パラリンピック競技種目であるパワーリフティングについて、英語学習の視点から解説していきます。パワーリフティングはバーベルを持ち上げる競技の総称として知られていますが、この記事ではパラリンピック種目であるパワーリフティングの方法に特に焦点を当て、その英語表現の成り立ちや例文・関連用語についても解説していきます。
パラリンピック競技のパワーリフティングとはどんなスポーツ?
パワーリフティング(powerlifting)は、オリンピックには採用されていないパラリンピック独自の競技で、立位で競技を実施できない選手が出場の対象です。通常のパワーリフティングは、スクワット、ベンチプレス、デッドリフトの三種目の総重量を競いますが、パラリンピックで実施されるパワーリフティングは、仰向けの状態でバーベルを持ち上げるベンチプレス型の方法が採用されています。その他のパラリンピック独自の特徴としては、競技者は地面に足を踏ん張らずベンチ上に下半身をベルトで固定し、純粋に上半身のパワーのみを利用してバーベルを持ち上げます。腰や下半身に障害を持つ選手が競い合うスポーツのため、より公平な比較が実現できるようにルール設定されているのです。監督やコーチは、パワーリフティングもしくはウエイトリフティングの競技経験者が務めるケースがほとんどです。
オリンピックの重量挙げ(ウエイトリフティング)との違いは?
ここで、とある疑問が出てきた読者もいるのではないでしょうか。「オリンピックでもいつも重量挙げの競技やってるよ?」と感じた人がいるかもしれません。確かにオリンピックでは昔から日本語で「重量挙げ」と呼ばれる競技が続いていますが、この競技の正式名称はウエイトリフティング(weightlifting)と定められています。「パワー」と「ウエイト」だけの違いなので、気付かなかった人が大半かもしれませんが、オリンピックではウエイトリフティングが競技に採用されていますが、パワーリフティングは実施されていないのが現状です。
一方、パラリンピックではパワーリフティングは行われていますが、ウエイトリフティングは行われていません。パワーリフティングはパラリンピック向け、ウエイトリフティングはオリンピック向けと捉えて問題ないです。
いずれもバーベルを持ち上げる両者は非常に似通っているものの、決定的な違いはウエイトリフティングは頭の上までバーベルを挙上しなければならない点です。さらに、東京2020大会パラリンピックのパワーリフティングでは、ウエイトリフティング同様、男女ともに体重で10階級に種目分けされますが、車いす利用の選手も義足の選手も同一のカテゴリーで競技を実施します。
訳)パワーリフティングはパラリンピック向けで、ウエイトリフティングはオリンピック向けです。
訳)ウエイトリフティングでは、選手はバーベルを頭上まで持ち上げなくてはなりません。
訳)パラリンピックのパワーリフティングはベンチプレス競技であり、選手は特別に設計されたベンチの上に横たわり、水平に重りをつけたバーを腕の長さから胸の位置まで降ろし、コントロールしながらバーを同じスタート位置に戻すことを目指します。
パワーリフティングのクラス分け
パラリンピックのパワーリフティングには、障がいの程度によるクラス分けがありません。
体重別にクラスが分かれているだけで、障害の程度は関係なく順位を競います(男女ともに10階級ずつ)。
男子
一番軽い階級 49kg級 :下限ナシ~49.0kgまでの選手がこのクラスに参加。
一番重い階級 107kg超級 :107.1kg以上で上限ナシの体重の選手がこのクラスに参加。
女子
一番軽い階級 41kg級 :下限ナシ~41.0kgまでの体重の選手が参加
一番重い階級 86kg超級 :86.1kg以上で上限ナシの体重の選手が参加
訳)パラリンピックのパワーリフティングには、障がいの程度によるクラス分けがなく、選手の体重でクラス分けされています。
パワーリフティングの歴史
パワーリフティングの歴史は、一説には第二次世界大戦当時までさかのぼり、戦争で負傷した兵士がイギリスの病院でリハビリテーションとしてベンチプレスを行っていたのが競技の原型とされています。社会復帰のためのリハビリテーション項目が、少しずつ挙上重量を競い合うスポーツへと発展していったようです。
パラリンピック競技としてのパワーリフティングは東京と縁が深く、1964年の東京大会開催時より正式競技に採用されました。ただし、その当時の競技名称は「ウエイトリフティング」とされ、脊椎損傷した男子選手のみが出場対象でした。現在の「パワーリフティング」へ呼び方が変更されたのは、1984年のニューヨーク・ストークマンデビルパラリンピックからです。2000年シドニー大会からはようやく女子選手のカテゴリーも創設され、競技人口は110カ国以上に広がりを見せています。
訳)ウエイトリフティングは1964年の東京大会でパラリンピックデビューしましたが、パワーリフティングがパラリンピック種目として初めて採用されたのは1984年大会のことでした。
訳)1984年のパラリンピックでは、パワーリフティング競技がアメリカのニューヨークで開催され、6カ国から16人の男子選手が参加しました。パラリンピックデビュー以来、パワーリフティングはすべての大会に採用されています。
In Sydney 2000, women were first allowed to compete in Paralympic powerlifting
訳)2000年のシドニー大会では、パラリンピックのパワーリフティングで初めて女性の出場が認められました。
パワーリフティングの英語表現 “powerlifting” の解説
パワーリフティングは英語では”powerlifting”と呼ばれています。文字通り、日本語のパワーリフティングは、英単語のpowerliftingをカタカナ表記したに過ぎず、英単語そのものは簡単に覚えることができるでしょう。powerliftingは、”power”と”lifting”の2つの言葉が組み合わさった構造です。”power lifting”のように別単語扱いで表記されるケースもありますが、用法として間違いではありません。ただし、特に競技・スポーツ名の意味合いを強調したければ、”powerlifting”と一塊の単語で表現する方が好ましいです。類似競技のウエイトリフティングも同様に、”weight”と”lifting”の2単語の組み合わせで成り立っており、言葉の構造自体も見事に似通っています。
