「英文法はひととおり勉強したのに、いざとなると英語が口から出てこない」。そんな悩みを持つ人は少なくありません。文法のルールはわかっているのに、なぜ英語が話せないのでしょうか。
今回は、累計10万部を突破した『英文法の鬼100則』の著者で、認知言語学にもとづく英語指導で知られる時吉秀弥(ときよし ひでや)先生にお話を伺いました。
この記事の3行まとめ(AI要約)
- 英文法を勉強しても話せないのは、ルール(骨組み)だけを覚えて、実際に使われる例文のインプットが不足しているからで、ルールと例文の両輪で学ぶことが英語脳習得のカギになる。
- 日本語と英語には「ものの見方」の違いがあり、英語は“外から自分を眺める”言語だと理解すると、本当の意味での英語脳が身につくうえ、母語である日本語の仕組みへの気づきにもつながる。
- 話す力はスポーツと同じで訓練が不可欠。「読む→聞く→話す」の順で、まずは例文の暗記から始め、分野を絞って実際に口に出す練習を重ねることが上達の近道になる。
時吉秀弥先生ってどんな人?

時吉先生は、落語家への弟子入りやお笑い芸人、ラジオパーソナリティなどの経験を経て、予備校で20年以上にわたり英語を指導してきました。東京言語研究所で言語学を学び、2010年には理論言語学賞を受賞。現在は株式会社スタディーハッカーのシニアリサーチャーを務めています。
2026年6月には、最新刊『とてつもなくおもしろい英文法の世界』をGakkenから刊行。英語の“モノの見方”を物語を通して学べる一冊として注目を集めています。
そんな時吉先生が「伝えるのが得意」な理由のひとつは、お笑い芸人としての経験にあるといいます。
「言葉を少し変えるだけでウケが変わる。話もABCの順よりACBの順のほうが伝わる。そういうことを毎日舞台で経験してきました」
相手にどう伝わるかを瞬間的に考え、話を組み立てる。その積み重ねが、現在の本づくりにも活きているといいます。ここからは、英語と日本語の「モノの見方」の違いから、英語を話せるようになるための学習法まで、先生に詳しく教えていただきます。
英文法はわかるのに、なぜ英語が話せないの?

文法をルールとしてだけ覚え、「実際にどう使うか」のインプットが不足しているからです。
たとえば第4文型(SVOO)なら、「主語+動詞+間接目的語+直接目的語」という語順のルールが、いわば文法の「骨組み」です。
しかし、英語を母国語として身につけた人は、文法ルールを意識的に学んでから話せるようになったわけではありません。
“I gave him a pen.”
“I sent him a package.”
こうした日常的な文をたくさん聞いて使っていくなかで、最終的に「主語+動詞+間接目的語+直接目的語」という抽象的な形を身につけていきます。ルールに加えて、その土台になる実際の例文に触れることも重要なのです。
ところが、英語学習では、この順番が逆になっているケースがよく見られます。文法という骨組みだけを覚えようとするのではなく、日常のなかで実際に使われるフレーズや例文に触れ、その先にある共通のルールを見つけていく。「肉のついた文法」を学ぶことが大切なのです。
英文法は「ルール」ではなく「意味」
単語や熟語に意味があるのと同じように、英文法も意味を表すものであって単なるルールではない、というのが認知言語学の考え方です。
たとえば、冠詞の a について考えてみましょう。a は「数えられる名詞につく」と説明されることが多いですよね。でも認知言語学では、a には「ひとまとまりのものとして捉えるという意味がある」と考えます。
たとえば chickenという単語で考えてみましょう。一羽の鶏というのは、ひとまとまりの形のある存在です。ですからこれを英語ではa chickenと言います。けれども鶏をさばいて「鶏肉」にすると、「ニワトリ」の形は崩れ、いくら切っても「鶏肉」という「決まった形のないもの」になります。これを英語で表すとa のつかない chicken になります。「数えられる名詞には a をつける」とルールだけを丸暗記するのではなく、「なぜ a がつくのか」を意味から捉える。そうすると、英文法が腑に落ちるようになるわけです。

英語と日本語は、そもそも何が違う?
英語は「引き」で全体を眺め、日本語は「寄り」で見る。英語と日本語は「モノの見方」が違います。
身近な例が、主語の「私」です。日本語で「窓の外に富士山が見えたんだ」と聞くと、話している人が見ている景色がそのまま頭に浮かびますよね。これが日本語独特の「臨場感」のあるものの見え方です。でももし「『私は』窓の外に富士山を見たんだ」と聞くと、富士山を見ている「私」が頭に浮かぶと思います。これが英語の話し方です。英語って I saw Mt. Fuji through the window.のように必ず「I」を言葉にしますから、外から自分を眺めてる「引いた感じ」の画面が頭に浮かぶんです。迷子になった時、日本語では「ここはどこ?」と言いますね?自分の目の前の景色(ここ)だけが言語化されます。けれども英語は Where am I?(私はどこ?)と言います。「外から自分を眺めている」のがわかると思います。
こういった日本語と英語の「ものの見方の違い」まで理解しておくと、本当の意味での「英語脳」を習得できるようになるんです。そして今まで意識しなかった日本語の仕組みも意識できるようになります。外国語を学ぶことを通じて、日本語も学ぶことになっている、という言語学習の面白さも感じてほしいですね。

練習しないとできるようにならないのはスポーツと同じ
話すことは、練習しないと身につかないという点でスポーツと同じです。
文法の勉強と並行して、英語を使う練習を必ず行いましょう。サッカーのルールを知っていて試合観戦を楽しめても、実際にピッチでボールを蹴れるか、というと違いますよね。英語も同じで、ルールを知っていることと、話せること、というのは別ものなんです。何も考えなくても無意識に舌や口が動いていく。それはスポーツと一緒で訓練をしていくことにより、身についていきます。
それでは、やみくもに英会話の機会を増やし、鍛えていけばいいのかというと、そうではありません。話す練習をするときは「何について話すか」を決めて練習していくことが大切です。分野を絞った方が話の展開やよく出る語彙を身につけやすくなります。ビジネスパーソンなら仕事で使う場面に絞ってシミュレーションする。子どもなら興味のある分野を英語で調べ、表現してみる。自分が本当に使う場面から練習することが、上達の近道です。
話せるようになるには、何から始めればいい?

