言語を学ぶのは、時間も労力もかかります。
日本人が母語(第一言語)である日本語を身につけるのに何年もかかるわけですから、まして生まれ育った環境にはない、外国語を学ぶのには、いっそう時間がかかります。
しかし、正しい外国語をしっかり身につけるのに、効率的な学習方法も存在します。
この記事では、多くの日本のひとにとっては外国語である、英語を習得するまでにかかる時間や、効果的に英語を身につけるために必要な、3つの要素を紹介して、あなたの英語学習を応援します。
そもそも「英語ができる」状態のイメージは?
一口に「英語ができる」といっても、ひとによってかなりイメージは違うようです。
より簡単なほうから例を挙げると、これだけの開きがあります。
- 義務教育のカリキュラムで十分な成績を収めるレベル
- 短期間の海外旅行で支障がないレベル
- 日常的なコミュニケーションに不足がないレベル
- 一般的な仕事で使えるレベル
- ネイティブスピーカーと同等のレベル
- 通訳・翻訳が務まるレベル
このうち、あなたがイメージする「英語ができる」状態は、どのレベルでしょうか。
英語の習得時間はどれくらい?
英語を習得するまでの時間にはもちろん個人差があります。また、前項で伝えた通り、目標によっても到達具合が変わります。
一般的に、大学を卒業した社会人が英語を身につけるには、どのくらいの勉強時間が必要なのでしょうか。
アメリカ人外交官が日本語を習得するまでの時間
アメリカの国務省(United States Department of State: DOS)は外交を担当する省庁で、日本の外務省(Ministry of Foreign Affairs of Japan: MOF)に相当します。
そのアメリカ国務省で外交官を養成する部局、アメリカ外交官養成局(Foreign Service Institute: FSI)が、英語を母語にするひとにとっての「言語習得難度」(Language Learning Difficulty for English Speakers)を公表していて、参考になります。
これは、将来のアメリカ外交を担う外交官が、外国の言語を習得する平均的な勉強時間をもとに、習得の難度を示したもので、下記の4つのカテゴリに分類されています。
- Category I: 24-30週間 (600-750 授業時間) 英語に似ている言語
- Category II: およそ 36週間 (900 授業時間)
- Category III: およそ 44週間 (1100 授業時間) 「難度が高い言語」ー英語とは言語的にまたは文化的な違いが大きい言語
- Category IV: 88週間 (2200 授業時間) 「さらに難度が高い言語」 – 英語話者にとって例外的に難しい言語
(資料:Foreign Language Training, Foreign Service Institute)
これによると日本語は、アラビア語、広東語、北京語、朝鮮語とともに最高難易度の「カテゴリーIV」とされています。
FISが目標に設定しているのは、実務ができる程度の能力(General Professional Proficiency)で、日本語などの「カテゴリーIV」の言語を身につけるためには、平均88週間、約2,200時間の勉強時間が必要ということです。
もちろん、この学習時間はあくまで「平均」であり、学習者の言語習得能力、その言語の学習経験、授業時間にもよって変化します。
ここで学習者に相当するのは外交官という仕事を目指すなかから選抜された人びとです。さらに、職業上の必要性があるために、授業時間以外に個人でも予習や復習をしているでしょうから、実際の学習時間はこれを上回ると推測できます。
英語話者が日本語を学ぶ場合と、日本語話者が英語を学ぶ場合の難度は、文字を習得する要素などがあるため同じではありません。しかし、英語と日本語の関係を表すものとして参考になると思います。
日本人が実務レベルの英語を身につけるための学習時間として、「2,200時間」はひとつの目安になる数字ではないでしょうか。
大学卒業までの日本人の英語学習時間
日本人の英語学習者が、実用的な英語力を身につけるために必要な学習時間については、以下のような知見があります。
小学校、中学校、高校、そして大学で英語授業として提供される時間数
- 小学校 18時間(授業時数 24)
中学校 266.7時間(授業時数 320)
高校 361.7時間(授業時数 434)
大学 180時間(授業時数 8単位)
