英語を学ぶみなさんは、外国の祝日をご存じでしょうか。
どこの国にも、国にとって大きなできごとを記念したり、何か意識を向けるべきことのために「〇〇の日」を設けたり、伝統的な行事に合わせて休みがあるものです。
しかし、留学や海外駐在で長期の滞在をしていないと、意外に外国の祝日について知る機会はないもののようです。
日本で生まれ育って、「当たり前」と思っていたお正月の過ごし方なども、外国と比べてみると大きく違っていたりします。つまり、外国の祝日を知ることで、日本ならではの生活文化や価値観を見直すこともできそうです。
今回は、英語留学や旅行で多くの日本人が訪問する「アメリカ合衆国」(United States of America)の祝日についてご紹介します。
海外の祝日を通じて、楽しみながら文化や考え方の違いを学びましょう!
どれ英語で会話したり、読んだりするときに出てくる可能性があるものですので、固有名詞や鍵になる単語には英語を併記しています。
アメリカ留学で体験した「祝日」
わたしはアリゾナ州(State of Arizona)で語学学校に通いながらビジネスを勉強していました。アメリカの南西部で、ロッキー山脈の西側にあり、ユネスコの世界遺産に登録されたグランド・キャニオンで知られています。
アメリカでの学生生活は1年以上になり、アメリカの1年間の流れは一通り体験したことになります。生活の中心は学業ではありますが、アメリカで生活していると、日本では感じることができないアメリカの雰囲気が体験できました。
アメリカならではの雰囲気を味わったことのひとつが、「祝日」(a national holiday, a public holiday)です。わたしが通っていた語学学校には、さまざまな国からの留学生がやってきました。留学生の間では、必ずと言っていいほど、それぞれの出身国の「祝日」が話題にのぼります。
アメリカにいると、それぞれの祝日の背景や、楽しみ方というものが明確に定義されている印象を受けました。
今回はそんなアメリカの祝日を、わたしなりの解釈や経験をもとに紹介したいと思います。
今後、アメリカを旅行や出張で訪問する予定のある方、留学や就職などで長期間滞在する予定がある方には、必ず役に立つことだと思います。
また、アメリカの社会や文化を知るうえでも手がかりになる知識なので、参考程度に知っておくといいでしょう。
アメリカで考えた日本の「祝日」
日本にいるときには、正直なところ、あまり祝日を意識することがありませんでした。
日本の「国民の祝日」は1948年に施行された「国民の祝日に関する法律」で決められました。
すなわち、元日(1月1日)、成人の日(1月15日)、春分の日(春分日)、天皇誕生日(4月29日、現在は2月23日)、憲法記念日(5月3日)、こどもの日(5月5日)、秋分の日(秋分日)、文化の日(11月3日)、勤労感謝の日(11月23日)であった。
その後の複数回の法改正により、
- 成人の日(1948年当初は1月15日、2000年から1月第2月曜日)
- 建国記念の日(2月11日、1966年から)
- 昭和の日(4月29日、2007年から)
- みどりの日(1989年当初は4月29日、2007年から5月4日)
- 海の日(1995年から7月20日、2003年から7月第3月曜日)
- 山の日(8月11日、2016年から)
- 敬老の日(1966年から9月15日、2003年から9月第3月曜日)
- 体育の日(1966年当初は10月10日、現在は「スポーツの日」で10月の第2月曜日)
と新しい祝日が制定されたり、制定当初の日付や名称が変わったりしていて、日本の「国民の祝日」は16日になっています(2024年現在)。
日本では、ゴールデンウィークやシルバーウィーク、お盆休み、年末年始休暇などがあり、特に2000以降の改正で移動祝日(例:1月第2月曜日の「成人の日」など)が増えた結果、連休が取りやすくなり、一年間のうちに大型連休の機会が複数存在します。
ひとつには、有給休暇の消化率が低い日本では、個人で休暇を取りにくい雰囲気があり、社会全体で休みになる「国民の祝日」が休暇の主軸になっている、という意見もあります。
祝日が少ないアメリカ
これに対して、アメリカではゴールデンウィークなどの長期休暇は存在しません。
