TOEIC(読み:トーイック)は、今や日本では実用英語技能検定(英検)に次いで知られている英語の資格ではないでしょうか。正式な名称はTest of English for International Communication(国際コミュニケーション英語能力テスト)で、TOEICはその略称です。

TOEICには5種類のテストがあり、一般にTOEICとよばれているのは、英語を「聞く」「読む」能力を測る「TOEIC L&R Test」を指します。TOEICテストのなかではもっとも受験者が多く、2023年度は192万2千人が受験しました。「TOEIC L&R Test」には合格・不合格がなく、受験者の解答に対してスコアが出され、全問に正解すると990点のスコアになります。

990点が満点のTOEICで「800点を取った」と聞くと、とんでもなく英語ができるひとをイメージしますよね。

確かにTOEICは、数多くある英語の資格・試験のなかでも一般に普及していて、英語能力の証明として、かなり高い評価を受けています。

後述するように問題文はすべて英語で、日本の中学校・高校で慣れてきた、日本語を使う英文和訳・和文英訳の設問もありません。「英語の試験」という視点でみても、英語のネイティブスピーカーでないひとにとっては難度が高く、「英語が得意」「難関大学に合格」「海外留学の経験者」「仕事で英語を使う」といったひとでも、試験の形式に慣れ、語彙や文法を復習するなどのTOEIC向けの対策をしなければ、高スコアの取得は難しい試験です。高い正答率が求められるからです。

また、英語を勉強している人の間でも「TOEICで800点以上のスコアを取るひとは、実力が大きく違う」と感じることがあるようです。

この記事では、英語能力を示す「TOEIC800点」というスコアについて説明します。「どのくらいの正答率があればTOEIC800点を取得できるのか」、そして「どうしてTOEIC800点に実力レベルの違いを感じるのか」「TOEICで800点を取るには、どのような勉強をすればいいのか」といった疑問にも答えていきます。

TOEICのスコア別評価

レベル

この記事を読む方のなかには、初めてTOEICを受験しようと考えている方もあるかもしれません。そこで、「TOEIC800点」について説明する前に、「TOEIC L&R Test」のスコアはどのような評価なのかを確認しておきましょう。

TOEICを実施する一般財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)は、受験に関するさまざまなデータを公開していて、TOEIC L&Rスコアを次のように評価しています。

  • レベルA(860点以上)
    Non-Nativeとして十分なコミュニケーションができる
  • レベルB(730点以上860点以下)
    どんな状況でも適切なコミュニケーションができる素地を備えている
  • レベルC(470点以上730点以下)
    日常生活のニーズを充足し、限定された範囲では業務上のコミュニケーションができる
  • レベルD(220点以上470点以下)
    通常会話で最低限のコミュニケーションができる
  • レベルE(220点以下)
    コミュニケーションができるまでに至っていない

出所 企業・団体での活用事例 海外出張や赴任の基準(国際ビジネスコミュニケーション協会)

TOEIC公式ウェブサイトで公開されている、企業・団体へのアンケート調査「英語活用実態調査」(2019年)によると、回答者の5~6割が、海外出張や赴任者を選抜する際にTOEICのスコアを要件または参考にしていることがわかります。そのうえで、企業・団体が海外部門の社員に期待するTOEIC L&Rスコアは570~810点である、という結果を明らかにしています。

そして、企業・団体が「海外出張者の選抜に要件・参考とするTOEIC L&Rスコア」の平均は620点、そして「海外赴任者の選抜に要件・参考とするTOEIC L&Rスコア」の平均は635点という結果が出たことも公開されています。

この記事で取り上げる「TOEIC800点」というスコアは、TOEIC L&Rの受験者平均よりも、企業・団体が海外に出張させるひと、または海外に赴任させるひとを選考する際に期待しているスコアよりも高いことがおわかりいただけるでしょうか。

 

次の記事では、TOEICのスコアを「300点以下」から「900~990点」までの8段階に分けて説明しています。どのようなことができるという評価なのか、また段階に合わせた勉強法などを紹介しているので参考になるはずです。

