で適切な避難行動がとれなかった、避難所での情報が理解できず不安になった、という報告が繰り返されています。特に大きな災害(東日本大震災や熊本地震など)の教訓から、“言語的に脆弱な住民”は被害リスクが高いとされています。 (日本心臓病学会)

実際の調査で「情報を理解できない」ことへの不安が示されている

直近の調査でも、災害情報や避難に関して「日本語が分からず困った」とする外国人の声や、不安を示すデータがあることが報じられています(例:主要紙の調査記事)。こうした実態は、対策を先送りにできない現実的な根拠です。 (毎日新聞)

社会的・倫理的観点および国際的期待

多文化社会として「誰一人取り残さない」防災は国や自治体の責務でもあり、実効性のある避難行動を確保するために、多言語対応は必須になりつつあります。専門家やメディアでも、外国人に配慮した災害対応の必要性が繰り返し指摘されています。 (Japan Times)

実際に「英語が分からず困った/被害を受けた」具体例(報告・事例)

実際に「英語が分からず困った/被害を受けた」具体例(報告・事例)

以下は、公開された調査・報道や学術的検討で指摘された代表的な事例です。

2011年 東日本大震災後の調査(言語的困難)

2011年の大震災の後、外国人住民は日本語の情報が中心に出されたために、必要な避難情報や支援情報を得られず混乱した、という指摘が学術研究でされています。現地の情報にアクセスできない、母語での案内がないために誤った判断をした、といった問題点が報告されています。 (SpringerLink)

2016年 熊本地震:外国人向け情報不足の指摘

熊本地震の際、自治体や支援団体が外国人向けの多言語情報や支援体制を急ごしらえで整備したケースがあり、事前準備が不十分だったために「避難マニュアルが外国語で無い」「避難後の情報が届かない」といった不満や困難が調査で明らかになりました。自治体やNPOが後から多言語ページ/手引きを作成した経緯があります。 (Nippon.com)

 最近の調査報道(2024–2025年)

新聞・調査記事でも、外国人住民の中に「災害情報を理解できない」「避難先や手順が分からず不安だった」と回答する割合が高いことが示されています。これらは単なる“言葉の問題”にとどまらず、「避難行動の遅れ」「不適切な避難先選択」「情報格差による被害拡大」に直結し得る点で深刻です。 (毎日新聞)

なぜ「英語だけ」では不十分か — 現場での注意点

母語の多様性

在留外国人は多国籍で、英語が母語でない場合も多い(中国語、ベトナム語、ポルトガル語、ネパール語など)。英語は有効だが万能ではありません。 (Nippon.com)

やさしい日本語(Yasashii Nihongo)の有効性

英語に加え、非ネイティブ向けに“易しい日本語”での表示・放送も効果的とされています。 (Quart

なぜ避難訓練を英語で行うのか

なぜ避難訓練を英語で行うのか

避難訓練を英語で取り入れるメリットは次の通りです。

  • 短く、行動をイメージしやすい表現が多い
  • 毎月の訓練で繰り返すことで、英語を「命を守る行動」と結びつけて覚えられる
  • 多文化・国際理解の視点でも、世界共通の安全表現を学ぶことができる
  • 外国籍児童にも伝わりやすい

特に日本では地震が多いため、英語での安全表現を知っておくことは、園生活の中で自然な学びにもなります。

地震を想定した英語の基本フレーズ

地震の避難訓練では、アメリカでも使われる安全行動「Duck, cover, hold.」が分かりやすく、子どもにも覚えやすい言葉です。

■ 保育士の声かけ例(英語+やさしい日本語)

  • Earthquake! Shake!
    地しんです。ゆれています。
  • Duck!
    しゃがんで。
    (しゃがむ動作を見せる)
  • Cover!
    頭をおおって。
    頭を両手で覆う、または机の下へ。)
  • Get under the table.
    机の下へ。
  • Hold! Hold the table legs.
    握って。

    (机の脚を持たせる)
  • Stay down.
    動かないで。

■職員の行動ポイント

  • 園児全員が「Duck, Cover, Hold」できているか確認
  • 揺れが収まるまでは移動しない
  • 二次避難が必要な場合は、落下物の少ないルートを選択

火災を想定した英語表現

■ 保育士の声かけ例(英語+やさしい日本語)

  • Fire! Fire drill!
    火事です。落ちついて。
  • Line up.
    一列になって。
  • Walk, don’t run.
    走らないで歩いて。
  • Cover your mouth.
    口をふさいで。
  • Follow me.
    ついてきて。
  • This way.
    こっちです。
  • Stop and wait here.
    ここで止まって待ってて。

    (指定の場所で待機)

■ 職員の行動ポイント

  • 出火場所の確認、119番通報(役割分担)
  • 園児の人数確認、後方確認
  • 階段は内側を歩かせ、抱っこ児の安全を最優先。

避難場所での対応

■ 園児への声かけ

  • Stop here.
    ここで止まって
  • Sit down.
    座って。
  • Let’s count.
    人数を数えるよ。
  • Are you okay?
    大丈夫?
  • You did great.
    よくがんばったね。

■ 点呼・確認

  • 人数確認(名簿と目視)
  • けがの有無確認
  • 英語しかわからない保護者や職員には、
    “Everyone is safe.” (みんな無事です)
    など短く報告

子どもたちに英語で伝える前の準備

英語で避難訓練を行う際には、次のような工夫が効果的です。

■ 事前に「英語の意味」を体で理解する練習

  • Duck はしゃがむ
  • Cover は頭を守るポーズ
  • Hold は両手でつかむ動作

ゲーム感覚で取り入れると身につきやすくなります。

■ 絵カードで視覚的に

行動と英語を結びつけるために、しゃがむ、机の下に入るなどの絵カードを使うと効果的です。

■ 繰り返しで自然に覚える

安全のための英語は、歌のように繰り返すことで定着します。毎月の訓練のたびに、同じフレーズを使い続けることがポイントです。

すぐ使える定型表現

園全体で統一すると効果が高い言葉選び。

避難開始の合図

  • “Earthquake! Duck, cover, hold!”
    「地震だ!伏せろ、身を守れ、つかまれ!」
  • “Fire! Line up!”
    「火事です!整列して!」
  • “Evacuate now!”
    「今すぐ避難します」

誘導中

  • “Stay with your group.”
    「グループから離れないで」
  • “Keep walking.”
    「歩き続けて」
  • “Watch your step.”
    「足元に気をつけて」

避難後

  • “Everyone is here.”
    「全員います」
  • “Wait here.”
    「ここで待ちます」

 まとめ

避難訓練は、子どもたちの命を守る大切な時間です。

そこに英語を取り入れることで、分かりやすい指示で安全行動を練習できるだけでなく、世界で使われている安全表現を知る貴重な機会にもなります。

英語での声かけを少し加えるだけで、日常の中に実践的な英語体験が生まれます。ぜひ園での避難訓練に取り入れてみてください。