パラリンピック (Paralympics) が開催される国には、世界中からその競技の競技者や関係者が集まります。2週間に及ぶ開催期間中、トップアスリートが圧倒的な演技を見せてくれるでしょう。パラリンピックを見て競技に興味を持ったなら、パラリンピックをきっかけに英語学習を始めて見てはどうでしょうか。射撃のような正式種目なら歴史も長く世界中に競技者もいるので、学習にはうってつけの素材だと言えます。
障がい者スポーツの定義
障がい者スポーツとは生まれつき、または病気や事故などさまざまな理由で障がいのある選手が、それぞれの能力をいかしてできるようにルール設定されたスポーツのことです。スポーツには公平さが必要不可欠になりますが、障がいが一人一人違う選手が争っても公正な戦いにはなりません。だから障がい者スポーツは、選手たちが同じ土俵で戦えるようにさまざまな工夫を凝らしてきました。クラス分け(classification)の基準や義肢(artificial limbs)や装具(orthosis)の開発、健常者のスポーツとは別のルール作りなどはその努力の結晶だと言えるでしょう。
パラリンピックの歴史と射撃の歴史
ここではパラリンピックの歴史を、説明していきます。パラリンピックとはオリンピック(Olympics)と同じ年に、同じ開催地で行われる障がい者スポーツの祭典のことを指します。パラリンピックには、22の競技が正式に認定されています。主催しているのは、国際パラリンピック委員会(International Paralympic Committee)です。パラリンピックは、もうひとつの(parallel)とオリンピック(Olympics)を合成して造られた言葉だと言われています。
始めて開催された障がい者スポーツの大会は、1948年に開催されたストークマン・デビル病院のアーチェリー大会です。パラリンピックとして正式に認められたのは、1960年のイタリア・ローマ大会からです。ローマ大会は23カ国の選手が、8つの競技でしのぎを削りました。パラリンピックの産みの親であるルートヴィッヒ・グットマン博士の「失われたものを数えるな、残された機能を最大限に活かせ」という言葉をモットーに、パラリンピックは年を追うごとに規模を拡大していったのです。
射撃 (Shooting) は15世紀から16世紀に、ヨーロッパで生まれた競技だと言われています。オリンピックには最初から、正式競技として認められていました。それはオリンピックの提唱者であるクーベルタン氏が、射撃のチャンピオンであったからだと言われています。パラリンピックは第5回のカナダ・トロント大会(1976年)から、正式に競技として認められるようになりました。オリンピックとの違いは、オリンピックにはクレー射撃が含まれていますが、パラリンピックの射撃競技には含まれていないことです。
装具・用具にはどんなものがあるの?
パラリンピックを円滑に進めていくためには、装具や用具の存在は不可欠になります。ここでは競技に使われている装具や用具について学んでいきましょう。競技への理解がより深まることでしょう。障がい者スポーツでは、特別な義手や義足が使用されます。競技で使われているものの特徴は、完全にオーダーメードで、個人の特性に合わせて作られていると言う点です。選手は義肢装具士と呼ばれる専門家とディスカッションを重ねて、自分の理想とする装具を作り出していきます。
競技に使われる車椅子は、陸上競技に使われるもの、車椅子テニス用のもの、車椅子バスケットボール用のもの、車椅子ラグビー用のものの4種類があります。競技用の車椅子は日常用のものとは違い、車輪が八の字型であることが特徴です。陸上用の車椅子は、レーサーと呼ばれています。後方に二つの車輪、前方に一つの車輪がありスピードが出やすく壊れにくいように設計されているのです。車椅子テニス用の車椅子は、転倒を防止するためのキャスターがついていることが特徴です。車椅子バスケットボール用の車椅子は軽く、急な停止や回転能力に優れています。車椅子ラグビーは激しいスポーツであるため、車椅子は特に頑丈な造りになっています。
自転車競技では、さまざまな障がいを抱えた選手のために、ハンドバイク(hand bike)、タンデムバイク(tandem bike)、三輪自転車(three-wheeled bicycle)が用意されています。ハンドバイクは主に、下肢に障がいのある選手のために開発されたものです。タンデムバイクは視覚に障がいのある選手が使用します。前にいる健常者がハンドルやブレーキを操作して、選手がペダルを漕ぐのを助けます。三輪自転車は主に、平衡感覚に障がいがある選手向けのものです。パラリンピックで使われる用具には他に、ボッチャで使われるランプ(lamp)やゴールボールなどで使われる音の出るボールがあります。このようにパラリンピックの競技に使われている用具には、さまざまな種類のものがあるのです。用具や競技の用語を英語で学ぶことで、知らず知らずのうちに英語の語彙が増えていくので試してみてください。
