東京オリンピックの競技種目にもなっているホッケーですが、実はオリンピック競技として注目されるのは夏季に限ったことではありません。冬季オリンピックでは、アイスホッケー競技としてお馴染みです。そして、hockeyはフィールドのホッケーと、アイスリンク上でのホッケー、両方のスポーツを意味する言葉でもあります。この記事では、アメリカ英語とイギリス英語でのhockeyの意味や発音の違いについて詳しく紹介していきます。
ホッケーとはどんなスポーツ?
ホッケー競技の始まりは19世紀、イギリスのクリケット選手たちが、練習ができない冬シーズンに始めたのがきっかけではないかと言われています。男子は1908年のロンドン、女子は1980年のモスクワから正式競技となりました。試合はフィールドプレーヤー10人にゴールキーパー1名を合わせた11人対11人で対戦します。交代回数は無制限で、スタミナが切れたら一旦下がり、体力を回復させたのちタイミングよく投入といった采配ができるのは、ホッケーならではの魅力でしょう。ホッケー強豪国は男女ともに、オーストラリア、オランダ、ドイツ、アルゼンチンなどが挙がり、アジア圏ではインドが際立った好成績を収めているのが印象的です。
アイスホッケー競技の始まりは19世紀に、カナダの大学生らがフィールドホッケーとラグビーのルールを掛け合わせ、大々的なイベントとして開催したのがきっかけとされています。やがてアイスホッケー競技はカナダからアメリカへ伝わり、北米を代表するウィンタースポーツへと成長していきました。オリンピックに初めて登場したのは、まだ冬季五輪が存在しなかった時代、1920年のアントワープ夏期オリンピックの競技として初めて実施されました。アイスホッケーの試合で一度に氷上に出るプレーヤーは、キーパーを含めて各チーム6名ずつ、選手間のコンタクトも非常に激しく、全員が防具のように頑丈なユニフォームを装着してプレーします。
このように、スティックでボールやパックを相手ゴールに打ち込むという点では、両者とも似通っていますが、細かくルールを見比べていくとフィールドホッケーとアイスホッケーではかなり別物のスポーツだということがわかってきます。
ホッケーの語源は古期フランス語?
ホッケーは、英語でhockeyと記します。その語源は、古期フランス語で「羊飼いの杖」を意味するhoquetという説が有力です。ホッケーで使用するスティックが羊飼いの杖と形状が似ていることから、hoquetが徐々に英語圏でhockeyという呼び方へ変化していったのではないかと考えられています。ちなみに、ホッケーの語源と推察される古期フランス語hoquet(オケ)という用語は、現在のフランスでも使われていて、古期とは全く違う「しゃっくり」を意味しています。
アメリカ英語のhockey
アメリカ圏でhockeyと言えば、それはアイスホッケーのことを指します。NHLに象徴されるようにアイスホッケーはアメリカでは不動の3大スポーツの一つです。iceなどという言葉は不要、アメリカ国民誰もがhockeyだけでアイスリンク上で行われるあの激しいコンタクトスポーツを想起するはずです。逆にフィールドのホッケーという意味をしっかり伝えたいなら、気分もアメリカ人になり切って「field hockey」と表現するようにしましょう。
hockeyの発音もまさにアメリカナイズされた響きで、日本語で表現するなら「ハキィ」といった表記が一番近いです。アメリカ英語全般での共通点、母音の部分が「ア」寄りに発音されるという現象がここでも見受けられます。例えば「hot」もアメリカ英語で発音すれば、日本語での表記は「ハット」(わずかにホ寄りのハ)が一番近くなります。hockeyでもまさにアメリカ英語のルール通りの発音がなされているわけです。
イギリス英語のhockey
英国英語圏でhockeyと言えば、それはフィールド上のホッケーを指します。元々フィールドで行っていた競技をヨーロッパ圏でhockeyと呼び始めたのですから当然と言えば当然です。イギリス英語圏ならhockeyだけで、アイスリンク上の競技と理解されると甘い期待を抱いてはいけません。同文化圏でアイスホッケーのことを伝えたいなら、イギリス英語に敬意を表しつつ、「ice hockey」と表現するようにしましょう。逆に、気を利かせて「field hockey」と伝えようものなら、相手から怪訝そうな表情をされてしまうかもしれません。