それどころか、元日(New Year’s Day)の翌日の1月2日から仕事が始まり、大学なども、学校によっては1月2日から授業が始まります。
実際のケースをみてみましょう。
医学を勉強しているわたしの友人の場合は、1月2日から大学で授業が始まり、年末年始に休めたのは12月24日のクリスマス・イヴ(Christmas Eve)の午後と、クリスマス(Christmas Day)当日のみでした。
祝日が多い日本で生まれ育ったわたしからすると、驚くばかりでしたが、その友人によると、アメリカでは特に珍しいことではないとのことでした。
アメリカの祝日制度
ひとくに「祝日」といいますが、アメリカ合衆国の祝日には、大きくわけてふたつの種類があります。
ひとつは連邦政府が法律で定める、連邦の祝日(Federal Holidays)です。そしてもうひとつは、各州の州政府が定める祝日(State Holidays)です。
「連邦の祝日」であるFederal Holidaysが日本の「国民の祝日」に相当し、アメリカの祝日の数は年間11日あります(2024年時点で)。
州が定める「州の祝日」であるState Holidaysは州によって異なるので、たとえば州を超えて移動したときには、出発した州と到着した州で休みが異なる、ということも起こります。
「祝日」が休みとは限らない
さらに不思議なことは、「国民の祝日」のFederal Holidaysでありながら、企業や学校のすべてがお休みになるとは限らない、ということです。
たとえば、毎年10月第2月曜日の「コロンブス・デー」(Columbus Day)は、国全体の祝日であるFederal Holidaysのひとつです。日本で言うところの「国民の祝日」に該当しますが、わたしがアリゾナ州で通っていた学校は通常授業でした。レストランなどのお店も通常営業のため、祝日の雰囲気がまったくありません。
このように、アメリカでは祝日の位置づけが日本とはかなり異なります。
働き過ぎのアメリカ人?
日本・アメリカの働き方の違い
「国民の祝日」の数ですべてを判断することはできませんが、わたし個人は、日本には、年に複数回の大型連休があってもよいのではないかと思っています。日本の会社では日頃から残業も多く、有給消化率が低いこともあり、あまりにも働きすぎる印象があるからです。
こういう日本の働き方に対して、アメリカでは夕方の5時がきたら一斉に仕事を切り上げるので、日頃から自分自身の自由な時間や、家族と過ごす時間は確保しやすい印象があります。
そのため、大型連休がなくとも、なんとか休む時間を確保できているのかもしれません。
変わるアメリカ人の働き方
しかし、アメリカの労働環境も、日本同様に変わりつつあるようです。
24時間つながるインターネットの影響
インターネットの発達により、常に世界中とつながるようになってからは、都市部の金融機関やECサイト系の小売店などは深夜まで残業していることが当たり前になってきています。
わたしがアリゾナで通っている学校のビジネスのクラスの先生は、医療薬を開発する会社に勤めていました。ある薬品を独占的に取り扱うほどの成功者です。インターネットが発達した結果、常に注文が入り、商材をやりくりする必要が発生してしまい、その先生は12時間労働が常態化してきたと話していました。
さらに、アメリカ国内に存在する時差も、長時間労働になる方向に影響を与えいます。
広大な、日本の約26倍の面積のアメリカでは、国内でも時差があり、本土だけでも4つのタイムゾーンがあります。
- 東部標準時間(Eastern Standard Time: EST)
- 中部標準時間 (Central Standard Time: CST)
- 山岳部標準時間(Mountain Standard Time: MST)
- 太平洋時間(Pacific Standard Time: PST)
アリゾナ州は「山岳部標準時間」のタイムゾーン(時間帯、time zone)にありますが、「東部標準時間」のニューヨークとは2時間の時差があります。
アリゾナの早朝時間には、すでにニューヨーク市場が動きだしているため、平日は特に大変だといいます。そんな毎日を過ごしていると、「めったにない祝日に一息つけるのが、本当にうれししい」のだそう。
