大学を卒業して2度目に就いたのが、特許事務という仕事でした。私が勤務した特許事務所は、国際部と国内部に分かれていて、そこの国際部で働きました。
特許事務の国際部は国際と名がつくだけあって、英語力を必要とされます。
今回は、皆さんがあまり馴染みのないであろう、特許事務の国際部での仕事を紹介します。
仕事をはじめたきっかけと英語力
ワークライフバランスを重視
この仕事に就いたきっかけは、事務所の仕事で9時から5時までというのが魅力的だったからです。
といいますのも、私が大学を卒業してすぐに就職したのは出版社で、そこでの仕事がハードだったからです。その出版社では、子ども向け雑誌の編集部にいました。編集部とはいえ、自分で取材をして記事を書いたり、イラストレーターに仕事を依頼して、自分で原稿を取りに行ったりという仕事でした。そこでは勤務時間があってないようなもので、取材などは楽しいのですが、その後記事を締め切りまでに仕上げるために、夜遅くまで働いたり、記事が足りないと緊急に取材をしたりなどといったことがありました。
それで結局体調を壊してしまい、転職をすることに決めたのです。
転職をするにあたり、今まで勤務時間があるようでないような生活でしたので、きちんと9時から5時の生活をしてみたいと思いました。それと、英語が好きで活かせる仕事をしたいと思って決めたのが、特許事務の仕事でした。そのため、全くの未経験で転職をしたのです。
また、出版社のお給料が11万円とそれほど高くはなかったのに対して、特許事務のお給料が18万円で、それも魅力的でした。
当時の英語力
私は中学生のころから英語が好きで、高校でもいつもトップレベル、大学は東京外国語大学を卒業しました。学校の英語学習しかしてませんので、会話などはもちろんできませんでしたが、読み書きは得意な方でした。
特に採用にあたって英語の試験などはありませんでした。おそらく、東京外国語大学卒業というネームバリューがあったため採用してもらえたのだと思います。ちなみに、同じ時期に採用された国際部の同僚は上智大学でしたし、国際部の上司も私と同じ東京外国語大学出身でした。
特許事務所での仕事
特許事務所とは?
何かを発明して特許を取る際には、特許庁に申請する必要があるのですが、企業や個人から依頼を受けてその書類を作成するのが特許事務所です。特許事務所は、特許、意匠または商標などの知的財産権の権利取得をサポートする所です。
私が勤務した特許事務所には、国際部と国内部がありました。私は、その国際部に配属され、事務員として勤務しました。特許事務所には、弁理士と呼ばれる特許申請書類を作成する専門職の人たちがまずいます。その下に事務職として特許申請に付随する様々な書類を作成する人たちがいるのです。
事務所の所長はもちろん特許庁で働いていた弁理士です。その他、副所長のような立場の人も特許庁出身でした。ですので、そこで働いていた弁理士さんたちは、所長や副所長が特許庁から引き抜いてきた弁理士さんだと聞きました。そこに、特許翻訳をする女性が一人いました。その方も、特許庁に勤務していたと記憶しています。特許翻訳は、お決まりの定型表現も一部含まれますが、発明の特許申請文書を翻訳することになるので、その発明を簡潔に分かりやすく英語に翻訳する能力が必要とされます。
弁理士は発明の内容に触れる仕事なので、専門的な知識が必要ですし、特許翻訳の仕事も高度な英語力が求められます。弁理士というのは、専門性が求められる特殊な職業だと思います。外部からいきなりそこで働くということは、ほとんどありえない世界と言えます。
特許事務所には、特許申請のための技術的な文書の作成を行なう弁理士と、その作った特許申請文書を特許庁に提出するために働く事務職員とが在籍しています。
国際部と国内部
私の配属した国際部は、海外から日本で特許を取りたいという依頼があったり、逆に日本の企業が海外で特許を取りたいという依頼があったりした時に対応していた部署です。国際部の業務は、外国特許事務と呼ぶこともできます。国際部の中でも、日本のクライアントから海外に特許申請するケースと、海外のクライアントが日本で特許申請するケースで、事務職員の担当が分かれていました。
私は、海外のクライアントが日本で特許申請するケースを担当していました。国際部の特許事務の主な仕事は、資料などを送る際に添付する英文レター作成です。また、必要な書類が揃っているかなどのチェックもします。
英語が必要とは言え、会話力はほとんど必要ありません。海外のクライアントが事務所に来ることもほとんどありませんので、読み書きの英語力が問われる仕事だと言えます。
海外のクライアントから電話がかかってくることもありますが、直接担当の弁理士に掛かるようになっていましたので、解体からかかってきた電話も事務的な受け継ぎだけでした。
一方、国内部は日本のクライアントが日本で特許申請する場合の部署でしたので、すべて日本語です。弁理士さんも国際部と国内部で担当が分かれていました。
外国特許事務
私が所属していた国際部の業務内容、外国語特許事務は、いくつかの業務に分類できると書きましたが、その分類を明確にして、詳しく解説していきます。
- 日本から外国への出願代理業務
- 外国から日本への出願代理業務
- 外国の現地代理人とのコレスポンデンス
1. 日本から外国への出願代理業務
日本から外国へ特許申請するためには、日本の出願人が外国に出願する必要があり、その外国への特許出願の代理手続業務になります。翻訳文や優先権証明書等の書類を用意して、外国官庁に提出しなくてはなりません。
日本のクライアントから依頼された日本語文書を出願用に翻訳する場合は、特許事務所内で翻訳する場合もありますが、翻訳会社に外注する場合もあります。翻訳会社に日英翻訳を依頼した場合、上がってきた翻訳に間違いがないか、外国特許事務の担当者が丁寧にチェックする必要があります。
2. 外国から日本への出願代理業務