パワーリフティングを構成する2つの単語を考察していくと、”power”については「力」を意味し、powerlifitingにおける肉体的・筋力的要素を象徴しています。もちろん、「パワー」という英単語のカタカナ読みも日本語の一般用語としてお馴染みです。そして “lifting”は、「持ち上げる」を表す動詞である “lift” に “ing”を付加して名詞化した表現と捉えることができます。一般動詞としての “lift”は、人が物体を下から上へ持ち上げる、引き上げるという意味合いで様々な場面で用いられる単語です。人力に限らず、機械に頼って対象を持ち上げるシーンでも使用可能で、気分的な面で下から上に向上していくニュアンスまで含んでいます。
このように競技名称パワーリフティング(powerlifting)は、シンプル且つ使用頻度の高い単語のコンビネーションで成り立っており、言葉自体に情報量が詰まったネーミングです。例えば、soccerやrugbyといったスポーツ名では、前提知識があるからこそどんな競技か瞬時に連想できますが、何も知らない人からすれば、競技名なのか、ボールを扱う競技なのかを含めて一切想像することはできません。その点、powerliftingの場合は、競技を見たことがない人でさえ「力で(何かを)持ち上げる」と漠然とイメージできてしまうところが興味深いです。特に優劣の付く比較ではありませんが、powerliftingはよりグローバル化のニーズに適応したネーミングと解釈できるのかもしれません。
パワーリフティング(powerlifting)を用いた例文
それでは、パワーリフティングの例文を紹介していきましょう。
Powerlifting is a strength sport consisting of three events in which the maximum lifting weight is competed.
訳)パワーリフティングは最大挙上重量を競う3種目から構成される力のスポーツです。
この文は、初めの段落のパワーリフティングの説明と内容的に重複します。これは、健常者対象の競技会で実施されるパワーリフティングの定義を説明した文です。
Powerlifting is one of the Paralympic Movement’s fastest growing sports in terms of participants.
訳)パワーリフティングは、参加者数の観点から、パラリンピックムーブメントにおいて最も急速に成長を遂げているスポーツの1つです。
この例文は、パワーリフティングがパラリンピック競技の中でも、際立った参加者数の増加を示している成果を表した英文です。”Paralympic Movement’s”と各単語の頭文字が大文字表記され、固有名詞寄りのニュアンスが強調されているので、日本語訳でも「パラリンピックムーブメント」といった既成の言葉としての表現を重視しました。
Para powerlifting is open to anyone with a minimum level of disability (paralysis, lower limb amputations and cerebral palsy).
訳)パラ競技のパワーリフティングは、麻痺、下肢切断、脳性麻痺などの最小限の障害を伴う人なら誰でも参加対象です。
この例文は、ニュージーランドのパラリンピック公式特設サイトより引用しました。まず、Paraと表記されているのは、 Paralympicはスペルが長く煩雑であり、専用サイトという特質上省略しても誤解を生むおそれがないため、簡易表記が用いられていると推察できます。ここではそれに対応し、和訳でも「パラ」と記載しました。
“minimum level” については障害の度合いは問わずに参加可能なことを表しています。実際の競技では、下半身はベンチに固定して力を伝達できないように条件を統一するため、以上のような表現も納得です。そして、ある程度英語学習している人は、limbの意味は「手足」と覚えているはずですが、この例文では、”lower”(下部の)と修飾されているので、文中での解釈は「下肢」切断の一択であるとわかります。
パワーリフティングの類似表現や関連用語
続いて、パワーリフティングの類義語や関連用語を確認していきましょう。
powerliftingの類似表現
類義語の代表は、文中で何度か登場したweightliftingです。厳密に言えば、示す内容は「オリンピック競技の重量挙げ」になってしまいますが、「使い方が違う」と指摘する人はほぼ皆無でしょう。しかも、言葉のチョイスを間違えたからといって、コミュニケーションに誤解が生じる可能性はほとんどありません。Paralympic’s weightliftingといった文脈で表現すれば、誰もがパラリンピックのダンベル挙上の競技だと想起できるはずです。先ほどパワーリフティングの歴史で見たように、1964年の東京大会開催で正式競技に採用されたとき、その当時の競技名称は「ウエイトリフティング」でしたね。
そして、workoutsやbodybuildingでも類似表現として代用可能です。どちらかというと、workoutsやbodybuildingのコンテンツにpowerliftingを含むという関係性ですが、workoutsなどで代用してもコミュニケーション全般に余り支障は生じません。ただし、パラリンピックなど大会での競技名を伝える場面に限っては、正式名称であるpowerliftingを使用するのがお勧めです。
powerliftingの関連語
”powerlifter”は “ing” 部分を “er” に置き換えた用語で、競技ではなくパワーリフティングの競技者を表しています。”Japan Powerlifting Association” は、公益社団法人日本パワーリフティング協会の正式な英語名称です。普段はJPAと表記される機会も多いです。”International Powerlifting Federation” は世界規模の組織である国際パワーリフティング連盟を指しています。1972年に設立された歴史ある団体で、通称IPFとして親しまれています。
英語学習を通じてパワーリフティングを知り、実際の競技も熱を込めて応援しよう
いかがでしたでしょうか。パワーリフティングに関わる英語表現を学んでいるうちに、実際のパラリンピック競技に興味が出てきた人もいるのではないでしょうか。
本記事で紹介したように、パワーリフティングはウエイトリフティング以上に純粋なパワーが試される競技と言えそうです。機会があれば、パワーリフティングの英語中継などを視聴することで、さらに関連表現のストックが広がっていくでしょう。