1992年のバルセロナパラリンピックより正式競技種目になった車いすテニス。日本の国枝慎吾選手がグランドスラムを達成するなど、ますます注目を浴びるようになった車いすテニスですが、ルールがわからないという方もいるはず。アメリカで競技スポーツとして始まった車いすテニスですから、ルールや競技でも英語が頻繁に飛び交います。車いすテニスを学びながら、一緒に楽しく英語を学びましょう。
車いすテニスの歴史
もともと車いすテニスは、障がい者のレジャーとして存在していましたが、1976年、アメリカのブラッド・パークスがアクロバットスキーでケガをして下半身不随となり、リハビリ目的で始めたことが、競技スポーツとしてのきっかけでした。その後、どんどん知名度が上がり、1988年のソウルパラリンピックで公開競技となり、1992年のバルセロナパラリンピックで正式種目になりました。車いすテニスは、22種目ある2020年の東京パラリンピックの正式種目の1つでもありますので、相変わらず注目度の高い競技種目と言えるでしょう。
車いすテニスについて
テニスの歴史は、紀元前に遡ると言われていますが、それに比べ、車いすテニスの歴史は極めて浅いと言えるでしょう。車いすテニスは英語で “Wheelchair Tennis”と言います。つまり、車いす利用者 “Wheelchair users”がプレーできるように一般のテニス(”Tennis”)を変化させたもの、それが車いすテニス(”Wheelchair Tennis”)ということになります。したがって、車いすテニスと一般のテニスでは多少の違いがありますが、コートのサイズやネットの高さ、ラケットにおいては、同じものを使用しています。
車いすテニスの種類
車いすテニスには、3種類のクラス(男子、女子、クアード)に分けられています。このクラス分けは、性別や障害の種類や程度によるものですが、各クラスには、2つの種目(シングルス戦(singles tournament)とダブルス戦(doubles tournament))があり、こうした種目は、一般のテニスと同様です。
まず男子 “Men”クラスですが、これは下肢に障害を持つ、車いすの男子選手クラスです。障害の種類は、脊髄損傷や下肢切断などさまざまです。そして女子 “Women” クラスですが、これは男子 “Men”クラスと同様で、脊髄損傷や下肢切断などが障害の種類になっています。最後にクアード “Quads” ですが、この語源は「Quadriplegia(四肢麻痺)」で、つまり、このクラスの選手は、下肢だけでなく、上肢麻痺などの障害がある比較的に障害度の高い選手が出場するクラスになっています。クアードは、男女混合で行われるため「Mixed(男女混合)」とも英語では呼ばれます。このクラスの選手は、損失した機能(特に握力)を補うために手をラケットにテーピング固定することが認められていますし、車いすの操作が難しい選手には、電動車いす “electric wheelchair” の利用が許可されています。
車いすテニスのルール
2バウンドルール(Two-bounce rule)
車いすテニスのルールは、一般のテニスとほとんど同じですが、大きな違いは、返球が2バウンドまで認められていて、さらに2バウンド目はコートの外側に出ても返球できるという「2バウンドルール(Two-bounce rule)」が認められている点です。では、この違いを英語で説明してみましょう。
The ball may bounce up to twice, where the second bounce may also occur outside the court.
訳)返球が2バウンドまで認められていて、そして2バウンド目はコートの外側に出ても返球できます。
ここで、用語を確認しましょう。”The ball” は「ボール」、”may”は「許可」を表します。次は”bounce” “up to” “twice”に分けて考えてみましょう。まず “bounce”ですが、ここでは「弾む」という動詞で、”up to”は「最大基準を表す」意味で「~まで」、そして、「2バウンドまで」許可されているのですから、直訳すると「ボールが2回弾むまで」ということで、この「2回」を “twice”としています。この “twice”は、人により”two times”と表現する場合もありますが、やはり前者の “twice”の方が自然な表現になるようですね。
Players can let the ball bounce twice before returning it, as long as the first bounce is within the court.
訳)選手たちは、最初のバウンドがコート内である限り、ボールを2回バウンドさせることができます。
次に、”where” 以降の英文について確認してみましょう。この “where” は関係副詞ですが、”where”の前にコンマがありますから、前の文全体を受けて “where”以降の文章が続きます。つまり、この前の文を直訳すると「ボールが2回までなら弾んでもいい」となりますが、この部分を受けて、「2回目は、コートの外側で弾んでもいい」という具合に直訳できます。”where” を「そして」と考えるとスムーズな日本語になりますね。
ボールが車いすに触れたら失点
車いすテニスでは、車いすは基本的には体の一部としてルールが適用されます。例として、ボールが車いすに触れた場合は、失点となってしまいます。では、このルールの例を英語で説明してみましょう。
If the ball touches the wheelchair, a player will lose a point.
訳)ボールが車いすに触れた場合は、失点となります。
All rules that apply to a player’s body also apply to the wheelchair.
訳)プレイヤーの身体に適用されるすべてのルールは車椅子にも適用されます。
そのほかの理由による失点
車いすテニスでは、地面に足をつける、足でブレーキをかける、方向転換をするといった行為は禁止されています。これらは失点の対象になってしまいます。また、打球の際に両方の臀部を車いすから浮かせることも禁止されています。これを英語で表現してみましょう。
You are not allowed to put your feet on the ground, brake with your feet, or change directions. It is also forbidden to lift both hips off the wheelchair when hitting the ball.
訳)地面に足をつけたり、足でブレーキをかけたり、方向転換をしてはいけません。また、打球の際に両方の臀部を車いすから浮かせることも禁止されています。
サーブに関するルール
車いすテニスでは、サーブに関するルールもあります。サーブをする前に、選手は静止していなければならないというのは、普通のテニスでもそうでしょうが、サーブを打つ前に車いすを1回押すことが許されているというのは、車いすテニスならではのルールです。
Aさん
Before serving, the player must be in a stationary position and is allowed one push of the wheelchair before striking the ball.
