「〇〇しましたか?」以外のニュアンスで「did you」が使われる場面

英会話で「Did you ~?」という表現が使われた時、頭の中に「〇〇しましたか?」という和訳しか思い浮かばない方が意外と多いようです。もちろんこれが必ず間違いになる訳ではありません。ですが「did you」には他にも様々な使われ方が存在します。「did you」の使われ方の違いを正しく理解しておくことで、より正確な会話力やネイティブに近い表現力を身に付けることができます。そこでまず「did you」が「〇〇しましたか?」以外の意味やニュアンスで使われる2つの代表例について説明します。

実は質問したい訳ではない!とっておきの情報を「伝えたい」時に使う「did you know」

何か知りたい時に「〇〇を知っていますか」と聞く時は一般的に「do you know 〇〇?」と表現されることが多いです。では「did you know 〇〇」が「〇〇を知っていましたか」という意味になるかというと、ちょっとニュアンスが違うことがあります。実は日本語でも同じようなニュアンスの違いが存在します。「明日の飲み会に誰が来るか知らない?」と聞く時、話し手は誰が来るのかを「本当に知らない」ので質問していると考えるのが自然です。一方「ねぇ、明日の飲み会に誰が来るか知ってた?!」という過去形の表現にすると、この話し手はおそらく誰がゲストかを知っていて、それを「これから伝えようとしている」というニュアンスが含まれることに気付きます。
これと同じことが英語の「do you know」と「did you know」の間にも起こります。つまり「Do you know who he is?」であれば「彼は誰(何者)ですか?」となりますが、「Did you know who he is?」とすると「彼が誰(何者)か知ってた?!」となり、この場合、話し手はおそらく「彼」の正体を既に知っていて、それを相手に伝えることが本来の目的であることが推測できます。このように「did you know」を使った表現は、この先に続くであろう「とっておきの情報」の枕詞として使われることが多いです。ただし「Did you know the criminal at that time?(あの時もう犯人を知ってた?)」のように「at that time」や「yesterday」のような過去の特定の時点を表す表現と共に使われる際は、単純な過去形と捉える必要があります。

「do you want」の丁寧な表現としての「did you want」

「〇〇はいかがですか?」と相手に聞くための表現として「Would you like 〇〇?」が代表的ですが、少し砕けた表現として「did you want 」を用いる方法があります。友達などのフランクな間柄では「do you want」を用いることが多いですが、それよりも少し丁寧になると「did you want」になります。「would you like」ほど堅苦しくなく「do you want」まではフランクではない、ちょうど中間辺りの丁寧さの表現になります。距離感が難しいですが、カジュアルなお店の店員さんがお客さんに対して使うことが多いです。このような「did you」の使われ方をする際は、返答の仕方に注意が必要です。例えば「Did you want another cup of coffee?(コーヒーのおかわりはどうですか?)」と聞かれた時に「Yes, I did.」と返答せずに「Yes, please.」と答える必要があります。このような表現がスッと出てくるようになれば、ネイティブの表現に少し近づきます。ちなみに「did you need」も同じように使われるので併せて覚えておくと良いでしょう。

日本人にはピンときにくい「did you」と「have you」の違い

「〇〇しましたか?」という質問を英語でしたい場合、「did you」を使うべきか「have you」を使うべきかで悩む場合がありませんか?日本語ではどちらも同じ「〇〇しましたか?」という表現なので、日本人はこの使い分けを苦手にしている人が多いようです。そこで「did you」と「have you」の使い分けのヒントについて説明します。

過去の特定の時点について聞く場合は「did you」

「did you」のような「過去形」と「have you」のような「(現在)完了形」の違いを説明する際によく用いられる表現として、時間の流れを「点」で捉えるのが「過去形」、「幅を持った線」として捉えるのが「完了形」として説明されることがよくあります。これだけでは少し分かりづらいので、例を挙げてみましょう。
「Did you watch the movie last night?(昨日の夜、その映画見た?)」のように特定の時点(この例の場合は「last night(昨夜)」)について質問しているため「did you」が使われています。一方「Have you watched the movie?(その映画、見たことある?)」と「have you」を使った完了形の表現にすると、過去から現在までの幅のある時間の中で(一度でも)その映画を見たことがあるか?というニュアンスに変わります。「Did you watch the movie last night?」では、たとえその映画を過去に何度も見たことがあったとしても「昨夜」という過去の特定の一時点において映画を見ていないのであれば、回答は「No, I didn’t.」となります。
過去の特定の時点を表す表現として代表的なものは「yesterday」「last (例:last night)」「ago(例:three years ago)」「when(例:when I was young)」などがあります。こういった表現と一緒の時は必ず「did you」を使う、と覚えておきましょう。

