日本語と英語、2つの言葉を子どもに育てたい――。バイリンガル教育を考える保護者や保育士にとって、このテーマは魅力的でありながら、悩みの種にもなります。
現場では「英語を入れると日本語力が落ちないか」「家庭と園で言語の使い方が違って混乱しないか」といった声がよく聞かれます。
ここでは、バイリンガル保育士として私が感じた現場の課題と、実践してきたバランスの取り方をご紹介します!
よくある悩み

日本語の語彙が伸び悩む
英語を積極的に取り入れると、日本語の語彙習得がゆっくりになることがあります。特に2〜4歳は言葉の爆発期で、日本語の基礎を固めたい時期でもあるため、どちらの言語をどの場面で使うかの工夫が必要です。
英語が「遊びの言葉」になってしまう
歌やゲームで英語に触れられるのは良いことですが、それだけだと「英語=遊び、日本語=本気の会話」というイメージがつき、日常会話としての英語定着が難しくなる場合があります。
大人の言語スイッチが難しい
保育士や保護者が「今日は英語多めにしよう」と思っても、子どもの反応や場面によってすぐに日本語に切り替えてしまうことがあります。結果として、英語の時間が短くなりがちです。
言葉のバランスを保つ工夫
シーンごとの言語ルールを作る
食事や身支度の時間は日本語、歌や絵本の時間は英語、といったように「シーンで言語を分ける」方法は子どもにも分かりやすく、混乱を防ぎます。
似た言葉をセットで紹介する
新しい単語は、日本語と英語をセットで覚えさせます。例えば「りんご/apple」「かえる/frog」のように、絵カードや実物と一緒に提示すると定着が早まります。
英語の中にも日本語の助け舟
完全英語で話すのが難しい場合は、日本語を補助的に使っても構いません。「Let’s clean up. 片づけようね。」のように短い日本語を添えることで、意味を理解しながら英語を習得できます。
家庭(園)でできるミニアクティビティ例

朝のあいさつを二言語で
毎朝「おはよう/Good morning」と両方であいさつします。生活のルーティンに組み込むと、意識せず覚えられます。
色探しゲーム
「赤いもの探して!/Find something red!」と部屋の中で色探し。色の名前は英語、日本語どちらも言わせてみましょう。
二言語しりとり
日本語と英語の単語を交互につなげる遊びです。例:dog → ごはん → noodle → るすばん …。語彙の幅が自然に広がります。
二言語読み聞かせ
同じ絵本を1回目は日本語、2回目は英語で読む(英語版がなければ保護者が簡単に訳して読む)。物語理解と英語の音が両立できます。
買い物で英語ミッション
スーパーで「今日は3つ英語で食品の名前を言おう」というルールを設定。実物と単語を結びつけるチャンスになります。
バイリンガル育児の成功例と失敗例

