カタールの首都ドーハ(Doha)から車でおよそ2時間。乾いた砂漠を抜けると、ぽつんと現れるのが「アル・ズバラ考古遺跡(Al Zubarah Archaeological Site)」です。
ここは、かつて真珠産業で栄えた港町の跡。18世紀から19世紀にかけて活気に満ちていた街が、いまでは砂に埋もれたまま静かに眠っています。
アル・ズバラ考古遺跡とは?

アル・ズバラは、かつて真珠採取と交易で繁栄した港町の遺構です。クウェートから移ってきた商人たちによって築かれ、城壁で囲まれた都市構造をもっていました。18世紀末には、インド洋、アラブ、ペルシャ湾、西アジアを結ぶ貿易ネットワークの要所として賑わいを見せていました。
この地の魅力は、当時の生活や交易、文化の姿が見えてくる点にあります。遺構は現在も発掘途中で、都市の輪郭を示す石積みの跡や、中庭をもつ住宅、モスク、墓地などが確認されています。
カタールとは?
カタールはアラビア半島の東、ペルシャ湾に突き出したカタール半島に位置する小さな首長国です。中東でも特に経済的に豊かで、天然ガスと石油によってその地位を確立してきました。
カタールでは、紀元前3000〜2000年ごろの遺物も発見されており、古代から人々が生活していたことがわかっています。また、天然真珠の産地としても古くから知られ、湾岸の国々との交易が盛んでした。
カタール唯一の世界遺産
2025年6月現在、ユネスコの世界遺産に登録されているカタールの遺産はこの「アル・ズバラ考古遺跡」ただ一つです。ただし、今後は「ホール・アル・ウデイド自然保護区(Khor Al-Adaid Natural Reserve)」が自然遺産として登録される可能性もあります。
アクセス
日本からカタールの首都ドーハへは、成田や羽田から直行便があります。ドーハの中心部、アル=ガニム・バスステーションからは、1日3便、アル・ズバラ要塞(Al Zubarah Fort)へのバスが出ています。
ただし、バスを降りた後に都市遺跡へ向かうには、さらに1.5kmの道のりを歩く必要があります。炎天下の移動になるため、水や帽子の準備を忘れずに。
アル・ズバラ考古遺跡の歴史
アル・ズバラは18世紀に最盛期を迎えた港町で、城壁に囲まれ、商館やモスク、住居などが整備されていました。インド、ペルシャ、オマーンなど、周辺の都市とつながる交易で栄えました。
しかし、1811年、イギリス・オマーン・周辺部族による攻撃で壊滅的な打撃を受け、以後は徐々に衰退。20世紀には完全に放棄され、長らく砂の中に埋もれていたのです。
アル・ズバラと日本の関係
実は、この街の衰退には「日本」が深く関わっているのをご存知でしょうか?
1893年、三重県・英虞湾で世界で日本人が初めて真珠の養殖に成功しました。高品質で安価な日本の養殖真珠は瞬く間に世界市場を席巻し、天然真珠の価格は暴落。
その結果、アル・ズバラのように天然真珠で生計を立てていた港町は経済的に大打撃を受け、やがて放棄されてしまったのです。
世界遺産としての価値
アル・ズバラの遺跡は、「アル・ズバラ考古遺跡(Al Zubarah Archaeological Site)」として、2013年ユネスコ世界遺産に登録されました。
訳)アル・ズバラ考古遺跡は、2013年にユネスコの世界遺産に登録されました。
登録の理由
2013年、ユネスコはこの地を以下のような点で評価しています。
- 交易と真珠産業に基づく都市の発展を物語る重要な考古遺跡
- 周辺の砂漠によって人為的影響がほとんど加わらず、都市構造がよく残っている
- 町の発展が商業と交易にどのような影響を与えたかを示している
UNESCO World Heritage Convention:Al Zubarah Archaeological Site
覚えておきたい英会話フレーズ
旅行で役立つ英語フレーズをご紹介します。
訳)カタールは小さいけれど、長い歴史をもつ国ですね。
訳)かつて活気にあふれたこの街は、今は砂の下で眠っているんですね。
訳)この考古遺跡は、カタールが交易国家として始まったことを物語っていますね。
訳)アル・ズバラ考古遺跡は、カタール唯一の世界遺産です。
アル・ズバラ考古遺跡のおすすめポイント

アル・ズバラ考古遺跡には、訪れる価値のある見どころがいくつかあります。近代的な都市・ドーハとは対照的な、歴史の中のカタールに触れられる貴重な場所です。
アル・ズバラ要塞
砂漠のなかに突如現れるのが、アル・ズバラ要塞(Al Zubarah Fort)。城壁も堀もなく、方形のシンプルな建造物がぽつんと立っています。
この要塞は1938年にカタールの当時の支配者、シェイク・アブドゥッラー・ビン・ジャーシム・アール=サーニーによって建設されました。もともと軍事目的ではなく、警察署や沿岸監視の拠点、時には刑務所としても使われたとされています。現在では観光客向けに整備され、アル・ズバラ考古遺跡の象徴的な存在となっています。
城砦は四角い形をしており、角には円形や方形の塔があります。中では、展示パネルによってこの地域の歴史や文化が紹介されています。また、城砦内にある井戸跡や回廊なども見逃せません。
訳)砂漠の真ん中にあるのに、要塞がこれほどよく保存されているなんて驚きです。
都市遺跡
要塞から1.5kmほど西に歩くと、かつての都市アル・ズバラの遺構にたどり着きます。都市全体は城壁に囲まれていたとされ、今でもその基礎部分が確認できます。町の中には、かつての住居跡、中庭、モスク、マーケット、貯水槽、漁師の小屋、墓地などがあり、交易都市として栄えた当時の様子がしのばれます。
遺跡の中にはまだ砂に埋もれている部分も多く、現在も発掘作業が進められています。ガイドツアーに参加すれば、最新の研究成果や見落としがちな見どころを知ることができます。訪問には注意が必要で、バスで来た場合は、帰りの便に間に合うようスケジュールに余裕を持ちましょう。
首都ドーハ
アル・ズバラを訪れた後、ドーハに戻ると、カタールの過去と現在のギャップに驚かされることでしょう。カタールの首都ドーハは、近未来的なビルが建ち並びます。
人気の観光スポットが「スーク・ワキーフ」です。古いアラビアの市場の雰囲気を再現したこの場所は、香辛料や香水、手工芸品などが並び、地元の人々と観光客が行き交っています。
その他にも、イスラム美術館ではカタールを含むイスラム圏の歴史と美術が学べ、カタラ文化村では演劇や音楽などのイベントが行われています。
おわりに:世界遺産を英語で楽しむ
カタールの「アル・ズバラ考古遺跡」は、都市の興亡、交易、世界経済の影響が凝縮された貴重な場所です。砂漠にひっそりと佇むこの遺跡には、今なお数多くの物語が埋まっています。
英語で世界遺産をめぐることは、世界をより深く知る第一歩になるでしょう。
