せっかく勉強するなら、誰しもその努力が報われたと感じる成果がほしいものです。英会話の勉強をするときも同様ですよね。

英会話を上達させようと思ったときに、「シャドーイング」という効果的な学習法をご存知でしょうか?
シャドーイングは、特にリスニングとスピーキングを強化できるので、英語学習者のみなさんにとって、試してみる価値のある学習法です。

「そもそもシャドーイングってなに?」
「シャドーイングって、どうやって練習するの?」
「シャドーイングをすることで、どんなメリットがあるの?」

シャドーイングになじみのない方からは、こんな声が聞こえてきそうですね。
そこで、この記事では「英会話の学習にシャドーイングを活かすこと」について、さまざまな角度から解説しましょう。初めてシャドーイングと出会う方のために、必要に応じて単語の説明もしています。

シャドーイングとは

シャドーイングは、英語でshadowingと書きます。

英語でのshadowという語の意味

shadow (名詞)(人・ものの)影、影法師

shadow (動詞)…につきまとう、…を尾行する

shadowという単語は「影(かげ)」や「尾行をする探偵やスパイ」といった意味をもっています。

このニュアンスにこそ、シャドーイングの本質がどんなものなのかが含まれています。

シャドーイングでは、ネイティブスピーカーが話す音声をまねします。しかし、英語の文章を一通り聞き終えてから、その一文を繰り返すのではなく、ほんの少しずらすだけで、耳で聞いた音声を影のように追いかけながらスピーキングするのでこの名があります。

シャドーイングは、聞こえてくる英語を、まるでその影になったように、自分でもそのままの英語で再生産(リプロダクション)するトレーニング方法なのです。

シャドーイングの例を紹介

実際に英文でシャドーイングのやり方をみてみましょう。
ぜひ、声に出して一度、二度と読んでみてくださいね。

ネイティブスピーカー:This is an easy banana bread recipe that gives perfect results every time.

あ な た:               This is an easy banana bread recipe that gives perfect results every time.

学習者のあなたは、手本になるネイティブスピーカーの音声を追いかけて、0.5秒~1秒ずらしたタイミングで音読します。
英語の文章を通常の読み方で読むなら簡単でも、ネイティブスピーカーの音をまねながら実際にシャドーイングをするとなると、発音やリズム、イントネーションを手本に合わせるのがなかなか難しいことに気づくはずです。

rhythm (名詞) 話しことばの調子、音調、抑揚

intoneation(名詞) イントネーション、抑揚、音調

音声(教材)選びのヒント

では、実際にシャドーイングを始めるときに、どのようにするのか、その方法を順に紹介しましょう。

まずは、モデルにする音声教材をどのように選ぶかを説明します。

教材のレベル

シャドーイングに使う音声は、自分の学習レベルよりも少し簡単なものを選びましょう。

たとえば、次の記事などはどうでしょうか。

英語のニュースに親しんでいるひとにとっては、それほど難解な専門用語はない文章だと思います。しかし、目で読むのではなく、音声が耳で聞き取れるかどうかは別です。

一文が長く、最初にシャドーイングを練習する教材としてはやや難しい部類に入るのではないでしょうか。

The two major U.S. political parties are expressing concern about “election integrity” ahead of November’s vote, focusing on the procedures for registering to vote; casting, counting and certifying votes; and adequately addressing any serious issues that arise.

アメリカ合衆国の二大政党は、11月の投票を控えて「選挙の完全性」について懸念を表明しており、有権者登録、投開票、投票証明の手続き、そして重大な問題が発生した場合の適切な対処に注意を向けている。

US election integrity fears heighten tension ahead of presidential vote (VOA, September 02, 2024)

教材の内容

そして音声教材の内容は、自分にとって興味のあるトピックにするとよいでしょう。たとえば、スポーツが好きな人なら、スポーツについて話している教材がおすすめです。

理由は、シャドーイングではモデルにする音声に出てくる単語やフレーズをまねるので、内容に関心があるほうが知っている単語やフレーズが多く、また知らないとしても意欲的に勉強することができるからです。

