わたしたちの住む日本には、月ごとにさまざまな行事があります。古くから伝わる伝統行事もあれば、近年になってアメリカやヨーロッパの影響で始まった行事も多くなりました。
この記事では、11月にアメリカ・ヨーロッパ諸国で行われる、代表的な行事について紹介します。冬の気配が濃くなる欧米諸国の晩秋には、どのような行事があるのでしょうか。行事を通じて、アメリカやヨーロッパの人びとがどのように過ごしているのか、ちょっとのぞいてみましょう。
英語で会話するときに話題にしやすいように、鍵になる単語には英語を併記しています。
11月1日・2日 諸聖人の日・死者の日(キリスト教文化圏)
キリスト教(Christianity)のうちカトリック教会(Catholic Church)では、11月1日は「諸聖人の日」(All Saints’ Day)で、すべての聖人と殉職者を記念する祝日として定められています。日本語では、「万聖節」とよばれることもあります。
カトリック教会とは
キリスト教にはさまざまなグループがあります。このうち、ローマ・カトリック教会(Roman Catholic Church)とギリシア東方正教会(Eastern Orthodox Church)の教義に基づくグループを「カトリック」といいます。
ローマ教皇を最高首長とするカトリック教会の宗教的思想的立場。キリストの神性を絶対的なものと認め、信仰の起点とする。カトリック主義。―「カトリシズム」(精選版 日本国語大辞典)
ヨーロッパでは、フランス、イタリア、スペインなどがカトリック教徒の多い国として知られています。
11月2日「死者の日」
カトリック教会では、「諸聖人の日」の翌日の11月2日を、すべての霊に祈りを捧げる「死者の日」(All Souls’ Day)としています。
カトリック教会の教えでは、生きている間に背負った罪がある魂は、煉獄で苦しみを受けて罪を清めなければ天国に行けないと考えられています。しかし、生きている人間の祈りとミサが、死者の煉獄での苦しみを短くすることができるとされています。
そして、罪のある魂も含めてすべての魂の、煉獄での苦しみの時間を短くするために祈る日が、「死者の日」なのです。
「死者の日」には、家族全員でお墓にお参りに行きます。日本語では「万霊節」ともよばれることがありますが、キリスト教文化における「お盆」と考えてもよいかもしれませんね。
カトリック教会以外のプロテスタント教会や聖公会でも「死者の日」に礼拝を捧げる習慣があります。
「ハロウィン」の起源
ちなみに、カトリック教会では「諸聖人の日」の前日10月31日を” Hallow Eve”とよび、古くから精霊たちを祭る夜としていました。後にアメリカに移民したヨーロッパ出身の人びとが、このHallow Eveの風習をアメリカに持ち込んだことから、現在の「ハロウィン」(Halloween)の起源になりました。
11月11日 退役軍人の日(アメリカ)
アメリカ合衆国では、11月11日を「退役軍人の日」を祝日としています。英語では「ベテランズ・デー」(Veterans Day)とよばれます。もともとは、第一次世界大戦中の1918年11月11日にドイツが降伏し、休戦条約に調印した日を記念したものです。
第一次世界大戦は翌年、1919年にフランスで開かれたパリ講和会議で、ベルサイユ条約が結ばれたことにより正式に終結しました。
イギリス連邦諸国では、「戦没者追悼の日」(Remembrance Day)として、毎年この日にさまざまな追悼行事が行われていて、「第一次世界大戦終結記念日」(フランス、ベルギー)なども同様の理由で祝日に定められています。
アメリカ合衆国では祝日ですが、後述のサンクス・ギビングなどが近いため、休みを取らない企業や学校も多くなっています。
「ベテラン」の日米での違い
「ベテラン」は、日本語では「経験を積んで、熟達しているひと」という意味でよく使われます。しかし、アメリカ英語では主に退役軍人に対して使われます。
veteran (名詞) 《主に米国で》 復員軍人,退役軍人,在郷軍人
日本語の意味合いの「ベテラン」は、expert(名詞)のほうがよりふさわしいでしょう。
11月第三木曜日 ボジョレー・ヌーヴォ解禁(フランスから全世界)
「ボジョレー・ヌーヴォ」(フランス語: Beaujolais nouveau)は、ワインの産地として世界的に有名なフランスが誇る、ボジョレー地方のワインです。「ヌーヴォ」は「新しい」という意味で、新酒のことです。
フランスのワイン
ぶどうの栽培面積ではスペインに、そしてワインの生産量ではイタリアに首位を譲るものの、フランスは、その伝統とワインの品質の高さで知られるワインの名産地です。
