「レトリック」という言葉を聞いたことがある人は多いでしょうが、その意味をご存知でしょうか。「確かレトリックって『修辞法』という意味だよね」と答える方もおられるでしょうが、「修辞法」の意味も含めて「レトリック」の意味を詳しく解説します。レトリックの意味だけでなく、その効果や日本語と英語の具体例も紹介するので、レトリックについての理解が深まります。
この記事を読めば、「レトリック」の意味やその効果について深く理解できるようになりますよ。
rhetoric「レトリック」とは?
rhetoric「レトリック」のルーツは古代ギリシャにまでさかのぼります。実際、「レトリック 」という言葉はギリシャ語の “rhetorikos”に由来しています。当時は、文章よりも説得のテクニックやスピーチに重点が置かれていましたが、現在では、レトリックはスピーチや文章だけでなく、映像や映画などの視覚的なレトリックも含んでいます。
レトリックとは、書き手や話し手の言いたいことを読者や聞き手に説得したり、動機づけたり、知らせたりするために注意深く組み立てられた表現技法のことです。レトリックは、小説、エッセイ、コラム、詩や俳句など、さまざまなところで活用されています。
修辞法とは?
修辞法というのは、「修辞技法」や「レトリック」とも呼ばれ、表現を豊かにし、感情や意味を効果的に伝える技術のことです。
内容や場面に合った修辞法を適切に活用することで、単調な文章が、説得力のある表現豊かな文章にレベルアップできるとされていますが、修辞法には具体的にどういった効果があるのか紹介します。
修辞法による効果
修辞法による効果は、主に次のような3つのものがあります。
- 読者や聞き手に強いインパクトを与える
- 感情や情景が分かりやすくなる
- リズムがよく分かりやすい文章になる
これら3つの効果について、詳しく見ていきましょう。
読者や聞き手に強いインパクトを与える
修辞法の一番の魅力は、書き手や話し手の思いや意図をわかりやすく伝え、内容を魅力的で記憶に残る文章にできるということです。
読者や聞き手は、修辞法の使われた文章を読むことによって、文章をより鮮明に捉え、強い印象を持ちます。
例を挙げて、説明しましょう。
「彼女は白くて美しい肌を持っていた」と書くところを、「彼女は雪のような白い肌を持っていた」と書く方が、読者には印象に残りますね。
「比喩表現」という修辞法が使われていますが、それは小説や詩などでよく使われている修辞法です。日本語でも英語でも、「比喩表現」は修辞法の一つとしてよく使われています。
感情や情景が分かりやすくなる
修辞法や、登場人物の感情や情景が分かりやすくなるように、文学作品などでもよく用いられます。
「彼女は大好きな映画俳優に会えて、とても嬉しかった」と書くよりも、「彼女は大好きな映画俳優に会えて、天にも昇る心地だった」と書いた方が、どれほど嬉しかったのかが伝わります。
「天にも昇る心地」は、 英語では“walking on air” や “be on cloud nine”などで表現できます。
上記の修辞法を使った文章を英語にすると、このようになります。
When she met her favorite moviestar, she felt like she was walking on air.
(彼女は大好きな映画俳優に会えて、天にも昇る心地だった。)
「天にも昇る心地」というのも比喩表現の一種です。
リズムがよく分かりやすい文章になる
小説や広告などでは、リズムがよく分かりやすい文章にするために、体言止めなどがよく使われます。例文を見てみましょう。
○○ベーカリーは横浜市にある70年以上の歴史を持つ老舗パン屋さんです。惣菜パンを中心に50種類以上のパンをリーズナブルな価格で提供しています。
この文章を体言止めを使った文に修正してみると、こうなります。
横浜市にある老舗のパン屋、○○ベーカリー。70年以上に渡り、50種類以上のパンをリーズナブルな価格で提供してきました。
2つの文章を比べてみてください。すべて「です・ます調」を使うと、文章が単調になりがちですが、体言止めを効果的に採り入れると、分かりやすくなりますね。
ライティングで活用したい修辞法
修辞法は数十種類ありますが、その中でも特にライティングで活用したい代表的なものを紹介します。
1. 比喩
「比喩」は修辞法の中でもよく使われる一般的なもので、文章中で物事を別のものに例える表現方法です。あまり関係ないように思えるものを例えとして引用することで、読者にインパクトを与えることができます。
直喩(simile)
直喩は比較対象が明確に示されているため、読者にとってイメージしやすく理解しやすいので、よく使われます。直喩でよく使われるのは、「まるで~のような」という表現です。
「まるで~のような」は英語で言うと、“as if …”となります。
My programming student speaks English as if he were a native English speaker.