わたしが、日本の祝日の日数や大型連休の話をしたところ、先生はびっくりした表情をしながら、日本の祝日制度をうらやましがっていたのが印象的でした。
わたしの個人的な観察では、人生をリラックスして生きているように見えるアメリカ人にも、日本人同様に猛烈に仕事をしている人はかなりの数、確実に存在しています。
そういう意味では、働きすぎといわれる日本は祝日が多く、国全体が一斉に休む連休も多いため、まだマシなのかもしれませんね。
代表的な祝日とその過ごし方
アメリカの祝日は、そもそも貴重な休みの機会です。このような社会的背景を受けてなのか、それぞれの「祝日の過ごし方」というものが存在します。
ここでは、代表的な「国全体の祝日」を紹介します。日本には存在しない祝日も少なくないため、ぜひアメリカの社会や文化、歴史を知るための参考にしてください。
1月1日 New Year’s Day
日本の「元日」に当たります。
日本では「さあ、気持ち新たに!」となる元日ですが、アメリカには日本のような「お正月」という概念がありません。1月1日は日本と異なり、さほど盛り上がらないということを知っておくといいでしょう。
祝日ではあるものの、アメリカではごく普通の休みの日で、ひとによっては、年末に飾ったクリスマスツリーの片づけをしたりして過ごす程度です。
ニューヨークなどの大都市では、12月31日の夜からカウントダウン・イベントなどが開催され、年越しが盛り上がります。けれども、わたしが住んでいたアリゾナ州では、特に何事も起こることなく、静かに過ぎて行く祝日でした。
在アメリカ日本人コミュニティの「お正月」
ただし、アメリカの大きな都市には必ずある、「日本人会」のようなコミュニティでは、New Year’s Dayにはお餅つきをしたり、おせち料理を作って集まるなど、日本式に過ごします。アメリカにいても、日本と同じように年明けを迎えたいというひとは、近くの日本人コミュニティを探すのもいいかもしれませんね。
ちなみにわたしは、年始をハワイで過ごした経験があります。オアフ島には、1906年(明治39年)にできた出雲大社(出雲大社ハワイ分院)があり、元日から多くの日系の家族が「初詣」に訪れていました。やはり日本式のお正月は、新年に向けて気持ちを切り替える、よい機会だと感じました。
1月の第3月曜日 Martin Luther King Jr.’ S Birthday
1月16日は「マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師」の誕生日です。
今よりもはるかに黒人(アフリカ系アメリカ人)差別が激しかった時代に、キング牧師は数々の差別を受けました。そして、1950年代から1960年代にかけてアメリカで広がった、公民権運動(Civil Rights Movement)の指導者になったのです。
アフリカ系アメリカ人により、1950年代なかばから1960年代なかばにアメリカで展開された、差別の撤廃と法の下の平等、市民としての自由と権利を求める社会運動。-「公民権運動」小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)
人種差別撤廃のための「ワシントン大行進」
1963年は、第16代大統領のエイブラハム・リンカーン(Abraham Lincoln)が南北戦争(American Civil War)中に発した1863年の奴隷解放宣言(Emancipation Proclamation)から100年の節目に当たる年でした。
この年の8月28日、アメリカ合衆国の首都ワシントンDC(Washington, D. C.)で20万人を超える人びとが、黒人差別の即時撤廃を求めて集まりました。この「ワシントン大行進」で行われたキング牧師の演説が、かの有名な “I have a dream…”(わたしには夢がある)です。おそらく日本人でも、どこかでこの一節を聞いたことがあるのではないでしょうか。
I have a dream that my four little children will one day live in a nation where they will not be judged by the color of their skin but by the content of their character.