TOEIC800点には壁を感じる?その理由とは

TOEIC800点には壁を感じる?その理由とは

「TOEIC L&R Test」(以下、TOEIC)で800点のスコアを取るためには、乗り越えなければならない、3つの大きな壁があります。

  1. 速さと正確さを同時に求められる
  2. 8割の正答率
  3. 問題をすべて「解ききる」こと

それぞれがどのような壁なのか、順を追ってみていきましょう。

1.速さと正確さを同時に求められる

TOEICを受験したことがあるひとなら、ほとんどが「時間内に問題を解ききれなかった!」という経験をしたことがあるのではないでしょうか?

TOEICは、特にスピーディーに問題を解くことが求められる試験です。

TOEIC受験者の平均スコアは、2022年度には608点と発表されています。

受験者の多くは、進学や就職の機会に自分の英語の能力をアピールする目的で受けている、つまり英語が得意なひとであることを考えると、その他大勢が受験する高校や大学の入学試験の受験者よりも高い英語能力をもっていることが考えられます。

ですから、TOEICで800点ほどではないにしても、TOEIC受験者の平均スコアを上回る「700点のスコアを取得した」ひとというと、かなり英語が得意なひとを思い浮かべますよね。

TOEICスコア700点は、前項のスコア評価では「レベルC」に相当し、「日常生活のニーズを充足し、限定された範囲では業務上のコミュニケーションができる」とみなされています。しかし、TOEICで700前後のスコアを取得したひとでも、最後まで試験問題を解ききれるひとばかりではないという実情があります。

こうしたことから、TOEICは解答時間がとても厳しい英語試験だということができます。後述するように、TOEICで800点を取得するには、全体の8割程度の正答率が必要になります。ですから、TOEICで800点のスコアをマークするには、それほど解答時間が限られるなかで、スピーディーにかつ正確に解答する必要があります。

つまり、TOEICは「速さと正確さを同時に求められる」傾向があるといえます。TOEIC700点前後の実力でも、時間内に最後まで問題には手をつけられずに試験を終えてしまうわけですから、英語の設問を的確に読み取り、素早く反応できるトレーニングをしておくとよいでしょう。

2.8割の正答率

TOEICで800点を取るには、試験全体を通して8割の問題に正解する必要があります。

TOEICの点数は5~990のスコアで判定されます。スコアは5点刻みで表されますが、単純に「1問不正解だったので985点です」という計算方法ではありません。採点は、正解した答えの数に基づき、

スコアの同一化(Equating)と呼ばれる統計処理によって算出された換算点(Scaled Score)

出所 テスト結果について(国際ビジネスコミュニケーション協会)

で表示されます。

従って「全体の8割正解したので、必ず800点が約束される」わけではありませんが、統計処理による換算は決定的な要素ではないので、TOEIC800点を取得する目安としては、やはり「全体の8割を正解する」必要があります。

先述したように、TOEICは「速さと正確さを同時に求められる」という特徴があるので、スピーディーに回答し、なおかつ8割の正答率を保つ必要があります。何度もじっくり問題文を読み返す時間の余裕はありませんので、TOEIC800点をめざすのであれば、英文の問題をさっと読んで正しく理解する力、英文の選択肢をテキパキと正確に選んでいく力をつけていきましょう。

3.問題を最後まで「解ききる」こと

先述した通り、TOEICは「特にスピーディーに問題を解くことが求められる試験」ですから、800点を取るには「スピーディーに問題を解き」、さらにその答えは8割以上正確であることが必要です。

TOEICで800点を取るために重要なのは、「時間内に最後まで問題を解く」という意識です。

ひとりひとりによって差はありますが、受験者が「時間内に最後まで解ききれた!」と感じるようになるのは、「800点を超えたあたりから」だと言う声は少なくありません。IIBCも、以下のようにアドバイスしています。

