英語の仮定法は非常に独特な表現が多く、初心者には理解が難しいと言われています。時制で学んだ過去形や過去完了形などを生かす方法が、他の文法分野とは異なるため、戸惑うことが少なくありません。仮定法を理解するには、まず直説法との区別が重要です。直説法との違いに触れながら、仮定法の理解に役立つ解説をします。

仮定法と直説法の違いに注目しましょう

日本語では、「もし~ならば」という形の文章がすべて仮定を表すと言っても問題はありません。しかし、英語では、If節を用いて「もし~ならば」という意味を表す文であっても、必ずしも仮定法とは限らないのです。英語では、現実にありえないことや、事実に反することのみについて、仮定法を使います。たとえば、「もし人間に翼があったら」や「この世に戦争が無かったら」といった非現実的な内容の文で、仮定法を用いるのです。逆に、「明日雨が降れば」など、現実にありうることならば、仮定法ではなく、直説法を使用します。

仮定法と直説法の形は似ていますが、動詞の時制の使い方に大きな違いがあるので注意しましょう。直説法では現実と一致した時制を使う一方、原則として仮定法は現実より1段階前の時制を用いることになっています。すなわち、仮定法では、現在の事項については過去形を、過去の事項については過去完了形を使うという変則的な習性があるのです。時制ごとにどんな意味の違いがあるのか検証すると、仮定法の役割が明らかになるでしょう。

仮定法過去と直説法現在の区別

If節を用いるパターン

「今もし~していたら」という文章を作る場合、現実にありうることと、そうでない場合とで、時制が変わってきます。

Aさん
If you have small change, will you lend it to me?
訳)もし今君が小銭を持っていたら、貸してくれないか?

という風に、現在時制を用いた文章になるでしょう。逆に、非現実的な仮定であれば、仮定法過去を用いて下記のようになります。

 

Aさん
If I had wings, I would fly there.
訳)もし私に翼があったら、そこまで飛んでいくだろう

現在のことなのに、haveとwillが過去形のhadとwouldになることが仮定法過去の特徴なのです。ただし、If節の文に過去形の動詞が使われていたら、ただちに仮定法過去と決まるわけではありません。過去のことであっても、事実が判然とせず現実にありうることなら、直説法過去を用いることがあるからです。

 

Aさん
If she heard about the truth, she will trust you.
訳)彼女が既に真実を聞いているなら、君を信じてくれるだろう

上記の場合は、彼女が真実を聞いたかどうか本人に問うまではわからないため、現実にありうる事項と言えます。したがって、仮定法は使えません。この文章のheardは現実の時制に合わせた過去形なので、直説法過去と言うのです。

現在抱いている願望を表す場合の仮定法過去と直説法現在

「今こうだったらいいのになあ」と言う風に、現在起こりえない事象や事実に反する願望を表現する場合、wishを伴う仮定法過去を用います。

 

Aさん
I wish there were no war.
訳)戦争が無ければ良いのになあ

この文章が、典型的な仮定法過去と言えるでしょう。be動詞の場合、単数形の主語でもwasではなくwereが多用されることも、仮定法過去の特徴と言えます。ここで注意すべき点は、wishedという過去形に時も、時制の一致が生ぜず、wereはそのままでhad beenにならないことです。現実にありうることであれば、hopeを伴う直説法現在を使います。

 

Aさん
In my childhood, I wished there were no war.
訳)私は子供の頃、戦争など無ければ良いのにと思った

Aさん
I hope she is a nice person.
訳)(まだ会ったことがないけど)彼女がいい人だといいな

仮定法過去完了の使い方

If節を用いる場合

仮定法過去完了は、もはや取り返しがつかない過去の事項について、後悔の念を述べる時などに多用します。

Aさん
If I had been born in a rich family, I would have been better educated.
訳)もし金持ちの家に生まれていたら、もっとちゃんとした教育を受けられたのに

副詞節で過去完了形を使っています。主節ではwouldのような助動詞の過去形を用いることがセットになります。ただし、主節は必ず助動詞+have+過去分詞という組み合わせになるわけではないので気を付けましょう。