(わたしには夢があるのです、わたしの4人の小さな子どもたちがいつか、肌の色ではなく、人柄で評価されるような国に生きるようになることを)
Martin Luther King I Have a Dream Speech – American Rhetoric
単に人種差別に反対するだけでなく、さまざまな民族が融和して暮らす未来を訴えたスピーチは、多くのアメリカ人の心を打ちました。その結果、1964年には公民権法が制定され、キング牧師は平和的な運動を成功させた功績を認められて、ノーベル平和賞(Nobel Peace Prize)を受賞しました。現代アメリカを代表する人物といえるでしょう。
キング牧師は、1968年に遊説先のテネシー州で暗殺されてしまいました。しかし、アメリカにおける差別廃止に貢献したキング牧師の業績を忘れないために、キング牧師の誕生日を記念して、1月の第3月曜日は「連邦の祝日」に制定されました。
「キング牧師の誕生日」は日本の「国民の祝日」に相当する日ですが、ほとんどの企業や学校は休みではなく、市中も平日同様です。
1月20日 Inauguration Day(4年に一度)
アメリカ合衆国の大統領(President of the United States of America)は国の元首です。アメリカでは4年に一度、大統領選挙が行われて、次期大統領を選出します。
合衆国大統領就任式(United States presidential inauguration)は、大統領選挙があった翌年の1月20日に行われることになっていて、4年に一度の「就任記念日」は祝日と定められています。
2021年に第46代大統領に就任したジョー・バイデン大統領(Joseph Robinette Biden Jr.)は退任が決まっていて、2025年1月20日には、ドナルド・ジョン・トランプ氏(Donald John Trump)が第47代大統領に就任することが予定されています。
トランプ氏はバイデン大統領の先任で、第45代大統領を務めているので、これが二度目の就任式になります。
合衆国大統領の任期は4年で、新しく選ばれるか、再任の場合も投票によって国民の審判を受けます。合衆国憲法の規定により、2期を超えることはできないので、最長で2期8年を務めます。
バイデン大統領の前任の、第44代バラク・オバマ(バラク・フセイン・オバマ2世、Barack Hussein Obama II)大統領は、2009年に就任し、2013年1月20日に2度目の大統領就任式を経て、2期8年を務めています。
大統領就任式
新大統領が就任する大統領就任式は、アメリカの首都ワシントンDCの、合衆国議会議事堂 (United States Capitol)で行われます。合衆国憲法の規定により、新大統領は、合衆国最高裁判所長官(Chief Justice of the United States)を前に宣誓を行います。
I do solemnly swear (or affirm) that I will faithfully execute the Office of President of the United States, and will to the best of my Ability, preserve, protect and defend the Constitution of the United States.
(「私は合衆国大統領の職務を忠実に遂行し、全力を尽して合衆国憲法を維持、保護、擁護することを厳粛に誓う(又は確約する)」
この宣誓の後に、新大統領による就任演説が行われます。
2月の第3月曜日 Presidents’ Day
毎年2月の第3月曜日は「大統領の日」という「連邦の祝日」です。英語では「大統領の」が複数形のPresidents’ になっています。
「大統領の日」は、初代のアメリカ合衆国大統領ジョージ・ワシントン(George Washington)の誕生日、2月22日を記念するものでした。ワシントンは1732年にヴァージニア植民地(現在のヴァージニア州)で生まれています。
米国国の政治家。初代大統領(1789年―1797年)。
富裕な農園主で,フレンチ・インディアン戦争で功績をあげた。
1775年アメリカ独立革命が始まると革命軍の司令官に選ばれ,戦争を勝利に導いて国民的英雄となった。
1787年の連邦憲法制定会議の議長を務め,憲法の発効とともに,全国民的な支持により大統領に選ばれ,彼自身の威信によって合衆国政府の権威の確立に貢献した。
1885年に「連邦の祝日」に制定され、現在でも正式に「ワシントン誕生日」とよぶことがあります。
「大統領の日」にはその後、同じく2月に生まれた第16代大統領エイブラハム・リンカーンの誕生日を祝う要素が加わりました。リンカーン大統領には奴隷解放などの重要な業績があり、アメリカではもっとも尊敬されている人物のひとりです。
アメリカ合衆国第一六代大統領(在任一八六一‐六五)。
ケンタッキーの農民の子。
一八六〇年、共和党から大統領に当選。
南北戦争を指導して勝利を得、民主主義の伝統と連邦制を守った。
人道主義に基づき奴隷制度廃止を主張、六三年に奴隷解放宣言を行なった。
