オリンピック競技のひとつに「射撃」があります。日本では銃の規制が厳しいために競技人口が少ないとはいえ、オリンピックでは第1回のアテネ大会から採用されている、伝統的なスポーツです。この記事では、日本であまり知られていない射撃競技の概要を説明しつつ、関連する用語を英語で何と言うかや、英会話で使える例文を紹介します。
オリンピック競技の「射撃」とは
オリンピック競技のひとつである射撃は、英語で”shooting”と言います。「撃つ」という意味の動詞”shoot”に、接尾辞の”-ing”がついて名詞化したものです。スポーツ射撃では、銃で的(target)を狙い、どれだけ正確に撃てるかを競います。大きく分けると、「ライフル射撃」と「クレー射撃」の2種類です。
ライフル射撃
ライフル射撃(rifle and pistol)は、固定された的を撃つ種目です。ライフル銃(rifle)、空気銃(air rifle)、ピストル(pistol)のいずれかを使用します。着弾点が的の中心に近いほど得点が高いのが特徴です。この種目で使われるライフル銃には、銃身の内側にらせん状の溝(旋条)が彫ってあります。弾丸はこの溝に沿って進むため、回転運動をすることになり、命中精度と貫通力が高まる仕組みです。”rifle”という動詞には、「旋条をつける」という意味があります。また、空気銃とは、火薬を使わず圧縮空気で弾丸を発射するライフル銃です。
一方、ピストルとは日本語で「拳銃」とも呼ばれる、片手で持てるサイズの銃です。砲身が短いため、飛距離はライフルより短くなります。”pistol”という英単語は中世フランス語に由来するとされ、元の意味には諸説があります。
クレー射撃
クレー射撃(clay shooting)は、時速80km以上で空中に発射される円盤「クレー(clay)」を狙って撃つ種目です。命中したクレーが多いほど、高得点になります。ライフル射撃と異なり、標的が急に現れるため、反射神経が要求されるのが特徴です。クレーは、選手が声で合図をしたあとに射出されます。どのような声でもOKですが、日本語では「はい」、英語では”pull”が多いようです。
クレー射撃では、散弾銃(shotgun)を使います。ライフル銃と異なり銃身に旋条がないため、弾丸がまっすぐ飛ばないのが特徴です。散弾銃からは複数の小さい弾丸が放射状に射出され、素早く移動する鳥や小動物に有効だとされています。的となるクレーは、石灰で作られた焼き物です。「clay」には、もともと「粘土」や「泥」の意味があります。
ちなみに日本のスポーツ射撃は、的が動くか動かないかを基準に「ライフル射撃」「クレー射撃」と分類されるのが一般的ですが、英語圏では使用する銃を基準に “rifle”, “pistol”, “shotgun”に分けられます。「3 disciplines(3つの部門)」と表現されるのが一般的です。
訳)日本におけるスポーツ射撃の分類と、欧米におけるスポーツ射撃の分類は違います。
訳)日本におけるスポーツ射撃は、一般的に「ライフル射撃」「クレー射撃」と分類されますが、欧米におけるスポーツ射撃は、「ライフル」、「ピストル」、「ショットガン」に分類されます。
オリンピック競技「射撃」の種目を英語で言うと?
オリンピックの射撃には、銃の種類や的との距離、クレーの出方などの違いにより、様々な種目があります。以下は代表的なものです。
50mライフル3姿勢
「50mライフル3姿勢(50m rifle 3 positions)」は、3種類の姿勢で40発ずつ、50m離れた的に向けてライフル銃で計120発を撃つ種目です。競技時間が3時間にも及ぶため、「ライフルのマラソン」と呼ばれています。3つの姿勢とは、以下のとおりです。
膝射(kneeling):片膝を立て、膝にヒジを載せて構える
伏射(prone):腹ばいで構える
立射(standing):立ったまま構える
“kneeling”という英単語には、膝を意味する”knee”が含まれています。これが”kneel”になると、「ひざまずく」という動詞です。つまり”kneeling”とは、ひざまずいて撃つことを指します。”prone”は「うつぶせ」を意味する形容詞です。「うつぶせになる」を一語で表せる動詞はありません。そして、「立つ」を意味する動詞”stand”が変化したのが”standing”です。
訳)3つのポジションで行われる国際的なライフル射撃競技は、膝射、伏射、立射のポジションから同数の射撃が行われます。
訳)50mライフル3ポジションでは、膝射、伏射、立射のポジションで、合計105発を撃ちます。
25mラピッドファイアピストル
「25mラピッドファイアピストル(25m rapid fire pistol)」は、25m離れた的に向け、立射の姿勢でピストルで計60発撃つ種目です。以下のように短い時間内で連射するため、ラピッド(素早い)ファイア(発射)と呼ばれます。
8秒射:8秒で5発×2セット
6秒射:6秒で5発×2セット
4秒射:4秒で5発×2セット
最終的には、1発撃つのに1秒もかけられないのです。”shoot”も”fire”も「発射する」を意味する動詞ですが、”fire”には勢いが激しいニュアンスがあります。
トラップ
クレー射撃のうち「トラップ(trap)」では、15m離れた地点からクレーが射出されます。クレーが飛んでいく向きは、右・左・真ん中のうちランダムなので、選手はクレーの方向を瞬時に見極めて撃つ必要があります。選手が撃つ位置を「射台(shooting station)」と言いますが、トラップ射撃では5箇所の射台を次々に移動していくのも特徴です。そのため、どのような角度からでも的を正確に撃つ能力が試されます。クレーは全部で25枚あり、1枚のクレーに対し2回まで撃つことが可能です。
ちなみに、クレー射撃は「鳥撃ち(pigeon shooting)」を原型としたスポーツです。そのため、トラップ射撃ではクレーが選手から遠ざかるように飛び、しかも方向がランダムなのです。生きた鳥を射撃の的にしていた頃は、鳥を罠(trap)のような箱に閉じ込め、合図と同時にフタを開け放っていました。現在でも、クレーは”clay pigeon”と呼ばれることがあります。
スキート
クレー射撃のうち「スキート(skeet)」は、クレーが左右から射出される種目です。射台が8箇所もあるため、トラップ射撃よりさらに難度が高くなります。射出されるクレーは1枚だけの場合も、2枚同時の場合もあり、1枚につき撃てるのは1回だけです(計25枚)。ちなみに、”skeet”という単語は、古いスカンジナビア語で「撃つ」を意味する “skyte”が語源だとされています。
訳)クレー射撃でトラップとスキートの違いは分かりますか?