hockeyの発音の仕方もまさに伝統あるイギリス英語そのもの、日本語で表現するなら「ホキィ」といった表現が一番近いです。イギリス英語全般の共通点、母音の部分が「オ」寄りに発音されるという現象がここでも見受けられます。例えば「hot」もイギリス英語で発音すれば、日本語での表記は「ホット」が一番近くなります。hockeyでもまさにイギリス英語のルール通りの発音がなされているわけです。
hockeyに関連する用語
次に、hockeyを用いた関連用語を一通り確認しておきましょう。まず「hockey city」ですが、これはホッケーが盛んな街を意味します。「hockey field」はホッケー競技場で、「(ice) hockey rink」はアイスホッケーリンクです。「hockey balls」はフィールドホッケーで用いるボールのこと、「hockey puck」の方はアイスホッケーで使うパックを指しています。「National Hockey League」とは、米国のプロアイスホッケーリーグNHLの正式名称。そして「hockey player」がホッケー選手、「hockey coach」はホッケーのコーチです。
ここでホッケー競技のコーチについて補足しておくと、サッカーや野球でいう「監督」に位置するポストは、ホッケーの世界ではヘッドコーチが該当します。野球・サッカーの話題に慣れていると、監督の補佐を行うのがコーチという印象が強いですが、ホッケートピックであれば「hockey head coach」が実質的にそのチームの監督です。
「ホッケー」ではおそらく国際交流は厳しい件
そして、どうしても念を入れて説明しておきたいのが、日本語がhockeyを「ホッケー」と呼ぶ件についてです。カタカナである以上、それが英語由来であることは多くの日本人が確信できます。英語由来だからこそ、「ホッケー」と英語のネイティブスピーカーに伝えればきっと意思疎通できるはずだと期待するでしょう。しかし、この「ホッケー」に関していえば、その期待は非常に厳しい現実に直面すると言わざるを得ません。前述したように、hockeyの発音はアメリカ式とイギリス式どちらを取るにしても、日本語発音とは決定的に異なります。かたや「ハキィ」かたや「ホキィ」と来て、仕上げに「ホッケー」ですから、英語発音の2つが兄弟だとするなら、最後のホッケーの響きは完全に赤の他人です。これはホッケーのままでは通じないでしょう。
日本語に置き換えてhockeyの読み方を覚えるとするなら、まずアメリカ英語発音の場合は、ホッケーではなく「覇気」と発音する方がよほど近いです。覇気の「は」に特に力を込めて発音すれば、かなりの高確率でアメリカネイティブスピーカーに「アイスホッケー」のことだと通じてくれるはずです。次に、イギリス英語発音の場合は、ホッケーではなく掃除用具の「ほうき」と発音する方が理想的です。ほうきの「ほ」に特に力を込めて発音すれば、かなりの高確率で英国ネイティブスピーカーに「フィールドホッケー」のことだと通じてくれるはずです。
以上を踏まえた上で、hockeyに関する面白い例文を紹介しましょう。それが、「Which sport do you like better, 覇気 or ほうき?」です。この文は、「ice hockey」と「field hockey」どちらが好きですかと素直に表現せずに、アメリカ英語とイギリス英語を使い分ける発音スキルをさりげなく誇示したい人へ捧げる一文です。興味がある人、チャレンジ精神がある人は、実際に使ってみてください。
文化や人の暮らしぶりが言葉の意味さえ形成していく
英語という共通のルーツでありながら、ヨーロッパとアメリカ、特有の文化や異なる趣向の人々の影響を受け、発音や言葉の意味まで変化していくというのは実に興味深い言語の一面です。日々日本語に囲まれて暮らす私たちであっても、hockeyという英単語の2種類の発音を正しく理解することで、異なる文化圏で暮らす人々の目線も以前より間近に感じられてくるのではないでしょうか。