英語教育というと、「話せるようになること」がゴールと思われがちです。
もちろん将来的に英語を使える力は大切ですが、保育の現場で多くの子どもと接してきた経験から言えるのは、まずは英語を「楽しい!」と感じることが、長く学び続ける力になるということです。
今回は、保育園・幼稚園での英語活動から学んだヒントや体験談、子どもが英語嫌いにならないための工夫など、
家庭でも活用できる情報をお伝えします。
成功例①:「話す力」より先に「好きになる気持ち」を育てる

実践内容
ある年長さんのクラスで、毎週英語の歌やゲームを取り入れていました。最初は「英語ってわからない…」と不安そうだった子も、「ABCソング」や「Head, Shoulders, Knees and Toes」など、体を動かす遊びを通して自然と笑顔に。半年後には、単語だけでなくフレーズも真似して口にするようになりました。
成果
英語への心理的ハードルが下がる
歌やゲームは「間違えても楽しい」という空気を作れるため、英語に対する不安や緊張が減ります。
→ 特にシャイな子も、歌のフレーズなら自然に口に出せるようになるケースが多いです。
耳の感度(リスニング力)が育つ
繰り返し聞くことで、正しい音やイントネーションを「感覚的に」身につけやすくなります。
→ 単語だけでなく、フレーズ単位で記憶する子が増えます。
英語=遊び・友達との時間という好印象が定着
英語を「科目」ではなく「楽しい時間」と感じるようになるため、長期的な学習意欲につながります。
自然な発音やリズム感が身につく
歌やチャンツは強弱やリズムがはっきりしており、ネイティブに近いイントネーションが自然に染み込みます。
成功のポイント
固定曜日・固定時間で習慣化する
「毎週水曜日は英語の日」のように決めると、子どもが心の準備をしやすくなり、期待感が高まります。
歌・ゲームを短めに複数
1つの活動を長く続けるより、3~5分で切り替えるほうが集中力が持続します。
季節や行事に合わせた内容
例えば、10月はハロウィンソング、12月はクリスマスゲーム。文化も同時に学べて興味が広がります。
繰り返しを恐れない
同じ歌やゲームでも、1~2か月繰り返すと「できる!」という達成感が積み重なります。
先生や大人も全力で楽しむ
子どもは大人の態度に敏感です。先生が笑顔で歌ったり動いたりすると、自然と参加意欲が高まります。
成功例②:英語での「色あてごっこ」で笑顔が増えたケース
実践内容
5歳児クラスで、英語の色カードを使い「色あてごっこ(Color Hunt)」をしました。
- 教師が “Find something red!” と指示
- 子どもたちは教室中を探して赤い物を持ってくる
- 持ってきた物をみんなの前で見せ、「Red!」と一言
最初は「Red」と言うだけでも小声だった子が多く、「話す」というより探す・見つける・見せることに夢中でした。
成果
- 「言えなくても持ってきた物を見せればOK」という安心感があり、全員が参加
- 繰り返すうちに自然と声が大きくなり、「I found red!」「Blue chair!」など自発的にフレーズが出るようになった
- 色を覚えること以上に、英語で遊ぶことが楽しいという気持ちが芽生えた
ポイント
- 言葉より先に行動を伴わせる(探す・持つ・見せる)ことでプレッシャーを減らす
- 競争よりも「全員で見せ合う」形式にして安心感を保つ
- 成功体験を毎回積ませ、「英語=楽しい時間」という印象を作る
失敗例①:「テスト的アプローチ」で興味を失ったケース
事例
英語単語カードを使って「これ何?」「正解は?」と当てる活動をしたとき、間違えた子が恥ずかしそうに黙ってしまったことがありました。
大人から見ると単なるクイズですが、「間違えたらダメ」という気持ちが芽生えると、英語を口に出すこと自体を避けるようになります。
原因
正解・不正解の評価が前面に出てしまった
間違えた瞬間に「ダメだった」という感情が先に立ち、挑戦意欲が低下。
学びが“競争”や“勝ち負け”の形になった
速く正しく答える子が目立ち、答えられない子は「自分は英語が苦手」と感じやすい。
間違いを成長の一部として受け止められる雰囲気が不足
クラス全体に「間違ってもOK!」という空気が作られていなかった。
活動が単調で成功体験が少ない
ただ答えるだけでは達成感や楽しさが感じにくく、継続的なモチベーションにならない。
改善策
「正解・不正解」より「参加したこと」を評価
答えが合っていても間違っていても、「Good try!」「Nice answer!」と声をかける。
「言えたこと」や「挑戦したこと」に注目して褒める。
協力型のアクティビティに変更
個人戦ではなく、チームで助け合って答える形式にする。
例えば、「チームで10個のフルーツカードを集める」ゲームなど。
間違いを笑って楽しむ空気づくり
講師や親がわざと間違えて見せ、「Oops! Let’s try again!」と再挑戦する姿を見せる。
間違いは学びの一部だと自然に伝える。
多様なアプローチで同じ単語に触れる
クイズだけでなく、歌・動作・絵本・お店屋さんごっこなどで同じ英語にふれ、成功体験を増やす。
失敗例②: 書くことを先に教えて英語嫌いになったケース

