日本では、トイレトレーニングというと「2〜3歳頃までにおむつが外れているのが理想」「周りの子と比べて遅れてはいけない」「失敗させないように大人が導くもの」といった「常識」や「思い込み」が根強くあります。
保育園や幼稚園への入園、進級のタイミングがプレッシャーになることも少なくありません。
しかし、その「普通」は本当に世界共通なのでしょうか。
日本の文化とトイレトレーニング

集団生活を意識した「できるようになる時期」が重視される文化
日本では、集団生活の中で支障なく過ごせることが重視されます。そのため「〇歳までにできていると安心」という目安が強く意識されがちです。トイレトレーニングは大人主導で進められ、時間を決めてトイレに座らせたり、成功体験を積ませたりする方法が一般的です。
この背景には、保育施設での集団保育や、周囲との足並みを揃えることを大切にする社会性があります。一方で、子どもの発達の個人差が見えにくくなり、「遅れているのでは」と不安を感じやすい側面もあります。
焦りが招いたトイレトレーニングの失敗事例を紹介します。
事例1:入園期限に間に合わせようとして強行した結果、トイレ拒否に
背景
3歳入園を控え、「おむつが外れていないと迷惑をかけるのでは」という不安から、短期間でのトレーニングを決意。
起こったこと
- 時間を決めて何度もトイレに座らせた
- 失敗するとため息や残念そうな反応をしてしまった
- 子どもがトイレに行くこと自体を嫌がるようになった
結果
トイレ=嫌な場所という印象が定着し、家でも園でも強い拒否反応を示すように。結局いったんトレーニングを中断し、数か月後にやり直すことになった。
事例2:周囲と比べて焦り、失敗を叱ってしまったケース
背景
同年代の子が次々とおむつ卒業する中、「うちだけ遅いのでは」と強い焦りを感じていた。
起こったこと
- 失敗した際に「さっき行ったでしょ」「もう赤ちゃんじゃないよ」と言ってしまった
- 子どもが失敗を隠すようになった
- おしっこが出そうでも申告しなくなった
結果
我慢する時間が長くなり、頻繁な失敗や便秘につながった。
事例3:「失敗させない」意識が強すぎて、主体性が育たなかった
背景
「成功体験を積ませたい」と思い、親が常に先回りして声かけをしていた。
起こったこと
- 少しでも出そうになるとすぐトイレへ連れて行った
- 子ども自身が尿意に気づく前に介入していた
結果
親が声をかけないとトイレに行けず、環境が変わると失敗が増加。結果的に「自分で気づく力」が育ちにくかった。
事例4:夜間・外出時まで一気に外そうとして混乱
背景
「一度始めたなら完全に外したい」と思い、昼夜・外出すべてでおむつをやめた。
起こったこと
- 夜間の失敗が続き、本人も保護者も睡眠不足に
- 外出先での失敗が重なり、子どもが強い不安を感じるように
結果
トイレトレーニング全体が苦痛になり、再びおむつに戻すと罪悪感を抱くようになった。
事例5:成功・失敗を「評価」しすぎてプレッシャーに
背景
シール台紙やご褒美制度を導入し、やる気を引き出そうとした。
起こったこと
- 失敗するとシールがもらえないことに強いストレス
- 「失敗したらどうしよう」と緊張が強くなった
結果
緊張で出なくなり、トイレに長時間座るようになった。
アメリカの文化とトイレトレーニング

子どもの準備が整うまで「待つ」が基本
アメリカでは、「トイレトレーニングは子どもがやりたくなったら始めるもの」という考え方が主流です。3歳を過ぎてから始める家庭も珍しくなく、失敗することは学習の一部として自然に受け止められます。
親はサポート役に徹し、「できない時期があっても大丈夫」という姿勢が一貫しています。周囲と比べる文化が比較的弱いため、トイレトレーニングが育児ストレスの中心になりにくいのも特徴です。
You can’t train a child who isn’t ready.
(準備ができていない子どもは、トレーニングできない)
トイレトレーニングは大人が教え込むものではなく、子どもの発達が整って初めて成立する、という考え方。
焦りを戒める代表的な育児フレーズです。
Accidents are part of learning.
