”この「ことわざ」を「英語」に!”というシリーズの記事です。

今回は、「医者」のつく「ことわざ」を英語に訳してみます。

わたしたちの日常では、病気の診察をし、治療にあたることを職業にしている専門家に対して「医者」ということばをよく使います。しかし文書の上では、あるいは法律が関係するときには「医師」を用いる方が多いでしょう。

医師は、日本の医師法では

医療及び保健指導を掌(つかさど)ることによって公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする

と定められていて、資格を得るには医師国家試験に合格した上で、厚生労働省から医師免許を受けなければならない存在です。

英語の「医者」は”doctor”だけではない

「医師」「医者」など、医療や保健指導にかかわる医療従事者を総称して、英語では”doctor”を使います。

しかし、「外科医」のことは “surgeon” とよび、「歯科医」については “dentist” とよぶのが普通です。

また、動物を診る「獣医師」は、”veterinary doctor” (短縮系では “vet”)として、人間を診る医師とは区別します。

本記事では、「医者」のつく「ことわざ」を選んで、よく似た英語のことわざを紹介し、意味の伝わる英語に訳します。

ちなみに、歯科医に関係する英語については下記の記事があります。ぜひ参考にしてください。

医者の不養生

patients

医者は、ひとびとの健康を助ける存在のはずですが、多忙のあまり、あるいは実生活の上での行動が伴わず、自分の健康を害してしまうことがあります。

「医者の不養生」ということわざは、他人には立派なことを言いながら、実践が伴っていないことを揶揄(やゆ)する意味合いがあります。

類似のことわざに、客に頼まれる染め仕事に忙しくて、自分の袴(はかま)を染めることに手が回らない「紺屋の白袴」(こうやのしらばかま)があります。

また、他人に説いていることを、実は自分では信じていない「坊主の不信心」なども、似ている部分がありそうです。

いずれも、職業の上ではその分野の専門家とみなされる存在が、私生活の上で行動が伴っていないことを指したことわざです。

「医者の不養生」を英語にすると

さて、この「医者の不養生」ということわざを、英語ではどのように訳したらよいでしょうか。

Doctor’s awkwardness.

と翻訳することができます。

”awkwardness”とは「不器用さ、ぎこちなさ、きまずさ」の意味です。

また、英語では他にも

Physician, heal yourself.

と翻訳することができます。

直訳すると「医師よ、自分の病気を治療しなさい」という意味です。”physician”は「医師、開業医、内科医」などを意味します。

少し違った意味合いですが、

Doctors make the worst patients.

という決まり文句が英語にあります。
医者が治療を受ける立場になった場合は、その分野の専門家だけに知識があり、要求も多いため、”もっとも扱いにくい患者になる” という意味で使います。

なお、専門分野ごとの医師のよび方は、別の記事で詳しく説明しています。関心をおもちの方は、ぜひそちらをご覧ください。

腹八分に医者いらず

2.腹八分に医者いらず

おいしいものは、ついつい食べ過ぎて、おなかいっぱいになってしまうことがあります。

しかし、体のためには、限界まで食べるよりも、少し抑えて食べるほうがいいようです。長生きのお年寄りが、しばしば健康の秘訣として挙げるのが「腹八分」(はらはちぶ)です。

「腹八分に医者いらず」は、大食をせず、腹八分目までに抑えて食べなさい、という意味のことわざです。暴飲暴食を戒めているわけですね。

「腹八分に医者いらず」を英語にすると

英語では

A measure of meal is medicine.

と訳すことができます。

”A measure of ~”で「適量、適度の~」という意味で、”meal”は「食事」、”medicine”は「薬、医療薬、医学」です。この一文を直訳すると、「適量の食事は薬になる」という意味になります。

少し違う言い回しでは

Temperance is better than medicine.

も同じような意味合いになります。

“Temperance” は「節制、適度」という意味で、”better than ~” は「~よりよい」、”medicine” は「薬」のことですので、直訳すると「節制は薬よりもよい」と過食を戒める意味になります。

医は仁術

3.医は仁術

病気の診察をし、治療にあたる医師も、それで報酬を受け取ります。自分や家族の生計を立てなければなりませんし、病院で雇用している人には給与を、さまざまな取引先には代金を支払わなければならず、経営者でもあるわけです。

しかし、ひとの命を預かる職業の性質上、損得だけでは割り切れない責任も伴います。

「医は仁術(じんじゅつ)」は、医業はひとを慈しみ、憐れむ「仁愛」を施す仕事である、という意味のことわざです。

「医は仁術」を英語にすると

「仁」という東洋的な美徳が含まれることわざですが、「医は仁術」は

Medicine is a benevolent art.

