ジブラルタル海峡から40kmほど南、アフリカ大陸の北端に位置するテトゥアン(Tétouan)は、白く塗られた家々が斜面にびっしりと並ぶ美しい町です。どこかスペインのアンダルシア地方を思わせるこの町並みは、実は15世紀にイベリア半島からモロッコに逃れてきたイスラム教徒やユダヤ教徒によって再建されたものでした。
かつてのスペイン領アンダルシアから亡命してきた彼らは、新天地テトゥアンに自らの文化や技術を持ち込みました。そのため、町の建物、工芸、装飾には「アンダルシア×イスラム」の文化が色濃く残っています。
1997年には、こうした歴史的・文化的価値が認められ、「テトゥアン旧市街(Medina of Tétouan)」がユネスコ世界遺産に登録されました。
テトゥアン旧市街(旧名ティタウィン)とは?

モロッコ北部にあるテトゥアンは、かつて「ティタウィン(Titawin)」と呼ばれ、「白い鳩(La Colombe Blanche)」という愛称でも知られています。これは、町の家々が白く塗られているためで、上から見るとまるで白い鳩が羽ばたいているようにも見えるからです。
町の起源は古代に遡り、ローマ時代には「タムダ(Tamuda)」という要塞都市が存在していたことがわかっています。しかし現在のテトゥアンの姿は、15世紀以降に形成されたものです。
レコンキスタ(Reconquista)により、スペインでキリスト教徒がイスラム支配を排除した一連の戦争の後、アンダルシア地方にいたイスラム教徒やユダヤ教徒は追放されました。その多くがテトゥアンへと逃れ、この地で新たな生活を築いたのです。
彼らが築いた「メディナ(旧市街)」は、迷路のような路地と美しい装飾を持ち、イスラム建築とスペイン・アンダルシアの文化が融合した独特の世界を生み出しました。
モロッコってどんな国?
正式名称は「モロッコ王国(Kingdom of Morocco)」で、北アフリカのマグリブ地域に位置する立憲君主制国家です。北は地中海とジブラルタル海峡に面し、スペインの飛び地(セウタ、メリリャ)と隣接しています。
首都はラバト、公用語はアラビア語とベルベル語(アマジグ語)ですが、フランス語やスペイン語も広く使われています。
旧市街の歴史:迫害から生まれた美
テトゥアンのメディナ(旧市街)の形成が本格化したのは、15世紀後半。アンダルシアから追放されたムーア人(イスラム教徒)とセファルディ(ユダヤ教徒)たちが移り住んだことで、独特の町並みが生まれました。
彼らは、優れた建築技術、音楽、料理、陶芸、染色技術をテトゥアンに持ち込み、町は北モロッコの文化的・経済的中心として急速に発展。16~17世紀には交易の中継地としても栄え、ヨーロッパとアフリカをつなぐ玄関口となりました。
特に建築にはスペイン・イスラム様式が色濃く残っており、白い壁、モザイクタイル、木製の彫刻が美しく融合した建物群は、他のモロッコの都市とは異なる魅力を放っています。
世界遺産としての価値
1997年、テトゥアンの旧市街は「Medina of Tétouan (formerly known as Titawin)」の名でユネスコ世界遺産に登録されました。
登録理由とは?
その理由は以下のとおりです。
- アンダルシア文化の希少な継承地:追放されたムーア人が築いたアンダルシア文化が、現在も色濃く残されている。
- 都市構造の保存状態の良さ:城壁、門、スーク(市場)、モスク、住宅群が当時のままの形で保存されており、都市計画の歴史を伝えている。
- 独自の文化的融合:アラブ・イスラム文化とスペイン文化の融合が視覚的にわかる形で街に反映されている。
UNESCO World Heritage Convention:Medina of Tétouan (formerly known as Titawin)
覚えておきたい英会話フレーズ
旅先での感動や歴史ある場所について語るとき、英語でうまく表現できたら素敵ですよね。ここでは、テトゥアン旧市街のような世界遺産を訪れた際に使える、実用的で覚えておきたい英会話フレーズを紹介します。
訳)まるでアンダルシアの一部みたい!ここがアフリカなんて信じられない。
訳)ほんと、まだモロッコにいるなんて思えないよ!
訳)この町、15世紀にムスリムとユダヤ人が再建したんだって。
訳)ほんと?だからこんなにユニークな建築なんだね。
訳)このメディナ、すごく静かで心地いいね。
訳)うん、まるで歴史の中を歩いてるみたいだ。
訳)上から見ると本当に白い鳩みたいだね。
訳)だから“白い鳩”って呼ばれてるんだよね?
テトゥアン旧市街の見どころ

白い壁の街並みにアンダルシアの面影が残るテトゥアン旧市街。王宮や市場、モスクなど、歴史と文化が感じられる見どころを紹介します。
王宮(Royal Palace)
旧市街の中心に位置する王宮は、今もモロッコ王室の公式施設として使用されており、中には入れませんが、外から見える壮麗な門と装飾は一見の価値あり。アンダルシア様式の美が感じられます。
スーク(市場)
旧市街の迷路のような小路に広がるスークは、モロッコらしい香辛料や銀細工、カラフルな陶器などであふれています。地元の職人による手工芸品は、アンダルシアの装飾を取り入れた独特の美しさを持っています。
モスクとマドラサ(イスラム学院)
メディナには数多くのモスクやマドラサが点在しています。なかでも「スルタン・アフメッド・モスク(Sultan Ahmad Mosque)」は、細かい幾何学模様の彫刻やアーチが特徴で、静かな敬虔さを感じさせます。
城壁と門(City Walls and Gates)
旧市街は16世紀に築かれた全長約5kmの城壁で囲まれており、その要所に「バブ・オカラ門(Bab Okla)」などの立派な門が残されています。これらは都市の防衛と統治のための重要な構造でした。
おわりに:英語で世界遺産を旅しよう
テトゥアン旧市街は、歴史の痛みと文化の融合が生み出した美しい都市です。白い壁の家々、アンダルシアの記憶、イスラムの精神。
英語を学ぶ皆さんにとって、こうした世界遺産の背景を知ることは、語学だけでなく異文化理解にもつながります。旅をしながら英語を話す、世界を見ながら学ぶことを、ぜひ感じてみてください。