訳)サーブをする前に,選手は静止していなければならず,ボールを打つ前に車いすを 1 回押すことが許されています。
Aさん
The server shall throughout the delivery of the service not touch with any wheel, any area other than that behind the baseline within the imaginary extension of the center mark and sideline.
訳)サーブをする人は、サーブをする間中、いかなる車輪でも、センターマークとサ イドラインの想像上の延長線上にあるベースラインの後方以外の区域に触れてはいけません。
英語を意識して、車いすテニスを観戦しよう!
車いすテニスの見どころは、やはり車いすならではのプレースタイルでしょう。選手たちは、車いすがまるで自分の体の一部のように使いこなしながら、正確で力強いサーブを打ったり、激しいラリーが展開されたりします。障がい者とは思えないようなパワーと情熱ですよね。ここでは、覚えておきたい車いすテニス用語を紹介します。
・チェアワーク(chair work)車いすをコントロールするテクニック
・ラリー(rally)ボールの打ち合い
・ベースライン(baseline)ネットに平行に、サイドラインと垂直に走るコートの後方ライン
・センターマーク(center line)コートの右左を分けるマーク
・サイドライン(side line)コートのサイドを走るライン
・サーバー(server)サーブをする人
・ハンドリム(handrim)車いすを操作するためのパーツ
・コーチ(coach)監督
ふつうのテニスにも使われる用語も含まれていますが、チェアワーク(chair work)やハンドリム(handrim)は、車いすテニスならではの用語です。
車いすテニスプレーヤーの魅力ある人間力に注目!
車いすテニスの選手たちには、素晴らしい人間性を持った人物がきら星のごとく輝いています。彼らの人間的魅力を英語で味わうことも、車いすテニスを楽しむコツではないでしょうか。ここで、世界的な車いすテニスの選手が残した言葉を例文として紹介しましょう。
オーストラリアのディラン・アルコット選手の言葉
I used to get bullied as a kid. I struggled about the fact that I was in a wheelchair, but if you ask me right now if I could have an operation or stem-cell research – whatever – there’s not enough money you could ever pay me because my disability has given me part of my opportunity in life. And I’m proud to be disabled, proud to be in a wheelchair.
訳)私は子供の頃はいじめられたし、車いすにのっている事実について苦労した。でも、もし仮にあなたが今、私に手術やら幹細胞移植やらができるかと尋ねても、あなたが私に払えるお金なんて、たかが知れているよ。だって、障がいがあったからこそ、私は人生でチャンスを得ることができたんだから。自分が障がい者であること、車いすに乗っていることを誇りに思ってるよ。
少し長い文章ですが、細かい文法がわからなくても、単語の意味がいくつか分かるだけで、文章全体の意味を何となく掴むことができるようになります。選手の人格を理解すると、車いすテニスへの関心も深まるのではないでしょうか。車いすにのっていることを単なる障がいとして捉えるのではなく、ポジティブに捉えているのが伝わってきますね。
車いすテニスのレジェンド国枝選手に出会い人生が激変した選手
2024パリパラリンピックの車いすテニスで見事金メダルを獲得した小田凱人選手をご存知でしょうか。パリパラリンピックの中でも、車いすテニスの男子シングルスの決勝戦は、ハイライトシーンのひとつでしたね。
小田凱人選手は9歳で悪性のがんにかかり左足の自由を奪われましたが、車いすテニスのレジェンド国枝慎吾選手に出会い人生が激変し、車いすテニスの世界ランキングで最年少で1位の座に上りつめました。
国枝慎吾選手は、車いすテニスの全4大大会とパラリンピックで金メダルを獲得していますが、2023年1月22日に引退を表明しました。その後、彼の意思を引き継ぎ、車いすテニス界で王者の座について活躍しているのが小田凱人選手です。
二人の関係性が分かる、2024年9月の英語記事があるので、紹介します。
Tokito Oda on “defending” gold medal for Shingo Kunieda
2012年、ロンドンパラリンピックの車いすテニス男子シングルスで国枝慎吾さんが優勝したのを小田凱人選手は病床から見ていました。その後、2024年パリパラリンピックの会場で、国枝慎吾さんが自分が鼓舞してこのスポーツを始めた10代の若者、小田凱人選手が自分の栄冠を受け継ぐのを見守っていました。
小田凱人選手が、 “I had to defend it.”「私は防御しなければならなかった」と言っていますが、その試合を国枝選手の防御戦として捉えていたことが分かりますね。
小田選手は9歳で悪性のがんにかかり左足の自由が奪われて車いす生活になりましたが、国枝慎吾選手に憧れて、「車いすテニスで世界一になる」という夢を持ち、自分の夢を叶えました。困難や障がいに負けないという強い意志がないと、実現できなかったでしょう。
車いすテニスで英語を学び、世界へ視野を広げよう
いかがでしたでしょうか。車いすテニスの歴史や種類、ルール、車いすテニスの言葉や車いすテニスの日本人選手について紹介しました。車いすテニスに惹きつけられた方のいるのではないでしょうか。車いすテニスは、日本人選手が世界ランキング第1位になるなど、日本でも徐々に人気が高まりつつあるスポーツです。
また、健常者と一緒に楽しめるスポーツとして、車いすテニスはこれからもさらに注目を浴びることでしょう。車いすテニスのルーツがアメリカにあることから、このスポーツをより深く理解し、車いすテニスを楽しむには、英語力を高めることが欠かせません。車いすテニスを通して英語を学び、世界へと大きく視野を広げましょう。