「モック品」や「モックサンプル」などといった言葉を聞いたことはありますか?
「モック」とは、製品が完成する前に作られる試作品や模造品のことを指したビジネス用語で、もともとは英語の”mock”から来ています。
英単語の”mock”は、わたしたち日本人にはあまり馴染みがないかもしれません。
“mock”という単語自体、初めて聞いたという人も少なくないでしょう。
「どんな意味の単語なの?」「動詞なの?名詞なの?それとも形容詞?」と、クエスチョンマークが並んでしまいますよね。
そこで今回は、意味と用法の多い英単語“mock”について、例文とともに正しい使い方を解説していきます。
“mock”の意味
英単語”mock”には、動詞、名詞、形容詞の意味があります。
3つの品詞すべてに共通するのが、「模倣する、あざける、似せる」といったように何かをまねるイメージです。
もともとは、古フランス語の”mocquer”(嘲笑する、あざける)が語源といわれており、嘲笑的な模倣の概念から、現在の意味「模倣する、再現する、密接に似せる」などに変化したと考えられます。
辞書には、動詞、名詞、形容詞がそれぞれ以下のように定義されています。
- 〔動詞〕
(笑ってはいけないときに笑ったりして)人をあざ笑う、ばかにする
(人・言動を)まねてあざける、まねてばかにする
(努力などを)失敗に終わらせる、(希望などを)くじく
(…を)あざける、なぶる- 〔名詞〕
あざけりの対照、笑いぐさ
(複数形で)模擬試験- 〔形容詞〕
まがいの、偽りの、まねごとの、擬似の、~のふりをした参考:Weblio英和辞書
“mock”は、ときにスラングとしての意味も持ち、他人の欠点や失敗を指摘したり、笑いの対象にしてからかったりすることを表します。
“mock”の現在分詞である”mocking”も形容詞と名詞2つの意味があり、「冷笑的な」「罵声」「軽蔑、嘲笑」などと訳されます。
“mocking”は、以下のような英語にも言い換えられるので、合わせて覚えておくと意味も理解しやすいでしょう。
- gibelike(声に出して罵る)
- derisive(嘲笑的な)
- taunting(あざける、冷やかす、なじる)
- jeering(ばかにする)
「あざける」「ばかにする」などの意味で使われる”mock”の例文を紹介します。
They mocked Lester for being a sissy.
訳)彼らは、レスターのことを弱虫と言ってばかにしました。
The students mocked their teacher’s speech.
訳)生徒たちは、先生のスピーチをまねしてからかいました。
Katie was mocked for her unusual fashion sense.
訳)ケイティは、独特のファッションセンスをからかわれました。
“mock”は実験やIT分野などの幅広いシーンで、開発や検証に必要な「モック品」や「モックアップ」といったビジネス用語としても使われています。
「模擬」や「模倣」などの意味で使われる”mock”の例文を紹介します。
We will have your mocks during the first two weeks of April.
訳)4月の最初の2週間で、模擬試験が実施されます。
Many researchers used mock data to test their hypotheses.
訳)多くの研究者たちが、模擬データを使って仮説を検証しました。
This work is a mock painting of a classical one drawn a few hundred years ago.
訳)この作品は、数百年前に描かれた古典絵画の模写です。
“mockーup”から来た「モックアップ」
ビジネスシーンでよく耳にする「モックアップ」や「モックサンプル」といった日本語は、英語の”mock-up”から来ています。
“mock”には、「偽りの、まねごとの、擬似の」を意味する形容詞としてのはたらきがありましたね。
英英辞典にも、“appearing or pretending to be exactly”や“intended to be very similar to a real”とあるように、何かをまねてそっくりに作ることを示しているのがわかります。
- not real but appearing or pretending to be exactly like something
本物ではないが、何かにそっくりであるように見えたり、見せかけたりしたもの- not real, but intended to be very similar to a real situation, substance etc
本物ではないが、実際の状況や物質などに非常に似ていることを意図して作られたもの参考:
Cambridge Dictionary
Longman Dictionary of Contemporary English
では、日本語として使われている「モックアップ」は、英語本来の意味と同じなのでしょうか。
“mock-up”は、英英辞典で以下のように定義されています。
- a full-size model of something large that has not yet been built, showing how it will look or operate
まだできあがっていない大きなものの実物大模型のこと- a full-size model of something, made before the real thing is built, or made for a film, show etc
本物が作られる前に作られる、または映画や舞台などのために作られる、何かの実物大模型のこと- a plan of how a page of a website, magazine, newspaper, etc. will look when it is finally created
ウェブサイトや雑誌、新聞などのページの最終的形態を模した図面のこと参考:
Cambridge Dictionary
Longman Dictionary of Contemporary English
「モックアップ」は、見た目だけ、外側だけを本物っぽく作った模型の”mockーup”であるということに間違いありませんね。
「完成するとこのような感じになります」と、長い文章や説明で伝わらない部分を、まさに「百聞は一見に如かず」の「一見」で表したのがモックアップです。
日本語訳は「モックアップ」のほか、「モック品」や「サンプル」、「モデル」などいろいろな呼び方ができます。
“mock-up”の例文を参考に、正しい使い方を確認してみましょう。
Our designer created a mock-up of the new website to show the client.
訳)デザイナーは、クライアントに見せる新しいウェブサイトのモックアップを作成しました。
We provided a mock-up of the new products for the presentation next month.
訳)来月のプレゼンテーションに向けて、新製品のモックアップを提供しました。
Would you please check the specifications and the completion date for the mock-up?
訳)モックアップの仕様と納期をご確認いただけますか?
You can see a mock-up of the dress we wanted to make here.
訳)ここでは、わたしたちが作りたかったドレスのモックアップをご覧いただけます。
IT用語の「モック」と「MOC」
最後にIT用語のIT用語の「モック」と「MOC」について触れておきましょう。
「モック」は、ITシステムを実装する前に、一部または全体を本物に似せて作られた模擬システムのことを指した言葉です。
英語の”mock-up”が「モックアップ」⇒「モック」に省略され、「MOC」とアルファベット表記されたと考えられます。
そもそも”mock-up”を省略して生まれた言葉なので、意味は「試作品」や「模型」「サンプル」のように本物ではないものを表しています。
大文字だと「エムオーシー」と読んでしまいがちですが、IT用語の「MOC」は「モックアップ」の「モック」と覚えておいてくださいね。
まとめ
意味と用法の多い英単語”mock”について、例文とともに正しい使い方を解説しました。
あまり馴染みのない”mock”は、動詞、名詞、形容詞と用法によってさまざまな意味を持っています。
3つの意味に共通しているのは、人やものなど、何かをまねることです。
聞いたことや見たことのある単語でも、新たに意味を知ることで語彙のバリエーションはどんどん増えていきます。
曖昧でわからない英語はそのままにせず、英英辞典を引いて理解を深めていきましょう。
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