まずは例文を読むこと。読む→聞く→話す、の順で力がつきます。
最初に大事なのはリーディングです。とはいえ、いきなり大量の英文を読むのは大変なので、例文を読むことから始めるのがおすすめです。
例文を暗記していくと、その中にある文法の骨組みが身につき、単語も覚えられ、声に出せば発音も身につく。一つの学習で何役もこなせます。
また、気に入った例文を使って、「この文を含む30秒くらいの会話文を作って」と生成AIに頼めば、より実践的な文脈の中で例文を暗唱できます。日々の「これって英語で何て言うんだろう?」を、その場でAIに2〜3個質問して毎日続ける。これを1ヶ月続ければ、実力はかなり上がります。
中級者には、自分で書いた英文をAIに添削してもらう方法もおすすめです。「30代の日本人で、仕事は〇〇をしています」といったように、自分の設定をプロンプトに組み込んでおくと、自分の立場や状況にふさわしい自然な英語が返ってきます。ぜひ試してみてください。
【応用編】助動詞でわかる「英語の気配り」

英語も日本語に負けないくらい相手に気を使う言語で、それが助動詞によく表れます。
英語ははっきり言う言語だから気配りがない、と誤解されがちですが、そんなことはありません。たとえば「それはダメ」と伝えるとき。
“You must not do that.” は「私がダメと言うんだからダメ」という強い言い方。一方 “You can’t do that.” は「私がではなく、状況的にできない」という柔らかい言い方になります。実際のやり取りでは、後者のほうがよく使われます。
must と have to も同じで、have to のほうが柔らかい。must は「やれと言うからやれ」。have to は「そういう事情だから、やらないとしょうがない」という感覚。have to を使う人は must の5倍以上多いというデータもあります。
助動詞は話し手の心の中を表す言葉。意味を理解して使い分けられると、伝えたいニュアンスまで届く英語になります。
新刊『とてつもなくおもしろい英文法の世界』に込めた想い
「文法にも意味がある」ということが、絵やストーリーを通して、生き生きとしたイメージとして浮かび上がる。そんな絵本のような文法書を作りたいと思っていました。
ただ、普通の絵本にしてしまうと、文法の解説が十分にできません。そこで今回は、楽しさと学びを両立させるため、主人公が「モノの見方が違う世界(=英語脳で見る世界)」に迷い込むという物語仕立てにしました。ストーリーを楽しみながら、英語ならではの「モノの見方」や、文法が持つ意味を自然に理解できる一冊になっています。今回お話ししたような英文法の奥深さや面白さもたくさん詰まっていますので、物語とともに新しい英文法の世界を楽しんでください!
今回お話を伺った時吉先生の書籍
【新刊】『とてつもなくおもしろい英文法の世界』

英語の世界の“モノの見方”を、物語を読みながら学べる一冊。英語が苦手な主人公が、案内役の魔法使いとともに「英語の世界」を冒険しながら文法を学んでいきます。「英語は空から自分を眺める言語?」「3単現の s は歴史のいたずら?」など、目からウロコのトピックが満載。読み終わるころには「英語を使ってみたい」と前向きになれる、爽やかな読後感の文法入門書です。
時吉秀弥 著/みつきさなぎ 絵/Gakken/1,870円(税込)
▶ 詳しくはこちら(学研出版サイト)
【関連書籍】『英語秒速アウトプットトレーニング 話すための英文法が身につく』

「認知言語学の解説×反復トレーニング」で、英文を瞬時に組み立てる力を養う一冊。今回のインタビューでも触れられた「例文から学ぶ」アプローチを、実際のトレーニングとして体験できます。話すための英文法を身につけたい人におすすめです。
時吉秀弥 著/Gakken/1,980円(税込)
▶ 詳しくはこちら(学研出版サイト)
「話す訓練」は、オンライン英会話で
今回のお話にもあったように、英語を話せるようになるには、知識を“運動”に変える訓練が欠かせません。Kimini英会話なら、自分のペースで毎日、話す練習を積み重ねられます。まずは無料体験から、「話せる」への一歩を踏み出してみませんか。
よくある質問(FAQ)
英文法を勉強しても英語が話せないのはなぜですか?
文法をルール(骨組み)としてだけ覚え、実際に使われる例文(肉のついた文法)を後回しにしているためです。例文を通して学んでいくと、話す力につながります。
英語が話せるようになるには何から始めればいいですか?
まずは例文を覚えることをおすすめします。例文を通して、単語や発音、文法ルールを覚えていくと、その積み重ねで話せるフレーズも増えていきますよ。
独学でも英語は話せるようになりますか?
例文暗記やAIの活用で知識は増やせますが、実際に口に出して話す訓練の場も必要です。オンライン英会話なども練習の場として良い手段ですね。