同年のゲティスバーグの演説で「人民の、人民による、人民のための政治」という民主主義の原理を示すことばを残した。
六五年、南北戦争終結直後に暗殺された。
「連邦の祝日」でこそありませんでしたが、「リンカーン誕生日」を祝日にしている州もあったからです。
「大統領の日」は「連邦の祝日」ですが、休業日にしている企業は全体の3分の1程度といわれ、休日の雰囲気はあまりない祝日です。
5月の最終月曜日 Memorial Day
毎年5月の最終月曜日はMemorial Dayで、日本語にすると「戦没者追悼記念日」に当たる、国民の祝日です。
「戦没者追悼記念日」は、もともとはアメリカ南北戦争で命を落とした戦没将兵(指揮官・兵士)を讃えるための祝日でした。第一次世界大戦(1914~1918)以後は、アメリカが関与した戦争・軍事行動で亡くなった、すべてのひとを讃える日として考えられています。
アメリカ南北戦争
1861年から1865年にかけてアメリカで起こった内戦で、アメリカを語る上で、たびたび登場する歴史的なできごとです。当時、工業化が進む北部と、大農園を主体とする農業経済が中心の南部は、政治・経済的な利害から対立を深めていました。
1860年の大統領選挙でエイブラハム・リンカーンが第16代大統領に就任すると、リンカーンがかねてから奴隷制の拡大に反対していた経緯から、黒人奴隷の労働なしでは立ち行かない南部の11州はアメリが合衆国を脱退して「アメリカ連合国」(Confederate States of America; CSA)を結成、北部23州と戦争になりました。
北部は人口も多く、工業力もあったことから装備も優れていて、戦況を優勢に進めました。1865年4月、現在のバージニア州(Commonwealth of Virginia)の「アポマトックス・コートハウスの戦い」において、南部連合軍を率いたロバート・エドワード・リー(Robert Edward Lee)将軍の降伏により、南北戦争は終結しました。
奴隷制度は廃止、南部諸州は再びアメリカ合衆国に併合されましたが、南北両郡の戦死者は合計約 62万人ともいわれ、戦闘に巻き込まれた民間人も大勢死傷し、深い傷跡を残しました。
アメリカ南北戦争は”American Civil War”といいますが、アメリカ史上では唯一の内戦のため “the Civil War “ともよばれます。南部では “War between the States “(諸州間の戦争)というよび方をするひとも多いので、覚えておいてよいでしょう。
Memorial Dayは月曜日の祝日で、土日と合わせて3連休になるため、多くのひとが休暇をとりやすい、貴重な週末です。レストランやお店なども変則的な営業スタイルになるため、うっかりいつもの感覚でレストランに行ったら休みだった、ということも起きやすいので、注意が必要な週末です。
6月19日 Juneteenth
2021年に新しい祝日、Juneteenthが制定されました。アメリカ合衆国における奴隷解放を記念する日で、連邦の祝日に定められています。見慣れない単語ですが、Juneteenthは「ジューンティーンス」と読み、「6月」(June)と「19日」(nineteenth)を合わせた造語です。
前述の通り、リンカーン大統領は南北戦争中の1963年に奴隷解放宣言を公布しました。しかし、宣言によって奴隷に関連する問題のすべてが解決したわけではなく、奴隷制度が根強く残っていた州もありました。
1865年6月19日は、奴隷制度が残っていたテキサス州で、廃止が公布された日です。
Juneteenthは「連邦の祝日」ではあるものの、通常どおり営業する企業が多く、平日とはあまり変わらない印象です。
7月4日 Independence Day
毎年7月4日は、アメリカ合衆国の独立記念日です。
珍しくアメリカ全体で盛り上がる祝日のひとつで、夜にはいたるところで花火が打ち上げられます。アメリカ西海岸にあるカリフォルニア州(State of California)のサンディエゴなどでは大きな花火大会が開催されますが、大勢のひとが集まるために駐車場所が見つからず、人ごみで身動きがとれないほどに混雑します。
アメリカでは独立記念日を”Independence Day”と表現せずに、”4th of July” (フォースオブジュライ、7月4日という意味)とよぶほうが一般的です。
休日が開けた学校や会社では、至るところで
で始まるやりとりが聞こえてきます。
1989年に公開された映画『7月4日に生まれて』(Born on the Fourth of July)は、ベトナム戦争( Vietnam War)に参戦して負傷した帰還兵の生涯をトム・クルーズが演じて話題になりました。主人公はアメリカを象徴する7月4日、つまりアメリカ独立記念日に生まれた人物です。愛国心から志願して軍に入隊した若者が、戦場であるベトナムで体験したことを経て反戦運動家になっていく、元海兵隊員ロン・コーヴィックの自伝的小説がもとになっています。
7月4日が独立記念日になった理由
アメリカが7月4日に独立記念日を祝うのは、1776年のこの日に独立宣言が発表されたからです。
17世紀、イギリスは北アメリカの東海岸に植民地を建設しました。「建国13州」ともよばれる、現在のアメリカ合衆国の始まりになる、北米13植民地(Thirteen British Colonies in North America)です。