と翻訳できます。

”medicine”は「医学」、”benevolent”は「情け深い、博愛の」、そしてこの場合の”art”は「芸術」ではなく「術、わざ」という意味です。

全体で「医学は博愛の技なり」といった意味になり、病を治し、ひとを助ける医療者の崇高な使命を表現する文章になります。

柚が色づくと医者が青くなる

4.柚が色づくと医者が青くなる

「医者」がつくことわざの4つめです。

「柚(ゆず)が色づくと医者が青くなる」は、ゆずの実が熟すと、病人が減って医者が困る(青ざめる)という意味です。

ゆずの実が色づくのは秋。夏の暑さも過ぎ、冬の寒さにはまだ間がある気候で、体調を崩すひとが少なくなるのかもしれませんね。

よく似た言い回しに、こういったものがあります。

「柿が赤くなれば医者は青くなる」

「蜜柑(みかん)が赤くなれば医者が青くなる」

いずれも、気候のよい秋になる実ですね。

「柚が色づくと医者が青くなる」を英語にすると

さわやかな香りのゆずは、日本が生産・消費ともトップで、他には中国や朝鮮半島南部でも栽培されています。

しかし、英語圏では一般的な果物ではありません。

「柚が色づくと医者が青くなる」を英語に訳すとしたら、

An apple a day keeps the doctor away.

「一日一個のりんごで医者いらず」(りんごが赤くなると医者が青くなる)ということわざが、類似の意味といえるでしょう。

また、

A tomato a day keeps the doctor away.

「一日一個のトマトで医者いらず」(トマトが赤くなると医者が青くなる)という言い方もあります。

日本語では「ゆず」「柿」「みかん」、英語では「りんご」に「トマト」、トマトを除いていずれも果物なのがおもしろいところです。

今のように薬が簡単に手に入らなかったころは、身近な食べ物やハーブで体調を整えてきたはずで、東洋と西洋に共通したものを感じますね。

酒は百薬の長

5.酒は百薬の長

「医者」の古い言い方に「薬師」(くすし)ということばがあります。「薬を用いるひと」というほどの意味になります。

ここではさらに、「薬」の入ったことわざを考えてみます。

「酒は百薬の長」は、酒はどのような薬よりも優れた薬である、と酒を賛美することわざです。

アルコールのもたらす高揚感が、ストレス解消や疲労回復効果に役立つという意味合いでしょうか。

鎌倉末期に書かれた『徒然草』にも見えるように、中国から伝わり、日本でも古くから使われてきた言い回しです。

ただし飲みすぎには注意

もっとも、実際にはアルコールの摂りすぎが原因で生じる病気もあります。

ことわざをもじって「酒は百毒の長」という、酒はどのような毒よりも悪いもの、という言い方もあります。

飲むと気分が明るくなり、社交上の円滑油にもなる「百薬の長」であっても、健康のためには飲みすぎに注意したいものです。

「酒は百葉の長」を英語にすると

さて、「酒は百薬の長」ということわざを英語に訳すとしたら、どうなるでしょうか。

英語には

Good wine makes good blood.

ということわざがあります。

直訳すると「よいぶどう酒は、よい血を作る」という意味で、「酒は百薬の長」と同じように使われます。

また、類似の表現として

Good wine engenders good blood.

という言い方もあります。

”engender”は「~を生み出す、新しく作る」という意味で、”engenders”は動詞の原形に三人称単数現在の s がついた形です。

二階から目薬

6.二階から目薬

二階にいるひとが、階下にいるひとに目薬をさそうとしても、距離があるのでうまく目に入れることができません。

「二階から目薬」は、思うように物事が進まずにもどかしく思うこと、遠回りでの望ましい効果が挙げられないことを意味することわざです。「天井から目薬」ともいいます。

「二階から目薬」を英語にすると

おもしろい言い回しですが、この「二階から目薬」を、英語ではどのように訳すことができるでしょうか。

「目薬」ではありませんが、英語にも、近い意味合いのことわざがあります。

Distant water will not quench a fire nearby.

この場合の “fire” は単なる「火」ではなく、「火事」「火災」を指します。

“quench”は「~で消す」、”nearby”は「近くの」という形容詞です。

直訳すると「遠くにある水を用いて、近くの火事を消すことはできない」という意味です。

日本にも、「遠水近火を救わず」(えんすいきんかをすくわず)という言い方があります。

遠くにあるものは、急な用事を足すには役に立たない、という意味で、もともとは中国から伝わった言い回しです。

「医者」「薬」がつくことわざを紹介してきましたが、このkimini ブログでは、他にも医療に関係する英語の記事があります。

英語の表現の幅を広げるお手伝いができたら、うれしく思います。

まとめ

今回は、「医者」と「薬」のつく言葉にまつわる、ことわざを6つまとめてみました。

食べ物がおいしいと、ついつい食べ過ぎてしまいがちですが、「腹八分に医者いらず」ということわざにならい、できるだけ腹八分目に収めて食事をすることにしましょう。

また、「柚が色づくと医者が青くなる」でゆず、「一日一個のりんごで医者いらず」のりんごなど、東西で昔から伝えられてきた、果物の効用にも目を向けたいものです。

今後もさまざまなことわざや名言を、英語に翻訳していきます。どうぞお楽しみに!