英語を使いつつ、様々な業種・職種で働く方を紹介するコーナー、今回はアメリカの「図書館の司書」についてです。

アメリカのとある市立図書館で、司書のアシスタントとして働いた日本人の体験レポートをご紹介します。

図書館司書のアシスタントについて

私はアリゾナ州フェニックス郊外にある市立図書館で、図書館司書のアシスタントの仕事に就きました。

日本での図書館司書は、図書館司書の資格は必須ではなく資格を取得していなくても勤務することが可能となっていますが、アメリカで図書館司書を目指す場合、大学の図書館情報学の修士(Master’s degree in Library Sciences)を終了して司書資格を取得していることが最低条件となっています。

司書アシスタントは勿論司書の下で働く仕事ですが、私の働いている図書館ではアシスタントのレベルが3段階に分かれていて、わたしの今のキャリアレベルは3段階の一番下のレベルです。主な仕事としては、返却された本の整理、再配置、古くなった本の修繕、イベントの企画や実施、展示コーナーなどの設置や作成など、肉体労働が殆どです。

時間給で働くので、基本的に残業はありません。しかし、他のアシスタントが病欠や何かの都合で与えられた時間に仕事が出来ない場合、その時間を貰って働くことが出来ます。

司書アシスタントを目指した理由と採用までの経緯

なりたかった2つの理由

まず一つ目の理由は、図書館のような落ち着いた雰囲気の環境の中で働きたいとずっと思っていたからです。こどもの頃から本が好きで、地域や学校の図書館をよく利用していました。アメリカの大学で勉強していた時もレポートを作成する度に、図書館にはよくお世話になっていました。職員の方々も、とても良い人達ばかりで、いつかキッカケがあれば図書館で働きたいと常々思っていました。

二つ目の理由は、もともとアリゾナ州グランデール(市)の個人企業に経理職で勤めていましたが、人の入れ替わりも激しく社員が変わる度に、段々と仕事量が増えていき、自分がその会社の社員というよりも機械の一部か何かのように使われている感じがして、その会社での仕事にやりがいを見出せなくなってきて転職を考えていたからです。でも、もしまたどこかの個人企業に勤めたとしても、数年後にはきっとまた同じ結果になるだろうと思い、行政管轄の公務員の仕事を探すことにしました。

まずはボランティアからスタート

日本でもそうだとは思いますが、公務員の仕事はアメリカではとても人気のある職業です。市役所で働いているというのはステータスの一つにもなります。アリゾナ州の首都フェニックスの周りには40以上の市があって、私の通勤範囲にも五つ市役所があります。その中でも私が応募したこの市役所は自宅から車で10分程度の距離で、図書館、警察署、消防署なども併設されているため、治安も良く働く環境としては非常に魅力的だったので、私の中で働きたい市役所の第一候補でした。

しかしながら良い条件の仕事はやはり人気も高く、市役所のホームページを毎日チェックして応募可能な仕事の募集が出る度に履歴書を送りましたが、1度も面接に呼ばれることはありませんでした。なお、司書アシスタントの資格は、高卒以上で誰でも応募できるレベルです。

アメリカは自由の国と言われ、いろいろな人種がいて、カラフルなサラダボールのようだとも言われますが、人種差別問題は根強く残っています。同じアメリカ人でも、肌の色の違いで就職率が全く違います。この市立図書館もほとんどの職員が白人で、黒人も黄色人種もあまり見当たりません。しかし明白な人種差別を防止する為、アメリカの企業は公民共にある程度の比率で有色人種を雇用しなければならないと法律にも定められています。ですから採用の希望は捨てませんでした。

履歴書を送り続けて1年程経ったある日、図書館で本を読んでいると、返却された本を棚に戻している職員の方を見つけました。日本に住んでいたらきっとこんなことはしなかったと思いますが、私はその職員の方を呼び止め、もう何回も図書館職員の募集に挑戦しているが、まだ1度も面接にすら呼ばれていないということを話し、どうしたら就職できるか聞いてみました。