当時イギリスは、植民地をめぐるフランスとの七年戦争で財政が悪化していて、歳入増のために、北米植民地に対して課税する印紙税法(Stamp Act)など、厳しい政策を取ります。これに反発した13州は大陸会議(Continental Congress)を結成、1975年からイギリスとの戦争状態に入ります。これをアメリカ独立戦争(United States War of Independence)といいます。
戦況は植民地軍にとって苦しいものでしたが、司令官ジョージ・ワシントン(のちのアメリカ合衆国初代大統領)の指揮のもとに戦い、フランスの支援を取りつけるなど、次第に優勢になります。1776年7月4日、大陸会議はアメリカ独立宣言(Declaration of Independence)を発表して、イギリスからの独立を宣言します。
独立を認めようとしないイギリスとの戦争は、さらに1783年のパリ条約まで続くのですが、同年、この日をアメリカ合衆国建国の起源として記念するために、13州は「独立記念日」に定めました。連邦政府の祝日になったのは1941年からです。
独立記念日を迎えると、アメリカには本格的な夏が訪れます。独立を記念してアメリカ全土で行われるざまざまな行事は、夏の始まりを象徴するものでもあり、個人的には一年の上半期で一番盛り上がる祝日だと思っています。
アメリカの独立に関連して、「合衆国建国の父」としてよく登場する人物のひとりとして、ベンジャミン・フランクリンがいます。次の記事は、フランクリンの業績と生涯を紹介していて参考になります。
9月の第一月曜日 Labor Day
9月の第一月曜日は、日本語でいうところの「労働者の日」です。「連邦の祝日」ですが、アメリカでは、休みの企業もあれば、通常営業の企業もあるなど、個々に扱いが違ってバラバラな印象があります。
ちなみにわたしが通っていた学校はお休みになりましたが、別の学校は通常授業だったようで、教育機関でもばらつきがあるようです。
そういうわけで、「ひとによっては休む日」ではありますが、土曜・日曜に月曜日の祝日を合わせて3連休が取りやすくなるため、主要道路や空港は混雑する傾向があります。旅行や出張などでアメリカに滞在する場合は、注意が必要です。
10月第二月曜日 Columbus Day
ほぼ平日として考えてよい「連邦の祝日」です。もともとはジェノヴァ生まれのイタリア人航海者、クリストファー・コロンブス(Christopher Columbus)がアメリカ大陸を「発見」したことを記念する日でした。
アメリカに移り住んだイタリア系の人びとが、コロンブスの業績を顕彰しようと19世紀の終わりごろから催しをするようになったといわれています。
アメリカ合衆国で連邦の祝日になったのは1937年のことで、第32代大統領のフランクリン・ルーズベルト(Franklin Delano Roosevelt)が10月12日を「コロンブス・デー」と定めました。現在は、10月の第2月曜日に変更されています。
変わるコロンブスへの評価
先述の通り、当初コロンブスはアメリカ大陸に最初に到達した、発見者とされていました。
しかし、彼が大西洋を西に向かってインドに到達したと考えていたのは誤りでバハマ諸島であったことや、コロンブスよりも早くアメリカ大陸に住んでいた人びとがいたこと、そしてこれら先住民にとってはコロンブスの到達と入植は侵略に相当するものであったこと、などから歴史的な評価が変化しています。
ここ数十年間、コロンブス・デーをめぐって大きな議論が起きている。
アメリカ先住民をはじめとする各団体が、コロンブスがアメリカ大陸を発見したという主張に異議を唱え始めたのである。
彼らは、アメリカに最初に来た真の発見者はコロンブスではなくアメリカ先住民であるということを認めるべきだと提案した。彼らは、その日は和解の精神の下にアメリカ先住民を祝福すべき日だと考え、州政府や地方自治体に正式な「アメリカ先住民の日」を設けること、またはコロンブス・デーをアメリカ先住民の日とすることを求める嘆願書を提出した。
出所:コロンブス・デー 10月第2月曜日 |About THE USA|アメリカンセンターJAPAN
こうした動きを受けて、州によっては「コロンブス・デー」を「アメリカ先住民の日」に置き換えたり、あるいは「コロンブス・デー」行事のなかにアメリカ先住民の歴史や文化を知る事柄を含めたり、「コロンブス・デー」とは別に「アメリカ先住民の日」を設けたりするようになりました。
Columbus Dayにはほとんどの企業や学校、レストランなどは通常営業です。事実、Columbus Dayを休日にしている企業は、アメリカ全体のほんの10パーセント程度といわれています。
アメリカにおけるColumbus Dayは、「連邦の祝日」でありながら休みではない、不思議な一日です。
11月11日 Veterans Day
毎年11月11日は、日本にはない祝日のひとつ「退役軍人の日」で、英語では「ベテランズ・デー」(Veterans Day)といいます。
Veteranは、日本語では「経験を積んだひと」や、「その分野に熟達しているひと」という意味で使われます。しかし、アメリカ英語では主に、退役軍人を指して使われます。
