日本の教育を司る文部科学省が、大幅に英語教育を改革したのをご存知でしょうか?
記憶に新しい事といえば、外国語教育の導入を、これまで中学1年生からスタートしていたのを、小学校5年生から必修科目にした事でしょう。
では実際に、文部科学省が行っている英語教育の改革にはどんな背景があり、どんな意義や効果が期待できるのでしょうか?
この記事では、文部科学省が行っている英語教育の改革についてわかりやすく丁寧に解説します。
文部科学省の取り組み 小学校での英語教育必修化
文部科学省が進める英語教育の取り組みで最も記憶に新しいのが、「小学校での英語教育の必修化」でしょう。
文部科学省は2020年度から、これまで中学1年生からスタートしていた英語教育を、小学5年生からのスタートに前倒ししました。
中学1年生スタートの英語教育を小学5年生スタートにしたわけですから、実に2年もの期間を前倒したと言えます。
小学校英語必修化の背景と意義とは?
文部科学省が小学校での英語科目を必修にした背景には、主に以下の点が挙げられるでしょう。
- 社会のグローバル化
- 日本人の英語力
順番に見ていきましょう。
1.社会のグローバル化
文部科学省が小学校での英語科目を必修化した背景として、「社会のグローバル化」は欠かせないでしょう。
平成29年に告示された小学校の学習指導要領解説では、第1章総説内の「1改定の経緯及び基本方針 (1)改定の経緯」にて以下のように書かれています。
生産年齢人口の減少,グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により,社会構造や雇用環境 は大きく,また急速に変化しており,予測が困難な時代となっている。
学習指導要領解説に書かれているように、近年、世界は急速なグローバル化の進展が見られます。
経済、文化、技術、情報の流れが国境を越えて行われるようになり、国際社会でのコミュニケーションがますます重要になっているわけですね。
こうしたグローバル化の流れが、英語を国際共通語としての必要性を高め、異文化や他国とのコミュニケーションに必要不可欠な言語としています。
またグローバル化に伴い、国際的な競争が激しくなっていることが挙げられます。
こうしたことから日本だけでなく、世界中の若者たちは、将来的なキャリアやビジネスの展開において、英語力が求められています。
英語力を身につけることは、異なる国や文化との交流やビジネス展開、国際的なチームでの活動など、多様な分野での活躍に必要なスキルとなっています。
こうした中で、小学校英語必修化は将来のグローバル人材を育成するための一環として位置付けられています。
子どもたちが早期から英語を学ぶことで、言語学習の基盤を築き、将来的な国際的な活動に対応できる能力を養うことが期待できるわけですね。
グローバル化が進む現代社会において、異文化理解や国際協力の重要性が高まっているため、英語力を持つグローバル人材の育成はますます重要とされています。
以上のことから、文部科学省が英語科目を小学校から必修とした背景に「社会のグローバル化」が挙げられると言えます。
2.日本人の英語力
文部科学省が小学校での英語科目を必修化した背景として、「日本人の英語力」も挙げられるでしょう。
「日本人は英語、英会話が苦手」というのは、日本国内と国外を問わず共通の認識になっています。
留学や語学留学を扱う教育機関である「EF Education First」によって行われた、英語を母国語としない国を対象としたテストにおいて、日本は対象国全113カ国のうち87位、アジアの中でも23カ国のうち15位と水準が低いことがわかっています。
こうした「日本人の英語に対する苦手意識」は、日本の教育を司る文部科学省として放置するわけにはいかないでしょう。
ですので、「日本人の英語力」を背景として、小学校からの英語教育のスタートに踏み切ったことも考えられます。
小学校英語必修化がもたらす大きな影響
上述した文部科学省の実践した「小学校での英語教育必修化」は、以下のような大きな影響を与えることが期待できます。
- 義務教育期間内の英語力の向上
- 中学・高校英語へのスムーズな移行
順番に見ていきましょう。
1.義務教育期間内の英語力の向上
小学校での英語教育が必修化したことで、義務教育期間内で学べる英語の範囲が大きく向上します。
英語教育のスタートが中学1年生からだった以前の学習指導要領では、中学校の3年間で学ぶ英単語の目安が「1,200語程度」でした。
対して学習指導要領が改定され、小学5年生からの英語教育スタートになったことで、中学校を卒業する頃には「約2,200語〜約2,500語」程度になりました。(以下内訳)
中央教育審議会においては,「指導する語数については,これまでの実績や諸 外国における外国語教育の状況などを参考に,実際のコミュニケーションにおいて必要な語彙を中心に,小学校で 600 ~ 700 語程度,中学校で 1,600 ~ 1,800 語程度,高等学校で 1,800 ~ 2,500 語程度」を指導することとして整理している。
小学校の600〜700語、中学校の1,600〜1,800語をあわせて2,200語〜2,500語というわけですね。
学習指導要領改定前の約1,200語と比較して、約2倍もの英単語数を義務教育期間内に習得していることになります。
2.中学・高校英語へのスムーズな移行
小学校での英語教育が必修化したことで、中学英語、そして高校英語への移行がスムーズになることが期待できます。
上述した通り、学習指導要領が改定されて中学校卒業時点の英単語の習得数は約2倍になりました。
もちろん英語教育のスタートが2年前倒しになって、2年分学べる単語数が増えたのも理由のひとつに挙げられますが、中学校3年間で学ぶ英単語数についても、約1,200語から約1,600語〜約1,800語に増えています。
これに対して文部科学省の学習指導要領解説では以下のように述べています。
「1600 ~ 1800 語程度」については,前回の改訂における「1200語程度」と比べると増加幅が大きく見えるが,小学校において中学年の外国語活動で扱ったり 高学年の外国語科で学んだりした語と関連付けるなどしながら,中学校で語彙を増やしていくことを考えれば,言語活動の中で無理なく扱うことのできる程度の語数であると考えられる。
要するに、「小学校5年生から小学校6年生の間に習った英単語と関連させて英単語を覚えることで、0から1,200語を覚えるのと同じ時間で無理なく1,600語〜1,800語を覚えられる。」と文部科学省は考えているわけですね。
このことから、英語教育のスタートが2年間前倒しになることで、小学校から中学校、そして中学校から高校の英語教育がスムーズに行われることが期待できるわけです。
外国語「活動」と外国語「教育」って、何が違うの?
学習指導要領や英語の幼少期からの教育の話になると、よく外国語「活動」と外国語「教育」という表記がされているのを見かけますよね。
外国語「活動」と外国語「教育」とでは、似ているようで明確な違いがあります。
外国語「活動」は、外国人のALT(Assistant Language Teacherの略)を学校に招いて、外国語を使って遊びやグループワークをすることを指します。
外国語「活動」については、「小学校の頃にALTの先生と一緒にやった」と記憶に残っている方も多いでしょう。学習指導要領が改定された今でも、小学校中学年から外国語活動が取り入れられています。
対して外国語「教育」は、国語や歴史の授業などと同じように「教科書」を使った「授業」を指します。
ですから、外国語を使った「遊びやグループワーク」を外国語「活動」、教科書を使って授業で学ぶことを外国語「教育」と呼ぶわけですね。
まとめ
この記事では、文部科学省が行っている英語教育の改革について、その背景と意義、効果についてお伝えしました。
ここまでお読みのあなたは、現在起こっている英語教育の環境の大きな変化について詳しく理解しているでしょう。
この記事でお伝えした内容が、あなたの英語教育の認識をより深いものにできれば幸いです。