少しでも外国で暮らしたことのある日本人が集まって話すときに、よく話題になるのが「英語が通じなかった経験」です。
英語は、多くの日本のひとにとって母語ではなく、後から学んで獲得したことばです。そのため、うまく発音ができなかったり、文法を間違えてしまったり、使う単語がその場面にふさわしくなかったり、ということはよく起きます。
「和製英語」とは?
このテーマでもっとも盛り上がるのが、和製英語の話です。「和製英語」は、辞書ではこう定義されています。
英語からの借用らしく見えるが、実は英語の単語を変形させたり複合させたりして、日本で作った語。
つまり、日本でしか通用しない、英語っぽいカタカナ語のことです。たいていカタカナで書かれているために、英語だと思って使ってしまい、「通じなかった!」という結果になることがよくあるのです。
知らない単語だったり、自信がない表現なら、だれでも調べるでしょう。和製英語が厄介なのは、英語だと思い込んでいるために調べる機会を逃し、実際に使ってみて初めて、「英語ではない」のに気づくことが多いからです。
日本のなかの外来語と和製英語の誕生
日本の歴史を簡単に振り返ってみましょう。
江戸時代の日本では、長く外国との交流が禁じられていました。キリスト教の布教の禁止が理由で、キリスト教の信徒を中心に民衆が蜂起した「島原の乱」のあと、1633年に「海外渡航禁止令」が出され、古くから往来があった中国、朝鮮と、交易を許されたオランダとは例外的に外交関係を保っていました。江戸幕府が布教を禁じる前は、アジア地域に宣教師を送り込んでいた、ポルトガルも日本に来航していました。
幕末、アメリカの使節ペリーが寄港地を求めて来航し、1854年に日米和親条約が結ばれます。これにより下田・箱館が開港し、いわゆる鎖国が終わります。戊辰戦争で江戸幕府が倒れたあと、開国した日本には、欧米の文化がどっと入ってきました。
明治時代の開国と外来語
海外に門戸を開いた明治以降、日本には、中国、朝鮮、オランダに加え、当時先進的な役割を果たしていたイギリスやフランス、ドイツや新興国のアメリカから、いろいろな文化や技術が伝わってきました。
その結果、それまで優勢だったオランダ語が英語に取って代わり、衣料についてはフランス語、医薬についてはドイツ語といった具合に、それぞれの分野で優れた国のことばを直輸入するかっこうで、外来語が増えました。
第二次世界大戦後の占領と和製英語
さらに、明治・大正時代を経て第二次世界大戦で敗戦を経験したあと、日本には連合軍の連合国最高司令官総司令部 (General Headquarters; GHQ) が駐留します。そしてアメリカ英語と直に接する機会が生まれたことにより、戦後から高度経済成長期にかけて、日本では和製英語がたくさん作られました。
今では、和製英語はすっかり日本語に根をおろし、日常生活でもよく使われるようになりました。
しかし、日本でしか通用しない、和製英語であることを知らずに英語での会話で使ってしまうと、相手を混乱させたり、誤解されてしまうことになりかねません。
英語から日本語になった言葉「外来語」や、日本式の英語っぽい造語「和製英語」については、次の記事が参考になります。
今回は、和製英語を、英語圏で使われる単語や、本当の意味と比べてみました。英単語を覚えることも大切ですが、こういったことも学んでおくと、実際に使う段に必ず役に立ちますよ!