「アメリカのために戦ってくれたひとたち」を讃えるための特別な日ですから、アメリカでは、至るところでミリタリーのひとたちに感謝・賞賛するイベントが開催されます。
学校では、街でベテランのひと(退役軍人)たちを見かけた際には「お礼を言うように」と言われます。日本では少し考えられないことですが、アメリカにおいては軍人は「ヒーロー」(英雄)なので、このような習慣があるのです。
11月11日に退役軍人を讃える理由
「退役軍人の日」の起源は、第一次世界大戦までさかのぼります。
大戦中にドイツが降伏し、休戦条約に調印した日(1918年11月11日)を記念して、旧連合国(Allies)の国ぐには、さまざまな追悼行事を行なっています。イギリスと英連邦諸国が「戦没者追悼の日」(Remembrance Day)を設けていますし、フランスやベルギーも「第一次世界大戦終結記念日」として祝日に制定しています。
実際には、翌1919年にフランスで開かれたパリ講和会議でのベルサイユ条約締結によって、第一次世界大戦は正式に終結しました。
第28代大統領ウッドロー・ウィルソン(Thomas Woodrow Wilson)は、1919年11月の休戦記念日宣言で、このようにスピーチしています。
To us in America, the reflections of Armistice Day will be filled with solemn pride in the heroism of those who died in the country’s service and with gratitude for the victory, both because of the thing from which it has freed us and because of the opportunity it has given America to show her sympathy with peace and justice in the councils of the nation.
(米国に住むわれわれにとって、休戦記念日Armistice Dayへの思いは、国のために死んでいった人々の勇敢な行動に対する厳粛な誇りと、勝利への感謝に満ちたものである。それによりわれわれは解放され、そして米国は、平和と正義を支持する姿勢を国家の議会で表明する機会を与えられたのである。)
出所:退役軍人の日 11月11日 |About THE USA|アメリカンセンターJAPAN
しかし、多くの被害を出した第一次世界大戦は「最後の戦争」にはなりませんでした。
アメリカ合衆国が「退役軍人の日」を祝日に制定したのは1938年、つまり第二次世界大戦勃発の前の年です。
それから16年後、第二次世界大戦が終結後の1954年になって、第34代大統領アイゼンハワー(Dwight David Eisenhower)がこの「連邦の祝日」を「退役軍人の日」に変更しました。
現在では、第一次世界大戦だけでなく、アメリカがかかわったすべての戦争・軍事行動に参加した軍人を追悼、感謝を捧げる日という位置づけになっています。
なお、この日は「連邦の祝日」なのですが、次に紹介する感謝祭(サンクスギビング)などの休暇が近いため、休みを取らない企業や学校も多くなっています。
11月第四木曜日 Thanksgiving Day
毎年11月23日は「感謝祭」(Thanksgiving Day)です。
アメリカ全土が休暇期間に入り、幹線道路は渋滞、空港も大混雑します。日本でも知られるようになった「ブラック・フライデー」や「サイバー・マンデー」などがある週です。
どこの家庭でも、家族全員が集まり、七面鳥(ターキー;turkey)の丸焼きなどの伝統料理をお昼過ぎから楽しむのが一般的です。
感謝祭に関連する催し
感謝祭翌日の金曜日 Black Friday
感謝祭翌日の金曜日はBlack Friday(ブラック・フライデー)とよばれます。Amazonなどの大企業のセールで、日本でもすっかりおなじみになった感がありますね。
家族で過ごす感謝祭の翌日は、祝日にはなっていませんがアメリカ人の多くは休暇を取ります。家族で食事や買い物を楽しむことも多い日なので、この日をめがけて在庫一掃のための安売りが行われます。
もともとのBlack Friday「暗黒の金曜日」は、セールとは関係のないものでしたが、時を経て意味合いが変わってきたようです。
The earliest known example of “Black Friday” to refer to the day after Thanksgiving is from an article entitled “Friday After Thanksgiving” in the November 1951 issue of Factory Management and Maintenance. The article (posted by Taylor-Blake here) was about worker absenteeism on that day, rather than the shopping rush.
