ダイバーシティやLGBTなどの話題にの中で、「カミングアウト」という言葉を耳にすることが増えてきました。
テレビやインターネットでは、ゴシップネタとして有名人のカミングアウトが取り上げられることも少なくありません。
隠していたことを公表するという意味で使われている「カミングアウト」は、英語の”come out”からきている言葉です。
英語本来の意味と共通している部分もありますが、日本語ではかなり限定的な使い方をされているのが特徴です。
今回は、そんな「カミングアウト」について、英語本来の意味と正しい使い方、英語の言い換えと類似表現を紹介していきます。
「カミングアウト」の本来の意味
「カミングアウト」は、英語の”coming out of the closet”を短縮した表現です。
同性愛者の間で用いられていたスラング”coming out of the closet”(クローゼットの中から出て来る)が世界中に広まったことで、性的指向や性自認の自己開示を表す英語として使われるようになりました。
クローゼットの中に入れて隠していたものが出てくること、つまり、今まで誰にも言っていなかった自分の秘密を打ち明けることを表しています。
性自認や性的指向、出自などは、少数派であればあるほど公にしたくないと考えるものです。
「変わっている」「関わりたくない」と、偏見や差別、噂話のターゲットになってしまうことを恐れている人は多いでしょう。
日本語の「カミングアウト」は、ずっと隠してきた秘密を自ら公表するという意味で、自身が性的マイノリティであることを周囲へ告白するときに使われます。
「カミングアウト」には非常に勇気がいり、相手を信頼しているからこそ正直に話す気持ちになったと考えると、打ち明けられた側は周りへ言いふらすようなことは絶対にしてはなりません。
「カミングアウト」と「カムアウト」は同じ意味
「カミングアウト」は、英語で”coming out”ですが、元になっている英語は”come out”です。
そのため、「カミングアウト」も「カムアウト」も同じ意味を表します。
”come out”は、人を主語とする文脈において、自分が性的マイノリティであることを明かすと解釈するのが一般的です。
辞書では、”come out”は以下のように定義されています。
- 同性愛であることを明かす
- (自分の性的指向・性自認などを)カミングアウトする、公表[公言]する
to tell people that you are gay, queer, transgender, non-binary, or another identity that is not heterosexual (= sexually attracted to men if you are a woman and women if you are a man)or cisgender (= having a gender that matches the body you were born with), often after having kept this a secret from them for some time
自分がゲイ、クィア、トランスジェンダー、ノンバイナリーであること、あるいはヘテロセクシュアルでもシスジェンダーでもない別のアイデンティティであることを、しばらく秘密にしてきた後で、人に伝えること※ヘテロセクシュアル…女性が男性に、男性が女性に性的魅力を感じること
※シスジェンダー…生まれつきの身体と同じ性別を持つこと
「カミングアウト」の英語は、”coming out”ではなく、”come out”と表現するのが適切です。
どこで誰に打ち明けるのか、カミングアウトの場所や相手を明確にしておくと、よりわかりやすく自然な言い方になります。
Can you come out to your parents?
訳)自分の親にカミングアウトできますか?
I don’t know how to come out to my friends.
訳)友達にはどうやってカミングアウトしたらいいのでしょうか。
When did you come out at work?
訳)職場でカミングアウトしたのはいつですか?
「カミングアウト」と「アウティング」の違い
「カミングアウト」(カムアウトともいう)は、今まで誰にも言わないできた自分の性的指向や性自認について告白することを指した言葉です。
しかし、公にするといっても、必ずしも家族や友人、同僚など、自分を取り巻く全ての人にオープンにするわけではありません。
秘密にしてきた自分のセクシャリティを自ら打ち明ける「カミングアウト」に対して、カミングアウトされた受け手がその内容を勝手に他人に言いふらすことを「アウティング」と言います。
この「アウティング」は、英語”outing”からきた言葉で、カミングアウトした人の意志に反して内容を暴露することを意味しています。
”outing”を辞書で調べると、以下のように定義されています。
- (本人の意志に反して)ある人が同性愛者だと暴露すること
- 性的マイノリティであることを、本人の了解を得ずに言い広めること
参考:
英辞郎on the web
goo辞書
an occasion when it is made public that a famous person is gay when he or she wanted to keep this information private
ゲイであること秘密にしておきたかったのに、公表されてしまったこと
家族や親しい友人からカミングアウトされた経験はありますか?