ニュースでも、スポーツでも、海外旅行でも、その分野について話すときに必要な単語やフレーズが必ずあります。ほとんど知らない、または興味のない内容を学ぶよりも、自分が「知りたい」ことのほうに力が入るのは自然なことです。

シャドーイングは最終的に、英文全体の意味を理解する必要があるので、知っている、または興味がある分野のほうが内容を理解しやすいでしょう。

日本についての話題も向いている

見落とされがちですが、日本のことを紹介した英語の文章も、教材として役に立ちます。なぜなら、日本に住むあなたにとっては既知のことである可能性が高く、同時に、その内容を英語で話すとしたらどのような単語・フレーズを使うのかという、英会話の準備にもなるからです。

たとえば、次の記事などはどうでしょうか。この後、どのような内容が続くのか、興味はありませんか?

Hello Kitty, arguably Japan’s best loved creation, is celebrating her 50th anniversary.

(日本でもっとも愛されているハローキティが誕生50周年を迎えました。)

But all has not always been well at Sanrio, the Japanese company behind the character. The business has been on a spectacular journey of financial peaks and valleys.

(しかし、このキャラクター<ハローキティのこと>を生み出した日本企業のサンリオにとって、すべてがいつも順調だったわけではありません。サンリオの経営は、財政的に山あり谷ありの壮大な道のりをたどってきたのです。)

How Japan’s youngest CEO transformed Hello Kitty (BBC, 1 November 2024)

スクリプトが必要

また、音声教材はスクリプト(英文)がついているものを選んでください。

script(名詞) 放送・演説の原稿、演劇・映画・テレビドラマの脚本、シナリオ

どのような英語を学びたいか

ひとくちに英語といっても、世界中で広範囲に話されている言語ですから、実際の発音や言い回しは地域によってかなり違います。

教材の音声は、イギリス英語、アメリカ英語、オーストリア英語など、自分が話せるようになりたいアクセントの英語を選ぶ必要もあります。

次の記事では、イギリス英語の特徴を、単語の発音や綴り、言い回しなどの点からわかりやすく紹介しています。

また、アメリカ経済の発展とともに世界に広まりつつあるアメリカ英語について知るには、次の記事が役立ちます。

さらに、アジアでは英語の運用能力が高いとされているシンガポールでは、中国系のルーツをもつシンガポール人の独特なアクセントのある英語「シングリッシュ」があります。

どの英語が正しい、ということではなく、行く先や出会うひとによって話す英語にはそれぞれの特徴があることを理解する必要があります。その上で、せっかくスピーキングを学ぶのなら、実際に自分が使う場面がイメージできそうなアクセントをまねるのもよいでしょう。

正しいシャドーイングの学習法

正しいシャドーイングの学習法

使う教材が決まったら、以下の流れでシャドーイングをおこないます。

1. 音声を流してリスニングする

まずは、スクリプトを見ずに、音声だけに集中して聞いてみます。

ここで、どの程度聞き取りができるかを確認します。そして、うまく聞き取れない箇所があるかどうかもチェックします。

この時点で、もしわからない単語やフレーズが見つかったなら、辞書などで調べます。

全体を通してほとんど聞きとれていない場合は、学習レベルに合わないか、ジャンルが適切でない恐れがあるので、音声教材を変える必要があります。

2. スクリプトを見ながら音声を聞く

次に、スクリプトを見ながら音声を聞いてみましょう。目で文章を追いながらなので、理解がグッと楽になります。

洋画や海外のドラマを観るときに、英語でも字幕をつけてみると理解しやすいのと同じで、耳だけで音をとらえるのが難しいということでもあります。

3. スピーキングしてみる

まだシャドーイングではありませんが、スピーキングを練習してみましょう。

音声教材の一文を流して音声を止め、その文章を口に出して発音してみます。

4. 音声に合わせてスピーキングしてみる

次に、音声を聞き、そしてスクリプトを見ながら、聞こえてくる音声と一緒に英語の文章を読み上げてみます。

5. シャドーイング1回目を行なう

この段階では、スクリプトを使いながら、1回目のシャドーイングをしてみます。

音声を聞き、スクリプトを助けにしながら、音声に少し遅れたタイミングで声を出してみます。

6. シャドーイング2回目を行なう

2回目のシャドーイングは、スクリプトを見ずにおこないます。

このように、1~6の流れに沿ってシャドーイングをしますが、途中で音声スピードを遅くしたり、5(シャドーイング1回目)と6(シャドーイング2回目)を繰り返して練習してみることもできます。

シャドーイングは音の聞き取りに集中する必要があるので根気が要りますが、気兼ねなく発音できる環境で、繰り返し繰り返し連取することによって効果が出ます。望ましい成果をあげるためにも、ぜひたっぷり時間をかけましょう。

英語初心者の学習法としてどうか?

