イギリスを旅していると、石で築かれた長い壁に出会うことがあります。

それが、「ローマ帝国の国境線(Frontiers of the Roman Empire)」の一部であり、世界遺産にも登録されているハドリアヌスの長城(Hadrian’s Wall)です。

この巨大な防衛線は、かつてのローマ帝国が勢力を拡大し、北の蛮族からブリタニアを守るために築かれました。

基本情報 Basic Information

項目 内容
名称 ローマ帝国の国境線(イギリス部分:ハドリアヌスの長城)
英語名 Frontiers of the Roman Empire: Hadrian’s Wall
所在地 イングランド北部
登録年 1987年(拡張登録:2005年)
登録基準 文化遺産(criteria (ii), (iii), (iv))

歴史と文化的背景

歴史と文化的背景

1. 世界遺産としての位置づけ

「ローマ帝国の国境線(Frontiers of the Roman Empire)」は、ヨーロッパ全土に広がっていたローマ帝国の外縁部の防衛・行政施設群を包括する世界遺産であり、2005年にドイツの「リーメス」とともに登録されました。そのうち、イギリスにある代表的な構造物がハドリアヌスの長城(Hadrian’s Wall)です。

2. ハドリアヌスの長城とは

ハドリアヌスの長城は、ローマ皇帝ハドリアヌス(在位117~138年)の命令により、西暦122年頃にイングランド北部に建設されました。全長は約117kmで、現在のニューカッスル(Newcastle upon Tyne)からソルウェイ湾(Solway Firth)に至る、ほぼイギリスの横断をなす石造・土造の長城です。

その目的は大きく以下の通りです:

  • 北方の先住民族(主にピクト人)の侵入を防ぐ軍事的境界線
  • 通商・人の移動の管理と税の徴収
  • ローマ帝国の威信を示す象徴的構造物

3. 構造と機能

長城には一定の間隔で砦(forts)、見張り塔(watchtowers)、門(milecastles)などが設けられており、ローマ軍団が駐留していました。

  • fort(砦):兵士の宿舎や武器庫を備えた小さな軍事基地
  • garrison(駐屯地):常駐部隊が守備し、監視任務に当たる
  • vallum(防御溝):壁の南側に掘られた溝。兵士と民間人の領域を区別

このような整備は、単なる防衛目的にとどまらず、行政・物流・通商の管理にも大きな役割を果たしました。

4. ローマ帝国とブリテン島の関係

ローマ帝国は、西暦43年にブリテン島を征服し、南部を「ローマ領ブリタニア」としました。以後、数世紀にわたり道路、水道、浴場、都市(ルグドゥヌム、ロンドニウム=現在のロンドン)などが整備され、ローマ文化と土着文化の融合が進みました。

長城の建設は、帝国がこの地を重要な辺境と認識し、ここからさらに北への拡大を断念し「境界」を定めたことを意味します。これは「帝国の限界」を可視化した画期的な出来事であり、ローマの統治思想の転換点でもあります。

5. 現代における意義

現在のイギリスでは、ハドリアヌスの長城は歴史教育、観光資源、地域アイデンティティの柱として機能しています。特に、壁沿いを歩くハドリアン・ウォール・パス(Hadrian’s Wall Path)は人気の長距離ハイキングコースであり、遺構や博物館とともに、当時のローマとブリテンの関係を体感できるルートです。

6. 英語学習者に役立つ語彙と表現

英単語 意味 例文
empire 帝国 The Roman Empire extended across Europe, Asia, and Africa.
ローマ帝国はヨーロッパ、アジア、アフリカにまたがって広がっていました。
frontier 国境、境界 Hadrian’s Wall was the frontier of the Roman Empire in Britain.
ハドリアヌスの壁は、イギリスにおけるローマ帝国の境界線でした。
fort 砦、防衛施設 Roman forts were built along the wall to house soldiers.
ローマの要塞は兵士を収容するために壁沿いに建設されました。
legion ローマ軍団 A Roman legion consisted of about 5,000 soldiers.
ローマ軍団は、約5,000人の兵士で構成されていました。
garrison 駐屯地、駐屯部隊 The garrison protected the area from northern tribes.
駐屯部隊は北部の部族からその地域を守っていました。
ancient 古代の The wall is one of the most remarkable ancient structures in Britain.
この壁は、イギリスで最も注目すべき古代の建造物の一つです。

見どころと体験

セゲドゥヌム・ローマ砦(Segedunum Roman Fort)

壁の東端に位置し、ローマ軍の基地として栄えた場所。博物館も併設されており、当時の生活を再現。

ホウステッド・ローマ砦(Housesteads Roman Fort)

最も保存状態の良いローマ砦の一つ。広大な遺構から当時の兵士の暮らしが垣間見える。

ローマ兵体験イベント

一部の施設では、ローマ兵の制服を着たり、剣や盾を持って写真撮影ができる体験イベントもあり、子どもから大人まで楽しめます。

「世界遺産 ローマ帝国の国境線(Frontiers of the Roman Empire)」をテーマにした作品

ドキュメンタリー作品

『Rome’s Lost Empire(ローマ帝国の失われた領土)』

  • 放送局: BBC One
  • 放送年: 2012年
  • 内容: イギリス人歴史学者ダン・スノウがハドリアヌスの長城を含むローマ帝国の広大な国境線を探る。最新のテクノロジー(レーザースキャンなど)で遺跡を再構築。

『Timewatch: Hadrian’s Wall』

  • 放送局: BBC(Timewatchシリーズ)
  • 内容: ハドリアヌスの長城の建設の背景やその影響を、考古学者や歴史家の視点から描く。再現映像も豊富。

 映画・ドラマ

『Centurion(センチュリオン)』

  • 公開年: 2010年
  • ジャンル: 歴史アクション
  • 内容: ローマ帝国がブリテン北部でピクト人と戦う様子を描いたフィクション映画。ハドリアヌスの長城や辺境の過酷さが舞台。

『The Eagle(第九軍団のワシ)』

  • 公開年: 2011年
  • 原作: Rosemary Sutcliffの小説『The Eagle of the Ninth』
  • 内容: 失われたローマ第九軍団の真相を求めて、若きローマ軍司令官がスコットランド高地へと向かう。
  • 関連: ローマ軍とブリテンの文化衝突、国境の意義を描いた冒険物語。

書籍

『Hadrian’s Wall』(著:Adrian Goldsworthy)

  • ジャンル: ノンフィクション歴史解説
  • 内容: ハドリアヌスの長城の建設、政治的意義、兵士たちの生活を詳細に描く。

『The Eagle of the Ninth』(著:Rosemary Sutcliff)

  • ジャンル: 歴史小説(児童文学としても評価高)
  • 内容: ローマ軍団とブリテンの対立を背景にしたフィクション。英語は比較的読みやすい。

まとめ

ローマ帝国の国境線、特にハドリアヌスの長城は、イギリスに残された最古級の軍事遺構であり、文化的・歴史的価値の高い世界遺産です。

かつてヨーロッパを支配していた巨大帝国が、どのように境界を築き、文化を広めたのか。

ぜひとも一度訪れて、その偉大さに触れてみたいものです。

参考文献:ハドリアヌスの長城 – Wikipedia

英辞郎 on the WEB