Aさん
If I had been born in a rich family, I would make friends with rich men.
訳)もし金持ちの家に生まれていたら、裕福な男性と友だちになれるのに

上記のように主節に完了形を使わないこともあるのです。直説法には過去完了形を用いるパターンがなく、先述したように、現実に反しない過去の事項について直説法過去が使われます。

願望を表現する場合

「あの時こうすればよかった」という内容を表現するときは、I wishと過去完了形を組み合わせた仮定法過去完了を用います。wishedに変わった際に、時制の一致を心配する必要はありません。

Aさん
I wish I had studied more as a student.
訳)学生の頃もっと勉強すればよかった

Aさん
When I graduated from college, I wished I had studied more.
訳)もっと勉強しておけばよかったと、大学を卒業する時に思った

仮定法現在とは?

提案・要求などの動詞に続くthat節の中で用いられる仮定法現在

仮定法現在は、これまでのパターンとは少し異なる型式です。demandやrecommendなど、要求や提案を示す動詞の目的格として使われるthat節の動詞が常に原形になるという法則なのです。

Aさん
I demand (that)he behave well.
訳)彼がお行儀よくすることを求める

Aさん
I demanded he behave well.

主節の動詞が過去形になっても、時制の一致が起こらない点が、仮定法現在の特徴です。I demand he should behave well.というようにshouldを入れる国もありましたが、主流とは言えないでしょう。

必要・重要などを表す形容詞を用いた形式主語構文に現れる仮定法現在

It is necessary/important that~といった構文では、仮定法現在を用いることがあります。

Aさん
It is necessary that we be prepared for the disaster.
訳)災害に備えることが必要だ

上記のように、that節の動詞に原形を用いるのです。この場合、beの前のshouldが省略されたと考えれば理解しやすいでしょう。仮定法現在という名称とはいえ、現在形ではなく原形を用いる点に注意しなければなりません。仮定法現在は、直説法現在とは全く異質の形なのです。

未来に関する仮定法と直説法

仮定法は、上記の仮定法現在・仮定法過去・仮定法過去完了がメインであり、仮定法未来というジャンルとして特に取り上げていない文法書が少なくありません。ただし、未来の事項に関する仮定法と直説法の区別は厳格です。直説法の場合、If節では未来のことであっても、現在形を用いることになっています。「明日雨が降ったら」という際には、If it will rain tomorrowではなく、If it rains tomorrowと言います。hopeとthat節を組み合わせるパターンでは、下記のように未来を示すwillといった助動詞が必要です。

Aさん
I hope he will be fine.
訳)彼が元気になるといいね

仮定法未来として用いられる表現法としては、were toと条件節のshouldが挙げられるでしょう。

were toの使い方

Aさん
If the ice on the ocean in the world were to melt, most of the land would be under water.
訳)もし世界中の海氷が解氷したら、陸地のほとんどが水没するだろう

Bさん
Were I to visit the Mars, I would search for a creature.
訳)火星に行くようなことがあれば、生物を探すつもり

 

Aさんの表現は、未来についての仮定表現ですが、やや文語的と言えるでしょう。Ifを省いて倒置形に変えてBさんのような形になることもあります。

shouldを用いた仮定法未来表現

実現可能性が非常に低い事象に関して、If節とshouldをセットで使うことがあります。このshouldは「万一のshould」とも呼ばれ、有名な例文としては下記となります。

 

Aさん
If I should fail, I would try again.
訳)万一失敗しても、また頑張ります

Aさん
Should I fail, I would try again.

言い換えられる点に着目しましょう。

仮定法と直説法の違いを認識し、時制の設定に注意しましょう

仮定法は直説法と区別が難しい場合もあり、どんな場面で用いるか明確に理解しておく必要があります。If節のほか。as ifの節でも用いられるなど、応用範囲が広い分野だと言えるでしょう。また、Ifを省略して倒置を使うといった変則的なパターンもあり、奥が深いジャンルです。関係詞の継続用法とともに英文法の難しい分野である仮定法を克服して、実践的な英語力を高めましょう。