文部科学省ほかの資料から割り出したものです。
(資料:坂田 浩・福田 スティーブ「日本人の英語学習時間について-これまでの学習時間とこれから求められる学習時間-」)
この論考では「学習時間」を、 各種の資料・統計に基づいて、下記の3つを合わせたものとして用いています。
- 各種教育機関(学校など)が英語の授業として提供する「授業時間」
- 授業で提示される課題や宿題を、授業以外の時間に行う「課題学習時間」
- 学習者が授業以外に自主的に行う「自主学習時間」
その上で、前項で紹介したアメリカ外交官養成局(FSI)の資料や、「ヨーロッパ言語共通参照枠」(Common European Framework of Reference for Languages: CEFR)などを参考に、
大学卒業後、自主的に英語学習を継続するのであれば、CEFR B2 レベル(英検準 1 級)までには約 2,805 時間の学習が、CEFR C1
レベル(英検 1 級)までには約合計 5,025時間以上の学習が必要になる
という推測を明らかにしています。
前項のアメリカ外交官養成局(FSI)の箇所でも書きましたが、言語学習は、さまざまな要素が絡むために成果は一様ではありません。
個々人の言語に関する資質や、その言語の学習経験、学習環境、そして何よりも、興味・関心と学習の動機づけで、同じ時間取り組んでも到達度が違うということは起こり得ます。
同じ1000時間でも、テレビや携帯電話に気を取られながら、あるいは何週間も間隔があきながら勉強する1000時間と、かなり集中して定期的に勉強する1000時間では、積みあがっていく効果は変わります。
そこで、限りある時間を有効に生かすためには、効果的な学習が必要なのです。次章以降、その具体的な方法を考えてみます。
以下の記事では、英語は「何度も同じ部分を鍛えて鍛えて、やっと身につく」筋トレのようなもの、という視点から、話す・聞く・書く・読むの4技能をバランスよく向上させる学習のヒントを伝えています。
効果的に英語を身につけるためには?
英語を身につけるためには、以下のポイントを押さえるといっそう効果的です。
- 目標を「超具体的」に設定する
- 目標までのルートを選択する
- 選択したルートに集中する
各ポイントを、順番に見ていきましょう。
1.目的を「超具体的」に設定する
英語を身につけるには、目標を「超具体的」に設定することが役立ちます。
「超具体的」に設定することで、勉強するまでの道筋がぶれにくくなり、むだな勉強時間やモチベーションの低下を防ぐことができるからです。
資格は「超具体的」な目標になる?
それでは、「超具体的」にとは、どのくらい具体的であればよいのでしょうか。
たとえば、「TOEIC800点を取得する」といった、具体的な数値を目標にすれば十分でしょうか?
答えはNoです。
「TOEIC800点」という数値だけでは、「○○大学に合格する」と同じくらい抽象的です。
「超具体的」な目標の設定の仕方
「超具体的」に設定された目標とは、「目標を達成した自分自身を、具体的に感じることができるレベル」を意味します。
たとえば、社会人としてのキャリアアップを目的に英語を身につけたいとします。
その場合、以下のレベルまで目標を具体化するとよいでしょう。
「そんなに高い意識で英語を学ぶわけじゃないよ」という方なら、以下のようなイメージではいかがでしょう。
120%ハッピーになっている自分をイメージして目標にもつとよいですよ。
「超具体的」に目標を設定する意味
「TOEIC800点」など資格の取得を目標にするのもよいのですが、「TOEIC800点」を達成したとしても、勉強することで得られる成果=自分の幸福感がリンクしない状態になると、挫折する大きな要因になります。また、英語の勉強を続けるモチベーションも維持できません。
一方、自分に直結した具体的な目標があれば、勉強を継続するのが苦しい期間でも「目標を達成するためなら……!」と頑張ることができます。
さらに、次の項でお伝えする「目標達成までのルート選択」がしやすくもなります。
2.目標までのルートを選択する
目標が「超具体的」になったら、その「超具体的」な目標までのルート(道のり)を選びましょう。
「英語を習得する」といっても、人によってその目標とするレベル、状態がまったく違うのは前項でお伝えした通りです。
目標が「超具体的」だからこそ、そこに至るまでのルートが見えてきやすくなります。
「超具体的」な目標までのルートの例
・英語を身につけて、製薬会社で昇進・昇給をめざす