誤った解答は減点されませんので、答えに迷った場合でもどれか1つにマークすることをお勧めします。特にリーディングセクションにおいては時間配分に注意し、最後の問題まで解答欄にマークするように心がけてください。

出所 テスト結果について(国際ビジネスコミュニケーション協会)

読み切れず、答えられなかったノータッチの問題があると、(減点されるわけではありませんが)それだけ正当数が少なくなるので、正答率8割をめざすとなると、頭打ちになる恐れがあります。

以上のことから、TOEICで800点を取るためには

速さと正確さが同時に求められる

8割の正答率が必要

問題を最後まで解ききること

の3点が、乗り越えるべき壁といえるでしょう。

TOEICの問題形式

TOEICで800点の高スコアを取るために、乗り越えなければならない3つの大きな壁について、説明してきました。効果的な勉強法の説明に入る前に、これからTOEICを受験しようと考えている方向けに、「TOEIC L&R Test」ではどのような問題が出されるのか、簡単に紹介しておきます。

TOEIC L&R Testは、「リスニングセクション」と「リーディングセクション」の2部にわかれて行われます。

  • リスニング100問 (試験時間 約45分間))
  • リーディング(100問) (試験時間 5分間)
  • 合計200問のマークシート方式(合計試験時間 約2時間)

問題文はすべて英語で、以下の7パートにわかれています。出題の形式は毎回同じですが、出題内容はもちろん毎回変わります。

会話やナレーションを聞いて設問に解答する「リスニングセクション」(約45分間・100問)

  • Part1 写真描写問題 6問
    Part2 応答問題 25問
    Part3 会話問題 39問
    Part4 説明文問題 30問

印刷された問題を読んで設問に解答する「リーディングセクション」(75分間・100問)

  • Part5 短文穴埋め問題 30問
    Part6 長文穴埋め問題 16問
    Part7 1つの文書:29問、複数の文書:25問

出所 テストの形式と構成(国際ビジネスコミュニケーション協会)

次の項では、こうした形式のTOEIC L&R Testで、800点を取るために必要な勉強法を紹介します。

TOEIC800点を取るために効果的な勉強法は?

TOEIC800点を取るために効果的な勉強法は?

ここまで、TOEICで800点をとるためには問題文を素早く読み、正確に回答することが必要なことを説明してきました。それでは、速さと正確さを鍛えるためには、どのような勉強が効果的なのでしょうか? いくつか実践的なトレーニング法を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

精読

精読とは、文章を正確に読む力を養うトレーニングです。

くわしく読むこと。こまかな点まで注意深く読むこと。

デジタル大辞泉「精読」

精読を行うことで、文章を読む正確さとスピードを、同時に養うことができます。

具体的には、公式問題集などに出てくるTOEICの英文をひとつひとつ「これが動詞で、ここまでが主語、ここまでが述語。これ以降は従属節で、日本語に訳すとこうなる」というレベルまで、しっかり分析的に読み進めます。

精読する利点は、英文の構造をパターン化して覚えることができることです。分析的に読む訓練を重ねることで、慣れてくれば英文を見たときに、瞬時に文構造を把握できるようになります。

そうなれば、読む前から文章の骨格がわかるので、個々の単語の意味を追う前から、文章全体がどのような意味になるのかを予測して、正確に読めるわけです。同時に、瞬時に予測を立てて読む力によりスピードの向上も図れるので、TOEIC800点をねらうために必要な力を効果的につけられるでしょう。

音読

音読は、英語を素早く読む力を養うトレーニングです。

読み上げる際には、書いてある英文をただ読むだけではなく、「読み上げるスピードで英文の意味を理解していく」意識をもつことが重要になります。

言い換えると、英文を読むときにいったん日本語を介さず、「英語を英語のまま直接理解する力」を鍛えるトレーニングだといえます。

「精読で英文を正確に読む力をつけ、音読でそれを素早く行うトレーニングをする」という感覚を意識してみてください。

シャドーイング

シャドーイングは、モデルとなる英語の音声を聞き取り、聞き取った英文を音声の後に続いて自分で読み上げていくトレーニングです。

shadowは「影」という名詞でも使われます。動詞として使う場合は「尾行する」という意味があり、言語学習で使う場合は、影のように音を繰り返して発音することを指します。