カミングアウトされた内容を、ペラペラと周りの人に言いふらしたり、SNSなどで拡散してしまったりしていないでしょうか。
これらは「アウティング」と呼ばれ、カミングアウトした本人の心をひどく傷つけ、最悪の場合は自殺にまで追い込んでしまうこともある恐ろしい行為です。
「カミングアウト」と「アウティング」の違いは、本人の意志があるかないかというところです。
カミングアウト | 本人が自らの意志で、性的指向や性自認を周囲へ公表すること |
アウティング | 本人の了承を得ず、当事者の性的指向や性自認を第三者やSNSなどに暴露すること |
自分から公表する「カミングアウト」と、本人の同意なく暴露する「アウティング」。
プライバシーの問題や人権の侵害にまで発展しうる「アウティング」ですが、社会での認知度は低く、ほとんど認識されていません。
面白半分で、良かれと思って、無自覚にアウティングをしたことでトラブルや事件に発展してしまうこともあります。
「カミングアウト」は、個々の自由で、本人の意志が何よりも尊重されなければなりません。
もし「カミングアウト」を受けたら、誰が知っているのか、他の人に話してもいいのか本人にしっかりと確認しておくことが重要です。
【例文】
A publicized outing targets prominent figures, for example, well-known politicians, accomplished athletes or popular artists.
訳)アウティングの標的にされるのは、政治家、一流アスリート、人気のあるアーティストなどです。
The advent of the internet has made outing public figures much easier.
訳)インターネットが普及したことで、公人へのアウティングが容易に行われるようになってしまいました。
「カミングアウト」とLGBTQ+
皆さんは、LGBTQという言葉を聞いたことがありますか?
LGBTQとは、同性愛者をはじめとする性的マイノリティの総称として使われている言葉です。
LGBTQには、以下のような人たちが当てはまります。
|
最近では、上記以外にもさまざまなセクシュアリティがあることが認識され、「LGBTQ+」のように表記されることもあります。
LGBTQと「カミングアウト」は、セットで用いられることも多いのでぜひ覚えておきましょう。
【例文】
Do you feel any prejudice against LGBTQ?
訳)LGBTQに対して、偏見を感じることはありますか?
There is a tendency to muffle the voices of its LGBTQ.
訳)LGBTQの声を排除しようとする傾向があります。
「カミングアウト」の言い換えと類似表現
これまで黙っていたことを打ち明けるという意味の「カミングアウト」は、他にもいろいろな英語で言い換えられます。
「カミングアウト」と同じようなニュアンスで使える英語表現を3つ紹介します。
reveal a secret
”reveal”には、「明かす、暴露する、あらわにする」という意味があります。
”reveal a secret”で、「秘密を打ち明ける」となります。
John revealed his secret to Chris.
訳)ジョンはクリスに秘密を打ち明けました。
let…in on a secret
”reveal a secret”をカジュアルにしたのが”let…in on a secret”です。
少しくだけた表現ですが、会話ではよく使われているので覚えておくと役立ちます。
Can I let you in on my secret?
訳)わたしの秘密、1つだけ教えちゃってもいいかな?
open up
”open up”も、黙っていたことを打ち明けるときに使われる英語です。
”open”という単語からわかるように、相手に心を開くというニュアンスがあります。
She will never open up if you keep forcing her to.
訳)無理強いし続けても、彼女は決して心を開いてくれませんよ。
まとめ
「カミングアウト」について、英語本来の意味と正しい使い方、言い換えと類似表現を紹介しました。
レズビアンやゲイ、トランスジェンダーなどの性的マイノリティに属する人たちは、心ないアウティングやカミングアウトの強制で、差別や偏見に晒されています。
「カミングアウト」には、本人の意志が伴わなければならないこと、アウティングはしてはいけないということを、わたしたちはしっかりと理解する必要があります。
身近で聞き慣れたカタカナだからこそ、英語本来の意味を正しく知り、誤った使い方をしないようにしていきましょう。