(感謝祭の翌日を「ブラック・フライデー」とよんだ、もっとも古い例は、雑誌『工場の経営と管理』(Factory Management and Maintenance)1951年11月号に掲載された「感謝祭翌日の金曜日」(Friday After Thanksgiving)という記事だ。この記事(Taylor-Blakeがここに掲載)は、買い物ラッシュというより、労働者の欠勤について書かれている。)
出所:The Origins of “Black Friday” : Word Routes : Thinkmap Visual Thesaurus
感謝祭翌週の月曜日 Cyber Monday
アメリカ版の歳末大売出し「ブラック・フライデー」に続き、オンライン・ショッピングの店舗では、Cyber Monday(サイバー・マンデー)とよばれる一大セールがあります。
感謝祭休暇を終えて自宅や職場に戻ったびとが、インターネットを使ってオンライン・ショッピングを楽しむので売り上げが伸びるためで、近年は実店舗の「ブラック・フライデー」に合わせる動きがあります。
個人的な印象としては、Thanksgiving Dayを境に、アメリカは年末モードになる気がしています。
日本の例にたとえるなら、クリスマスが終わると、日本の会社は「仕事納め」や忘年会シーズンが始まって、一気に「年の瀬」が近づくのに似ている感じです。
アメリカ人にとってThanksgiving Dayは、「今年も終わりだなあ」と感じる祝日なのではないでしょうか。
アメリカのThanksgiving Dayには、アメリカ合衆国建国以前にさかのぼる、長い歴史があります。サンクスギビングの歴史や、サンクスギビングの日の過ごし方などを知りたい方には、次の記事が役立ちます。
12月25日 Christmas Day
Thanksgiving Dayが終わったと同時に、街の雰囲気はクリスマスに一変します。クリスマスはアメリカでもっとも盛り上がる祝日でしょう。
クリスマス当日は「イエス・キリストが生まれた日」として、キリスト教徒にとっては重要な祭日ですので、レストランやショッピングモールすらもお休みになることが多く、Thanksgiving Day同様に、家族で食卓を囲んで過ごすのが一般的です。
感謝祭後に始まるクリスマス期間には、クリスマスツリー(Christmas tree)やギフト、カードなどが店頭に並びます。
お店で流れている音楽も、いっせいにクリスマスソング(Christmas song)に切り替わります。
- Joy to the World! The Lord is come(もろびとこぞりて)
- Santa Claus is coming to town(サンタが街にやってくる)
- I saw mommy kissing santa claus(ママがサンタにキスをした)
などは、クリスマス期間によく耳にするクリスマスソングです。
どこに行ってもクリスマスモード全開なので、いささか食傷気味で、日本人のわたしは少し疲れを感じてしまうほどに盛り上がります。
翌日の12月26日には、それまで売られていたクリスマス・ギフトなどすべてが一斉に半額セールになることから、意外に買い物しやすいシーズンでもあります。
まとめ
アメリカの祝日は数こそ10日間あるものの、実際には休みにならないものも含まれていて、実生活の上では正味5日間程度しか休みになりません。意外なことに、「働きすぎ」といわれる日本のほうが祝日や大型連休には恵まれています。
そういうわけで、とても貴重なアメリカの祝日は過ごし方がほぼ決まっていて、いずれも家族と過ごすのが一般的です。
ここまで紹介してきたように、アメリカの祝日はアメリカの歴史や文化を反映したものといえるので、いつ休みになるのかだけでなく、なぜその日が祝日として定められたのかも、ぜひ気にとめてみてください。