その職員の方はとても親切で、もし本当に就職したいのなら、まずはボランティアから始めるといいと教えてくれました。早速ボランティアになるための申請をしました。アメリカはボランティア活動がとても盛んな国で、ボランティア登録をしてから活動を始めるまで3カ月かかりました。

その後、同図書館でボランティア活動を1年ほど続け職員の方々とも懇意になり、職員の募集が出た際応募しました。就職活動を始めてからかれこれ2年経っていましたが、晴れて就職することができました。

図書館と司書の仕事内容

私の勤めている市立図書館の職員数はボランティアを含めると200〜300人くらいだと思います。

図書館の組織は、チーム型の組織形態を取っていて、図書館司書一人に対し数人のアシスタントで1グループの組織の形を取ります。上下関係が少なくて横の繋がりも強く、一般のスタッフの意見や考えなどが図書館経営に直接反映されやすいようになっています。

司書は司書の専門とされる業務を担当し、アシスタントスタッフはそれ以外の貸出カウンター業務、相互貸借リクエスト処理等の業務を担当します。図書館司書以外の殆どのアシスタント職員は、時間給で働いています。上のレベルのアシスタントは肉体労働が少なく、時間給が高く、健康保険や有給などの福利厚生も個人が希望の場合付与されています。

私の仕事は返却された本の整理、再配置、古くなった本の修繕などがほとんどです。難しい仕事ではありませんが、役所の仕事としては重労働に入るので、役所の規定で週3日、1日4時間ほどの労働時間です。

1日のスケジュール

ほとんどの職員はシフト制で働いていて、私のシフトは火曜日と木曜日が夕方4時から閉館の8時まで、土曜日が朝10時から午後2時まで働いています。日々の業務は大体毎日同じです。

火曜日・木曜日

16:00 出勤、メールチェック、

16:30    返却された本やCD、DVDなどを館外ドロップボックスから回収、整理

17:00 返却された本の再配置、本棚の整理整頓

18:00    休み時間

18:30    返却された本の再配置、本棚の整理整頓の続き

19:00    古くなった本の修繕、入れ替え

20:00   退社

土曜日

10:00 出勤、メールチェック、

10:30    返却された本やCD、DVDなどを館外ドロップボックスから回収、整理

11:00 返却された本の再配置、本棚の整理整頓

12:00    休み時間

12:30    返却された本の再配置、本棚の整理整頓の続き

13:00    古くなった本の修繕、入れ替え

14:00   退社

その他の仕事として、季節毎のイベントの企画や実施、展示コーナーなどの設置や作成などがあります。季節ごとのイベントで一番大きな物はクリスマスで、去年は天井まで届く大きなモミの木にクリスマスオーナメントの飾り付けをする仕事を手伝いました。ごく稀に他のスタッフがお休みで人手が必要な場合、シフトを追加してもらい、その分の時間給が給料に反映する場合があります。しかし基本時間給で働いている為、残業は全くなく毎日定時で帰れます。

収入やキャリアデザイン・働き方

私の就職した図書館の司書アシスタントのレベルは3段階で一番下のレベルです。

初任給は時給1200円、医療保険やその他の福利厚生は全く付いていません。

公務員と一般企業の募集は全く違います。一般企業の求人募集要項を見ると、必ずと言って良いほど年収は明示されていませんし、もちろん業種にも寄りますが、学歴と経験は同等程度に扱われます。ですから一般企業で働く場合、学歴がなくても経験があればそれなりの給料が手に入ります。その代わり給料が増える分、仕事の内容は歳を重ねる毎に厳しくなっていきます。

公務員の場合は学歴、給料、仕事内容が求人募集要項に明記されていて、一切変更はありません。司書アシスタントも、一番低いのが高卒でカスタマーサービスの経験が1年以上、その上の2つは大卒でカスタマーサービスの経験が2年以上ある人となっていて、この条件が満たされない場合、応募の資格すらありません。

