イタリア中部、トスカーナ地方のなだらかな丘陵地帯に、まるで時間が止まったかのようにたたずむシエナ(Siena)の街。
フィレンツェから南へ約50kmのこの街は、「世界で最も美しい」と称されるカンポ広場をはじめ、ゴシック様式の壮麗な大聖堂、石畳の路地など、中世の雰囲気が今なお色濃く残されています。
13〜14世紀にはフィレンツェと肩を並べる繁栄を誇り、芸術・文化の中心として名を馳せた都市国家でした。
世界遺産「シエナ歴史地区」とは?

「シエナ歴史地区(Historic Centre of Siena)」は、街全体が茶色のレンガや石で統一されており、この色合いは「シエナ色(Burnt Sienna)」として画材にも使われています。丘の上に築かれたため、どこを歩いても絵になる風景が広がります。
13世紀から14世紀にかけて、フィレンツェと激しい覇権争いを繰り広げながら、シエナは独自の芸術文化を発展させました。ルネサンス以前のイタリア美術に影響を与えたシエナ派(Sienese School)の画家たちも、この街から生まれました。
パリオとは?
シエナを代表する伝統行事が、毎年7月2日と8月16日に開催される「パリオ(Palio di Siena)」です。
これはシエナの17の地区(コントラーダ)が競い合う競馬レースで、カンポ広場を馬が猛スピードで3周します。観光客も含め、街中が熱狂に包まれるこのイベントは、700年以上続く伝統を今に伝えています。
聖カタリナとシエナ
聖カタリナは14世紀にシエナで生まれた、カトリック教会で最も重要な聖女の一人です。彼女の信仰と慈善活動はシエナ市民に深く影響を与え、生家や礼拝堂、祈りを捧げた教会が今も歴史地区に残っています。彼女の存在は、シエナの宗教的・精神的遺産の象徴です。
アクセス方法
フィレンツェからシエナまではバスが便利です。電車もありますが、シエナ駅は旧市街から離れているため、観光には不便です。
特急バスを利用すればフィレンツェから約70分。各駅停車のバスでも90分程度で到着します。終点のバスターミナルから旧市街までは徒歩圏内です。
シエナの歴史をひもとく
シエナの伝説は、ローマ建国神話に登場する双子、ロムルスとレムスにさかのぼります。レムスの息子たち、セニウスとアシウスがこの地に逃れ、都市を築いたというのが始まり。シエナのあちこちにある「カピトリーノのオオカミ像」はこの神話の名残です。
都市としての発展は紀元前1世紀のローマ時代に始まり、6世紀にはランゴバルド王国の商業中継点として重要な役割を果たすようになります。
その後、巡礼路であるフランチジェナ街道の要所として多くの巡礼者が行き交い、12世紀には自治都市(コムーネ)として独立。商業や金融で繁栄を極め、13世紀には神聖ローマ皇帝から金貨の鋳造権も与えられました。
世界遺産としての価値

1995年、「シエナ歴史地区(Historic Centre of Siena)」としてユネスコ世界遺産に登録されました。
訳)シエナ歴史地区は、1995年にユネスコの世界遺産に登録されました。
登録の理由
ユネスコがシエナを世界遺産に登録した主な理由は以下の通りです。
- 都市計画の独自性:中世の区画が現代までほぼ完璧に保存されている
- ゴシック建築の代表例:大聖堂をはじめ、市庁舎や民家に至るまで、ゴシック様式の建築が調和している
- 芸術の中心地:シエナ派に代表される中世美術の重要な拠点
- 文化的伝統の継続:パリオなど、現在も続く祭礼文化の存在
覚えておきたい英会話フレーズ
シエナ歴史地区を訪れたときに使える英会話フレーズを紹介します。
訳)シエナには、フィレンツェには真似できない独自の魅力がありますね。
訳)シエナは中世ヨーロッパのウォール街だったのですね。
訳)この広場、本当に美しい!「世界一美しい広場」といわれているのも納得ですね。
シエナ歴史地区の主な構成資産

シエナ歴史地区は、どこを歩いても美しい建物、景色が目に入ってきます。主なおすすめスポットを紹介します。
カンポ広場(Piazza del Campo)
「世界で最も美しい広場」と称される、貝殻のような扇形をした広場。9つのセクションに分けられた赤い煉瓦敷きの広場を、歴史的建築がぐるりと囲み、どこを見てもまるで絵画のような風景が広がります。市民の生活の中心でもあり、イベントや祭りの舞台にもなっています。
マンジャの塔(Torre del Mangia)
市庁舎プッブリコ宮に隣接する、レンガ造りの高さ88メートルの塔。細い階段を登ると、シエナの旧市街や、なだらかに続くトスカーナの丘陵地帯を一望できる絶景が待っています。
シエナ大聖堂(Duomo di Siena)
白と暗緑色の大理石が幾何学模様を描く、壮麗なゴシック様式の傑作。外観の美しさもさることながら、内部のモザイク床、彫刻装飾、ピントゥリッキオによるフレスコ画に圧倒されます。また、ミケランジェロやドナテッロといった巨匠たちの作品も収められており、芸術の宝庫です。
サン・ドメニコ教会(Basilica di San Domenico)
13世紀に建てられた巨大なゴシック様式の教会で、シエナの守護聖人・聖カタリナが数々の祈りを捧げた神聖な場所として知られています。内部には彼女に関する遺物や礼拝堂があり、訪れる人々に深い敬意と感動を与えます。質素ながらも荘厳な雰囲気が漂い、今なお多くの巡礼者が訪れます。
サン・フランチェスコ聖堂(Basilica di San Francesco)
13世紀に創建されたフランチェスコ会の教会で、簡素ながらも威厳のある佇まいが印象的です。内部には美しいフレスコ画が施されています。かつては会議や説教の場としても重要な役割を担っていました。
サンタ・カテリーナ礼拝堂(Cappella di Santa Caterina)
聖カタリナの遺品や絵画が安置された小さな祈りの場で、彼女の精神世界に触れられる場所です。中世の信仰心がそのまま残る空間は、静かで神聖な雰囲気に包まれています。
サンタ・カテリーナ・ダ・シエナの生家(Casa di Santa Caterina)
聖女カタリナが14世紀に生まれ育った家で、現在は博物館として公開されています。聖カタリナの生活や信仰を感じられる展示や、彼女にまつわる遺品を見ることができます。シエナの精神文化を知る上で、外せないスポットです。
パラッツォ・プッブリコ(Palazzo Pubblico)
13世紀末に建てられた市庁舎で、市民による自治の象徴ともいえる建物。ゴシック建築の傑作であるこの建物は、現在「市立美術館(Museo Civico)」として公開されており、シモーネ・マルティーニやロレンツェッティ兄弟による政治画、歴史画が展示されています。中でも有名な「善政と悪政の寓意」は見逃せません。
サンタ・マリア・デッラ・スカラ病院(Santa Maria della Scala)
かつて巡礼者や貧しい人々を受け入れた、中世ヨーロッパで最も古い病院のひとつです。現在は博物館として生まれ変わり、医療・慈善活動の歴史を伝える展示や、宗教美術、フレスコ画、考古学的遺物が豊富に紹介されています。建物自体も歴史的価値が高く、必見です。
おわりに:世界遺産を英語で楽しむ
シエナ歴史地区は、中世イタリアの栄光と精神が今なお息づく街です。このような世界遺産を訪れるとき、英語での情報収集やガイドツアーを活用することで、旅の楽しみはさらに広がります。
英語を味方にして、シエナ歴史地区をはじめとする世界遺産の魅力をもっと深く楽しんでみませんか?