射撃競技の種目とクラス分け
射撃競技のクラス分け
射撃競技にはsh1、sh2、sh3、という3つのクラスが用意されています。このうち競技として正式に認められているのは、sh1とsh2のみです。sh3は視覚障がい者を対象にしたクラスとなります。射撃のクラス分けは障がいの程度ではなく、自分の力で銃を支えることができるかどうかで判断されるので、パラリンピック競技の中でもっともクラス統合が実現された競技と評価されています。
sh1は下肢のみに障がいがあり、自分の力で銃を支えることができるクラスで、ライフル(rifle)とピストル(pistol)という2つの部門に分けられます。
sh2は上肢を含む障がいがあり、自分の力だけでは銃器を支えられないので、支持スタンドを利用するクラスです。sh2のクラスでは、ライフルのみを使用します。
射撃競技はまず使う道具によって、ライフルとピストルに分けられます。ピストルを選べるのはsh1の選手だけで、射撃姿勢はすべて立射でのみ行われます。的までの距離や性別によって、4つの種目に振り分けられます。ライフルではエアライフル (air rifle) かスモールボアライフル (small bore rifle) かによって、的までの距離が違ってきます。スモールボアライフルに参加できるのは、sh2クラスの選手だけになります。エアライフルには5種目があり、スモルボアライフルには3種目が用意されています。
訳)射撃競技用の銃は、ピストルとライフル銃に分類されます。
訳)ピストルを選べるのはsh1の選手だけで、ピストルの射撃姿勢はすべて立射でのみ行われます。
訳)ライフルではエアライフル (air rifle) かスモールボアライフル (small bore rifle) かによって、的までの距離が異なります。
射撃競技の種目
パリ2024パラリンピックでは、下記の13種目が実施されます。
・Men’s R1 – 10m Air Rifle Standing SH1
・Men’s R7 – 50m Rifle 3 positions SH1
・Men’s P1 – 10m Air Pistol SH1
・Women’s R2 – 10m Air Rifle Standing SH1
・Women’s R8 – 50m Rifle 3 positions SH1
・Women’s P2 – 10m Air Pistol SH1
・Mixed R3 – 10m Air Rifle Prone SH1
・Mixed R4 – 10m Air Rifle Standing SH2
・Mixed R5 – 10m Air Rifle Prone SH2
・Mixed R6 – 50m Rifle Prone SH1
・Mixed R9 – 50m Rifle Prone SH2
・Mixed P3 – 25m Pistol SH1
・Mixed P4 – 50m Pistol SH1
男子、女子ともに、10m Air Rifle Standing SH1、50m Rifle 3 positions SH1、10m Air Pistol SH1の 3種目が実施されます。
男女混合で、7種目の射撃競技が行われます。距離、使われる銃、障がいのクラスの順に記載されています。
射撃競技のルールと流れ
射撃競技のルールは、オリンピックで行われているものとほとんど変わりません。緩和ルールが一部で用いられていることだけが、相違点と言えます。オリンピックの射撃競技との相違点を、確認しておきましょう。立射の場合は障がいの度合いによって、椅子や車椅子に座って射撃することが許可されています。膝射を行う場合も、膝の代わりにテーブルを使用することが許されています。伏射の場合は、射撃椅子やテーブル等の利用が義務付けられます。こういったルールの変更により、公正な競技が成り立つようになっているのです。