「時間軸に幅がある」時には「have you」を使う

「特定の時点」を表す「過去形」に比べ、日本人がイメージしにくいのが「完了形」です。日本語にはそもそも「時間の幅」という概念があまりありません。例えば「春が来た」という表現を英語に訳す場合、正しい表現は「Spring has come.」ですが、「Spring came.」と単純な過去形にしてしまう人が少なくありません。「春が来た」という場合、「来た」という部分だけを捉えて単純に過去形を使ってしまいがちなのです。
しかし「春が来た」は「春が(過去のどこかの時点で)来た。(そして今も春が継続している)」という状態を表しています。このように「過去のある時点で発生した事象が現在も継続している=時間に幅がある」場合には「現在完了形」が用いられます。もし「Spring came.」としてしまうと、「(過去のどこかの時点で)春が来た。(そして、今はもうここには居ない)」というようなニュアンスになってしまいます。上述の「春が来た」の2種類の和訳の中で()で囲んだ部分のニュアンスの差を、英語では「過去形」と「現在完了形」で明確に表現しているのです。
時間に幅のある表現である「for(例:for two years)」「since(例:since then)」と一緒に用いられる場合は必ず「have you」を用いると覚えておきましょう。

時間に関わる表現とセットになっていない時はどうやって判断すべきか?

「ago」や「since」のようなキーワードがセットになっていない場合、過去形にすれば良いか、現在完了形にすれば良いかの判断が難しいかもしれません。しかし、結論から言うと、そのような場合はどちらを使っても特に問題は無い場合が多いので安心してください。「Did you do the homework?」も「Have you done the homework?」も、どちらも違和感無く使われます。それでも「できるだけ正確な表現をしたい」という方は、ここまで何度も触れてきた「時間の幅」という観点から使い分けをしてみると良いでしょう。
「時間の幅」という概念はイメージがしにくいですが「その状態が今も続いているかどうか?」を基準に判断すれば、少し分かりやすいのではないでしょうか?例えば「彼女はもう到着してる?」と聞きたい時「彼女は到着して、今もそこにいる?」というニュアンスを含むと推測できるでしょう。「到着している」という状態が継続しているので、この場合は「Has she arrived?」となります。まさか「彼女が到着したか否かの事実だけが知りたいのであって、既に彼女がこの場を後にしていても関係ない」ということにはならないはずですが、もしそのようなニュアンスを含むのであれば「Did she arrive?」となります。この例で分かるように「〇〇しましたか?」の後に「そして今も〇〇していますか?」というニュアンスを含むか否かで判断すると少し分かりやすいでしょう。つまり「彼女に『ありがとう』って言った?」を英訳する場合、今も「ありがとう」と言い続けているとは考えにくいので、単純な過去形で「Did you say ”Thank you” to her?」となります。

「あいづち」として使う「did you」もある

最後に「did you」が「あいづち」として使わる場合について紹介します。例えば「I went to dinner with John last night.(昨日の夜、ジョンと晩ご飯食べに行ったんだ)」に対して「Oh, did you?」のように「did you」が使われることがあります。この場合は疑問文でも何でもなく、単なる「あいづち」です。敢えて和訳するのであれば「へぇ、そうなんだ」や「マジで?」といったところでしょうか。あいづちの対象となる文章が過去形であったため「did you」が使われていますが「I have good idea!(いいアイデアがあるの!」「Oh, do you?(え、そうなの?)」や「I am so disappointed.(私、とってもガッカリだわ)」「Oh, are you?(あら、そうなんだ)」といった形で、前の文章に対応して時制等が変化します。

「did you」の使い分けを正しくマスターすれば、よりネイティブに近い表現力が身に付く

「did you」には「〇〇しましたか?」以外にも「丁寧表現」としての使い方や、「あいづち」としての使い方等があります。また、日本語では同じ「〇〇しましたか?」でも、英語に変換すると「did you」と「have you」で使い分けが必要です。慣れるまでは難しいものもありますが、上手に使えるようになれば、より「こなれた」表現が可能になるでしょう。