ワインはほぼフランス全土で生産されていますが、南西部のボルドー(ヌーヴェル=アキテーヌ地域圏)と、東部のブルゴーニュ(ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域圏)の2つが特に有名です。
この二大産地のほかにも、北東部のシャンパーニュ(グラン・テスト地域圏)で生産される発泡性のワイン「シャンパン」や、ドイツ国境に近いアルザス地方のワインなど、地域ごとに特色をもつワインがあります。
ボジョレー・ヌーヴォの解禁日
「ボジョレー・ヌーヴォ」の解禁日は、毎年11月の第三木曜日と定められています。解禁日が制定されたのは、人気があるボジョレー・ヌーヴォを早く出荷しようとして、ワインの品質が低下するのを防ぐためです。
解禁日はもともと11月15日と定められていました。しかし、この日が土日の場合、ヨーロッパのマーケットが休みになってしまうことから、後に第三木曜日に変更されました。
毎年ボジョレー・ヌーヴォ解禁日には、その年のボジョレーの味や特徴の紹介とともにワイン新酒が解禁されます。
11月第三週末 栄光の三日間(フランス)
「栄光の三日間」は、毎年11月の第三週末に開かれる、フランス、ブルゴーニュ地方最大のワインのお祭りです。2024年は11月15日(金)~11月17日(日)の三日間に開催されました。
「ブルゴーニュ・ワインの首都」ボーヌ
ブルゴーニュ地方にある都市ボーヌは、「ブルゴーニュ・ワインの首都」とよばれています。先述の通り、ブルゴーニュ地方は、前項のボルドー地方と並ぶ、フランス・ワインの有名産地です。
冷涼で、昼夜の寒暖差の大きいボーヌの気候はワイン用のぶどうづくりに適していて、ブルゴーニュ・ワインをつくるのに欠かせないぶどう畑が広がっています。
ボーヌには至るところにワイン・ショップがあり、ワイン博物館「シャトー・クロ・ド・ヴージョ」ではブルゴーニュ・ワインの歴史を知り、造詣を深めることもできます。
「栄光の三日間」の主な行事
「栄光の三日間」(フランス語:Les Trois Glorieuses de Beaune) は、字義通りには”Trois”が「3つの」、”Glorieuses”が「イベント」で「ボーヌでの3つのイベント」という意味になります。
「栄光の三日間」には、ブルゴーニュ・ワインの新酒が解禁され、ボーヌを中心にワインを思い切り楽しめるイベントやお祭りが各地で開かれます。
「3つのイベント」は、以下の3つの行事を指します。
「利き酒騎士団」の任命と晩餐(さん)会
お祭りは、「ブルゴーニュ利き酒騎士団」の任命式と、晩餐会で開幕します。
「ブルゴーニュ利き酒騎士団」はブルゴーニュのワイン文化を守るために設立された団体で、クロ・ド・ヴージョ城で任命式が行われ、ブルゴーニュ伝統のワインと料理による晩餐会が続きます。
ワインオークション
ボーヌの施療院であるワイナリー、オスピス・ド・ボーヌ(Hospices de Beaune)でワインの競売会が行われます。ワインの買いつけのために世界各国から商人が集まり、その年のブルゴーニュ・ワインの値段を決めます。競売会はチャリティーで、収益金は寄付に当てられます。
ムルソー村の収穫祭
最終日には、ボーヌ南のムルソー村で、ワインの収穫を祝う大昼食会が行われます。ワイン生産者たちが、収穫に携わった人びとをねぎらう趣旨の催しでしたが、今ではワインの輸入業者や評論家なども招かれて、盛大に行われるようになりました。文学賞の授賞によってお祭りが閉幕します。
「栄光の三日間」は、ワインの試飲会が行われたり、ブルゴーニュ地方の郷土料理が楽しめる屋台が町なかに現れ、毎年大盛況のお祭りになっています。
11月第四木曜 サンクスギビング(アメリカ)
「サンクスギビング」(Thanksgiving Day)とは、アメリカとカナダで行われる感謝祭です。カナダでは10月第二月曜日に、アメリカでは11月第四木曜日に行われます。
サンクスギビングの始まりは、17世紀にイギリスからアメリカに渡った清教徒(Puritan)の移民「ピルグリム・ファーザーズ」(Pilgrim Fathers)にさかのぼります。
メイフラワー号に乗ってプリマス(現在のマサチューセッツ州)に到着した移民たちは、イギリスから持ち込んだ作物がうまく育たず、困窮しました。
この地に住んでいたアメリカ先住民のワンパノアグ族のなかには、英語がわかるひとがいて、移民たちに食べ物を分け与え、とうもろこしの栽培を教えました。
収穫ができるようになると、移民たちは神の恵みに感謝し、助けてくれた先住民を招いて、ごちそうを振る舞いました。このお祝いが、現在の感謝祭の起源とされています。
清教徒がアメリカに渡った背景
「ピルグリム・ファーザーズ」たち清教徒は、キリスト教の改革派プロテスタントの一派です。
16世紀になると、ローマ・カトリック教会に対して宗教改革を求める運動がヨーロッパで起こります。これらの改革派は「抗議するひと」を意味するプロテスタント(Protestant)とよばれるようになりました。