(私のプログラミングの生徒は、まるで英語のネイティブのように英語を話します。)
隠喩(metaphor)
隠喩はメタファーとも呼ばれ、「~のような」「~みたいな」を使わずに、あるものを全く違う別のものに例える表現方法です。
例えば、「彼はとても博学で、歩く電子辞書です」「彼は大学卒業後、サラリーマンとして社会の歯車として働くことを選択した」といった表現が、隠喩です。人と電子辞書は、全く違うものですが、博学であるという点で共通点があるので、人が電子辞書にたとえられています。
2. 擬人法 (personification)
擬人法とは、人間ではない物事に人間の動作や感情を例える表現法です。
例えば、「木の葉がささやいている」「波がざわめいていた」など、人間ではない物事に人間の動作や感情をあてて表現すると、印象的な文章になります。
日本語だけではなく、英語でも擬人法はよく使われています。
例えば、“Leaves rustled and whispered in the wind.”(木の葉は風にそよいで、ささやいていた)といった擬人法が、木の葉を形容するのに使えます。
3. 対照法 (antithesis)
対照法とは、真逆の物をコントラストとして提示して、印象を与える表現方法です。
例えば、「針小棒大」、「温故知新」、「聞いて極楽、見て地獄」などの表現で、対照法が使われています。
針小棒大:針ほどの小さいことを棒ほどに大きく言うこと
温故知新:過去に起こった古い出来事や事柄を今また調べなおしたり考えなおしたりして、新たに新しい道理や知識を見つけ出すこと
聞いて極楽、見て地獄:人から話に聞くのと、実際に見るのとでは大きく違うことのたとえ
4. 逆説法 (paradox)
逆説法とは、パラドックスとも呼ばれ、固定観念とは逆の仮説を立てることによって、通常とは逆のアプローチをとって問題解決やアイデアの発想を行う手法です。
逆説法の例としては、「急がばまわれ」、「負けるが勝ち」、「損して得とれ」、「こころの貧しい人たちは、さいわいである、天国は彼らのものである。」(マタイによる福音書)など、私たちの身の回りにたくさんあります。
「レトリックに過ぎない」の意味とは?
レトリックとは修辞法のことをいい、さまざまな修辞法があり、とても便利に使えるものだということを解説してきましたが、「レトリックに過ぎない」という表現が使われることもあります。
「レトリックに過ぎない」とは、本質を伴わないうわべだけの表現や美辞麗句などを非難する場合に使われる表現です。
レトリックには、いくつかの効果あり、読者や聞き手にインパクトを与えるために意図的に使われるものです。ですから、実態があまり伴わないのに、レトリックの効果を狙って使われている、うわべの表現や美辞麗句などについて、「レトリックに過ぎない」と言われることもあります。
rhetoric レトリックの関連表現
次に、rhetoric レトリックの関連表現について、見ていきましょう。
art of writing or speaking
この “art”は「技法」という意味で、「書き方や話し方の技法」という意味になります。rhetoric「修辞法」とは、別の表現をすると、「書き方や話し方の技法」とも言えます。例文を紹介します。
訳)書き方や話し方の技法は、言葉だけでなく、感情や創造性も含みます。
eloquence
“eloquence”は「雄弁さ」という意味です。例文を紹介します。
訳)彼の雄弁さは、複雑な主題を聴衆にわかりやすく伝えた。
”rhetoric”の効果の一つは、「読者や聞き手に分かりやすく伝えること」ですので、”eloquence”は関連表現と言えます。
トリックとレトリックの違い
「トリック」と「レトリック」は音が似ていますが、意味はかなり違います。それぞれの意味について、解説します。
トリック
「トリック」には、いたずら、ごまかし、手品、奇術、錯覚、コツという意味があります。
訳)成功とはコツを見つけることではなく、一貫した努力をすることだということを覚えておくことが重要です。
レトリック
「レトリック」は先ほど紹介したとおり、「修辞法」のことで、読者や聞き手を説得したり納得させたりするための技法のことです。
訳)人々を欺いて間違った方向へ導かないよう、責任を持ってレトリックを使うことが重要です。
まとめ
rhetoric「レトリック」の意味について、その効果や具体例を挙げながら、解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。
レトリックは、ライティングやプレゼンテーションでうまく活用すると、その効果を発揮します。Appleの創業者スティーブ・ジョブズも、プレゼンテーションでレトリックを効果的に活用していたと言われています。皆さんも、読者や聞き手を説得したり納得させたりするために、レトリックを活用してみてはいかがでしょうか。