競技が始まる前に、選手たちには最終準備と試射をする時間が与えられます。射場長が「エンドオブプレパレーションエンドサイティングストップ(end of preparation and sighting stop)」と号令をかけると、試射の時間が終了します。その後、標的役員が、本射への切り替えを行います。すべての標的が本番用のものに入れ替わったら、再び射場長が「マッチファイアリングスタート (match firing start)」と号令をかけます。これにより試合が始まったことになります。勝敗は決められた弾数を撃ち終えた段階の、合計得点によって決まります。標的は中心が0.5ミリで、撃ち抜くと10点が獲得できます。そこから外にずれるごとに、減点されていくのです。射撃競技は障がいの影響が少ないスポーツですが、どの競技よりもメンタルの強さを求められます。ですから監督やコーチはメンタルの強化を、とても重視しているのです。
射撃の姿勢の種類
射撃ルールの箇所でも少し出てきましたが、射撃の種類には3つの種類があります。具体的に見ていきましょう。
立射(りっしゃ)Standing shot
立射は両足を地面に付け、両脚を伸ばしまっすぐに立った状態で行い、他に支持する部分がない射撃のことを言います。「立射」は英語では “Standing shot”となります。
ライフル射撃の場合、ライフルを両手で持って照準のある側の肩で支持します。ライフル射撃競技では照準側の頬は銃に触れても構わないとされています。銃身を支える側の腕(右利きであれば左腕)の肘は腰によって支えます。右腕には支えとなるものはありません。
ピストル射撃は立射の種目のみで、すべての種目で銃は片手で保持します。また、ラピッドファイアピストル競技では、各射撃前に銃を体の前45度の角度に下げて構える姿勢をとる必要があります。
膝射(しっしゃ)Shooting from a kneeling position
膝射はしゃがんだ姿勢での射撃で、右利きの場合、左足、右足の爪先、右足の膝の3点を地面に付けた射撃をいいます。英語にすると、”Shooting from a kneeling position”となります。
ライフル射撃競技ではライフルを両手で持って右肩で支持します。伏射と同様に銃を固定するスリングを用いることが認められています。
伏射(ふくしゃ)Shooting from a prone position
伏射は、文字通り、地面(スポーツのライフル射撃競技ではあらかじめ用意されている射撃用マット)にうつ伏せの姿勢で行う射撃をいいます。銃の支持は両手及び片方の肩で行います。うつ伏せになって、頬を銃床に当てた状態で狙いを定めます。
「伏射」を英語にすると、”Shooting from a prone position”となります。
ライフル射撃競技では、上腕と銃を固定するスリングを用いることが認められていますが、銃は他のいかなるものにも触れてはならないとされています。前腕部は地面に触れてはならず、地面と腕の角度は30度以上に保持しなければなりません。
射撃の用具
射撃には、銃以外に次のような用具も使われます。
ゴーグル
眼を保護するのに必要な装備です。スポーツのピストル射撃では、防護メガネの装着が義務付けられています。
イヤープロテクター
耳を保護するのに必要な装備です。スポーツ等では射手や射場役員に着用が義務付けられている場合があります。
射撃競技をきっかけに英語を学ぼう
射撃は600年以上の歴史を持つ競技で、健常者にも障がいを持つ人にも開かれたスポーツです。パラリンピックを通して射撃競技に興味を持ったなら、日本ライフル射撃協会(National Rifle Association of Japan)のホームページを訪ねてみるといいでしょう。国内の射撃競技に関する情報を、得ることができます。国内だけの情報では飽きたらないと思ったら、国際射撃連盟(International Shooting Sport Federation)のホームページを調べてみてください。そこでは世界中の射撃競技の情報を、英語で得ることができます。人は自分が興味のあることの方が記憶しやすいので、射撃競技の情報が英語で書かれていることはとても学習に役立つことでしょう。
英語で書かれた射撃競技のニュースを例文にして、覚えてみるのもいいかもしれません。競技のファンコミュニティーから外国人と友達になったなら、何人かで射撃競技を一緒に見るのもいいでしょう。生きた英語に触れられるなら、さらに知識が蓄積されていきます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。パラリンピックは世界中からパラアスリートがやって来る、障がい者スポーツの祭典です。競技者の高い技術に、誰もが目を奪われることでしょう。その中でも射撃競技もは、長い歴史を持つ魅力的な競技です。
射撃競技を調べていくことは、英語の学習にも役に立つと考えられます。競技を通じて海外のファンと友達になったなら、一緒に試合を観戦するといいでしょう。生きた英語を、学ぶことができるようになります。