一般に、自分が聞き取れない音は正確に発音することができません。従って、シャドーイングで訓練をすると、英語の発音にとても敏感になります。

その結果、リスニング力を飛躍的に向上させることを期待できます。

また、TOEICの過去の出題問題や模擬試験のリスニング音声を使ってシャドーイングを行うことで、ネイティブスピーカーの話す自然なスピードで英文を聞き取る力も養われますし、同じ英文を反復して行うことで、TOEICリスニングの頻出表現に慣れることもできます。

率直にいって、シャドーイングは簡単なトレーニングではありません。しかし、現在のリスニング力の底上げと、TOEICの出題傾向の把握が同時にできるので、作業負荷の分の成果はある効果的な勉強法ですから、TOEIC800点をめざすには非常に効果的なトレーニングといえます。

英語の音声を使うリスニングの学習には、画面越しに講師と向き合う「オンライン英会話」も選択肢のひとつです。英語学校や英会話教室と違い、オンライン英会話には英語学習を始めたばかりのひとを対象にしたものから、留学したひとが英語力の維持に利用しているものまで、たくさんのコースがあります。TOEICなどの資格・試験対策に特化したコースもありますし、公式問題集などでうまく聞き取れなかった音があるなら、講師に頼んで特訓してもらう方法もあります。

次の記事では、レベルごとにどのようなオンライン英会話の活用の仕方があるかを紹介していて、参考になります。

単語はどうする?

TOEICで800点をめざすのであれば、語彙(ごい)力の強化は単語帳より過去の出題問題集を用いた方が効果的です。

「どの表現が頻出するのかわからない!」

「知らない単語が多すぎて、まとめていたらキリがない!」

などなど、確かにTOEICの初心者にとっては、難易度順や頻出順にまとめられた単語帳を使った学習が効果的です。

しかし、TOEICで800点を目指す中級者レベルであれば、問題集に出てきた知らない単語を自分でノートなどにまとめて覚えた方が効果的です。

その方が、過去の出題問題の演習と並行して学べる分、手間が少なく済みますし、知らない単語だけを集中して覚えることができるからです。

TOEICで800点をめざすのは、英語の学習がまるで初めてという初学者ではないはずです。ある程度もっている英語力の基礎を確実にし、その上で弱い部分、苦手な部分の力をつけていく勉強法が中心です。次の記事では、TOEICで800点をめざす中級者も含めて、レベルごとに必要な学習時間の目安と、重点的に学ぶべきことをわかりやすく解説しています。

まとめ

この記事では、「TOEIC L&R Test」で800点を取ることについて、以下の点をお伝えしました。

  • TOEIC800点突破に感じる壁ー正確さとスピードを両方同時に求められる
  • TOEIC800点を目指す効果的な勉強法ー精読、音読、シャドーイングで複数のスキルを同時に養う
  • 効果的な英単語暗記法ー過去の問題から専用の単語帳を自作する

TOEICで800点のスコアをマークするのは、確かに容易ではありません。しかし、取得が難しい分、英語能力の証明としては得るものがあります。

就職活動などでは、義務として課されたのではない試験を自発的に受ける積極性や、目標のためにこつこつと努力する意欲などもアピールできるでしょう。

また、社会人にとっても、海外と接点がある部署に異動を希望したり、海外出張や海外駐在の候補として選考を受ける際に、TOEICのスコアは有力な要素になり得ます。

同時に、800点という高スコアを出したことにより、「自分の英語力が上級レベルまで養われた」という感覚をしっかりと得ることができます。

これまでの学習を活かして、効果的に単語を覚えて800点を超えるハイスコアをめざしましょう! この記事でお伝えしたことをぜひ活かして、あなたがTOEICで800点を取得するお役に立ていただければ幸いです。