イングランド王国(現在のイギリス)では、ヘンリー8世の離婚問題を機にローマ・カトリックを離脱して、イングランド国教会(Church of England)が設立され、エリザベス1世が継承します。
さらなる改革を求める清教徒は、国王を頂点とするイギリス国教会と対立したことから弾圧され、2万人を超える人びとが信仰の自由を求めて新大陸アメリカに渡りました。
現在の「サンクスギビング」
感謝祭は、もともと神の恵みを感謝する行事としてスタートしましたが、現在のサンクスギビングは国民の祝日であり、たくさんの親族や友人が集まって大規模な食事会を楽しむ行事となっています。
メインディッシュとして、大きな七面鳥の丸焼きが振舞われることから、”Turkey Day”(七面鳥の日)ともよばれています。
また、第四木曜日である「サンクスギビング」の翌日の第四金曜日は「ブラック・フライデー」( Black Friday)に当たります。
アメリカの「ブラック・フライデー」は、感謝祭の祝日と、土曜日・日曜日との谷間で、多くの企業が休みになります。
また、キリスト教最大の行事である12月25日のクリスマスまで、あと1か月という時期に当たるため、アメリカではサンクス・ギビング前後から安売りセールを始めるなど、クリスマス商戦をスタートさせるデパートが多くなっています。
アメリカのサンクスギビングには、建国以前にさかのぼる歴史があります。次の記事では、サンクスギビングの歴史や、サンクスギビングの日の過ごし方などを詳しく紹介しています。
11月下旬~ クリスマスマーケット(欧州各国、発祥はドイツ)
キリスト教文化圏では、クリスマス(キリスト降誕祭)、イースター(復活祭)、ペンテコステ(聖霊降臨祭)の3つを「三大行事」として位置づけています。11月下旬からクリスマスまでの期間をアドベント(Advent)とよび、「待降節」(イエス・キリストの降誕を待ち望む期間)とされています。
ドイツやオーストリア、フランスなどのヨーロッパの国ぐにでは、1月下旬のアドベント初日からクリスマス当日までのあいだ、この期間限定で「クリスマス・マーケット」が屋外で開催されます。
クリスマス・マーケットは、市場や広場の中心に仮設のクリスマスタワーを飾り、色とりどりにライトアップします。その周りを囲むように、温かい飲み物や郷土料理が楽しめる屋台が並び、マーケットによっては、観覧車やメリーゴーランドが設置されることもあります。クリスマスにちなんだリースやオーナメント、ろうそくなどが販売されて、冬の風物詩になっています。
クリスマス・マーケットは、ドイツが発祥とされています。ドイツでは、「ヴァイナハツ・マルクト」(Weihnachtsmarkt)とよばれていて、ドイツ語で「クリスマスの」(Weihnachts)「マーケット」(markt)という意味になります。
今では、ドイツだけでなく欧州各国、そして世界中にも広がり、日本はキリスト教の文化圏ではありませんが、11月下旬ごろからクリスマス・マーケットを開催する広場も増えてきました。
11月30日 セント・アンドリューズ・デー(スコットランド)
セント・アンドリューズ(St. Andrew)はキリスト教の聖人です。日本では、『新約聖書』に出てくる十二使徒のひとり、「聖アンデレ」としてのほうが知られているかもしれません。
イギリスのスコットランド地方には、このセント・アンドリューズを守護聖人としていて、11月30日にはお祭りをする習慣があります。スコットランドでは、年越し祭りの「ホグマニー」(Hogmanay)とともに冬を象徴する祭りとして数えられていて、音楽や舞踊などスコットランドの伝統的な文化を楽しむ日になっています。
聖アンデレ十字(アンデレ・クロス)
セント・アンドリューズ(聖アンデレ)はギリシャで布教するうちにローマ総督の怒りに触れ、処刑されます。十字架にかけられることになった際、「師であるイエス様と同じ十字架では畏れ多い」と申し出て、斜めに傾けたX型の十字架にかけられたと伝えられています。
このX型の十字は、「聖アンデレ十字」(Saint Andrew’s Cross)は「アンデレ・クロス」とよばれ、スコットランドの籏にも使われているほか、スコットランド系の移民が多いカナダのノバスコシア州の籏にも用いられています。
まとめ
いかがでしたか? 11月は、アメリカやヨーロッパではこれから冬に向かう時期です。この時期には、新物のワインや収穫に関する行事、そして1か月後に迫っているクリスマスに関連した行事が多いことがわかりました。
今では、クリスマス・マーケットのように日本でも参加できるイベントもたくさんあります。ぜひ11月の行事を楽しんでみましょう。
世界の12月の行事については、こちらの記事をご覧ください。