衣料品に関する「和製英語」
和製英語は多種多様な使われ方をしていますが、どのようなものがあるのでしょうか。
まずは、衣料のカテゴリを見ていきましょう。
日本では戦後、伝統的な衣装の着物から洋装に切り替わりました。その過程で、外国の服装、布などの素材の名前、ファッションなど多くの外来語が入ってきましたが、同時に和製英語も多く生まれました。
チャック
- 和製英語の意味
- 布などの生地をつなぎ合わせる、金属の部品のこと。
- チャックの本来の意味
- チャックとは英語ではなく、日本メーカーである「チャック・ファスナー社」の商標名です。
- 英語で正しく言うと
- fastenerもしくはzipperです。
- 和製英語の生まれた背景
- zipper はアメリカの fastenerメーカーの商標名です。なお、fastenerは「締める」という動詞がもとになっていて、締めるもの、留め金具といった意味になります。
ジーパン
- 和製英語の意味
- デニム (denim) 生地でできた、パンツのこと。デニムは、綿で織った厚手の布のことです。
- 英語で正しく言うと
- jeans
- 和製英語の生まれた背景
- jeans(ジーンズを指す)+pants(ズボンを指す英語)を組み合わせてできた、造語です。つまり、後にくっつけられた「パンツ」がなかったら、そのまま英語でも通じたわけですね。
フリーサイズ
- 和製英語の意味
- 体型に関係なく着られるサイズ展開の洋装品のこと。
- 本来のfree-sizeの意味
- free の持つ「自由な」という意味が転じて、「誰でも着られるサイズ」という和製英語になりました。
free は「自由な」、もしくは「無料の」という意味なので、「サイズ無料!」という意味に…。
- 英語で正しく言うと
- one-size-fits-all free
- 和製英語の生まれた背景
- 「誰でも着られるサイズ」といった意味、サイズはひとつ、という点が説明されています。
服飾は、さまざまな分野のなかでも、特に西洋の影響を強く受けています。わたしたちが、ごくごく当たり前に日本語で使う表現も、実は英語ではなく、日本式の和製英語の可能性があるので、調べてみることを勧めます。
代表的なものでは、”white shirt”(ホワイト・シャツ)の発音をカタカナに置き換えた、「ワイシャツ」がありますね。
次の記事では、「トレーナー」という和製英語が生まれた経緯を説明しています。
食事・食品に関する「和製英語」
食生活も、戦後の日本で大きく変わったもののひとつです。
伝統的な和食が中心の生活から、西洋料理の影響を受けた「洋食」が広まり、一般家庭でも作られるようになりました。本格的に西洋で料理を学んだひとが西洋料理を日本に紹介するまでは、日本の食材を使って、日本人の口に合うように作られた洋食が、親しまれていました。
バイキング
- 和製英語の意味
- たくさん並んだ料理のなかから、自分の分を取りわけて食べる食事スタイルで、立食・着席の両方があります。
- “viking”の本来の意味
- 8~11世紀ごろ、北欧の海にいたノルマン人の海賊の総称。
- 英語で正しく言うと
- 自分で取ってくるスタイルの食事はbuffet
もともとはフランス語で、このうち”好きなだけ食べられる”食べ放題の要素を強調する場合、レストランなどでは all-you-can-eat buffetと表示されることが多くあります。 - 和製英語の生まれた背景
- スウェーデン料理の「スモーガスボード」に起源をもつ形式で、日本では、1958年に帝国ホテルが取り入れたのが最初です。
スウェーデンから北欧、ノルマン人の海賊という連想で「バイキング料理」と名づけられました。
サイダー
- 和製英語の意味
- 炭酸ジュースを甘い味つけしたもののこと。
- “cider”の本来の意味
- りんご酒。”sweet cider” は「りんごジュース」を指します。
- 英語で正しく言うと
- a soda pop
「味のついたソーダ水」という意味です。
住居に関する「和製英語」
日本の衣食住は、どれも戦後に大きな変化を遂げました。
なかでも住まいは、建築様式も、建材も西洋の影響を受けたために外来語が増え、日本式に変化した造語、和製英語がかなり使われるようになりました。
マンション
- 和製英語の意味
- 賃貸、もしくは分譲の集合住宅のこと。
- “mansion”の本来の意味
- 集合住宅ではなく、宮殿のような広い大邸宅、豪邸を指す。
- 英語で正しく言うと
- apartmentもしくはcondominiumです。
イギリス英語では flat という言い方もあります。
- 和製英語の生まれた背景
- 日本語の「アパート」は一棟をいくつかに区切って複数の住宅にしたもので、比較的賃料の低い集合住宅を指します。
日本の「マンション」は中高層階の、比較的部屋数も多く賃料も高い物件で、賃貸のほかに分譲もあります。アパートとの差別化を図るために生まれた名称で、1960年代ごろから使われるようになったそうです。
内装についても、いろいろな表現がありますが、「床」は英語でなんと言うか、知っていますか?