事例
4歳児クラスで、英語学習の一環として「A〜Zの書き取り練習」を毎回の活動に組み込みました。
講師は「早いうちから文字を書けると小学校で有利」と考えて、線に沿ってアルファベットを書くプリントを毎回配布。
最初は物珍しさもあって取り組んでいた子どもたちも、徐々に…
- 「またこれ?」と机に向かう前からため息
- 書くのが苦手な子が「できないからイヤ」と手を止める
- 英語の時間=プリントの時間 というイメージが定着
- 歌やゲームの時間にも集中できなくなる
半年後には、英語自体を拒否する子が増えてしまいました。
原因
- 幼児期はまだ手先の細かい動き(運筆)が発達途上で、形を整えて書くことが難しい
- 書き取りは達成感よりも「できない」「間違えた」というネガティブ感情が先に来やすい
- 文字から入ることで、音やリズムの楽しさを体験する時間が削られた
改善策
- 書く練習は遊び感覚で取り入れる(例:指で空中にAを書く、砂や粘土で形を作る)
- 書く前に必ず音や歌で馴染ませる(例:”A says a, a, apple!”)
- 幼児期は「読む・聞く・話す」を優先し、書きは補助的に
- 文字を書く時間は短く、必ず成功体験で終わらせる。
家庭でもできる「英語を楽しむ」工夫
歌と絵本で英語のリズムを感じる
英語の音やリズムは、日本語と大きく異なります。歌やリズム遊び、絵本の読み聞かせで、耳を英語に慣らしましょう。例えば、
- “Brown Bear, Brown Bear, What Do You See?”(くり返しのある絵本)
- “The Wheels on the Bus”(歌と動きがセットになった曲)
親も一緒に楽しむ
「さあ勉強の時間よ!」ではなく、「一緒に歌おう」「このキャラクターの名前を英語で言ってみよう」と、遊び感覚で取り入れるのがポイントです。
小さな成功体験を積ませる
「Thank you!」と言えたら拍手、「I like apples!」と言えたらハイタッチ。達成感の積み重ねが英語の自信になります。
家庭でできるゲームやアクティビティ
英語で宝探しゲーム(Treasure Hunt)
家の中に小物を隠し、英語でヒントを出す。
例:「It’s under the table!」「Look near the window!」
まねっこゲーム(Simon Says)
「Simon says, touch your nose!」などの指示に従うゲーム。体を動かしながら英語を覚えられる。
英語でお店屋さんごっこ
果物やおもちゃを並べて、”How much is this?” “It’s two dollars!” のやり取り。
オリジナル英語絵本づくり
子どもが考えたキャラクターやストーリーを親が英語にしてあげ、絵を描いて製本。
歌って動くミニコンサート
“If You’re Happy and You Know It” や “The Wheels on the Bus” など、動作と歌をセットに。
英語で料理体験
おやつ作りやサンドイッチ作りで、材料や手順を英語で言ってみる。
例:「Bread, cheese, lettuce!」「Cut it! Mix it!」
「話せる子」より「楽しめる子」が強い理由

小学校や中学校で本格的な英語学習が始まると、文法やライティングの要素が増えます。そのとき、幼児期に英語を「楽しい時間」として経験している子は、苦手意識を持ちにくく、吸収も早いのです。
逆に、早期から「間違えないこと」を重視されてきた子は、挑戦する前に「わからないからやらない」という壁を作ってしまうこともあります。
まとめ
英語学習はマラソンのようなもの。
最初から速く走ることより、走り続けたいと思える環境づくりが大切です。
保育の現場でも、家庭でも、
- 間違えても笑える空気
- 遊びながら触れられる時間
- 親子で一緒に楽しむ姿勢
この3つがあれば、「英語が好き!」という気持ちは自然と育まれます。
そして、その気持ちこそが、将来の「話せる力」につながるのです。