たとえばあなたが、製薬会社で働いているとします。
英語を身につけて昇進して給料を増やし、社内で頼られる存在になりたいのであれば、現在の仕事でよく使っている、製薬業界に関連する専門用語に集中して英語を学ぶことができます。
・英語を身につけて、外国のひとと親友になる
または、あなたが外国人と仲良くなりたいと願っているひとだとします。
英語の会話を通じて、親友という間柄の外国人の友人をつくりたいのであれば、あなたが日本語環境で身につけたコミュニケーション術を、英語に変換するフレーズに集中して学ぶことができます。
そうして選びやすくなったルートを、目標と同様に「超具体的」にしていきます。
- どの参考書を使って目標達成に近づいていくのか
予算に余裕があるのなら、
- どんな英語学習サービス(オンライン英会話やパーソナルコーチングなど)で目標を達成するのか
などを決めて、より具体的な道筋をつけていきます。
3.選択したルートに集中する
目標とルートを超具体的に設定したら、そのルートに集中しましょう。
ビジネスの場でよく使われる、「選択と集中」を英語学習に適応させるわけです。
典型的な失敗例
英語学習のもっとも多い失敗パターンとして、「いろいろな学習法、いろいろな参考書に浮気する」というものがあります。
明確な方針もなく、いろいろな学習法や参考書を試すあまり、すべてが中途半端に終わって挫折してしまうわけですね。
それぞれの学習法や参考書は、一定の目標をもって、それを到達するために編まれているはずですが、中途半端な利用ではまんべんなく学習したことにより得られる成果も期待できません。
英語には、本当にいろいろな学習法があります。
影響力のある有名人が「単語帳は意味がない!」と言えば、「今している英単語帳の暗記は意味がないのでは……?」と不安になります。
あるいは、「英語はシャドーイングさえやっておけば身につく!」と誰かに言われれば、「シャドーイングをやった方がよいのでは……?」と目移りしてしまいがちです。
しかし、目標とルート選択が「超具体的」になっているなら、「自分に最適化された学習法」が構築されているはずです。
あれこれ目移りせず、自分の決めた方法で学習を進めるのが効果的です。
仕事で忙しく、週末ぐらいしか英語の勉強ができないという方は少なくないと思います。それでも英語で会話ができるようになりたい場合、どうしたらいいでしょうか。
次の記事では、留学経験のある方が、効果的な学習法とそのコツを紹介しています。
英語の初心者はどの勉強から始めたらよい?
それでは英語の初心者は、何から英語の学習に取り組んだらよいのでしょうか。
初心者の英語学習の始め方は、プロでも意見が分かれるところですが、筆者は「英単語」から入ることを勧めています。
なぜなら、とりあえず英単語がわかれば、だいたいどんな話をしているのかがわかるからです。そして、英語に対する苦手意識、「英語アレルギー」から脱することもできるでしょう。
たとえば「英語が難しい!」と、どんなときに感じるか、考えてみましょう。
多くのひとにとっては「何を言っているのかわからない!」「何が書いてあるのかわからない!」というときではないでしょうか。
しかし、英単語がわかれば、最低限どんなことが書いてあるのかがわかります。断片的であっても、いくつか知っている単語が出てくれば、話題の見当もつきますし、話の流れもなんとなく推測できます。
英語を見たり聞いたりして、「こんな話題なんだろうな」とおおよそでも推測ができれば、それだけで「英語がわかった」感覚が得られることでしょう。
筆者が英語の初心者に英単語の学習を勧めるのは、それが理由です。
次の記事では、「英語力に不安がある学習初心者の方」向けに、1年で習得できる英語レベルの目安、学習期間、スケジュールを説明しています。目標とするレベルが参考になります。
まとめ
この記事では、英語を習得するまでにかかる時間の考え方、英語を効率的に身につけるための3つの要素、そして英語初心者が英語学習を始める場合に勧めたい学習法を説明しました。
ここまでお読みのあなたは、
- 正しく学べば英語は上達できること
- 英語を身につけるには、目標とルートを「超具体的」に設定し、集中して勉強するのが効果的なこと
- 英語の初心者が始めるには、英単語の勉強がおすすめであること
を十分に理解されたことでしょう。
あとは、ご自分の生活のなかで実践するだけです。
お伝えした内容が、英語に関心をもち、勉強を続けようとするあなたの学習を、より充実したものにできれば幸いです。