次の記事では和製英語の「フローリング」は、英語圏ではどのように言うのか、紹介しています。用例が参考になると思います。
日用品に関する「和製英語」
わたしたちがふだん使う日用品にも、数々の和製映画があります。毎日何気なく使っている身近なもののなかから、いくつか取り上げてみましょう。
リンス
- 和製英語の意味
- シャンプーの後に髪に用いるもので、櫛通りを良くするために、シリコンなどが配合されている。
- “rinse”の本来の意味
- 「すすぐ」「ゆすぐ」という動詞です。たとえば、洗濯機の「すすぎ」段階も、rinseと表示されます。
- 英語で正しく言うと
- conditioner
すでに多くの製品が「コンディショナー」と表記されていますが、一度広まってしまったために、「リンス」という呼び方もまだまだ根強いでようです。
ダンボール
- 和製英語の意味
- ボール紙で作られた箱のこと。段ボール。
- 本来のダンボールの意味
- 「ダンボール」という英語は存在しません。
- 英語で正しく言うと
- cardboard box。「cardboard」がボール紙のことです。
- 和製英語の生まれた背景
- ボール紙で作られた、重ねて使える箱=段ボールという言葉がカタカナになりました。
ホッチキス
- 和製英語の意味
- 紙などを、針でとじるための文房具。
- 本来のHotchkissの意味
- ホッチキスの構造を発明した人として、アメリカのベンジャミン・バークリー・ホッチキス (Benjamin Barkeley Hotchkiss) の名前があがっています。
大砲やライフル銃など、数々の特許を申請した銃器の設計者でもあります。 - 英語で正しく言うと
- stapler
- 和製英語の生まれた背景
- 日本語のホッチキスは商標名です。
日用品のうち、たとえばお出かけに使うものを、英語でなんと言うか、考えたことはありますか?
次の記事では、英語では「レジャーシート」と言わないこと、そしてはピクニックにまつわる、さまざまな単語を紹介しています。
電気製品に関する「和製英語」
電気製品は新しく、かつ外国の製品がたくさん入ったために、英語を直輸入した外来語が多い分野です。しかし、ここにも日本式の造語、和製英語が入り込んでいます。
うっかり英語で言って、「しまった!」という経験をしないためにも、日常の語彙をチェックしてみてください。
コンセント
- 和製英語の意味
- 電化製品を使用する際、電源を確保するために指す部分のこと。
- 本来のconsentの意味
- 「同意・許可する」という動詞。
- 英語で正しく言うと
- socket(アメリカ英語ではoutlet)
(電子)レンジ
- 和製英語の意味
- 電気や電磁波で調理する電化製品。電子レンジやオーブンレンジがある。
- “ranges”の本来の意味
- kitchen rangeで「かまど」の名詞。
- 英語で正しく言うと
- microwave (oven) マイクロ波から来ています。
ノートパソコン
- 和製英語の意味
- 持ち運び可能な、画面の部分を折り畳むことができる形態のパソコンのこと。
- 英語で正しく言うと
- laptop
- 和製英語の生まれた背景
- “note personal-computer”が本来の意味
noteはメモや短い原稿、手紙を指す名詞。ノートパソコンは、日本語の「ノート」に相当する、notebook サイズの personal-computerであることから来た和製英語です。
冒頭で、電気製品には外来語が多いと書きました。この分野では、携帯電話の登場で、さらに外国語と、そして英語風の造語である和製英語が一気に増えた感があります。たとえば、携帯電話につける「ストラップ」は英語でどういう意味か、考えたことがありますか?
次の記事では、「キーホルダー」や「携帯電話のストラップ」などを話題に、英語での表現を紹介していて、参考になります。
職業を表す「和製英語」
そのひとの職業に対して使われることばにも、和製英語は入り込んでいます。あまりにもなじんでいて、つい英語でも使ってしまいそうな単語を紹介します。
サラリーマン
- 和製英語の意味
- 主に企業で働く正社員の男性のこと。これを略して「リーマン」などという表現も出てきました。
- 英語で正しく言うと
- 一般には office-worker ですが、white‐collar workerという言い方もできます。
ところで、正社員で働く「日本の男性」を、英語圏では”salaried worker”ではなく、”salary man”と呼ぶようになりました。和製英語が逆輸入されて、英語に取り入れられた例です。
- 和製英語の生まれた背景
- “salary man”の本来の意味
salaryは「給料」という意味の名詞。「給料(をもらう)」+「男性」という造語。
日本では昔、「給料取り」という言い方がありました。商店や農業・漁業といった自営ではなく、事務所に働きに出かけて給料をもらう、定額の収入がある、安定した仕事をしているひとのことを指しました。
OL (office lady)
- 和製英語の意味