バイリンガル育児の成功例
言語ルールを一貫して守ったケース
- 家庭構成:
日本人母、日本語話者/アメリカ人父、英語話者 - 取り組み:
母は子どもに一貫して日本語で話し、父は一貫して英語で話す「One Person One Language (OPOL)」方式を実施。園では日本語が中心。 - 結果:
5歳時点で両言語とも日常会話に困らないレベルに。母方の祖父母とも父方の祖父母とも自然に会話できる。どちらの言語にも抵抗感がなく、相手によって自然に切り替えられるようになった。 - ポイント:
大人側が途中で混ぜない、環境を分けるルールを徹底したことが効果的。
興味のある分野で両言語を使ったケース
- 家庭構成:
日本人両親、海外経験なし - 取り組み:
恐竜好きの子どもに、日本語の図鑑と英語のYouTube動画をセットで見せる。発見したことを日本語と英語の両方で言ってみる遊びを日常化。 - 結果:
恐竜の英語名(Tyrannosaurus, Triceratopsなど)を覚えたことをきっかけに、英語に対する苦手意識がゼロに。小学2年で英語の自由研究を自主的に提出。 - ポイント:
興味・得意分野を両言語で触れさせることで学びが深まり、モチベーションが長続き。
家庭と園・学校が連携したケース
- 家庭構成:
日本人母、海外在住経験あり - 取り組み:
園から「今月は食べ物の英語を学んでいます」と情報共有。家庭では同じテーマの英語絵本を読み、スーパーで実物を見ながら英語名を復習。 - 結果:
言葉の定着が早く、園の発表会でも自信を持って英語で発表。日本語の語彙も同時に伸びた。 - ポイント:
教育環境のテーマを家庭でも共有することで、学びが相互に強化された。
バイリンガル育児の失敗例
言語使用があいまいで混乱したケース
- 家庭構成:
日本人母、日本語話者/英語を少し話せる父 - 取り組み:
父母とも日本語と英語を混ぜて話す(例:「これclean upして!」)。 - 結果:
子どもが「片づけ」と「clean up」の違いを理解できず、どちらの言語も中途半端に。5歳時点で語彙が日本語・英語ともに年齢平均より少ない。 - 原因:
大人側が意図せずコードスイッチング(混合)を多用し、意味の整理ができなかった。
一時的な取り組みで終了してしまったケース
- 家庭構成:
日本人両親 - 取り組み:
英語教材を3か月使ったが、保護者の忙しさや子どもの拒否感で中断。以降は日本語だけ。 - 結果:
習った英語はほぼ忘れ、英語に対する抵抗感が強まる。学校の英語授業でも自信を持てなくなった。 - 原因:
継続性がなく、子どもに「英語は特別で面倒なこと」という印象を与えてしまった。
日本語の基礎が不十分になったケース
- 家庭構成:
母が英語教育に熱心で、家庭内の会話をほぼ英語に - 取り組み:
テレビ、絵本、会話もほとんど英語で、日本語は園のみ。 - 結果:
4歳時点で日本語の文法や語彙が年齢より遅れ、先生や友達との会話に支障。園生活でストレスが増えた。 - 原因:
母語(日本語)の基礎を固める前に第二言語(英語)を強く入れすぎた。
成功と失敗を分けるポイント
- 一貫したルールや環境分け(誰が・どこで・いつどの言語を使うか明確に)
- 子どもの興味に合わせた二言語活動(恐竜・乗り物・歌など)
- 家庭と教育現場の連携(同じテーマを両方で扱う)
- 継続性(短期集中より、少しずつ長く)
- 母語の基礎を優先しつつ第二言語を加える
バイリンガル育児をテーマにした書籍

『英語でDORAEMON 音声つき: バイリンガルコミックス(2)』
人気キャラクターの「ドラえもん」を日本語と英語で楽しめるバイリンガルコミック。QRコードからネイティブ音声が聴け、リスニングや発音の学習にも最適です。各ページには日常英語表現や文化コラムもあり、子どもから大人まで幅広く学習可能。
『未就学児の日本語継承は楽しく! 親子で取り組むバイリンガル育児』
未就学児の日本語継承を楽しく行うための実践アイデアを多数紹介。遊びの中で自然に言語を身につける工夫が豊富で、忙しい親でも取り入れやすい構成が魅力です。
バイリンガル育児関連のおすすめ本
「完全改訂版 バイリンガル教育の方法」
バイリンガル教育の基本・理論を学びたい方向けのバイブル的な一冊
「言葉と教育 海外で子どもを育てている保護者のみなさまへ」
携帯性に優れた新書タイプ、海外在住の家庭に 助けになる内容
「親から始まる『正解のない時代』を生き抜く世界基準の子育て」
「レバイン・メソッド」と呼ばれる子育て法を展開。0歳からの家庭教育にも応用可能。
乳幼児の言語育成を支える本
『0〜4歳 わが子の発達に合わせた1日30分間「語りかけ」育児』(サリー・ウォード著ほか)
言葉の発達段階ごとのサポート方法を詳しく説明。バイリンガルでなくても、親子のコミュニケーション力を高めたい方におすすめです
英語家庭学習に役立つ本
『おうち英語だけで『子どもがバイリンガルに育つ』シンプルなたった1つの方法』(著:ひで)
「語りかけ育児」をベースに、自宅でバイリンガルに育てた実践例を紹介。
家庭と園での連携
園だけが英語を取り入れても、家庭で全く使わなければ忘れやすくなります。逆に家庭だけで英語を使い、園では日本語だけだと、日本語の基礎が強まり英語が後退することもあります。保護者との定期的な共有(「今月は色の英語を練習中です」など)を行い、両方の環境で似たテーマに触れると効果が高まります。
保育士自身の姿勢が鍵
子どもは大人の姿勢をよく見ています。保育士が言語を切り替えることを楽しみ、英語でも日本語でも自然に表現できる姿を見せることで、子どもも「どちらの言葉も大切」という感覚を持ちます。バイリンガル教育は、完璧な発音や文法を目指すより、「どちらの言語も生活の一部にする」ことが重要です。
まとめ
日本語と英語のバランスは、一度整えたら終わりではなく、子どもの年齢や成長段階に応じて調整が必要です。
ポイントは、「場面を決める」「両言語を結びつける」「家庭と園で連携する」の3つ。
日々の小さな積み重ねが、子どもにとって自然なバイリンガル環境を作ります。