冒頭で、シャドーイングは、リスニングとスピーキングを強化できる学習法だと書きました。しかし、リスニングもスピーキングもこれから学ぶという、本当の英語初心者にもシャドーイングは効果的なのでしょうか?
実際には、シャドーイングはまったくの初心者よりも、中級以上に勧めたい学習法です。

その理由は、シャドーイングは音声の後を追ってただただ読めばいいのではなく、何を言っている文章なのか理解できていないと、アクセントの置き方や間の取り方の意味がよくわからないためです。

シャドーイングはもともと、通訳の訓練のために用いられていました。通訳者は、基本的に自分が知らないことを訳すことができませんから、やはり内容を理解した上で、もうひとつの言語に訳す、ということになります。
英語の語彙やフレーズ、基礎的な文法をある程度わかっている状態でこそ、読むスピードとともに意味を理解するシャドーイングで練習する価値が大きくなります。

理想的には、音読や中学英語のおさらいをしっかりして、ある程度のレベルになったときにシャドーイングを始めれば、まわり道をせずに、次の項で紹介するメリットを得ることになるでしょう。目で文章を読むのと、耳で音声を聞き取るのとでは、理解力が違います。ですから先述の通り、最初は自分の学習レベルより少し低い教材を使うのがこつです。

シャドーイングのメリット・デメリット

シャドーイングのメリット・デメリット

シャドーイングで学習するにあたって、どのような効果があるのでしょうか。ここでは、シャドーイングのメリットとデメリットを紹介します。

シャドーイングのメリット

リスニング力を伸ばす

シャドーイングは、基本的には耳と口だけで行なう練習方法であり、もっとも期待できる効果の一つはリスニング力の向上です。
リスニングは、英会話でのコミュニケーションに欠かせません。目の前の話し相手の言っていることがまったく聞き取れなければ、答えのしようがないという意味で、会話の前提と言ってもいいかもしれません。

すでに説明しましたが、シャドーイングは音声を聞き取って理解することがメインといえるほどの学習法です。聞こえてくる音の再生産であるシャドーイングでは、ネイティブスピーカーと同じスピードで、発音をまねたり、単語と単語をつないで発音したりしながら繰り返すことが求められます。

シャドーイングを反復練習をすることで、ネイティブスピーカーの発音に次第に耳が慣れ、音を聞き取るリスニング力が向上します。

スピーキング力を伸ばす

シャドーイングでは、耳で聞こえた音を、自分で音にして再生産します。そのためには、リスニングと同じで、ネイティブスピーカーのスピードについて発音をまねたり、単語と単語をつないで発音したりしながら、表現します。

発音しながら、英語のリズムや強弱のこつをつかみ始めたら、スピーキングが上達している証拠です。

シャドーイングのデメリット

このように、リスニングとスピーキングの力を伸ばすシャドーイングですが、思うように効果が上がらない場合もあります。

英語初心者には難しい

シャドーイングのデメリットとして考えられるのは、基本的な文法知識や単語・語彙の基礎がない初心者が始めた場合、望むような学習効果を得られないという体験をしてしまうことです。シャドーイングは、ある程度の語彙やフレーズの理解、リスニング力なくしては十分な効果を上げられません。それによって学習者が自信をなくしてしまったり、優れた学習法を活かしきれなくなったりするなら、デメリットといえるでしょう。

シャドーイングは、準備を整えてスタートすべき学習方法です。

 