訳)スキートはクレーが左右から射出される競技で、トラップよりずっと難しいです。
訳)そうね。スキートでは、射出されるクレーは1枚だけの時もあれば、2枚同時に射出されることもあり、1枚につき1回だけ撃てます。
オリンピック競技「射撃」について英語で話してみよう
オリンピック競技の射撃について、概要や用語を説明してきました。次は、射撃に関する英語の例文を紹介します。
「射撃の試合はいつあるの?」
射撃の試合日程を確認したい場合、以下のように言うことができます。
When will the shooting competitions take place?
訳)射撃の試合はいつあるの?
“competitions”の代わりに”events”でもOKです。種目を指定したい場合、「3姿勢」などライフルを使う種目なら”the rifle competitions”、クレー射撃なら “the shotgun competitions”となります。なお、”take place”は「行事が行われる」という意味です。未来の予定を指しているため、未来を表す助動詞 “will”を使っています。
「オリンピックの射撃に興味ある?」
射撃を話題にする場合、まず以下のように言うと話を始めやすくなります。
Are you interested in Olympic shooting?
訳)オリンピックの射撃に興味ある?
オリンピックの大会全体を指すときは”Olympics”という名詞を使いますが、「オリンピックの」という形容詞は”Olympic”です。”shooting”の部分を変えれば、ほかの競技についても尋ねることができます。
「射撃選手の名前、知ってる?」
会話の相手がオリンピックに詳しいなら、次のように聞いてみましょう。
Do you know the names of Olympic shooters?
訳)射撃選手の名前、知ってる?
“shooter”とは「shoot(撃つ)」という動詞に接尾辞の “-er”をつけたもので、直訳すると「撃つ人」を意味します。この場合は、オリンピックで”shooting”を行う人、つまり「射撃選手」です。選手を意味する言葉には、ほかに”athlete”, “Olympian”, “competitor”などがあります。選手以外を指す場合は、「coach(コーチ)」や「manager(監督)」などです。
2024パリオリンピック 射撃
2024年パリオリンピックの射撃競技は、2024年7月27日から8月5日までシャトールーにあるフランス国立射撃場で実施されました。
パリオリンピックで、トルコのオリンピック射撃選手が話題になったのをご存知でしょうか?
射撃の混合エアピストルに出場し、銀メダルを獲得したトルコのユスフ・ディケチュ(51)が、SNSで大きな話題になりました。
USA Today が次のような見出しでそのニュースを報じました。
Turkey Olympics shooter goes viral for silver medal with limited gear: Social media reacts
トルコのオリンピック射撃選手、限られた装備で銀メダル獲得が話題に:ソーシャルメディアの反応
go viral: インターネットで急速に拡散する。バズる。
なぜ彼が話題になったかというと、オリンピック射撃選手は、一般的に射撃用の耳栓や特殊保眼鏡などを着用して競技に臨みます。ところが、トルコのユスフ・ディケチュ選手は、無装備のTシャツ姿で登場し、すんなり銀メダルを獲得しました。それがとても印象的で、SNS上で大盛り上がりしました。
ユスフ・ディケチュ選手はトルコの元軍人で、競技用のゴーグルも身に付けず、”Turkey”という文字が入ったTシャツを着用し、左手をポケットに入れていました。彼は4年後のロサンゼルスオリンピックにも再出場するかもしれませんね。
訳)トルコのオリンピック射撃選手、とてもカッコ良かったね。銀メダルを取ったよ。
訳)うん。カッコ良かった。2028年のロサンゼルスオリンピックでまた彼を見たいよ。
オリンピックの「射撃」を通じて英語に親しもう
いかがでしたでしょうか。
日本では競技人口の少ない射撃ですが、アメリカをはじめとする諸外国では人気のスポーツです。
この記事で説明した競技の概要や、英語の単語・言い回しを踏まえた上で、海外メディアでの中継やニュース速報をチェックしてみると、射撃の面白さや海外の雰囲気を身近に感じられるでしょう。2024パリオリンピックでも、トルコの射撃選手がSNSで大きな話題になりました。オリンピックを機に、ぜひ射撃について調べてみてください。