(失敗は学びの一部)
失敗=問題ではなく、成長過程の自然な一部という認識。
排泄の失敗を叱らない文化を象徴する言葉です。
北欧(スウェーデンなど)の文化とトイレトレーニング
自立と尊重を最優先するアプローチ
北欧諸国では、子どもの自己決定や自立を非常に大切にします。トイレトレーニングも同様で、大人が急かすことはほとんどありません。布おむつを使う家庭も多く、子ども自身が身体の感覚に気づくことを重視します。
「失敗しても当たり前」「時間がかかっても問題ない」という価値観が社会全体で共有されているため、保護者も長い目で成長を見守ることができます。
The child leads, the adult supports.
(子どもが導き、大人は支える)
トイレトレーニングは子ども主導で進むべき、という北欧の育児哲学を端的に表しています。
Independence grows from trust.
(自立は信頼から育つ)
失敗しても信じて任せることが、結果的に自立につながるという考え方。
排泄の自立にも通じる価値観です。
フランスの文化とトイレトレーニング
生活の流れの中で自然に身につける
フランスでは、トイレトレーニングを特別なイベントとして捉えず、生活習慣の一部として自然に取り入れます。親は過度に干渉せず、子どもが真似をしたがったり、興味を示したタイミングを大切にします。
「完璧にできること」よりも、「少しずつ慣れていくこと」が重視されるため、途中で後戻りすることも問題視されません。
Every child grows at their own pace.
(子どもはそれぞれのペースで育つ)
トイレトレーニングに限らず、発達全般に使われる言葉。
「平均」より「個」を大切にするフランス的価値観が表れています。
We don’t rush milestones.
(成長の節目を急がない)
歩く・話す・排泄するなどの発達段階を「早く達成すること」に価値を置かない姿勢を示す言い回しです。
中国の文化とトイレトレーニング
環境と文化が形づくる早期トレーニング
中国では、紙おむつが普及する以前から、早い段階で排泄を促す文化がありました。大人が合図を出して排泄を促す方法が一般的で、これは生活環境や家族構成の影響を強く受けています。
ただし近年は都市部を中心に考え方が多様化しており、「早さ」よりも子どもの快適さを重視する家庭も増えています。
Children learn through guidance.
(子どもは導かれて学ぶ)
大人が合図やサポートをすることで、子どもが排泄を学んでいくという伝統的な考え方を反映しています。
Habit is a second nature.
(習慣は第二の天性)
早期からの生活習慣づくりを重視する文化を表す言葉で、トイレ習慣にも使われます。
失敗から立て直すために大切な視点
失敗してしまったときの立て直しステップを紹介します。
ステップ1:いったん「やめる」ことを恐れない
トイレトレーニングは、中断しても後戻りではありません。
- トイレを嫌がる
- 極端に緊張する
- 失敗を隠す
といったサインが見られたら、それは「休憩が必要」という合図です。
数週間〜数か月おむつに戻しても、発達が遅れることはありません。むしろ、安心感が戻ることで再スタートがスムーズになるケースが多くあります。
ステップ2:「成功・失敗」の言葉を一度手放す
立て直しの第一歩は、
「できた/できなかった」
という評価の視点をなくすことです。
代わりに、
- トイレに入れた
- 座ってみた
- 話を聞けた
といった過程に目を向けます。
排泄は結果が出やすい行為だからこそ、評価されやすく、プレッシャーにもなりやすいのです。
ステップ3:子どもの「身体の準備」を見直す
再開の目安として、次のような点を確認します。
- 尿間隔が2時間程度あく
- 濡れることを不快に感じる
- 簡単な言葉やジェスチャーで伝えられる
- トイレや大人の行動に興味を示す
年齢ではなく、これらのサインがそろっているかが重要です。
ステップ4:大人の関わり方を「伴走型」に変える
立て直しの段階では、「させる」「誘導する」ではなく、「一緒にやってみる」「選ばせる」という姿勢が有効です。
「今行く?あとで行く?」
「このトイレとあっち、どっちがいい?」
子どもに小さな選択権を渡すことで、主体性が戻ってきます。
まとめ
トイレトレーニングに「世界共通の正解」はありません。
どの国のやり方も、その文化や暮らしに根ざした“その国の普通”です。日本のやり方が合う子もいれば、合わない子もいます。
他国の例を知ることは、「今うまくいっていないのは失敗ではない」「焦らなくても大丈夫」と気づくためのヒントになります。
トイレトレーニングは、子どもの成長のほんの一場面にすぎません。
文化の違いを知り、自分たちに合ったペースを見つけることで、親も子ももっと楽に向き合えるようになるはずです。