アメリカの一般企業では人材のターンオーバーがとても激しですが、公務員は一度公務員になると一般企業に転職する人はほとんど希です。公務員の募集は一般公募の他に社内公募の枠があり、一般公募では募集しない優良なポジションが社内だけで募集されたりします。

公務員社内公募のネットワークはアメリカ全土が対象になっていて、例えば職員Aが違う州などに引越しで同じ役所内で勤められない場合や、職員Bが新しい資格を取って社内でキャリアアップを図った場合、AやBが新しい部署に転勤したあと、空きが出たAとBの部署に新たに職員Cが希望して、応募条件に職員Cの学歴や経験などが合えば転職することができるのです。

以前の私の仕事は、フルタイムで福利厚生も完備されていましたが、一般企業なのでキャリアデザインとしては雇用条件の良い他の会社に転職する以外に方法がありませんでした。転職の度に履歴書を何十枚も出して、面接を受けて、またどこかの会社に再就職をするのは非常にストレスが溜まります。

今回の仕事は公務員職ではありますが、給料もその他の待遇も格段に前職よりも下がります。しかし、公務員職はキャリアデザインをするのにとても有利です。古き良き日本の終身雇用制度のようなシステムなので、自分のスキルと条件さえ合えば、どの課のどの部署の応募にも参加することができるので、転職時のストレスも解雇のストレスもなく、いくらでもキャリアデザインができます。

一時期は給与も待遇も下がりますが、長い目で見ればこれも一つの働き方ではないかと思います。

アメリカにおける公務員のメリットとデメリット

公務員の仕事は以前から市役所のホームページで公開されていましたが、昨今一般公募されるポジションはとても低いレベルのものが多く、その反面応募人数が異常に多いという状況です。ものによっては倍率が100倍以上になる事もままあり、民間からの直接採用は非常に難しくなったと思います。

もし本当に公務員の仕事に就きたい場合、採用の基準が人間性重視に変わってきたため、まず初めに必要なことは自分がどのような人間なのか見てもらうことだと思います。ですので、初めはボランティアで働き出す人が多いのだと思います。しかし一度採用されてしまえば、キャリアデザインの可能性は無限大なので、自分の能力次第で高い地位の役職にもつける可能性が有ります。

デメリットとしては、一度就職したポジションで最低1年勤めなければ他の部署への転職はできないことです。目指すポジションに辿りつくまでに最低3年かかるのなら、それまでの生活に必要な蓄えが必要であるということになるのです。

これは私個人の見解ですが、公務員で職員採用権のある役職についている人は、自分よりも人のことを考えることのできる人を優先採用していると思います。その点で言えば、他の人の気持ちを推し量ることのできる日本人は、アメリカの公務員職に向いているのではと思います。

英語の習得について

学生ビザを取って語学留学で英語を学びました。

大学付属のESLから2年制大学に編入をして2年制大学卒業後、一般企業で働きながら、オンラインで4年制大学の学位を取得しました。

まとめ

英語圏で仕事を探す場合 日本人を好んで雇ってくれるアメリカの企業はまだまだ少ないのが現状です。でも、それは日本人が嫌われている為ではありません。外国で就職しようと思っているなら、自分のダメな部分ではなくて、優れた部分をたくさん探しましょう。

昨今のアメリカでは採用基準に人間性が強く求められてきています。もともと日本人は他人を思いやることを常として来ました。この他人を思いやりみんなで一つの目標を達成するという日本で当たり前の行動が、アメリカ人にはとても難しくほとんどの人が出来ません。その点でいけば、日本人の資質は理想的な採用候補者以外の何物でもありません。

しかし、その素晴らしい私達の値打ちは声に出さなければ誰にも気付かれません

私にはこんな素晴らし能力がありますと声を大にして言えるようになりましょう。ガンバレ日本人!