- 企業で働く正社員の女性のこと。主に事務員を指すことが多い。
- 英語で正しく言うと
- 英語では、企業で働くひとは男女を区別せず、女性の場合も office-worker といいます。
ちなみに、英語で自分の職業を説明するときには、”I’m an office-worker.”とはあまり言いません。”I work for ○○(企業名など)”と、所属している企業や団体で表現するほうが一般的です。 - 和製英語の生まれた背景
- “office lady”の本来の意味
ladyは、女性のなかでも「淑女」や「貴婦人」(身分の高い女性)を指します。本来の英語の意味では、「事業所」+「淑女」と、なんだか似つかわしくない組み合わせになっています。
日本では戦後、女性も正社員として働くようになることが増えました。企業で働く女性は、事務員を始めとして、事務関連業務への就職率が高いことから、事務所で働く「女性」を指す言葉として、OLが誕生しました。
その前、1960年代には、女性の事務員を BG (business girl)と呼んでいた時代もあるのですが、1964年の東京オリンピックを前に、来日する外国人の目を意識して呼称を改めることになり、公募でOL (office lady)が選ばれた経緯があります。
ガードマン
- 和製英語の意味
- 警備員や、護衛をする職業を指す。
- 英語で正しく言うと
- security guard、もしくは guard
- 和製英語の生まれた背景
- guard-manの本来の意味
警備員や守衛を指すguardに、人や男性を指すmanが加わった造語。
日常語で使われる「和製英語」
わたしたちが日常的に使うことばのなかにも、和製英語はたくさん混じっています。本来の英語では、どのような意味で使われる単語なのでしょうか。
英語での、正しい言い方も紹介します。
テンション
- 和製英語の意味
- 人や物の状態を指すときに使われる和製英語。精神的な緊張や不安、または気分や気もちのこと。
例)「テンションが高い」など。
- ”tension”の本来の意味
- 「ぴんと張りつめた状態」を表し、「緊張」や「ストレスがかかった状態」を指す名詞。
- 英語で正しく言うと
- 俗にいう「テンションが高い」状態(気分が高揚していること)なら excited
比較的最近使われるようになった、「テンションが高い」「テンションが低い」という俗語は、もともとの英語の指す意味とは違ってきています。次の記事では、英語ならどう表現するのか、単語のニュアンスを含めて説明しています。
スマート
- 和製英語の意味
- 細いことを表す和製英語。 例)「体型がスマートな女性」
もしくは気が利いている、思慮のある振る舞いについても指す。 例)「対応がスマート」
- “smart”の本来の意味
- 「賢い」という形容詞です。従来型の携帯電話よりも機能が増えた「スマートフォン」も、確かにその要素がありますね。
親切な振る舞いについては kind や gentle ですが、本来の「賢い」という意味で ”smart action” 「賢い(賢明な)振る舞い」→「優しい対応」に転じたとも考えられます。
- 英語で正しく言うと
- 細いことを指すのは slim もしくは thin(薄い)。
なお、細くてスタイルが良いのをほめたいときには、”You have such a nice figure.” や “You have a good-looking like a fashion model.” と言うと smart!ですよ。
クレーム
- 和製英語の意味
- 主に企業や店舗に対して、顧客が不当な対応を受けた、不利益を被ったなどと苦情をいうこと。
- “claim”の本来の意味
- 「(自分が正しいことを)主張する、要求する」という動詞、もしくは「訴え」「請求」という名詞。”claim for the damages” なら「損害賠償を請求する」という意味になります。
空港で、飛行機に荷物を預ける際に発行される「手荷物預かり証」は”claim tag”と言いますね。
そして、目的地の空港に到着した際、預け荷物を受け取る「手荷物受取所」(baggage claim) では、この”claim tag”を示して、自分の荷物を受け出します。
いずれも、(正当な権利として)自分の荷物を要求する、という意味合いで理解できます。
- 英語で正しく言うと
- complaint
日本でも、顧客からのクレームを「コンプレイン」と表現している企業や店舗も増えてきています。
わかっているつもりで使うと痛い目に遭う和製英語ですが、仕事の場面では、「通じない」以外に、しばしば「誤解が生じる」ことがあるのが困りものです。
次の記事では、いかにも英語風に見える「TPO」が和製英語であること、そして、英語ではどのような言い方をすれば適切なのかを紹介しています。
まとめ
この記事で紹介した和製英語は、ごくごく一部にすぎません。興味がある方はもっと調べてみましょう。
カタカナで使っているので、英語でも通じると思っていたのに、調べてみたら、実は和製英語だった!という発見があって、楽しみながら学ぶことができますよ!