次に、私が担当していた海外のクライアントが日本で特許申請するケースについて説明します。外国の出願を日本の出願に移行したいという案件は結構ありました。
そのような案件の場合、英語で記載された特許明細書等を日本語に翻訳してから、日本の特許庁に提出する必要が生じます。この場合の翻訳は、英語から日本語への翻訳になり、社内で翻訳することもありますが、翻訳会社に英日翻訳を依頼することもあります。翻訳会社に翻訳を依頼した場合、やはり外国特許事務の担当者が丁寧にチェックしなくてはなりません。
3. 外国の現地代理人とのコレスポンデンス
外国特許業務は大きく分けて上記の2つに分類されるのですが、1と2の両方の業務において、外国の現地代理人とのコレスポンデンス(コレポン)が必要になってきます。
現地代理人とは、メールでやり取りをすることが多いですが、急ぎの場合などは、電話がかかってくることもあります。外国の代理人に対して、書類の送付、期限がある案件の期限リマインダー通知などが、コレポンに含まれます。
メールでのやり取りが多いので、英語のリーディング、ライティングのスキルは必須になってきます。海外との電話対応については、電話の取次ぎだけなら、高いスピーキング力は必要ないですが、出願内容について説明や確認をする場合には、専門用語を駆使して相手に伝えるスピーキング力が必要です。
特許関連用語の英語表現
特許事務所はどんなことをしているのか、弁理士やそこで働く事務職員の仕事内容について解説しましたが、その解説の中で特許特有の表現がいくつか出てきました。特許関連用語の英語で何というのか、まとめたので、参考にしてください、
日本語 | 英語 |
特許 | patent |
特許事務所 | patent firm |
弁理士 | patent attorney |
意匠 | design |
商標 | trademark |
知的財産権 | intellectual property right |
特許申請 | patent application |
特許申請文書 | patent application document |
特許翻訳 | patent translation |
特許庁 | Japan Patent Office |
日本弁理士会 | Japan Patent Attorneys Association |
特許関連の一般的な用語とその英訳を紹介しましたが、「特許翻訳」は一般的なビジネス翻訳と比べて、もっと専門性が高く、「技術翻訳」に近い翻訳だと言えます。
「米国パテントエージェント試験」を受験する場合には、3000ページ以上のManual of Patent Examining Procedure (MPEP)を読み込んで勉強し、大量の過去問を解いたりするそうです。
近年、「知的財産権」がますます注目されていますが、知的財産権は、特許権や著作権などの創作意欲の促進を目的とした「知的創造物についての権利」と、商標権や商号などの使用者の信用維持を目的とした「営業上の標識についての権利」に大別されます。
訳)近年、「知的財産権」がますます注目されているね。
特許事務の仕事をするための英語学習について
英検とTOEIC
国際部だからと言って、特別な英語学習をしたわけではありませんでした。仕事で使う英文レターも、だいたい形は決まっていますので、それにのっとって、必要な箇所を変えたりすることが主な仕事です。
私は海外のクライアントが日本での特許申請をする担当でしたので、資料などが届くと、まずは英文レターを読んで、それを理解することが仕事の始まりでした。わからない単語があると辞書で引いていくという感じで、仕事をする中で英語を学習することができます。
英語力については即戦力を求められるのですが、話したり、電話で対応したりということはないので、ある程度のレベルの英語力であれば、未経験者でも事務職には就くことができます。
せっかく英語を使っている仕事なので、資格を取っておくのも悪くないなと思い、英語検定とTOEICを自分への挑戦のつもりで受けてみました。結果として、英語検定は2級に合格し、TOEICは730点を取ることができました。
特許事務の仕事に就くためには?
特許事務の国際部に勤務するためには、特に会話力は必要ではありません。地道に学校英語を勉強するのが一番だと思います。私のように外国語専門の大学出身というのであれば、就職する時にそれで英語力のレベルを示すことになると思いますが、そうでなければ、やはり英検やTOEICなどで英語力のレベルを示すことになります。
求められるのは、文法などを中心とした読み書きですので、そういった英語学習をするのが早道です。
その後は、仕事の中で英文レター作成などビジネス英語を自分なりに勉強していくことになります。ただ、自分で英文レターを一から書くということはありませんので、物足りないと感じることもあるかもしれません。
時々特許申請資料の英語に触れることもあります。それは弁理士から、英単語の変更がある時、何十ページもある資料のすべての単語の変更を事務員がすることになります。パソコンで単語を検索して、それを変更していくという本当に事務的な仕事になりますが、単語の意味を理解していた方がいいということはありますので、そこで英語の力もつきます。
まとめ
英検2級やTOEIC730点と言っても、その当時は私は会話力もリスニング力も高いレベルではありませんでした。その後英会話スクールに通い、今は日常会話ならできるようになりました。
特許事務の英語力とは、文法レベルと読み書きレベルがある程度高いということに尽きます。特許業界で、事務レベルを超えて、弁理士や特許翻訳の業務に携わりたい場合、「米国パテントエージェント試験」を目指したり、特許関連の文書を大量に読み込む必要があります。
仕事に関しては正確さが求められますので、ある程度の文法力と読解力、そして地道に仕事ができる人であれば、おすすめの仕事です。