シャドーイングの学習効果については、次の記事も役立ちます。

効果的に身につけるコツ

効果的に身に付けるコツ

ここで、シャドーイングを効果的に身につけるコツを紹介しましょう。

まず、ひとつ目です。

当然ですが音声を追いかけるときは、必ず声に出して練習します。頭のなかで黙読するのでも、つぶやくのでもなく、目の前の相手に話すような声の大きさを意識して、できるだけはっきりとして発音でシャドーイングします。

ふたつ目として、音声教材のスクリプトを利用して、英語の文章全体の内容を理解することが重要です。

みっつ目は、ネイティブスピーキングの音声を、すべてコピーすることを意識する点です。音声教材のリスニングをして、スピーキングにつなげるとき、どこにイントネーションがあるのか、また英語ならではのリズムなどにも意識を向けて、意味を考えながらコピーしましょう。

シャドーイング学習に使える教材やアプリ

次に、実際にシャドーイングをする上でおすすめの教材やアプリについても触れましょう。
もし、あなたがTOEICを受験する予定があるなら、TOEIC対策の教材を選べば、シャドーイングに活かしながら試験の準備ができます。

シャドーイングでリスニングとスピーキングを強化することで、英会話力は向上します。そして、英語の資格試験でも効果が期待できます。

次の記事ではTOEIC(国際コミュニケーション英語能力テスト)の高スコア実現にもシャドーイングが役立つことを説明しています。

イギリス英語を話せるようになりたい、イギリス英語特有の表現を知りたいというひとにはBBC Learning Englishという無料アプリがおすすめです。Daily lessonでは、2分間のsmall talkもあり、これからシャドーイングを始めたいひとにはよい教材です。

またアプリでいえば、TED Talksも使えます。興味のある分野のスピーカーが何を話しているのか興味をもって聞けますし、音声の速度を変えることができるので、無理なくシャドーイングを進められます。自分の世界を広げることにも役立つでしょう。

シャドーイングには2種類ある

ここまで紹介してきたシャドーイングですが、実は2種類あります。
それが「プロソディ・シャドーイング」と「コンテンツ・シャドーイング」です。

prosody(名詞)韻律学、韻律法

content(名詞)(本・手紙・演説などの)内容、記事

プロソディ・シャドーイングは、主に音声とまったく同じ英語になるようにリピートする方法です。ネイティブスピーカーの音声のスピードに遅れないように、集中して音をまねて発音します。

一方、コンテンツ・シャドーイングは、単に英語の音声を追いかけるだけでなく、コンテンツ(内容)を理解することが求められるシャドーイングです。

まずはプロソディ・シャドーイングで正確な音をまねる練習を繰り返し、一定の力がついたと感じたらコンテンツ・シャドーイングに進んでみましょう。

コンテンツ・シャドーイングで、音声を聞くと同時に内容をイメージできるようになれば、シャドーイング効果を最大化することが期待できます。

オーバーラッピング・リピーティングとの違い

オーバーラッピング・リピーティングとの違い

シャドーイングと同じで声に出して英語を学習する方法に、「オーバーラッピング」と「リピーティング」があります。

overlap(動詞) …と部分的に重なり合う、…の一部を覆う

repeat(動詞)(ことばなどを)ひとの後について言う、復唱する

オーバーラッピングとは、聞こえてくる音声を同時に繰り返すことです。また、リピーティングは、音声を聞き終えてから、今聞いたばかりの文を同じように言ってみることです。
オーバーラッピングとリピーティングは、タイミングをずらして影のように再現するシャドーイングとは違う学習法であることがわかります。

英会話に効果的なシャドーイング

シャドーイングは、英語の文章を理解する必要があります。従って、シャドーイングが効果を発揮するためには、学習者が基礎的な英文法や単語・フレーズなどを、ある程度習得していることが条件です。

シャドーイングは、モデルにする英語の音声が何を言っているのか理解し、その音声について話す練習を繰り返して行なう、根気のいる学習法です。

まずは簡単な、自分の興味のもてる内容の音声を使って、モノマネするような感覚でやってみてください。音を聞き取るリスニング力がつき、ネイティブスピーカーの発音を繰り返しまねることで、スピーキング力も向上します。

英会話には、シャドーイングだけするのではなく、他の学習法にシャドーイングを追加する形で取り入れてみると、さらに効果的です。